『沈黙のパレード』は9月16日(金)より全国東宝系にてロードショー!
福山雅治演じる、天才的頭脳を持つが少々変わった人物の物理学者・湯川学が、不可解な未解決事件を科学的検証と推理で見事に解決していく痛快ミステリー「ガリレオ」シリーズ。
2007年に連続ドラマとして放送され、翌2008年には劇場版『容疑者xの献身』が公開。さらに2013年にはドラマの第2シーズンと劇場版第2弾『真夏の方程式』も作られました。
劇場版作品第3弾となる映画『沈黙のパレード』は、これまでになく多数の人物が登場し、繊細に絡みあう群像劇が二転三転する極上エンターテインメントとして仕上げられています。
このたび、ドラマから演出を担ってきた西谷弘監督にインタビュー。過去の作品を振り返りつつ、本作の見どころや福山雅治・柴咲コウ・北村一輝の魅力について語っていただきました。
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再会で描く三人の流儀
──小説『沈黙のパレード』が2018年に出版されるとすぐに映画化の企画が動き始めたとのことですが、初めてお読みになった際にはどのような感想を抱かれましたか。
西谷弘監督(以下、西谷):まず、いちばんに東野先生がこれまで以上にガリレオファンを大切に想って執筆なさってるなと感じました。そして、それに応えるように読者の皆様も湯川=福山雅治、内海=柴咲コウ、草薙俊平=北村一輝と、その人の顔を浮かべながら読んでると聞きました。これは、映像を携わる者にとって大変有難く幸せなことだと思ってます。
原作は今までにない登場人物の多さ、多彩さ。人情味溢れる菊野商店街の面々が織りなす人間模様。司法の限界という社会的切り口。さらに、湯川、内海、草薙の再会。そして、友情も大事な核に。色とりどりの興味深い柱がたくさん立てられた原作を「どう2時間の映画に切り取るか」。読後の興奮冷めやらぬまま映画としての構成を意識しながら2度目のページをめくりました。
──映画の冒頭では、今回の事件に関係する登場人物が紹介され、そのまま捜査会議の場面へとつながっていくという非常にテンポが良い構成になっています。
西谷:映画の冒頭5分で、観客に何を植え付けようかと考えました。当初は、湯川、内海、草薙の再会に重きを置き、ドラマティックに仕立てようという意見もありましたが、まずは被害者である女子学生が幼少の頃からどれだけ両親や地元の人たちから愛され育てられてきたかを表現したいと思いました。彼女の歌声にのせて、生きてきた19年の年月を5分に凝縮して描けるかが勝負でしたね。
そして、次の5分で事件概要を伝えようと。わかりやすく捜査会議を軸に描くのですが、説明だけにはなりたくない。会議の仕切りを内海に任せて、彼女の成長も匂わせられたらと思いました。『容疑者xの献身』の頃は、警察の猛者たちの間で右往左往していた彼女でしたが、時を経て凛とした姿は見どころの一つですね。但し、本当の見せ場は湯川、内海、草薙の3人ないしは2ショットのセッションです。現に、湯川と内海の最初のセッションのファミレスのシーンでは、芝居を目の当たりにしたスタッフたちの興奮は尋常じゃなかった。古くからのスタッフは郷愁に。映画やドラマでしか知らない若者たちは“本物だ!”と生へのときめきを感じていました。
もちろん、3人それぞれの再会にもっとドラマを作ることもできるのですが、何も足さずに交わす視線だけで十分表現できると思いましたし、むしろそれがガリレオの三人の流儀かなと思いました。
ドラマと映画の垣根を取っ払う
──「実に面白い」「さっぱりわからない」というテレビドラマではおなじみのセリフからも、湯川の変わりなさを感じました。ただ、これらのセリフは、これまでの劇場版作品では使っていませんでしたね。
西谷:企画スタート時から、連ドラは『探偵ガリレオ』『予知夢』の短編集からで、映画は同時進行で長編小説の『容疑者xの献身』と決まっていました。その時の僕の中では映画とドラマの描き方を分けたいなと思っていました。
連ドラの方はコミック的なアプローチで。決め台詞や決めポーズを作り「推理が閃いたら所構わず数式を書き殴る」といったキャッチ―な演出を意識しました。学校や職場で流行りそうな、真似したくなるようなものを作ろうと。一方、映画の方は荒唐無稽な表現を排除して、人間ドラマを深く掘り下げたいと、小説的なアプローチですね。当初は、地味すぎるのではと反対意見も多かったです(苦笑)。その後、『真夏の方程式』を経て9年振りの本作でしたが、もはや映画だからドラマだからという時代でもなく、気張ることもなくなりましたね。冒頭で話した東野先生のファンサービスという意識にも触れ、刺激されたのだと思います。読者の反応から見てもガリレオシリーズは、すでに独り歩きを始めていると思いますし、コミック的も小説的も共にガリレオシリーズの一部として捉えて、その垣根を取っ払いました。
湯川と草薙の関係をとりもつ内海
──原作ひいては読者の皆様の間で「湯川学=福山雅治、内海薫=柴咲コウ、草薙俊平=北村一輝」というイメージができている中で、実際に演じられた皆さんの中にもまた、個々のキャラクターが撮影前からできあがっていたのでしょうか。
西谷:それぞれに緊張はあったかもしれませんが(笑)、それを感じることはありませんでしたね。相乗効果なのかもしれません。当然、役作りとしてまずは自分と向き合うわけですが、瞳に映った芝居の相手がきっちりと湯川であったり、内海であったり、草薙であったりと、その相手役に見えることで自分の役を引き起こしているようにも感じました。
──本作では、草薙の苦悩に重点が置かれていました。
西谷:原作を読んだとき「遂に草薙を撮れるな!」と、嬉しかったですね。そして、湯川との感情での絡みをずっと撮りたいと思っていました。
湯川と草薙は、お互いに相手へのリスペクトは相当深いものだと思います。尊重があるからこそ、相手のプライドを思いやれる。しかし、その想いが男たちをコネクトしづらくさせたりもする。だからこそ、内海薫の存在が不可欠でした。彼らの思いを汲み取り、伝え、歩み寄らせる。内海無しでは語れない物語でしたね。
北村さんとは何度も打合わせを重ねました。ナーバスなシーンが多かったですから、脚本ができた瞬間からクランクアップぎりぎりまで(笑)。よくは話したのは、「目の前の相手が全員草薙本人以上に苦しい」ということ。だから、苦悩に簡単に足を止めようとしないと。現場では北村さんならではの光る表現にうっとり見入っていました。
経験を糧に思考や生き方を選択してきた湯川
──作中の「真実は不幸だけを生み出すとでも?」「僕だってあの時と同じようなことは繰り返したくない。」というセリフには、『容疑者Xの献身』『真夏の方程式』を経た湯川の変化を感じられました。
西谷:肩書は「准教授」から「教授」になった湯川ですが、だからといって装いや人格が変わるわけではない。そのため、内面も変わらないブレないと思われがちですが、湯川は「仮説を立てて実証を繰り返し、初めて真実につながる」と自ら言うように、それは彼の人生そのもの。いくつもの経験を糧にして、思考や生き方を選択してきたはずです。「真実は不幸だけを生み出すとでも?」という彼の横顔に、人間・湯川学の時の流れが読みとれてくると思います。
──内海も以前は「湯川に振り回されている」という空気が強かったですが、本作では自分のスタンスをきちんと理解し行動していると感じられました。
西谷:連ドラのガリレオシーズン1の第1話「燃える」をご覧になった方はわかると思うのですが、最初から内海は湯川に負けっぱなしじゃないんですよ。最初は“人の生死”を軽んじた湯川の発言に本気で叱る内海。そして、次に内海は湯川に捜査協力させるために、情に訴える嘘をつく。まんまと湯川は騙されます。内海は論理派の湯川とは真逆の“刑事の勘”で動いているように思われがちですが、本来とても頭のキレる人。僕の中では“2人は常に互角”と捉えて撮影していますね(笑)。
三人三様の魅力
──福山雅治さん、柴咲コウさん、北村一輝さんの俳優としての魅力はどんなところでしょうか。
西谷:福山さんは流行りの言葉を使えば“二刀流”ですね。それもピッチャーとキャッチャーという。俳優、アーティストとして自分が投げてゲームが始まる主観の眼と、キャッチャーのようにどんな球にも反応して全体を見渡せる俯瞰の眼を持っている。つまり、プロデューサーの視点です。その証が今回の主題歌「ヒトツボシ」にも表れています。鎮魂歌ですが、物語のその先の行方を語ってくれています。俯瞰の眼なくして生まれない歌詞だと思いました。
柴咲さんは一番好きな女優さんです。だから、一緒に仕事できるのは最高に幸せですが、毎度コンプレックスを抱かされる(笑)。彼女の感性は僕には届かないところにあるからです。見えているものが異次元な気がします。芝居にNGを出したことは一度もないくらい。いつも魅了されっぱなし。今回も彼女が見えているものを探ろうと目を凝らすのですが、見つかる気さえしませんでした……(苦笑)。
北村さんとの仕事は同志を感じます。彼の台本を読む力は“実に深い”。視点や言葉の捉え方が多面的で愛情に溢れている。だから、たった1ページの台本も5、6ページ分の密度の高さとなり、物語はさらに深く掘り下げられてゆきます。今回も一日の撮影終わりにどんなに疲れていても、明日のシーンに向けて話し合いを続けていましたね。
この三人三様の魅力が一堂に会したのがガリレオシリーズであり、ここまで長寿に導いたのだと。今、改めて奇跡のキャスティングだったと思います。
インタビュー/ほりきみき
西谷弘監督プロフィール
1962年2月12日生まれ、東京都出身。CMディレクターを経て1996年、『TOKYO23 区の女』(1996/CX)でドラマ監督&脚本デビュー。
『催眠』(2000/TBS)、『眠れぬ夜を抱いて』(2002/EX)、『天体観測』(2002/CX)、『美女か野獣』(2003/CX)、『白い巨塔』(2003~2004/CX)、『ラストクリスマス』(2004/CX)、『エンジン』(2005/CX)などの連続ドラマのメインディレクターを手がけ、2006年の織田裕二主演作『県庁の星』で映画監督デビュー。
以降、福山雅治のテレビシリーズ「ガリレオ」(2007/CX)をヒットさせ、その劇場版『容疑者Xの献身』(2008・第32回日本アカデミー賞優秀作品賞受賞)、『真夏の方程式』(2013)でも監督を務める。草彅剛主演作『任侠ヘルパー』でもドラマ・映画双方を監督。2014年にはドラマ『昼顔~平日午後3時の恋人たち~』を演出し、2017年にその劇場版『昼顔』も監督。
他の映画監督作品に織田裕二主演作『アマルフィ 女神の報酬』(2009)、『アンダルシア 女神の報復』(2011)や、『マチネの終わりに』(2019)、『バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版』(2022)などがある。
『沈黙のパレード』の作品情報
【公開】
2022年(日本映画)
【原作】
東野圭吾『沈黙のパレード』(文春文庫刊)
【監督】
西谷弘
【脚本】
福田靖
【キャスト】
福山雅治、柴咲コウ、北村一輝、飯尾和樹、戸田菜穂、田口浩正、酒向芳、岡山天音、川床明日香、出口夏希、村上淳、吉田羊、檀れい、椎名桔平
【作品概要】
原作は東野圭吾による「ガリレオ」シリーズ第9弾にあたる同名小説。『容疑者Xの献身』『真夏の方程式』に続き福田靖が脚本を、西谷弘が監督を務める。
主人公の湯川学を演じるのは、主演の福山雅治。湯川のバディ的存在の刑事・内海薫を柴咲コウが、湯川の親友で内海の先輩刑事・草薙俊平を北村一輝が演じる。
共演キャスト陣は椎名桔平、檀れい、吉田羊、飯尾和樹、戸田菜穂、田口浩正、酒向芳、村上淳、岡山天音、川床明日香、出口夏希。
主題歌は福山雅治と柴咲コウによるユニット《KOH+》が担当。福山雅治が書き下ろした主題歌「ヒトツボシ」を柴咲コウが歌う。
『沈黙のパレード』のあらすじ
天才物理学者・湯川学の元に、警視庁捜査一課の刑事・内海薫が相談に訪れる。
行方不明になっていた女子学生が、数年後に遺体となって発見された。
内海によると容疑者は、湯川の親友でもある先輩刑事・草薙俊平がかつて担当した少女殺害事件で、完全黙秘をつらぬき、無罪となった男・蓮沼寛一。蓮沼は今回も同様に完全黙秘を遂行し、証拠不十分で釈放され、女子学生の住んでいた町に戻って来た。
町全体を覆う憎悪の空気……。
そして、夏祭りのパレード当日、事件が起こり、蓮沼が殺された。
女子学生を愛していた、家族、仲間、恋人……全員に動機があると同時に、全員にアリバイがあった。そして、全員が沈黙する。
堀木三紀プロフィール
日本映画ペンクラブ会員。2016年より映画テレビ技術協会発行の月刊誌「映画テレビ技術」にて監督インタビューの担当となり、以降映画の世界に足を踏み入れる。
これまでにインタビューした監督は三池崇史、是枝裕和、白石和彌、篠原哲雄、本広克行など100人を超える。海外の作品に関してもジョン・ウー、ミカ・カウリスマキ、アグニェシュカ・ホランドなど多数。