Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

インタビュー特集

Entry 2022/12/22
Update

【原恵一監督インタビュー】映画『かがみの孤城』“綺麗事”だけを見せない自分らしさ×別れと出会いを経て完成した“強い作品”

  • Writer :
  • 河合のび

映画『かがみの孤城』は2022年12月23日(金)より全国公開!

直木賞作家・辻村深月のベストセラー小説を、『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』(2001)、『河童のクゥと夏休み』(2007)などで知られる監督・原恵一のもと劇場アニメ化した『かがみの孤城』。

学校での居場所を失くしてしまった中学生のこころが、光を放つ鏡の先にあった「孤城」、そして同じくそこへ辿り着いた6人の中学生たちと出会いを通じて、再び歩み出そうとする姿を描いた作品です。


(C)Cinemarche

このたびの劇場公開を記念して、本作を手がけられた原恵一監督にインタビュー

ファンタジーミステリーならではの映像表現をはじめ、原監督の作り手としての“自分らしさ”とその原点ともいえる作品、別れと出会いを経た本作がご自身にとってどんな映画となったのかなど、貴重なお話を伺いました。

ファンタジーならではの映像の楽しさを


(C)2022「かがみの孤城」製作委員会

──舞台・漫画など多くの他メディアで表現され続けている小説『かがみの孤城』を今回劇場アニメ化されるにあたって、アニメーション、そして映画という映像表現としてどのような点を意識されたのでしょうか。

原恵一監督(以下、):やっぱり、ファンタジーミステリーならではの映像の楽しさは意識しました。僕はほっとくと、どんどん地味なものを作る監督なので(笑)。孤城の外観や内装など、背景となる造形なども含めて、若い人に憧れてもらえるような画を作ろうと考えていました。

例えば孤城のデザインに関しては、オーストラリアにある「ボールズ・ピラミッド」がイメージ元になっています。周囲に何もない海上に、海抜500m以上の高さでそびえ立つ岩山という不思議な場所なんですが、ちょうど本作を作っている時にたまたまテレビで観て「ああ、この上にお城を作ったら面白いな」と思いついたんです。

そのイメージをイリヤ・クブシノブさんに共有しデザインしてもらったんですが、届いた孤城のデザインはイメージ通りどころか、それを超えてくるものでした。


(C)2022「かがみの孤城」製作委員会

:そもそもイリヤさんに今回お願いしたのは、ヨーロッパ人の視点がほしかったというのもあるんです。洋風の城のデザインをお願いしたら、日本人が考えるお城とはやっぱり違うものが出てくるんじゃないかなと思った。

僕もそこそこヨーロッパの宮殿やお城を見ているんですが、内装一つを見ても、日本人からすると「空間が広すぎるんじゃないか」「なんて無駄なスペースが多いんだ」と捉えてしまう。けれども、そこがヨーロッパの建築における「贅沢」の在り方でもある。そうした空間の作り方という根本的な面からも、日本人ではない視点が必要だったんです。

またキャラクターの色彩設計に関しても、本作の主人公のこころの髪と眼は青系統の色彩なんですが、これは僕にとって初めての試みだったんです。

候補案の中には茶系統のものもあったんですが、本作では青が主人公らしさを感じられたので、最終的にその色へ決定した。当初はどうなるんだろうとも感じていたんですが、実際に上がってきた映像を目にした時には全然気にならなくなっていました。

少女こころと『銀河鉄道の夜』の少年たち


(C)2022「かがみの孤城」製作委員会

──こころの青系統の髪・眼の色からは、原作小説の時点からそのオマージュが垣間見えた宮沢賢治の童話『銀河鉄道の夜』、および同作をアニメーション映画化した『銀河鉄道の夜』(1985)も連想させられました。

:キャラクターの色彩設計の段階では意識していなかったんですが、『かがみの孤城』と『銀河鉄道の夜』の共通する部分は映画を作り続ける中でも感じていました。僕自身、宮沢賢治が好きというのもありますが。

『銀河鉄道の夜』のカムパネルラは性格の悪いザネリを助けた結果、自分自身は命を落とすという残酷な運命を辿ってしまう。その理由を考えた時、やっぱり「その人が誰であったとしても、自分がその人を助けられるのならば助けに行く」という考え方に行き着く。

子どもであるカムパネルラは、大人にしかできないことをし、そのために命を落とす。それは彼が大人になった瞬間なんです。そして、本作の終盤でこころが勇気を出して行動する姿も、どこか『銀河鉄道の夜』に通じるところがあるんです。

綺麗事だけを見せない


(C)2022「かがみの孤城」製作委員会

──とあるインタビューにて、原監督はご自身の作り手としての“自分らしさ”を「子供向け、大人向けに関係なく、自分に嘘をつかないところ」と語られています。その“自分らしさ”について、より詳細にお教えいただけますでしょうか。

:「綺麗事だけを見せない」ということかな。

世の中の醜いものや「悪」と呼ばれるものは、決して絶対的なものとして存在しているわけではなく、相対的なものとして存在している。そのあり様がない世界を描くことに、僕はあんまり興味がないんです。だからこそ、「アニメーションというものは、子供も観るものだから」と言って表現を弱めることには、僕はもの凄く反対なんですけどね。

もちろん「つらい現実なんか、映画で見たくないよ」と言うお客さんもいるとは思うんです。現実がつら過ぎて、映画なんかも観に行けないほどに心が弱っている人も、間違いなくいる。

けれども、だからと言ってただただ甘いお話を作り続けることは少し違うし、お客さんが映画を観るのはまぎれもなく現実という場所である以上、自分はしたくないですね。

──「綺麗事だけを見せない」という言葉からは、原監督が高校1年生の頃にご覧になり強く共感されたというテレビアニメ『ガンバの冒険』(1975)との深いつながりを感じられました。

:『ガンバの冒険』はまさに「生き抜く」を徹底的に描いた作品と言ったらいいのか、あまりにもリアル過ぎて「ここまで見せるのか!?」と感じてしまう内容で、本当に衝撃でした。

あのアニメは、とにかく新しかった。画面作りはもちろん、荒々しいタッチ、ネズミたちから見た人間を全員「顔がない巨人」として表現する演出などにも驚かされた。

また大人になりアニメの専門学校に行くようになったら、実は同作を演出していたのは出崎統さんで、画面構成を芝山努さんが手がけていたと分かった。のちに僕が「絵コンテの師匠」と思うようになった芝山さんが『ガンバの冒険』でそういう仕事をしていたんだと知って、大人が本当に本気で作った作品だったんだと改めて感じました。

別れと出会い、連なる旅路で


(C)2022「かがみの孤城」製作委員会

──『銀河鉄道の夜』『ガンバの冒険』には、いずれも「旅」という共通点があります。『かがみの孤城』も、人生という旅の途中で傷ついてしまったこころが、孤城という宿り木で癒され、再び旅立とうとする作品といえるかもしれません。

:今回の『かがみの孤城』で強く意識していたのは、こころの「歩み」の表現です。

心の落ち込んだ歩み、朗らかな歩み、恐れながらも進もうとする歩みなど、その「歩み」の表現自体が、映画を通じてのお客さんへのメッセージになったんじゃないかと僕は思っています。

──原監督は、映画『かがみの孤城』がご自身にとってどのような作品となったと感じられていますか。

:スタッフ・キャスト含め、たくさんの出会いがあった映画かなと。以前舞台挨拶イベントで、ほとんどの主要キャストが一堂に会する機会があったんですが、キャストのみんなが並び立っているのを見て「ああ、いい出会いだったな」と思えましたから。

また、この映画を作っている時に、僕にとって大切な人が3人亡くなった。この映画の美術設計を手がけてくれた中村隆さんと、声優の藤原啓治さん。そして京都アニメーションの木上益治さんです。


(C)2022「かがみの孤城」製作委員会

:もの凄い喪失感の中で、本作の絵コンテの手が止まってしまった時もありました。ただそれでも、考え方を少し変えようと思い立って「これから先、俺の仕事をこの人たちは見ている」「その人たちの目を、常に忘れないようにしよう」と考えるようにしたんです。お客さんにとっても、本作との出会いを通じて、何かが変わるきっかけを自分自身で見つけてくれたらと感じています。

それに、「この映画はどんな映画なのか」を一言で表現しようとした時、「強い映画」というワードが頭に浮かんだんです。「この映画は強いぞ」と。

古い表現かもしれませんが、「矢でも鉄砲でも、なんでも持ってきやがれ、べらぼうめ!」と最後には感じさせてくれる、自信を持って前に出せる映画だと思っています。

インタビュー/河合のび

原恵一監督プロフィール

1959年7月24日生まれ。『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』(2001)で大きな話題を集め、『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦』(2002)、『河童のクゥと夏休み』(2007)で日本での数々の賞を受賞。

また、アヌシー国際アニメーション映画祭で受賞した『カラフル』(2010)、『百日紅 〜Miss HOKUSAI〜』(2015)ほか、『バースデー・ワンダーランド』(2019)など海外でも高い評価を受ける日本を代表するアニメーション監督。

2018年には芸術分野で大きな業績を残した人物に贈られる紫綬褒章を受章。アニメーション映画監督としては、高畑勲監督、大友克洋監督に次ぐ史上3人目の快挙を成し遂げ、国内外から新作が待ち望まれている。

映画『かがみの孤城』の作品情報

【日本公開】
2022年(日本映画)

【原作】
辻村深月『かがみの孤城』(ポプラ社刊)

【監督】
原恵一

【主題歌】
優里「メリーゴーランド」(ソニー・ミュージックレーベルズ)

【脚本】
丸尾みほ

【声のキャスト】
當真あみ 北村匠海
吉柳咲良 板垣李光人 横溝菜帆・高山みなみ 梶 裕貴
矢島晶子・美山加恋 池端杏慈 吉村文香・藤森慎吾 滝沢カレン / 麻生久美子
芦田愛菜 / 宮﨑あおい

【作品概要】
直木賞作家・辻村深月のベストセラー小説を、『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』(2001)、『河童のクゥと夏休み』(2007)、『カラフル』(2010)などで知られ、数々の映画賞に輝き国際的にも高い評価を得る原恵一が劇場アニメ化した作品。

制作を『劇場版 あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』(2013)、『心が叫びたがってるんだ。』(2015)など青春アニメーション作品を多く世に送り出してきた「A-1 Pictures」が手がける。

主人公こころの声を演じたのは、原監督に「彼女しかいない」と絶賛されオーディションを勝ち抜いた當真あみ。14代目「カルピスウォーター」CMキャラクターでも注目を集める彼女が、等身大の瑞々しい演技で魅せる。

映画『かがみの孤城』のあらすじ


(C)2022「かがみの孤城」製作委員会

学校での居場所をなくし、部屋に閉じこもっていた中学生こころ。

ある日突然部屋の鏡が光り出し、吸い込まれるように中に入ると、そこには不思議なお城と見ず知らずの中学生6人が。さらに「オオカミさま」と名乗る狼のお面をかぶった女の子が現れ、「城に隠された鍵を見つければ、どんな願いでも叶えてやろう」と告げる。

期限は約1年間。戸惑いつつも鍵を探しながら共に過ごすうち、7人には一つの共通点があることがわかる。互いの抱える事情が少しずつ明らかになり、次第に心を通わせていくこころたち。そしてお城が7人にとって特別な居場所に変わり始めたころ、ある出来事が彼らを襲う……。

果たして鍵は見つかるのか? なぜこの7人が集められたのか? それぞれが胸に秘めた《人に言えない願い》とは?

すべての謎が明らかになる時、想像を超える奇跡が待ち受ける……。

ライター:河合のびプロフィール

1995年生まれ、静岡県出身の詩人。

2019年に日本映画大学・理論コースを卒業後、映画情報サイト「Cinemarche」編集部へ加入。主にレビュー記事を執筆する一方で、草彅剛など多数の映画人へのインタビューも手がける(@youzo_kawai)。


photo by 田中舘裕介




関連記事

インタビュー特集

【田村直己監督インタビュー】映画『七人の秘書THE MOVIE』木村文乃と玉木宏演じる“ロミオとジュリエット”な恋愛模様に注目してほしい

映画『七人の秘書 THE MOVIE』は2022年10月7日(金)より全国東宝系にてロードショー! 要人に仕える、名もなき「秘書」たちが理不尽な目に遭う社会の弱者を救い出すべく、ずば抜けたスキルや膨大 …

インタビュー特集

【片田陽依インタビュー】映画『イルカはフラダンスを踊るらしい』初主演作で感じた様々な責任×2つの“想いを伝える”が作る表現のバランス

映画『イルカはフラダンスを踊るらしい』は2023年11月25日(土)より池袋シネマ・ロサで劇場公開! 大人が担うべき家事や家族の世話を日常的に行う子どもたち=「ヤングケアラー」と高齢者介護の問題をテー …

インタビュー特集

『ウクライナから平和を叫ぶ』ユライ・ムラヴェツJr.監督インタビュー|ドキュメンタリーで“弱者への無関心”が生み出したものを映し出す

映画『ウクライナから平和を叫ぶ Peace to You All』は2022年8月6日(金)渋谷ユーロスペースにて公開後、8月26日(金)よりシネ・リーブル梅田、9月2日(金)よりアップリンク京都、9 …

インタビュー特集

【イッセー尾形インタビュー】『東京奇譚集』村上春樹に感じた“シンパシー”×一人芝居と朗読に通底する“即興性”

Amazonオーディブル『神の子どもたちはみな踊る』『東京奇譚集』『ねじまき鳥クロニクル―第3部 鳥刺し男編―』が2022年7月15日(金)より配信開始! 豪華キャスト陣による朗読作品やPodcast …

インタビュー特集

【平山秀幸監督インタビュー】映画『閉鎖病棟』笑福亭鶴瓶×小松菜奈らに重ねられたオマージュと“映画作りの面白さ”

映画『閉鎖病棟-それぞれの朝-』は2019年11月1日(金)より全国ロードショー! 精神科医にして作家・帚木蓬生(ははきぎ・ほうせい)が山本周五郎賞を受賞した同名小説の映画化作品。そして、名落語家にし …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学