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Entry 2023/08/25
Update

【大山大インタビュー】映画『いずれあなたが知る話』表現活動の“ルーツ”たちが心に根付かせた“人の心を動かせるなら”という覚悟

  • Writer :
  • 河合のび

映画『いずれあなたが知る話』は下北沢トリウッドで封切り後、2024年5月25日(土)〜31日(金)名古屋シネマスコーレで劇場公開

誘拐された娘を探さない母親と、母娘の生活を監視するストーカーの隣人それぞれの視点から愛と狂気の錯綜を描き出した“サイコ・ノワール”映画『いずれあなたが知る話』

2023年・5月に下北沢トリウッドで封切りされた本作は、同館での公開初日から5日間連続の満席を記録。作品としての完成度の高さから多くのリピーターが続出し、各地劇場での公開拡大が実現しました。


(C)藤咲千明/Cinemarche

このたび映画の拡大公開を記念し、小原徳子さんとのW主演を務め、靖子・綾の母子の生活を覗き続けるアパートの隣人・勇雄役を演じた俳優・大山大さんにインタビュー。

本作の企画発案者でありプロデューサーでもある大山さんが主演も務めるに至った経緯をはじめ大山さんの表現活動のルーツとなった人々、そして人生を懸けて表現を続ける理由など、貴重なお話を伺うことができました。

「勇雄役は、大山くんじゃないとダメだよ」


(C)「いずれあなたが知る話」制作チーム/Cinemago

──本作の企画発案者でありプロデューサーでもある大山さんですが、小原さんとともにW主演も務められるに至った経緯を改めてお教えいただけませんでしょうか。

大山大(以下、大山):小原さんに勇雄役を相談された当初は、「プロデューサーの仕事もしながら、役者としても出演する」というのは、単純な仕事量や演技との向き合い方を考慮すると少し難しいのではと考えていました。

ただ、僕が「勇雄役は別の方でいいんじゃないか」「僕はプロデューサーの仕事に専念した方がいいんじゃないか」と提案したら、小原さんは「勇雄役は、大山くんじゃないとダメだよ」と言ってくれた。その言葉で役者としての自分が必要とされているんだと実感し、「喜んで演らせてもらいます」と伝えました。


(C)「いずれあなたが知る話」制作チーム/Cinemago

──勇雄の役作りはどのように進められていったのでしょうか。

大山:正直僕は演技派ではないんですが、以前『私、アイドル辞めます』という映画でアイドルオタクの役を演じさせてもらった時には、クランクイン前に1ヶ月半ほど実際にアイドルオタクとして生活したことがあるんです。

今回の『いずれあなたが知る話』でも同じように、カメラを持って街中を歩いてみたりして「勇雄の眼には、街や人がどう見えているのか」を探ってみようとしました。また勇雄と以前演じたアイドルオタクの間には「執着」と「煮え切らない環境での生活」という共通点があったことも、勇雄を演じる上での参考になりました。

ちなみに完成した映画を観た時には、「自分って、こんなに気持ち悪かったんだな」という感想を勇雄を演じている自分に対して持ちましたね(笑)。

“人の心を動かす表現”──ダウンタウンと大仁田厚


(C)藤咲千明/Cinemarche

──大山さんは本作での俳優・プロデューサーとしてのお仕事のみならず、ご自身でも短編映画を監督するなど、その表現活動は多岐に渡っています。大山さんの表現活動におけるルーツとは何なのでしょうか。

大山:僕は元々関西出身で、お笑いが文化として根付いている街で暮らしていたこともあり、芸人として生きている人々の姿を自然に見て育ち、かつては芸人として活動していた時期もありました。

中でもダウンタウンさんが見せてくれる「笑い」は、物心ついた時にはすでに自分の生活の一部になっていましたし、センス全開の漫才はもちろん、何よりも創作コントに感銘を受けたんです。

自分の作り上げた「仕組み」で、人の心を動かせる。人を楽しませ、笑わせられる。それは、実際にコントを作り披露したことで本当に嬉しいことだと理解できたし、コントを作る際に必ず生じる「どうすれば人の心を動かせるのか」を考える過程が面白かった。

それが、松本人志さんが新作のコントを作り続ける理由なのかもしれないし、僕が映画監督としての活動も始めた理由なんだと思います。


(C)藤咲千明/Cinemarche

大山:また学生の頃からプロレスが好きだったんですが、「ノーロープ有刺鉄線電流爆破マッチ」という邪道・亜流と呼ばれるようなプロレスで王道のメジャー団体を相手に闘い続けていた、当時の大仁田厚さんの姿に心を打たれたんです。

僕自身が感動した通り、大仁田さんも「どうすれば人の心を動かせるのか」を常に考えて行動している方であり、そのための手法を実践し続けている方です。ただそれ以上に、テクニックに見合うだけの「本物の感情」こそが人の心を動かすために最も重要なものなんだと、大仁田さんの闘いから教えられました。

そして、大仁田さんは「人の心を動かせる“魅せ方”ができるのであるならば、自分自身はどれだけ身を、心を削っても構わない」という覚悟で、今もリングに上がり続けている。

そんな覚悟の在り方に影響を受けた自分は、1ヶ月で10キロ減量したりなど、演じるためなら何でもやる役作りをするようになりましたし、どんな仕事に対しても「せめて自分のできることをやろう」という気持ちで臨むようになりました。

“人の心を動かせるなら”が根付く人生


(C)藤咲千明/Cinemarche

──かつて大仁田厚さんの闘う姿から感じとり、様々な仕事において常に抱くようになった「人の心を動かすために、自分のできることなら何でもやる」という覚悟を、大山さんはいつ頃から明確に意識するようになったのでしょうか。

大山:「ひと笑いをとれるなら、骨が折れてもいい」と考えていた芸人時代まで遡ることもできますが、やっぱり40歳を超えて「死」を少しずつ具体的に意識し始めた中で「ほんの小さなものでもいいから、僕でしか残せないものを何か残したい」という想いが強くなったのは大きいですね。

だからこそ今回の『いずれあなたが知る話』でも、小原さんに「勇雄役は、大山くんじゃないとダメだよ」と言われたのが心に響いたんだと思います。

──大山さんにとって、表現とは何でしょうか。

大山:自分はどうして「表現」というものに人生を捧げようとしているのか、どうして何かを残しそうとしたいのかと考えた時、誰もが「自分はどうして生きているのか」という疑問に行き着くんじゃないかと思います。

その疑問の答えを考え抜いた中で、かつて影響を受けたダウンタウンさんや大仁田厚さんの思い出を振り返り、当時の自分は彼らの表現のおかげで元気ややる気をもらっていたことを思い出した。そして自分が死なずに表現を続けているのも、結局は彼らと同じように、楽しませることで誰かを元気にしたいからだと気づきました。

誰かが自分自身の「始まり」を見つけるきっかけ、言い換えるとしたら「生きる希望」が動き出すきっかけを、大なり小なり作りたい。

だからこそ、そのために持ち続けてきた「人を楽しませられるなら」「人の心を動かせるなら」という覚悟はこれからも変わらないでしょうし、死ぬまで心の底に根付き続けるんだと思います。

インタビュー/河合のび
撮影/藤咲千明

大山大プロフィール

大学在学中に舞台演劇に触れ、小劇場を中心に活動を始める。その後は広告や映画など、活動の拠点を映像の現場に移す。

2020年から、市井昌秀監督を師事し短編作品を監督するなど演出側としても精力的に活動。

近年の主な出演作は『アリスの住人』『拝啓、永田町』『私、アイドル辞めます』など。

映画『いずれあなたが知る話』の作品情報

【公開】
2023年(日本映画)

【プロデューサー】
大山大

【脚本】
小原徳子

【監督】
古澤健

【撮影】
高田祐真

【キャスト】
大山大、小原徳子、一華、大河内健太郎、蓮池桂子、穂泉尚子、蓮田キト、伴優香、はぎの一、オノユリ、小川紘司、久場寿幸、奥江月香、中村成志

【作品概要】
誘拐された娘を探さない母親と、母娘の生活を監視するストーカーの隣人それぞれの視点から愛と狂気の錯綜を描き出した“サイコ・ノワール”映画。

W主演を務めたのは、『アリスの住人』『拝啓、永田町』『階段の先には踊り場がある』などに主演し本作のプロデューサーも務めた大山大と、旧芸名・木嶋のり子時代から難役に挑戦し『幸福な囚人』『屋根裏の散歩者』『卍』などで知られ、本作で脚本家デビューを果たした小原徳子。

2023年・5月に下北沢トリウッドで封切りされた本作は、同館での公開初日から5日間連続の満席を記録。多くのリピーターが続出し、ついに大阪での拡大公開が実現した。

《映画『いずれあなたが知る話』公式サイトはコチラ→》

映画『いずれあなたが知る話』のあらすじ


(C)「いずれあなたが知る話」制作チーム/Cinemago

一人娘の綾(一華)を育てるシングルマザーの靖子(小原徳子)は、弁当屋の稼ぎだけでは生活できず、綾のために風俗での仕事を始める。

ある日、綾が誘拐された。しかし靖子は、誘拐犯の元で暮らす綾を取り戻そうとはしなかった。その日から、母娘の《幸せ》な生活は始まった……。

……それを、アパートの隣人である勇雄(大山大)だけが覗き込んでいた。

《映画『いずれあなたが知る話』公式サイトはコチラ→》

編集長:河合のびプロフィール

1995年生まれ、静岡県出身の詩人。

2019年に日本映画大学・理論コースを卒業後、映画情報サイト「Cinemarche」編集部へ加入。主にレビュー記事を執筆する一方で、草彅剛など多数の映画人へのインタビューも手がける(@youzo_kawai)。


(C)田中舘裕介/Cinemarche




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