映画『蒲田前奏曲』は2020年9月25日(金)より全国にて絶賛公開中!
企画・プロデュースを務めた松林うらら演じる売れない女優・蒲田マチ子の視点を通して、女性に対し「人格の使い分け」を求められる社会への皮肉を、彼女の周りの人々との関わりを交えながらコミカルに描いた映画『蒲田前奏曲』。
『静かな雨』の中川龍太郎、『月極オトコトモダチ』の穐山茉由、『Dressing Up』の安川有果、『叫び声』の渡辺紘文という日本映画界で注目を浴び続ける4人の若手実力派監督による連作長編です。
本作の劇場公開を記念し、安川監督が手がけた一編「行き止まりの人々」にて、映画オーディションを通じて現実と直面する女優・黒川瑞季役を務めた瀧内公美さんにインタビュー。出演に際しての役作りはもちろん、「芝居」という表現、「女優」という仕事の意味など貴重なお話を伺いました。
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「ひとりの人間」として自身の思いを伝える
──映画『蒲田前奏曲』の一編「行き止まりの人々」への出演に際し、その企画或いは脚本に対して当初はどのような印象を抱かれましたか。
瀧内公美(以下、瀧内):「行き止まりの人々」は現在の社会におけるセクシャルハラスメント、近年の「#MeToo」運動に関する問題をテーマとした作品ですが、本作に携わる以前の私は、そういった問題についてあまり考える機会がなかったんです。自分自身がこれまで抱いたことのない感情と、非常に根深い問題に対して答えがないまま表現をすることに、「果たして自分が演じられるだろうか」と少し不安にはなりました。
ただ安川監督から、「この作品は決して“多くの女性がセクハラの被害に遭っている”と訴えることが一番のテーマではないです」「女性・男性という性別ではなく、“ひとりの人間”として自身の思いを表現し伝えようとする黒川の姿が重要なんです」と説明を受けたことで、その不安も薄れていきました。
徹底に考えないと滲み出てこない
──黒川という役を演じるにあたって、役作りはどのようにして進められたのでしょうか。
瀧内:黒川は役を勝ち取るためにオーディションを受けたわけですが、その最中で監督である間島たちの振る舞いや本音を目の当たりにし、現実を突き付けられてしまう。彼女は様々な感情を抱きながら、このオーディションに参加し、それでも演技を続けていく。黒川の心情の変化は明確には描写されてはいませんが、その変化について考えた上で演じる必要があると思ったんです。
現実を生きていかなくてはいけないという状況で、黒川はどうして女優という仕事を続けているのか。何のためにお芝居をやっているのか。なぜ「表現」が自身にとって必要なのか、どうしてこのオーディションに行かなくてはいけないのか。様々な葛藤や後悔と共に彼女に対して浮かび上がる問いを徹底的に考えないと、やっぱり現場で立った時「滲み出てくるもの」が現れないように感じられました。それに彼女にとっての問いは、同じように女優として活動を続けている私自身も常に考えていることではありますから。
女優の「魂」が映る時
──瀧内さんが「女優」というお仕事を始められたきっかけをお聞きしてもよろしいでしょうか。
瀧内:一番は、やっぱり母が映画を好きだったということです。映画館によく連れて行ってもらい、そこで母と一緒にたくさんの映画を観ました。ですから、母とは映画の感想などを通じてコミュニケーションをとることが多かったんです。その結果私自身も映画を好きになっていって、「あのスクリーンの中の世界に関われる仕事をしたい」と思ったのが女優を目指し始めた最初のきっかけじゃないかと感じています。
──ちなみに、映画を通じてのお母様とのコミュニケーションの中で、特に思い出深い作品などはありますか。
瀧内:今でも自分の中で衝撃が残っている作品としては、降旗康男監督の『赤い月』(2004)はよく覚えています。そもそも当時の私にとっては、作品の舞台である戦時下の満州という場所、そこで描かれていく阿片中毒といった恐ろしい現実自体が衝撃的でしたが、主人公の波子を演じられている常盤貴子さんが、戦時下の満州という激動の時代に飲み込まれそうになりながらも、それでも懸命に生き抜こうとする姿に一番圧倒されました。
確か中学三年生の頃に鑑賞したんですが、一緒に観た母との会話も常盤貴子さんの「女優魂」の話題で持ちきりでした。「“魂”って、スクリーンに映るんだ」と純粋に思っていましたね。
「今の自分」として表現を続ける
──瀧内さんにとって、「芝居」とは一体どのような表現なのでしょうか。
瀧内:自分自身を豊かにしてくれるものだとは感じています。様々な作品の脚本を読み込んでいく中でも、「ああ、こういうの分かるな」と役に対してシンパシーを感じる時もあれば、自分自身とあまりにもかけ離れている役に対してエンパシー(自身と異なる価値観や思想を持つ他者の心情を汲み取るための想像力)を働かせる時もあります。どちらにせよ、「その役が“ひとりの人間”として何を感じ葛藤し、生きているのか」と深く想像していかなくてはいけない仕事だと考えています。
人が好きだからこそ、この仕事を続けられているんだと思うんです。誰かとの出会いと対話がお芝居では大切ですし、その結果想定していたはずの展開が大きく変化していくこともある。それがこの仕事の面白さの一つだと思います。
──最後に、今後も女優というお仕事を続けられていく中での展望や目標を改めてお聞かせ願えませんか。
瀧内:年齢と共に、やっぱりその都度演じる役柄も変わっていきますよね。まだまだ経験したことのない役に挑戦しながら、その時々における「今の自分」の表現を楽しんでいけたらと思っています。あと、ご一緒させていただきたい作家さんや原作があったりするので、続けていれば作品と出逢えることもあるだろうし、憧れの人とご一緒できるんだと信じて、邁進していきたいです。
インタビュー/河合のび
撮影/田中舘裕介
ヘアメイク/藤原玲子
衣装協力/那由多
取材場所/リョーザンパーク
瀧内公美プロフィール
1989年生まれ、富山県出身。内田英治監督作『グレイトフルデッド』(2014)にて映画初主演。以降、2015年に『ソレダケ』、『日本で一番悪い奴ら』に出演したのち、2017年に廣木隆一監督作『彼女の人生は間違いじゃない』に主演。同作にて日本映画プロフェッショナル大賞新人女優賞、全国映連賞女優賞を受賞した。2019年には、荒井晴彦監督作『火口のふたり』では第93回キネマ旬報主演女優賞、ヨコハマ映画祭最優秀新人賞を受賞するなど、その演技は高く評価されている。
そのほかの主な出演作には、2019年の『21世紀の女の子』(「Mirror」)、2020年の『カゾクデッサン』など。また2020年11月27日に劇場公開予定の『アンダードッグ 前編・後編』などにも出演している。
映画『蒲田前奏曲』の作品情報
【公開】
2020年(日本映画)
【監督・脚本】
中川龍太郎、穐山茉由、安川有果、渡辺紘文
【プロデューサー】
松林うらら
【キャスト】
伊藤沙莉、瀧内公美、福田麻由子、古川琴音、松林うらら
【作品概要】
『静かな雨』の中川龍太郎、『月極オトコトモダチ』の穐山茉由、『Dressing Up』の安川有果、『叫び声』の渡辺紘文という日本映画界で注目を浴び続ける4人の若手実力派監督による連作長編。
企画・プロデュースを務めた松林うらら演じる売れない女優・蒲田マチ子の視点を通して、女性に対し「人格の使い分け」を求められる社会への皮肉を、彼女の周りの人々との関わりを交えながらコミカルに描く。
映画『蒲田前奏曲』のあらすじ
第1番「蒲田哀歌」監督・脚本:中川龍太郎
オーディションと食堂でのアルバイトの往復で疲れ果てている売れない女優・マチ子。ある日、彼氏と間違われるほど仲の良い弟から彼女を紹介されショックを受けてしまう。
しかし、そうして出会った彼女の存在が、女として、姉として、女優としての在り方を振り返るきっかけとなり……。
第2番「呑川ラプソディ」監督・脚本:穐山茉由
アルバイトをしながら女優をしているマチ子。大学時代の友人5人と久々に女子会を行うことにしたが、「独身チーム」と「既婚チーム」に分かれてしまい、気まずい雰囲気に。
そこでマチ子は蒲田温泉へ行くことを提案する。5人は仕事について、男性についてと様々な話題に触れていく中で、次第に隠していたものが丸裸になっていき……。
第3番「行き止まりの人々」監督・脚本:安川有果
映画のオーディションを受けたマチ子。それはセクハラや「#MeToo」に関する実体験やエピソードがあれば話すという内容だったが、皆その記憶を思い出すことに抵抗があり、上手く演じられない。
そのような状況の中、マチ子の隣にいた黒川だけは迫真の演技を見せていく。マチ子と黒川は共に最終選考に残ったが……。
第4番「シーカランスどこへ行く」監督・脚本:渡辺紘文
マチ子の実家は大田原にある。
大田原に住む親戚の小学5年生のリコは、大田原で映画の撮影現場にいる。
そこへとある映画監督が撮影現場の待合所にやってきて……。