映画『ラーゲリより愛を込めて』は2022年12月9日(金)より全国東宝系にてロードショー!
第二次世界大戦終了後、約60万人の日本人がシベリアの強制収容所(ラーゲリ)に不当に抑留された。あまりにも残酷な日々に誰もが絶望する状況下において、ただ一人、生きることへの希望を捨てなかった男がいた……。
映画『ラーゲリより愛を込めて』は、収容所の過酷な環境の中で仲間たちを励まし続け、生きることへの希望を強く唱え続けた実在の人物・山本幡男の壮絶な半生を描いた作品です。
主人公・山本幡男を二宮和也が演じた本作の公開を記念し、このたび本作のメガホンをとった瀬々敬久監督にインタビュー。
「戦争が与えた悲劇」を今描くことへの想い、主演・二宮和也をはじめキャスト陣の演技とその魅力などについてうかがいました。
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「戦争が与えた悲劇」を映画として描くチャンス
──監督オファーを受けられた際のお気持ちについて改めてお聞かせください。
瀬々敬久監督(以下、瀬々):1960年生まれの僕が子どもの頃はシベリアでの遺骨収集の話がニュースになり、二葉百合子さんの歌う「岸壁の母」がヒットしていましたから、シベリア抑留については何となく知っていました。ただ、山本幡男さんのことは原作を読んで初めて知りました。史実の凄まじさに驚きましたね。
かつては戦争映画が多くありましたが、近年は以前ほど多くはありません。本作は戦争そのものを扱っているわけではありませんが、戦争が与えた悲劇を映画として描くいい機会だと感じられた。ぜひ挑戦してみたいと思いました。
──原作は辺見じゅんさんの『収容所(ラーゲリ)から来た遺書』(文春文庫刊)ですが、今回の映画化にあたってどのような点を大事にされましたか。
瀬々:原作はルポルタージュですから、大きな物語があるわけではありません。物語的な「脈」のある箇所をどう膨らませて、エンターテインメントとして成り立たせるか。そこに四苦八苦しました。
最初に妹の結婚式があり、その夜に家族と離ればなれになります。山本さんの妹さんの結婚式は実際に終戦間際に行われたそうですが、妻子とのあのような別れがあったことはまったくの脚色です。『安寿と厨子王丸』ではないですが、「別れ」と「再会」という大きな物語を大枠として形作りました。
──本作は戦禍で友人を亡くした松田研三、人間らしさを戦場で捨ててしまった相沢光男らが主人公・山本幡男と出会い、いかに変わってゆくかというドラマでもあります。
瀬々:「山本幡男」という主人公がいた場合、彼に鼓舞されて変わってゆく人間が出てくる。収容所や刑務所のような、ある限定された空間を舞台にした作品にはそういった群像劇的な定型があり、『ショーシャンクの空に』(1994)がまさしくそういう作品だと思います。本作でもそうした定型をふまえ、登場人物たちが主人公に影響され変化し、最終的に「主人公を助ける」という形で全員が一致団結していくという物語にしました。
柔らかく皆を包む二宮和也
──主人公・山本幡男を演じられた二宮和也さんとは、実在の人物である山本幡男さんをどのような人物として描きたいと話し合われたのでしょうか。
瀬々:「山本幡男」という人には皆を鼓舞し、元気づけ、常に希望を言い続けた男というイメージがある。それは得てしてヒーロー像になりやすいのですが、「それは違う」と思っていました。
二宮くんも「山本幡男を“普通の人”として演じたい」とおっしゃった上で、「どこかに『戦争ってひどいもんですね』というセリフを入れられませんか」と提案してくださったので、作中に入れました。この物語の肝の部分をわかっていて、それを伝えたいと思ったのでしょう。
──現場でも二宮さんがそういった役目を果たされていたのでしょうか。
瀬々:二宮くんは作品の中心です。桐谷健太くんや松坂桃李くん、安田顕さん、中島健人くんが演じた人物にはそれぞれエピソードがあり、毎日誰かが戦いを挑みにやってくる。二宮くんはそんな彼らと常に戦い、リターンを返す。そのためにまず、二宮くんは桐谷くんたちとのコミュニケーションをとろうとしていました。ただ、二宮くんは普段から非常にチャーミングなので、その柔らかい接し方で皆を包んでいるという感覚でした。
現場全体でムードメーカー的な役割を果たしていたのは桐谷くんでした。いつも登場してくる、その他の捕虜の方々を僕らは「レギュラー捕虜」と呼んでいましたが、そういったレギュラー捕虜の人たちと懇意に話をして、現場を引っ張るエンジンのような役目を果たしてくれていました。
桃李くんはじっとそこに居て、役そのものでしたね。安田さんはずっと役について考えていましたし、中島くんは役そのものの朗らかさでみんなと接していました。現場全体としては、あれだけ俳優さんたちがいると、どこか丁々発止はある。「切磋琢磨」という風に撮影を進めていました。
──二宮さんの俳優としての魅力はどんなところでしょうか。
瀬々:「そこにいるだけでいい」という感覚を持つ俳優さんです。策を弄したりしない。「ああしてやろう」「こうしてやろう」という魂胆があると芝居は面白くなくなるのですが、二宮くんは自然体で、そういった魂胆が一切なく、肝が据わっている。その上で自由にやっているから、こちらは見ていて非常に楽しい。
しかも、誰とも対等に接します。年下の人に対してはフランクですし、年上の人だからといって丁重な敬語を使って話すということもない。区別や差別をしない。そこは「山本幡男」に近いといえるでしょう。安田さんにも中島くんにも同じ。清々しいです。そういう人柄が芝居にも出ている。だから多くの方が作品を通じて魅かれるのでしょうね。
何気ない日々の生活こそが大切
──本作では松坂桃李さん演じる松田にナレーションを語らせ、彼の視点で物語が進行する箇所もありました。この役を松田に担わせた理由は何でしょうか。
瀬々:それは、松田が寡黙だからです。松田はあまり喋らないので、彼がその内で考えていることは観客にわかりづらい。そういう意味でナレーターとして一番適任だったのです。
また役者として、二宮くんと松坂くんは若干似ている部分がある。二人とも俳優として押し出しが強くありません。形で芝居をするのではなく、そこにいるだけで雰囲気を出していくタイプ。二人が表裏一体として存在している感覚が、今回の作品にはあります。そういう意味でも、松田がナレーションを担うことにしてよかったと感じています。
桃李くんは『アントキノイノチ』(2011)に出てもらって以来、10年近い月日が経ちましたが、素晴らしい俳優だなと思いました。苦労したんだと思いますが、当時とは全然違います。ただ、彼はそういうところを人前で見せません。
──今回の映画化を通じて向き合われた山本幡男さんの生き方は、瀬々監督ご自身にもまた影響を与えましたか。
瀬々:山本さんは句会を開いたり、野球をやったりなど、つらい状況下でも希望を捨てず、日々の生活の中で楽しみを見つけ、前向きに生きようとしました。それが希望につながっていく。
今もコロナで多くの方々が大変な生活を送っていると思いますし、ウクライナでは戦争が続いています。そういう中では何気ない日々の生活こそが大切であると、この作品を通じて改めて気がつきました。
インタビュー/ほりきみき
瀬々敬久監督プロフィール
【フィルモグラフィー】
・『ヘヴンズ ストーリー』(2010)第61回ベルリン国際映画祭国際批評家連盟賞受賞
・『64-ロクヨン- 前編/後編』(2016)第40回 日本アカデミー賞優秀監督賞受賞
・『8年越しの花嫁 奇跡の実話』(2017)
・『友罪』(2018)
・『糸』(2020)
・『護られなかった者たちへ』(2021)第45回 日本アカデミー賞優秀監督賞受賞
・『とんび』(2022)
映画『ラーゲリより愛を込めて』の作品情報
【公開】
2022年(日本映画)
【原作】
『収容所(ラーゲリ)から来た遺書』(辺見じゅん著/文春文庫刊)
【監督】
瀬々敬久
【脚本】
林民夫
【キャスト】
二宮和也、北川景子、松坂桃李、中島健人、寺尾聰、桐谷健太、安田顕 ほか
【作品概要】
原作は『収容所(ラーゲリ)から来た遺書』(辺見じゅん著/文春文庫刊)。ラーゲリで一筋の希望の光であった山本幡男を二宮和也が演じ、時代に翻弄されながらも愛する夫を信じて待ち続ける山本幡男の妻・山本モジミを北川景子が演じる。
また、山本と共に極限のラーゲリを生き抜く抑留者仲間として、戦禍で友人を亡くしたトラウマから自身を「卑怯者」と思い悩む松田研三を松坂桃李、最年少でムードメーカーの新谷健雄を中島健人、昔ながらの帝国軍人として山本に厳しくあたる相沢光男を桐谷健太、過酷な状況下で心を閉ざしてしまう山本の同郷の先輩・原幸彦を安田顕。
さらに、山本幡男の長男・顕一の壮年期を、テレビドラマ『収容所から来た遺書』(1993/CX)で山本幡男を演じた寺尾聰が担う。
映画『ラーゲリより愛を込めて』のあらすじ
第二次大戦後の1945年。そこは零下40度の厳冬の世界・シベリア……。わずかな食料での過酷な労働が続く日々。死に逝く者が続出する地獄の強制収容所(ラーゲリ)に、その男・山本幡男は居た。
「生きる希望を捨ててはいけません。帰国(ダモイ)の日は必ずやって来ます。」絶望する仲間たちに彼は訴え続けた……身に覚えのないスパイ容疑でラーゲリに収容された山本は、日本にいる妻・モジミや4人の子どもと一緒に過ごす日々が訪れることを信じ、耐えた。
劣悪な環境下では、日本人同士の争いも絶えなかった。戦争で心の傷を負い傍観者を決め込む松田や、旧日本軍の階級を振りかざす軍曹の相沢らに敵視されながらも、山本は分け隔てなく皆を励まし続ける。さらに、元漁師の純朴な青年・新谷には学問を教え、過酷な状況下で変わり果ててしまった同郷の先輩・原にも声をかけ続けた。そんな彼の仲間想いの行動と信念は、凍っていた仲間たちの心を次第に溶かしていく。
終戦から8年が経ち、山本に妻からの葉書が届く。厳しい検閲をくぐり抜けたその葉書には「あなたの帰りを待っています」と。たった一人で子どもたちを育てている妻を想い、山本は涙を流さずにはいられなかった。
誰もがダモイの日が近づいていると感じていたが、その頃には彼の体は病魔に侵されていた……体はみるみる衰えていくが、愛する妻との再会を決してあきらめない山本。そんな彼を慕うラーゲリの仲間たちは、厳しい監視下にありながらも、山本の想いを叶えようと思いもよらぬ行動に出る。
そしてモジミに訪れる奇跡とは──。
堀木三紀プロフィール
日本映画ペンクラブ会員。2016年より映画テレビ技術協会発行の月刊誌「映画テレビ技術」にて監督インタビューの担当となり、以降映画の世界に足を踏み入れる。
これまでにインタビューした監督は三池崇史、是枝裕和、白石和彌、篠原哲雄、本広克行など100人を超える。海外の作品に関してもジョン・ウー、ミカ・カウリスマキ、アグニェシュカ・ホランドなど多数。