映画『人生の着替えかた』は2022年3月25日(金)よりアップリンク吉祥寺ほか全国順次ロードショー!
人生の岐路に立たされた時、誰もがどの道を進むべきかを迷い、選択して前に進む……。
映画『人生の着替えかた』は、自分の殻を破り新たな人生に向かって歩もうとする若者たちを
“ヒューマン”の『MISSING』、“コメディ”の『ミスりんご』、“ハートフル”の『お茶をつぐ』の3つの視点で描いた短編3作品からなるオムニバス映画です。
3作すべてを主演するのが、ハイパープロジェクション演劇「ハイキュー!!」澤村大地役、ミュージカル「忍たま乱太郎」食満留三郎役、ミュージカル「新テニスの王子様 The Second Stage」種ヶ島修二役などで人気を博した秋沢健太朗。
3作品それぞれに苦悩や葛藤があり、そのたびに俳優として、人として乗り越えなければならない壁があったと語る秋沢さん。それぞれにどんな壁があり、どう乗り越えられていったのかを語っていただきました。
CONTENTS
「自分の映像資料を作りたい」という思い
──『MISSING』『ミスりんご』『お茶をつぐ』という短編3作品からなるオムニバス映画『人生の着替えかた』には、どのような経緯でご出演が決まったのでしょうか。
秋沢健太朗(以下、秋沢):最初から三部作の企画があった訳ではありません。長編映画『君から目が離せない~Eyes On You~』で「自分の映像資料を作ろう」と思ったところからスタートしました。
ちょうどそのころ、僕の出身地である秋田県で行われている「あきた十文字映画祭」に『君から目が離せない~Eyes On You~』が出品されたのです。そして映画祭を主催している小川孝行さんが「協力したい」と言ってくださり、「秋田県で映画が撮れたらいいね」という話になりました。
その流れから『君から目が離せない~Eyes On You~』で助監督だった岡部哲也監督が撮ってくださることになり、コメディタッチの作品ができました。それが『ミスりんご』です。しかし、短編一本のみで劇場上映をするのは難しかったのですが、その後、篠原哲雄監督に『お茶をつぐ』を撮っていただき、少しずつ「三部作にして上映しよう」と決まっていきました。
自分で作ったルールをどれだけ破れるか
──『人生の着替えかた』の始まりを飾る『MISSING』は、短編ながらその内容の奥行きに驚かされました。最初に『MISSING』の脚本を読まれた際はどのような感想を持たれましたか。
秋沢:脚本を担当していただいた蛭田直美さんとの出会いは舞台でした。そのときに「なんて面白い本を書く方がいるんだろう」と思い、今回はこちらからお願いしました。
最終の段階ではコメディという話でしたが、コロナで多くの人を出せないということで、事件の話にすることになりました。第一稿を読ませていただいたとき、一冊の小説を読んだかのような感覚を抱くほど、短編では描き切れないような深い内容で、読み終えた直後は脚本の世界に引き込まれ、しばらく放心状態でした。蛭田さんに電話をして「とんでもない作品を生み出しましたね」とお伝えしました。
最終的には蛭田さんが短編として脚本を絞っていったのですが、「このホンは俳優として自分をもっと成熟させてくれる。このホンに出会えたことは幸運だ」と思いました。
──役作りはどのように進められたのでしょうか。
秋沢:兄を演じた中村優一くんとは2015年の「薄桜鬼SSL」からのお付き合いです。優一くんには兄貴肌のところがあり、すごくかわいがってもらっていたので「兄弟」という部分はあまり考えることなくすんなり演じられました。
ただ兄が罪を犯し、珍しい苗字ということもあって自分の人生まで台無しになったという憤りと、兄弟という切っても切れない血の濃さを表現することが透には必要でした。現場に入る前は透として心を閉ざし、人の幸福を恨めしく思うような状態で撮影に臨みました。本来は人として、そんなことをしてはいけないと思いますけれど。
自分で作ったルールをどれだけ破れるかということが、僕の中では壁でした。透は兄の言葉を表面的に理解し、内面的な部分から目を逸らしていますが、何をきっかけにそれを戻すか。それを乗り越えなくてはいけないと思いました。
──『MISSING』を手がけられた後藤庸介監督からは、どのような演出があったのでしょうか。
秋沢:兄弟の関係性に関してはやはり「血の濃さ」を表現したいとおっしゃっていました。ただ撮影期間が3日しかなかった事情もあり、芝居の動きに関しては多少ディレクションがあったものの、内面的な部分はかなり俳優に任せていただきました。
後藤監督が1つこだわられていたのは、たばこの場面です。本編では尺の問題により短くされたのかもしれませんが、実際の撮影ではもっと長く回していました。煙に巻いてしまうということを象徴的にしたかったのではと感じています。また蛭田さんのホンでは「しゃぼん玉」「たい焼き」といった実際の生活上では重きを置かれないものを要所要所に描いていましたが、それらも『MISSING』を象徴するものになっていたと思います。
小さい優しさや愛情が集まって「奇跡」が生まれた
──『MISSING』に次に描かれる2番目の短編『ミスりんご』は、『MISSING』とはガラリと雰囲気が変わりますね。
秋沢:自分から壁を閉ざしていく『MISSING』とは違い、『ミスりんご』はどんどん巻き込まれていく話です。岡部監督から直接「脚本ができあがった」という連絡をいただいた際には「『お熱いのがお好き』(1959)のテイストが入っている」と言われましたが、本当に面白かったです。しかしラストには、自分の人生の答えがどこにあるのかへとたどり着く。脚本としてのバランスがすごくいいですよね。
主人公の健二は、自分からは何も発信しません。嫌がりつつもそっちにいってしまう。なぜなら健二は自分の人生に指針がないから。オレオレ詐欺をしたのも、知らないおじさんの家に上がり込んだのも結局は誰かのせいです。
しかし僕自身は自ら動くタイプなので、人に身を任せて、ハンドリングをしてもらうのは怖い。それを感じさせずに巻き込まれていくという立ちどころをやるのが本作の壁でした。
また健二の相棒・雄介を演じた反さん(反橋宗一郎)はミュージカル「忍たま乱太郎」でも相方だったので気心が知れていて、「反さんならこう言ってくるかも」と想像ができた場面もありました。脚本にないアドリブがかなり入っていて、それくらい自由にのびのびとやらせてもらえる撮影でした。
『ミスりんご』も3日ほどで撮ったのですが、反さんとは同じ宿に泊まっていたので、寝る前などに「ここはこうしてみようか」といったことを話しました。またアクションシーンは「こんな風にしてほしい」という岡部監督の要望に沿って、現場で反さんと相談しながら2人で作りました。アクションや殺陣はこれまでに舞台でよくやっていたので、その経験が活きました。
──岡部哲也監督はどのような監督だと感じられましたか。
秋沢:岡部監督は脚本が素晴らしいだけでなく、撮り方や編集にもこだわりがあり、完成した作品には「パズルのピースがすべてうまくはまった」という感覚を得られました。
まず、テンポ感がいい。たくさんテイクを重ねて長時間回している場面も編集で思い切りよく、パンと切ってありました。僕と反さんは「一体どうなるんだろうか」とハラハラしながらも、完成した作品は素直に笑えました。さらに、根底にあるブラックユーモアをさりげなく表に出すことで光と影ができ、作品が華やかになっている。そこがまたよかったです。
──『ミスりんご』の撮影は、多くの方がボランティアとして支えてくださったとお聞きしました。
秋沢:そうなんです。十文字映画祭の方が映画作りにボランティアで参加したり、地元の方もエキストラで出演してくださるなど、かなり協力していただきました。さらに100人ほどのファンの方々がわざわざ秋田に来て、同じくエキストラとして出演してくださったのです。
最初に企画があって、ホンがあって、予算も潤沢にあって、誰々のスケジュールを押さえてという作品ではありません。みんなで「とにかくこれを作ろう」という思いから始まり、徐々に、徐々に小さい優しさや愛情が集まって、いろんな形でたくさんの方が協力してくださったからこそ、3日間で撮れました。本当に奇跡だと思います。
言葉は使わず、目だけで表現する
──『お茶をつぐ』を手がけられたのは篠原哲雄監督ですが、秋沢さんは篠原監督の過去作にも数本出演されています。秋沢さんから見た篠原監督の演出の特徴をお教えいただけますか。
秋沢:「その場の空気を撮っている」というのが、僕の篠原監督に対する印象です。
長回しが多く、歩いて会話している場面も割らずにそのままずーっと撮るんです。そのため、感情の機微を目の奥から出して、その人物がちゃんと生きているように演じなくてはいけない。小手先だけの演技だとばれてしまうんです。
同時に、俳優として試されているということでもあるので、毎回成長させていただいています。それが篠原監督の演出の魅力なのだと思います。
──『お茶をつぐ』で向き合われた「壁」についてもお聞かせください。
秋沢:言葉を奪われたことですね。ホンを書いてくださった蛭田さんからは「健太朗くんの魅力は目と声だけれど、目だけでも十分、表現できる。絶対に大丈夫だから、あなたから言葉を奪いたい」とはっきり言われました。「言葉は使わず、目だけで表現する」という挑戦は、俳優として成長するいい機会だと思いました。
撮影に向けて、聴覚障害を持つ息子さんがいるご家族に手話を教えていただきました。そのお母さんが「聴覚障害は障害ではなく、個性なんです」とおっしゃっていたのです。聴覚障害を壁と受け止めるか、個性と受け止めるかはその人次第。そこをいかに受け止めて、どう乗り越えるか。本当に向き合わなくてはならなかった壁は、自分の心でした。
コンプレックスを武器に変えることができた
──オムニバス映画『人生の着替えかた』を経て、秋沢さんは今後どのように俳優のお仕事を続けられたいとお考えでしょうか。
秋沢:蛭田さんから「僕の魅力は目と声」と言っていただきましたが、実は俳優を始めたときは、目も声もコンプレックスだったんです。
目は少し吊り上がっていますし、声は高いのにハスキーで使いづらい。身長が180cmありガッチリした体形なので、低くて含蓄のある声を要求されることが多いので、あえてそういう声を出すと嘘になってしまいます。そのコンプレックスがこの三部作を通じて、武器に変えることができました。それをこれから活かしていきたいと思っています。
舞台だけでなく映画にももっともっと出演し、「秋沢健太朗が関わると作品がこんな色になる」とか「相手役の芝居がこんな風に活きてくる」と言っていただけるようになりたい。そして最終的には「この役は秋沢健太朗にお願いしたい」と思ってもらえる俳優になりたいです。
インタビュー/ほりきみき
撮影/田中舘裕介
秋沢健太朗プロフィール
1988年9月14日生まれ、秋田県出身。
ハイパープロジェクション演劇「ハイキュー!!」澤村大地役、ミュージカル「忍たま乱太郎」食満留三郎役、ミュージカル「新テニスの王子様」The Second Stageの種ヶ島修二役などで人気を博し、舞台「イムリ」「星の王子様」「ダブルブッキング」「コードリアライズ」「男はつらくないよ」「真・三國無双」にて主演、主要な役どころを次々と演じている。
2019年に映画『君から目が離せない~Eyes On You~』(篠原哲雄監督)で初主演し、以後は映像の仕事にも勢力的に挑戦。近年の出演作には『癒しのこころみ』(2020/篠原哲雄監督)、テレビドラマ「陰陽師」などがある。
映画『人生の着替えかた』の作品情報
【公開】
2022年(日本映画)
【監督】
『MISSING』:後藤庸介
『ミスりんご』:岡部哲也
『お茶をつぐ』:篠原哲雄
【脚本】
『MISSING』:蛭田直美
『ミスりんご』:岡部哲也
『お茶をつぐ』:蛭田直美
【出演】
『MISSING』:秋沢健太朗、中村優一、小篠恵奈、森山栄治
『ミスりんご』:秋沢健太朗、反橋宗一郎、加村真美、小坂涼太郎、朝香賢徹、大谷亮介
『お茶をつぐ』:秋沢健太朗 木村達成 美紗央、篠田三郎
【作品概要】
ハイパープロジェクション演劇「ハイキュー!!」、ミュージカル「忍たま乱太郎」、ミュージカル「新テニスの王子様」The Second Stageなど、人気の舞台やミュージカルで活躍する秋沢健太朗が主演を務める短編作品を集めたオムニバス。
ある事件を境にすれ違う、兄と弟の葛藤を描くヒューマンドラマ『MISSING』、オレオレ詐欺集団に関わってしまった2人組がその場しのぎの知恵で逃れようと繰り広げるコメディ『ミスりんご』、聴覚障害を持ち、殻にこもっていた青年が日本茶店を営んでいた亡き父の跡を継ごうと奮闘する姿を描いた『お茶をつぐ』の3編で構成されます。
いずれも秋沢が主演を務め、『MISSING』では『君から目が離せない~Eyes On You~』で共演した中村優一、『ミスりんご』ではミュージカル「忍たま乱太郎」シリーズでも秋沢とバディを組んだ反橋宗一郎、『お茶をつぐ』では映画初挑戦の木村達成が共演する。
監督は『MISSING』が『N号棟』の公開も控える後藤庸介、『ミスりんご』は『君から目が離せない~Eyes On You~』で助監督だった岡部哲也、『お茶をつぐ』は『花戦さ』で第41回日本アカデミー賞で優秀作品賞・優秀監督賞を受賞した篠原哲雄。
映画『人生の着替えかた』のあらすじ
『MISSING』
天ケ瀬透(秋沢健太朗)の兄・翔(中村優一)は、妻とそのお腹の子の死の原因をつくった男に暴行して、指名手配されていた。その手配書のせいで、透はどんな仕事についてもうまくいかず、憤る日々を送っている。
透には、幼い頃、シャボン玉で遊んでいたときに兄に殺されそうになったという微かな記憶があり、兄への不信感と嫌悪で溢れていた。知り合ったばかりの彼女・ひまりにも言い出せず、剝がして捨てていた兄の手配書を見られてしまう。隠そうとする透に対して怒ったひまりは出ていくが、透は「また兄のせいだ」と落ち込む。
そんな折、翔が傷つけた男が町に戻ってきた。それは翔の耳にも届いており、決着をつける前に透のもとに現れる。そんな兄に怒りをぶつける透だが、翔のある覚悟を感じ取り、後を追う……。
『ミスりんご』
ひと山あてて金儲けを企む大沢健二(秋沢健太朗)と横山雄介(反橋宗一郎)。健二の地元でもある秋田で、二人はうっかりオレオレ詐欺の手伝いをしてしまう。
お金を引き出して元締めのヤクザに手渡そうとする矢先に、ハプニングに巻き込まれ、そのお金を持って逃げ回る羽目に。逃げる途中、秋田美人「ミスりんご」を決めるコンテスト会場を見つけ、いい隠れ蓑になると参加したところ、なぜか二人とも優勝をしてしまった!?
しかも同じくミスりんごに選ばれた遠藤エミ(加村真美)に同時に一目ぼれ。成り行きで逃げ込んだ家の初老の男・遠藤洋一(大谷亮介)は、なんとエミの父親!! 右往左往の運命は吉とでるか、凶とでるか……。
『お茶をつぐ』
本堂雷太(秋沢健太朗)は、日本茶店・ムツミ園の長男。彼には聴覚障害があり、父・耕三(篠田三郎)が亡くなってからも家業から目を背けて過ごしていた。姉・瑞穂(美紗央)は店を雷太に任せたいのに、何を考えているのか分からない弟がもどかしくて仕方ない。
ある日「この店、俺が継ぐから」と父の知人だという川上貞二(木村達成)がやって来る。父は合組という技術で独自の茶葉《ムツミ》をブレンドし、常連客たちに提供していた。その父が亡くなり、《ムツミ》を合組できる者が今はいない。
貞二が持ってきた父の遺言には「店の全権を貞二に譲る」とあるが、最後の一行に「長男・雷太が遺言書の存在を知ってから24時間以内に《ムツミ》の合組に成功したら、店は雷太に譲るものとする」と書かれてあった。雷太は、怒りと焦りのなかで奮闘する。
翌日、常連客たちに合組した茶を振る舞い、判定してもらうが、簡単に完成するわけがなく、雷太は貞二に敗れてしまう。だがこの一連は、聴覚障害の息子とうまく会話ができず、自分の本当の気持ちを伝えられずにこの世を去った父の願いがこもった企みだった……。
堀木三紀プロフィール
日本映画ペンクラブ会員。2016年より映画テレビ技術協会発行の月刊誌「映画テレビ技術」にて監督インタビューの担当となり、以降映画の世界に足を踏み入れる。
これまでにインタビューした監督は三池崇史、是枝裕和、白石和彌、篠原哲雄、本広克行など100人を超える。海外の作品に関してもジョン・ウー、ミカ・カウリスマキ、アグニェシュカ・ホランドなど多数。