Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

インタビュー特集

Entry 2020/06/16
Update

【西条みつとし監督インタビュー】映画『HERO〜2020〜』舞台から描き続ける父への想いと“物語”を紡ぎ続ける理由

  • Writer :
  • Cinemarche編集部

映画『HERO〜2020〜』は2020年6月19日(金)よりシネ・リーブル池袋ほかにて全国順次公開

《2年間限定の恋》とその秘密をめぐる涙と笑いの大騒動を描いた、切なくも心温まるコメディ映画『HERO〜2020〜』。

放送作家・コント作家・劇作家など多岐に渡って活躍し、齊藤工の初長編『blank13』の脚本を手がけたことでも知られる西条みつとしが、自身が主宰する劇団「TAIYO MAGIC FILM」の人気舞台を映画化。本作が西条監督の長編映画監督デビュー作となります。


写真提供:登山里紗

このたび本作の劇場公開を記念して、西条みつとし監督にインタビューを敢行。本作に込められた想いや様々な形で「物語」を描き続ける理由など、貴重なお話を伺いました。

父への想いを作品に


(C)「HERO」〜2020〜製作委員会

──本作の原作にあたる舞台作品は西条監督の実の父に対する思いによって制作されたとお聞きしました。

西条みつとし監督(以下、西条):僕は色々な『想い』があって生きています。『HERO』を作るにあたって、僕の中にあるどの『想い』を作品に出したいのかなと、自問自答しました。その結果、当時33歳の僕は「お父さんへの想い」を込めた作品を作りたいとなりました。

何で、そうなったんでしょうね。決断のキッカケは8年前なので、覚えていません(笑)。特に、お父さんとの具体的な出来事があったわけではりませんが、お父さんに育ててもらったお礼を言った事がないなぁと気づき、この先も、照れ臭くて、絶対に言えないだろうなと想像出来たので、「では、その想いを舞台の作品にし、父に見てもらう事で伝えよう」と考え作りました。

映画としてのリアリティを


(C)「HERO」〜2020〜製作委員会

──「舞台」として制作された作品を「映画」という異なる表現形式で描くにあたって、西条監督が特に意識されたこととは何でしょうか?

西条:リアリティは、意識しました。舞台では、大きい劇場での公演なので、席によって、顔の表情であったり、細かい芝居までは、見えません。でも、だからと言って、心情や内容が伝わらないままで良いわけではないので、リアルではないエンタメとしてお客様に伝えるための演出をしたり、伝える為のお芝居をつけたりして、心情や内容を伝えた部分が、舞台版にはありました。しかし、映画では、リアリティを求め、そこに意識を置きました。

何でもないことに「夢」を見る


(C)「HERO」〜2020〜製作委員会

──本作はいわゆる「コメディ」にあたる作品ですが、コント作家としての一面も持つ西条監督にとって、「コメディ」が持つ意味または役割とは何でしょうか?

西条:「笑い」は、人を「幸せ」にすると思います。逆に、「幸せ」だと笑顔になり、「笑い」が生まれます。世界の幸せのために、人間の幸せのために、「笑い」は、絶対に必要なので、コメディというジャンルのエンタメ作品は、この世に必要なんではないでしょうか。

──もしかしたら「コメディ」の意味・役割にも通ずるものかもしれませんが、西条監督にとって「物語」とは一体何でしょうか?

西条:夢です。ワクワクです。例えばなんですが、もし道端に手袋が落ちていたとします。皆さんは、気づいても、見向きもしないでしょう。それはそうです。その手袋には、なんの価値もないからです。でも、その手袋は、30年ぶりに再会する娘の為に、刑務所から出て来た母親が、心を込めて作った手袋だとしたら、そんな物語があったとしたら、なんの価値もないのでしょうか。

興味がないものでも、そこに物語を作ってあげる。そうする事で、なんでもないモノに価値が出来上がる。「瞬間」で見ると、自分の人生に関係のないことやモノや人だとしても、そこに「物語」があれば、人は興味を惹きます。なので、何でもない事に、どんな物語をつけてあげようと考えた時、ワクワクして、夢が広がります。

誰かを幸せにするために


写真提供:登山里紗

──それでは、西条監督がこれまでに多くの物語を紡ぎ続けてきた理由、そして今後も物語を紡ぎ続けていく理由や原動力とは何でしょうか?

西条:綺麗事に聞こえるかもしれませんが、自分が生きている間は、一人でも多くの人を幸せに出来たらいいな〜と思っています。それは、自分が苦しい時代、助けてくれた人たちがいてくれたおかげで、今、僕は幸せに過ごせているからです。

ですので、今度は、僕が、苦しかったり、辛かったり、人生に疲れている人に、何かしてあげられる事があるのであれば、もし、その何かが、僕の作品を通して幸せを与えられる事なのであれば、と思い、作品を作り続けて来ました。誰かの人生の幸せの為に僕の作品がなると信じれば、苦しくても物語を考え作り続ける事が出来ています。


(C)「HERO」〜2020〜製作委員会

──最後に、本作をご覧になる方に向けてメッセージをお願いいたします。

西条:コメディだけど、コメディだけでは終わらない。笑って勇気を貰える作品になっていると思います。あっという間の100分のはずです。

「コロナ」の影響で映画界も大変です。映画界を少しでも盛り上げられる作品になれば。そして、観ていただいたお客様の人生の幸せに繋がれば。

西条みつとし監督プロフィール

1978年生まれ、千葉県出身。お笑い芸人として活躍後、放送作家へと転向。バラエティ番組の構成を手掛ける一方でお笑いコンビ・バイきんぐなどのコント作家としても活躍。

更に劇作家としても活動し、2012年5月より自身の劇団TAIYO MAGIC FILMを主宰、定期的に舞台公演活動を続けている。劇団公演以外にも、活躍の場を広げ、2020年2月にはKis-My-Ft2主演舞台の『○○な人の末路』の演出・脚本を担当するなど、これまでに70本以上の舞台を手がけている。

近年では、映像作品にも脚本や監督として参加。映画では、ゆうばり国際映画祭2017で作品大賞を受賞した齊藤工初監督作品『blank13』(2017)の脚本を担当したほか、『ゆらり』(2017)『関西ジャニーズJr.のお笑いスター誕生!』(2017)でも脚本を担当している。またドラマでは『下北沢ダイハード』1話(2017)などの脚本を手がけ、『面白南極料理人』(2019)では脚本と監督を担当し、ギャラクシー賞奨励賞を受賞。監督・脚本を手がけた短編映画『JURI』は、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2019に正式出品された。

著書「笑わせる技術〜世界は9つの笑いでできている〜」が光文社新書から発売されている。

映画『HERO〜2020〜』の作品情報

【公開】
2020年公開(日本映画)

【原作】
「TAIYO MAGIC FILM」第1回公演『HERO』

【監督・脚本】
西条みつとし

【キャスト】
廣瀬智紀、北原里英、小松準弥、前島亜美、小早川俊輔、小築舞衣、中村涼子、米千晴、小槙まこ、加藤玲大、後藤拓斗、双松桃子、飛鳥凛、伊藤裕一、根本正勝、今立進、松尾諭、斎藤工

【作品概要】
放送作家・コント作家・劇作家など多岐に渡って活躍し、齊藤工の初長編『blank13』の脚本を手がけたことで知られる西条みつとしが、自身が主宰する劇団「TAIYO MAGIC FILM」の人気舞台を映画化。本作が西条監督の長編映画監督デビュー作となる。

舞台版キャストが映画でも同役にて出演。主人公・広樹を演じるのは「弱虫ペダル」シリーズなどの舞台作品をはじめ、『刀剣乱舞-継承-』『貴族降臨 -PRINCE OF LEGEND-』などの映像作品でも活躍する廣瀬智紀。広樹の恋人・浅美役には、AKB48グループを卒業後も劇作家・つかこうへいの舞台に出演、映画『サニー/32』にて主演を務めるなど、女優として活躍し高い評価を受けている北原里英。また舞台版キャストの他に松尾諭と斎藤工が重要な役どころを演じている。

映画『HERO〜2020〜』のあらすじ


(C)「HERO」〜2020〜製作委員会

2年間限定の約束で始まった広樹と浅美の恋。広樹には、こんな約束を言い出さなければならない“秘密”の理由があった。

そして2年後、運命の日。怪我で入院中の広樹を見舞った浅美は、彼の別れの決意が変わらないことを知って沈み込む。そんな時、ふたりの幸せを願う広樹の妹・真菜の行動が、入院患者から“死神”まで巻き込んで、とんでもない大騒動に! 

果たして広樹の“秘密”とは? 


関連記事

インタビュー特集

映画『フリーソロ』監督エリザベス・チャイ・ヴァサルヘリィへのインタビュー【アレックス・オノルドは“2つの山”を乗り越えた】

映画『フリーソロ』は2019年9月6日(金)より、新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国ロードショー! 稀代のクライマーとして知られるアレックス・オノルド。 彼がカリフォルニア州のヨセミ …

インタビュー特集

【優希美青インタビュー】映画『WALKING MAN』ANARCHY監督の作品制作への思いに応える演技を

映画『WALKING MAN』は2019年10月11日(金)より全国ロードショー! ラップ・ヒップホップ界で現在、絶大な人気を誇るアーティストANARCHYが初監督を務めた映画『WALKING MAN …

インタビュー特集

【ティムラズ・レジャバ インタビュー】オタール・イオセリアーニ映画祭|ジョージアという“表現の基盤”が生み出す“時代を見つめるアーティスト”

「オタール・イオセリアーニ映画祭〜ジョージア、そしてパリ〜」は2月17日(金)よりヒューマン・トラストシネマ有楽町、シアター・イメージフォーラムにて一挙上映中! 『月曜日に乾杯!』『皆さま、ごきげんよ …

インタビュー特集

【平山秀幸監督インタビュー】映画『閉鎖病棟』笑福亭鶴瓶×小松菜奈らに重ねられたオマージュと“映画作りの面白さ”

映画『閉鎖病棟-それぞれの朝-』は2019年11月1日(金)より全国ロードショー! 精神科医にして作家・帚木蓬生(ははきぎ・ほうせい)が山本周五郎賞を受賞した同名小説の映画化作品。そして、名落語家にし …

インタビュー特集

【奥原浩志監督インタビュー】『ホテル・アイリス』映画制作を行うイマジネーションに“国境”という隔たりはない

大阪アジアン映画祭2021・コンペティション部門正式エントリー作品 『ホテル・アイリス』2022年劇場公開予定 エロティシズム溢れる小川洋子の同名小説を奥原浩志監督が映画化した『ホテル・アイリス』が第 …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学