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Entry 2019/10/05
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【パークプム・ウォンプム監督インタビュー】映画『ホームステイ』原作小説に込められたメッセージと映画を作る意味

  • Writer :
  • 河合のび

映画『ホームステイ ボクと僕の100日間』は2019年10月5日(土)より、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー!

中原俊監督、原恵一監督の手によって日本国内でも二度映画化がなされている、1998年に発表された森絵都の名作ジュブナイル小説『カラフル』

その舞台をタイ・バンコクに移し、紆余曲折を経ながらも完成・劇場公開を迎えたのが、映画『ホームステイ ボクと僕の100日間』です。


(C)Cinemarche

本作を手がけたのは、初の長編ホラー『心霊写真』がタイ国内で大ヒットを記録し、日本でも同作が劇場公開を迎えた経験を持つパークプム・ウォンプム監督

そしてこの度、2019年10月5日(土)からの日本での劇場公開を記念し、ウォンプム監督にインタビューを行いました。

原作小説から感じとったメッセージや映画化に際して取り入れたオリジナルのモチーフ、本作を通じて実感した映画を制作し続ける意味など、貴重なお話を伺いました。

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原作小説『カラフル』に込められたメッセージ


(C)2018 GDH 559 CO.,LTD.ALL RIGHTS RESERVED

──物語の舞台を日本からタイへ変えるなど、本作は多くのオリジナル描写がなされています。その中でもウォンプム監督は、森絵都さんの原作小説『カラフル』のどのような魅力を映画化によって描こうとしたのでしょうか。

パークプム・ウォンプム監督(以下、ウォンプム):映画化にあたって森絵都さんの小説『カラフル』のタイ語訳版を読ませていただいた時、小説の物語を通じて「人生を他者の視点で見つめてみると、より人生が理解できるようになる」ということを知りました。

そしてそこから、何かに囚われないこと、こだわらないことこそが幸せにつながるのではないかと私は思えたんです。

また小説に込められた「人生はカラフルなものであって、一色だけでもなければ派手な色だけでもない」と思うことで人間は幸せを感じとれる、人生を受け入れられるというメッセージが、原作の“核”にあたるのだと感じとれました。

それは様々な宗教においても少々異なる形で説かれていることでもありますが、小説『カラフル』に込められたそのメッセージをタイの人々にも伝えたいと思い至り、映画化を考え始めました。

様々な「世代」によって人物を描く


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──原作小説『カラフル』の映画化にあたり、その脚本はウォンプム監督と4人の脚本家という5人のチームによって執筆されています。そのようにチームでの脚本執筆を至った理由を教えていただけませんか。

ウォンプム:本作の脚本家チームのメンバーは、様々な世代の人間によって構成されています。

たとえばチームメンバーの一人であるエカシット・タイラートさんはチーム内では一番の年長者であり、家族と子どももいる、すなわち家庭を持つ方でもあります。

その一方で、メンバーの中には大学を卒業したばかりの脚本家もいます。その方は主人公らをはじめ本作に多く登場する高校生たちの世代に一番近い世代の人間であり、彼ら彼女らの心情を一番理解することができる貴重な人間でもありました。

そういった様々な世代の脚本家たちとチームを組むことで、同世代の人間だけという狭く少ない視点だけで登場人物を描くのではなく、いくつもの視点に基づく、より奥行きをもった描写をすることができたと感じています。

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砂時計と「人生」という時間


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──本作には映画オリジナルのモチーフとして砂時計が登場しますが、それをモチーフとして選ばれた理由や経緯について教えていただけないでしょうか。

ウォンプム:先ほども触れたように、本作は自身が小説『カラフル』から感じとった「人生を他者の視点で見つめると、人生は“楽”になる」という思いに基づいて制作しています。

砂時計には「ひっくり返すと元に戻る」という性質を持っています。そしてその性質があるからこそ、人々に“時間”という事象を教えてくれる。

そういった砂時計の性質と時間との関わりから、私は人生の二つの側面が秘められているように感じとり、本作のモチーフにふさわしいと判断したんです。

また細かい点に触れると、映画冒頭にてティーラドン演じる《ボク》がビルから飛び降りた瞬間、世界の重力とカメラの視点が一気に変化してしまうシーンについても、砂時計の性質から着想を得ています。

「変わり続ける色彩」が象徴するもの


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──砂時計のみならず、万華鏡やマスゲームなども本作オリジナルのモチーフとして登場しますね。

ウォンプム:万華鏡にも「回転によって変化し続ける」という砂時計と共通する性質があり、それ以上に重要なのが、「色彩が絶え間なく移り変わってゆく」という性質です。

それが原作小説における「人生には良い面もあれば悪い面もある」そして「人生とはカラフルなものである」というメッセージに重なったんです。

またマスゲームについても万華鏡と同じように“カラフル”であり、一枚の巨大な絵画の中に細かく小さな色彩が一枚一枚込められている様子が、人生の“カラフル”さに通じていると感じとり、本作の劇中でも描くことにしました。

万華鏡やマスゲームが描く「変わり続ける色彩」は、人生が常に流動し続けること、人間は決して同じ場所や時間にはあり続けないことそのものであり、本作の象徴であると考えています。

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人間の「暗い面」を描くために


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──ウォンプム監督は初の長編ホラー作品『心霊写真』など多くのホラー作品を手がけているほか、本作でも幽霊あるいは魂を描いています。監督がホラーというジャンル、幽霊や魂というものを描き続けるその理由とは何なのでしょうか。

ウォンプム:映画はやはりエンターテインメントであるため、「恐怖を体感するためのエンターテインメント」としても、ホラーというジャンルは人々に求められています。

ですがそれ以上に、「人間の暗い面を語ることができる」という強みこそがホラーというジャンルの魅力だと私は捉えています。

またホラーという形を通じて物事を見せることで、観客たちにも作り手側のメッセージが伝わりやすくなります。それが何故かというと、そこには必ず“謎”があるからであり、その正体を知りたいと欲するがゆえに最後まで作品を観てくれるし、作品の核心に触れようと試みてくれるんです。

だからこそ、ホラーという形はメッセージを運び伝える“乗り物”として非常に重要ですし、その形でもって映画を制作する意味があるんです。


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ウォンプム:また私自身は、幽霊の存在をあまり信じていないんです。

少しずつそう考えるようになったんですが、それでも子どもの頃は幽霊やお化けが怖くて、トイレのドアも閉められない、暗い場所で寝られないぐらいだったんです。

ですが大人になり『心霊写真』を制作した際に、私は「幽霊の写った写真に、自分の部屋が埋め尽くされている」という奇妙な状況を経験しました。その中で、次第に「本当は幽霊なんて存在しないんじゃないか」と思い始めたんです。

そして「やはり幽霊とは人間の想像上の存在なのだ」という結論に至ったことで、それらに対する恐怖心もなくなっていました。

また、生きている者の中には幽霊同然のような人間もいますし、実は幽霊よりも怖い人間もいるとも感じています(笑)。

映画が運んできた人生


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──改めて最後に、これから本作をご覧になる日本の方々に対し、ウォンプム監督は本作から何を感じとっていただきたいですか。

ウォンプム:繰り返しになりますが、原作小説の物語は人生におけるいくつもの“普遍”が描かれていると感じています。

タイ、そして原作小説が書かれた日本においても、死や憂鬱に囚われている方、自身の人生に不満や苦痛を抱いている方は多くいらっしゃいます。そういった人々を応援し、映画を観終わった後に少しでも元気が持ってくれたら良いなと思って本作を制作しました。

また森さんが小説『カラフル』に込めたメッセージは本当に素晴らしいものですし、私自身も小説を読んだ際にそのメッセージに感動を覚えました。そのような自身が感動したメッセージや作品から感じられた魅力も、映画を通じて多くの人々に伝えたかったんです。

本作によって「人生を生きたくない」「死にたい」という思いを止められるとはもちろん考えていません。ですが本作を完成させた人間の一人としては、映画を観て少し前向きな感情を抱いてもらえるならば、それはそれとして喜ばしいことです。

実際、タイ国内で本作が劇場公開された時には、SNSを通じて私が所属する映画制作会社に「この映画を観せてくれてありがとう」「自殺を考えていたけれども、思い留まることができました」「生きる元気や勇気をもらうことができました」というメッセージが届きました。

そのメッセージを知った瞬間、「そういうことが起こりうるからこそ、私は映画を作りたいんだ」と実感することができました。

パークプム・ウォンプム監督のプロフィール


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1978年9月23日、タイ・バンコク出身。

ランシット大学のコミュニケーションアーツ学部フィルム・ビデオ科を卒業。2000年に卒業制作として発表した短編映画『LUANG TA』が国内外で注目されました。

初の長編ホラー『心霊写真』(2004)はタイ国内で大ヒットし、日本でも2006年に公開されました。その後も「Alone」(2007・日本未公開)やホラー・オムニバス・シリーズ「4BIA」(2008・日本未公開)と「Phobia 2」(2009・日本未公開)を手がけ、タイ国内外でホラー監督として人気を博します。

本作ではホラーテイストを残しながらもファンタジー・スリラーに挑戦。日本国内では2019年の大阪アジアン映画祭で上映され、「タイのアカデミー賞」と称される第28回スパンナホン賞では作品賞など13部門でノミネートされました。

インタビュー/河合のび
撮影/出町光識

映画『ホームステイ ボクと僕の100日間』の作品情報

【日本公開】
2019年10月5日(タイ映画)

【原題】
HOMESTAY

【原作】
森絵都『カラフル』(文春文庫刊)

【監督】
パークプム・ウォンプム

【キャスト】
ティーラドン・スパパンピンヨー、チャープラン・アーリークン(BNK48)

【作品概要】
日本国内でも二度映画化がなされている、森絵都が1998年に発表した名作ジュブナイル小説『カラフル』を原作に、その舞台をタイ・バンコクに移して映画化した作品。

死んだはずの魂《ボク》が自殺した高校生ミンの肉体へと“ホームステイ”し、ミンが自ら死を選んだ理由の謎解きの中で、人生の喜びと残酷さ、それ知ってなお生きてゆくことの意味を思い出す様を描きます。

監督は、初の長編ホラー『心霊写真』(2004)がタイ国内で社会現象を巻き起こすほどの大ヒットを記録し、日本でも同作が2006年に劇場公開された経験を持つパークプム・ウォンプム。

主演を務めたのは、本作にて「一人二役」を演じ切ったタイきっての人気俳優ティーラドン・スパパンピンヨー。そしてヒロイン役を務めたのは、人気アイドルグループ「BNK48」のキャプテンにして本作で女優デビューを果たしたチャープラン・アーリークンです。

映画『ホームステイ ボクと僕の100日間』のあらすじ


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「当選しました」。その声によって、死んだはずの《ボク》の魂は、自殺した高校生ミンの肉体に“ホームステイ”することになりました。

ミンの自殺の原因を100日間で見つけ出さないと魂は永遠に消えてしまうと告げられ、《ボク》は“新生”ミンとしてもう一度人生をスタートさせます。

初めて訪れた街で見知らぬ家族や同級生に囲まれ、違和感だらけの学校生活を送る “新生”ミンこと《ボク》。誰にも気づかれないように謎解きを始めるうちに、秀才の美少女パイと出会い、彼は一瞬で恋に落ちます。

ある日、1台のパソコンの存在を知ったことで、《ボク》は自殺したミンを苦しめた残酷な現実と対峙していく…。



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