A24が手がけるエクストリームライドホラー
1979年、テキサス。3組のカップルが映画の撮影で向かったのは、殺人鬼の老夫婦が営む牧場でした……。
『サスペリア』(2018)で印象的な演技をみせたミア・ゴスを主演に迎え、監督を務めたのは『キャビン・フィーバー2』(2009)、『サクラメント 死の楽園』(2014)などを手掛けてきたタイ・ウェスト。
トビー・フーパー監督の『悪魔のいけにえ』(1974)など、70年代のホラーへのオマージュも込められた新たなホラー映画の誕生です。
映画『X エックス』の作品情報
【公開】
2022年公開(アメリカ映画)
【原題】
X
【監督・脚本】
タイ・ウェスト
【キャスト】
ミア・ゴス、ジェナ・オルテガ、マーティン・ヘンダーソン、ブリタニー・スノウ、オーウェン・キャンベル、スティーブン・ユーア、スコット・メスカディ
【作品概要】
主演を務めたのは、『ニンフォマニアック』二部作(2013)で映画デビューを果たし、『サスペリア』(2019)、『キュア 禁断の隔離病棟』(2016)などに出演したミア・ゴス。
そのほかのキャストに『スクリーム』(2022)のジェナ・オルテガ、『ストレンジャーズ 地獄からの訪問者』(2018)のマーティン・ヘンダーソン、『ピッチ・パーフェクト』シリーズのブリタニー・スノウなど。
映画『X エックス』のあらすじとネタバレ
1979年、テキサス。
女優のマキシーン(ミア・ゴス)は控え室でヤクを吸い、「私はセックスシンボル」と鏡の前の自分に向かって言います。
マキシーンの恋人であり、プロデューサーであるウェイン(マーティン・ヘンダーソン)は、ブロンドの女優・ボビー・リン(ブリタニー・スノウ)と、ベトナム帰還兵で俳優のジャクソン(スコット・メスカディ)とポルノ映画を撮ろうとしています。
監督は自主映画監督の学生RJ(オーウェン・キャンベル)、RJの彼女であるロレイン(ジェナ・オルテガ)も録音係として同行します。
3人のカップルは「農場の娘たち」というポルノ映画を撮るため田舎の農場に向かいます。
農場に向かう途中、車中でボビーはこの映画が成功してお金持ちになったら…と自身の野望を口にします。それぞれがこの映画に野望をかけています。
農場につき、農場主のハワードの家をウェインが訪ねると、ハワード銃を構え何物だと威嚇します。ウェインは慌てながらも電話で話したウェインだと説明します。なんとか誤解が解けたウェインらはハワードに連れられ撮影用に借りた家に案内してもらいます。
荷物を下ろしたマキシーンは二回の窓からこちらをのぞく白髪の老婆の姿を目にし、老婆と目が合います。
ハワードは、体の悪い妻もいるから刺激しないでくれと言い残し家に帰って行きます。撮影することを行っていないのでは、大丈夫なのかとロレインはウェインに聞きますが、後で謝ればいいとウェインは気にしていません。
そして、撮影が始まります。最初に家の中でボビーとジャクソンのシーンを撮影し始めます。
その間にマキシーンは外に出て池で泳ぎます。しかし、その池にはアリゲーターが潜んでいました。陸へと向かうマキシーンの背後を泳ぐアリゲーター……
間一髪で陸に上がったマキシーンはアリゲーターの存在に気づくことなく家の方に戻って行こうとすると、老婆・パールが話しかけ家に招き入れます。
パールはマキシーンの顔を見つめ、他にはない顔、美しいと言い、かつて自分も綺麗だった、踊り子であったと話します。そして夫・ハワードと出会い結婚した話をします、あの頃は私の言うことは何でも聞いてくれた、とも言います。
パールはマキシーンの腰あたりに触れ、マキシーンは何をするの、と驚きます。その時、外で物音がし、ハワードが帰ってきたことに気づいたパールはマキシーンに帰るようにいい、マキシーンに「2人だけの秘密ね」と言います。
どういうことだかわからないマキシーンは戸惑い、恐怖を感じながら皆の元に帰って行きます。慌てて帰ってきたマキシーンに驚きつつもウェインはどこに行っていた、撮影が始まるぞと言います。
気を落ち着かせ、ヘアメイクを直したマキシーンはジャクソンとの撮影に挑みます。その姿を外からパールが眺めていました。
映画『X エックス』感想と評価
ミア・ゴスの開花
マキシーンとパールの一人二役を演じたミア・ゴス。
『サスペリア』(2018)や『マローボーン家の掟』(2017)、『ニンフォマニアック』二部作(2013)などで印象的な役を演じてきました。
しかし、主演作が公開されるのは今回がはじめてとなります。
「私はセックスシンボル!」と鏡の前の自分に向かってそう告げ、「私らしくない道は許さない」と強い信念と野望を持つマキシーン。
撮影先の農場に向かう車の中で、ボビーは映画を成功させてお金持ちになったら豪邸で真っ裸で寝そべりたいと自身の夢を話します。
そしてマキシーンにあんたの夢は?と問いかけます。
その問いに対して、マキシーンは答えたのか、何と言ったのかは劇中では明かされません。
しかし、プロデューサーであり、恋人でもあるウェインに苦労はもうしたくない、ビッグになりたいと口にしており、ボビー同様巻きシーンも野望を胸に抱いていることがわかります。
農場にやってきたマキシーンら一行の姿を見たパールは、マキシーンには何かがある、他にない美貌を持つといいます。
同じくウェインもマキシーンは他にはないものがあると感じ、マキシーンを映画に出演させることに賭けています。
ボビーらとの会話からウェインは妻と別れ、マキシーンと恋人になったこともわかります。
また、ウェインはRJにいい子なんていないと言う場面があります。
何度もテレビで放映される神への教示を話す男の説教。その男は娘が悪魔によって変わり、家出をしてしまったと話します。
終盤に映し出されたその娘とは、マキシーンのことでした。ウェインが言った“いい子なんていない”という言葉はかつて“いい子”だと思われていたマキシーンの事を指しているのかもしれません。
エロティックさの中にどこかあどけなさや無垢な印象も与えるマキシーンの魅力は、そのままミア・ゴスの魅力とも重なります。
助演で印象を残してきたミア・ゴスの主演作となった映画『X エックス』はホラームービーのヒロインとして、そして女優としてのミア・ゴスの魅力がとてもつまった映画といえます。
更に、RJの恋人であるロレインを演じたジェナ・オルテガの見事なスクリームクイーンっぷりも見逃せません。
ジェナ・オルテガは『スクリーム』(2022)にも抜擢され、今後さらなる活躍が期待できる女優です。
新たな要素
様々なホラー映画のオマージュが見受けられる『X エックス』ですが、本作はそれらを引用しながら新たな要素を加えることで今までにないホラー作品になっています。
『ドント・ブリーズ』(2016)では、老人が若者に襲いかかるという、老人を恐怖の対象としたホラーでした。
本作も殺人鬼は老夫婦であり、『ドント・ブリーズ』のような系譜の映画の一つとも言えますが、興味深いのはその動機です。
パールはかつて美しい踊り子でした。その美しさに惹かれたハワードと結婚するも二度の大戦を経験します。
思い描いていた人生ではなかったとパールはマキシーンに話しています。
今でも私は綺麗だ、特別だと思われたいと願いますが、ハワードは心臓を弱くし性行為を行うことが難しくなっていました。
パールは若者相手に性行為を行おうとしますが、老婆の誘いを若者は相手にしません。
拒絶されるとパールは躊躇なく若者を殺し、若い女性は目の敵のようにしています。
いずれお前たちも私のように老いぼれていく…と呪いのように言いながらも、自身が自分の老いを受け入れられないでいるのです。
また、思い通りの人生ではなかったと嘆くパールの姿は強い信念を持ち私らしくない道は許さないと言い放つマキシーンと鏡写しのような存在のようにも見えてくるのです。
まとめ
1979年を舞台に、ポルノ映画の撮影に来た若本たちと老夫婦の殺人鬼という設定は、まさに70代のスラッシャー映画を想起させるような設定です。
ポルノがビデオに移り変わる以前、70〜80年代半ばは、アメリカのポルノ映画の全盛期でした。
同時に、スラッシャーなどのホラー映画の名作が多く誕生した時期とも重なっています。
その時代の映画のオマージュを散りばめつつ新たな要素も盛り込んだ映画『X エックス』は、アトラクションのように楽しめるスラッシャー映画になっています。
更に、本作は三部作として制作予定であり、A24初のシリーズ作品としても期待が高まっています。