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Entry 2018/09/29
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【荻颯太郎監督インタビュー】新人映画作家が2018年の今をどう生きているのか

  • Writer :
  • 大窪晶

2016年度の立命館大学映像学部の卒業成果作品『地球がこなごなになっても』では、卒業制作の域を超える実力を覗かせた期待の新人作家・荻颯太郎監督。

他作品に於いてもインパクトのある、独自性を発揮した映画を次々に生み出しています。

今後の活躍が楽しみな新進気鋭の荻颯太郎監督に、インタビューを行い作品への想いや自身の作風についてお伺いしました。

誰もが楽しんでくれる映画をつくる


(C)Cinemarche

ー映画監督になったきっかけは?

荻颯太郎監督(以下、荻):将来はものづくりをしたいという想いがあって、本当は大学では建築学科に行きたいと考えていたんです。

映画はもともと好きだったんですが、高校一年生か二年生の時にクリント・イーストウッド監督の『グラン・トリノ』を観て、映画で初めてふと涙を流して「映画ってイイなぁ」って思えて。

立命館大学には行こうと決めていたのですが、映像学部があったので調べたら、映画もつくれるし創作活動が出来るとあったので良いなと思って目指しました。

もちろん、そこには根本に映画が好きだっていうのがあるからこそですが(笑)。

ーイーストウッド監督と荻監督とは作風が随分と違いますが。

:そうですね。つくる映画と好きな映画は結構違うのかも知れないです。

もちろんイーストウッド監督がつくるようなヒューマンストーリーが溢れているような映画も作りたいなと思うんですけど、自分の性に合ってないように思うんです。

僕が映画をつくる時にいつも心掛けているのは、観ている人が楽しめるものっていうのを一番に念頭に置いています。

そういった「エンタメ」に振ったものを、いつもつくるようには意識しています。

ーエンターテイメントな作品の中でモチーフとなっているメッセージ性が説明過多になり過ぎず、打ち出していました。

:エンタメをつくるっていう前提が自分の中にあるので、エンタメとのギャップみたいなものをつくって、そこで面白いことが出来ないか、観ている人もそのギャップを感じて面白味を感じてくれたらといつも考えています。

仲間と共につくりあげる


(C)Cinemarche

ー荻監督作品は、どのシーンでも描かれている対象が同等に存在していて、観客が自由に見て取れると思いますが?

:そういった意識ではありませんが、役者さんに「出演してもらってる」っていう意識はありますね。

演じてくれている役者さんの魅力を出せるようにっていうのは心掛けていることなので、それが反映されて平等に感じるのかも知れません。

ー荻監督の作品に登場する人物たちは、誰もが活き活きしていますね。

:脚本を書く時は、登場人物を演じてくれる役者さんに、当て書きをするようにしています。

役者さんが自由に、そのままでいられて、その人らしさが出るようにしたいんです。

最初の頃は当て書きをしないでやっていたんですが、自分で撮っていながら違和感があって、気持ち悪いなと凄く思ってしまって(笑)。

それからなるべく当て書きするように段々となっていきました。

キャストに関しては、オーディションも考えたんですけど、全く知らない人と上手く出来るのかなっていう不安もありました。

ー俳優がカメラの前で活き活きと演技をし、自然に居るための工夫はありますか?

:撮影の前に打ち合わせなどで(役者たちと)喋る機会を設けて親しくなるということはいつも心掛けています。

ー現場での俳優への演出はどのように?

:僕の中で演技的な演出はキャスティングをして、当て書きで脚本を書いた時点で終わっているんです。

現場では本当にちょっとした役者さんの機微の微調整をする程度です。

現場ではキャメラワークといったアングルとか、映像的な演出を考えています。

そうして演じてもらっている役者さんの良いところを引き出すために、技術的なところでフォローしていきたいっていうのはあります。

ー脚本は始めから映画の着地点に向かって書くんですか?

:第一稿は思うがままに書いて、それをスタッフとかに読んでもらって意見をもらっています。

やっぱり全体のストーリーとかを見てもらわないと(自分も)判断出来ないところもあるので(笑)。

あと、僕は脚本で台詞を書くのがあんまりスイスイ出来ないので、他者からの意見を本当にもうバンバン入れるというか、影響されやすいというか(笑)。

卒業制作の映画『地球がこなごなになっても』の第一稿は、書きたいことを書き過ぎて今の脚本の倍くらいの長さだったんです。

スタッフからは意味がわかんないからって一蹴されて、「だよね」みなたいな(笑)。そこで削って削って削って今の形になりました。

コミックを読むかのような映画のユニークさ


『地球がこなごなになっても』©︎荻颯太郎

ービジュアル的な面でもコミックを読んでいるかのような面白さがありましたが、これも荻監督作品の魅力のひとつだと感じますが?

:僕の場合は、ビジュアルから入ることの方が多いです。

『地球がこなごなになっても』は最初に震災について描こうというアイデア構想があって、それをどのように自分らしい作品にしていけるか考えた時に、いちばん初めにビジュアルでガスマスクをつけて体操服を着ているっていうのが浮かんだんです。

こういう姿を見せたら面白いかなっていうのが、ひとつの突破口として出てきたアイデアで、そこから広げていきました。


『feral/Short Film』©︎荻颯太郎

「エロ」と「エンタメ」

ー映画づくりでこだわっていることはありますか?

:基本的に僕がつくる作品の主人公は男性しかいないんです。

それは自分が演出する上で自身を投影するというか、演出しやすいというところで男性のキャラクターにしているところはありますね。

それと登場人物を男性キャラにすることによって、男って普段からいやらしいことを考えているところもある。そういったちょっとエッチなユーモラスのあるエロさを入れたら面白いなっていつも思っていますね。

『風が吹けばキスをする』予告編

ーどの映画も必ずキスしますね。

:そうですね(笑)。一貫性と言えるか分からないですけど、作品の根底にあるものが周りから荻っぽいねとか言われることが結構あって、それが嬉しくて。

そういう自分らしいところを出していこうとはいつも考えているので、ちょっとしたエロさ、性的思考は入れようと心掛けています。

あと、周りの登場人物は女の子のキャラクターが多くなったりするんですよね(笑)。

そういったハーレム状態にすることによって性的思考が膨らんでいく。

自然にあんまり考えずにそうしちゃってるのかも知れないですけど、そうなってることが多いです。

ーそういう感覚はどこから来るんですか?

:中学、高校時代にこじらせたのかも知れないですね(笑)。僕もなんでだろうと思うんです、なんでこんな風になってしまったのか(笑)。

ー映画で純粋にやりたいことを正直にやっていて見ていて本当に気持ち良いんです。

:そうですね。アホっぽい答えをすると、したいことをしたっていう感じではあります。

もちろん映画は好きなんですけど、映画に拘らずエンタメな作品をつくりたいという想いがあります。

だから「エンタメ」にするにはどうしたら良いのかっていつも考えています。

物語の題材はシリアスなものを取り扱っているので、どれだけの塩梅でエロさやエンタメ性を入れたらシリアスさとのギャップをつけて、ストーリーが面白く出来るかなっていうのは常に考えています。


(C)Cinemarche

膨らむアイデア


(C)Cinemarche

ー次回作の構想は?

:一応アイデアは書き溜めているので、書けるだけ書いて、撮れる時の準備をしておきたいなと考えています。

ーどのようなアイデアを書き留めているんですか?

:今やりたいのは、渋谷のスクランブル交差点でヒューマンビートボックスをやっている人を見かけ、足を止めて聞いていたらヒューマンビートボックスって面白いなと感じました。

それを物語の題材にした作品を作りたいなと思っています。吃音の女の子が、ヒューマンビートボックスをやってる、やさぐれたワイルドな男に出会って成長していくような話を書きためています。

ー面白そうですね。これがまたどんどん膨らんでいくんでしょうね。

:そうですね(笑)。どういう方向に行くか分からないですけど(笑)。とりあえず今は土台をつくっていって準備していきます。

ー今後の活躍を期待しています。

:はい。ありがとうございます。


(C)Cinemarche

映画『地球がこなごなになっても』の作品情報


©︎荻颯太郎

【公開】
2017年(日本映画)

【脚本・編集・監督】
荻颯太郎

【キャスト】
西村光弘、小森ちひろ、浜口愛子、谷野ひなの、松尾渉平、ぱくみゆう、日下七海

【作品概要】
2016年度の立命館大学映像学部の卒業成果作品『地球がこなごなになっても』は、荻颯太郎が脚本・編集・監督を務めたSF学園ラブストーリー映画。

沖縄国際映画祭のクリエイターズ・ファクトリー2017や第4回新人監督映画祭などで上映された作品です。

プロデューサーを務めたのは玉越庄奉、撮影に木村英士郎、助監督は渡辺香志それぞれ担当しています。

映画『地球がこなごなになっても』のあらすじ


©︎荻颯太郎

17年前に突如として地球に襲来したエイリアン。

人類は彼らの侵略に打ち勝ったが、一部の人間はエイリアンのウィルスに侵され、瞳が緑色変化してしまいました。

すると、人々のあいだでウィルスに感染した者の差別や偏見が蔓延し、襲来以後の人間関係に影を落としていました。

それでも平穏を取り戻した人類は、何事もなかったかのように日常を送っていました。

ある夏の日、何事にも無関心に過ごす高校生の坂上卓弥は、彼女と一緒に花火大会に出掛けました。

賑わう祭り会場から離れた坂上と彼女。異性に対する一方的な欲望を抑えられない坂上はむりやり彼女にキスをせまり、怒った彼女に逃げられてしまいます。

やがて坂上の通う高校に転校生の副島麻友がやって来す。明るくて可愛い麻友にたちまち想いを寄せていく坂上。

その後、麻友は奥本希をいじめから救い出します。盲目の希は女子グループからエイリアン呼ばわりされイジメられていたのです。

希をイジメからかばったことから、今度は女子グループのリーダーから麻友がイジメの標的になり、そのことをきっかけに麻友がエイリアンのウイルス感染者であることが明らかになってしまいます。

麻友に恋心を抱いていた坂上だったが、その事実を目の当たりにして麻友への愛情が差別意識に変わってしまい…。

荻颯太郎監督プロフィール

荻颯太郎(おぎそうたろう)1994年10月1日生まれの京都府出身。立命館大学映像学部卒業生。大学に入学後、学生時代に映画、ミュージックビデオ、企業コマーシャルなど様々な映像作品で監督を務めます。

2014年に初監督作品となる『2006のぷるーと』を発表、同年に『キエル』。2015年に『琴音ちゃんのリコーダーが吹きたくて』、同年に『風が吹けばキスをする』と『うち湯』を発表。

2017年には立命館大学の卒業成果作品『地球がこなごなになっても』(2016年制作)を完成披露。そのほか同年にミュージックビデオの『WEEKEND』や、『地球がこなごなになっても』のスピンオフ的な短編作品『feral』を発表するなど意欲的に活動を続けています。

まとめ


(C)Cinemarche

「自分らしさ」と「他者」との融合の先にある「エンタメ」

大学を経て、ひとりの社会人として東京にやってきた荻颯太郎監督。

ものづくりに憧れ、建築家を夢みていた少年は、一本の映画と出会い映画監督になる志を持つ青年となり、大学を卒業した今日、自らの芯にある「エンターテイメント性」を育み大切にしながら常に前を向いています。

インタビューに於いても、一歩一歩確実に将来へ向かって上を見ている様子は、初々しくキラキラと輝きを放ち続けていました。


(C)Cinemarche

また、荻監督は「自分らしいエンタメ」をつくるという想いを馳せながらも、常に「人」と共に創造するものづくりを大切にしていました。

「人」とつくる喜びや苦しみを分かち合うことを知っているからこそ、誰もが楽しめる「エンターテイメント」作品をつくることができ、作品を通してより多くの「人」と繋がりを持っていく。

それは必然的で、荻監督が示す一貫性であり、作品に込められたメッセージそのものではないでしょうか。

自身の閃きと協働の狭間に揺れながらも絶妙なアンバランス感を保ちつつ、コミック風の演出力と映像センスを遺憾なく発揮する荻颯太郎監督。今後の活躍に期待が高まるばかりです。

Cinemarcheではこれからも荻監督のさらなる飛躍をお届けしていく予定です。今後の荻颯太郎監督にぜひご注目ください!

インタビュー/大窪晶
写真/出町光識

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