映画撮影現場が生ける屍の群れによって狂乱に陥っていく新感覚ホラー
映画撮影のため、山奥の廃校にやってきた女優のシヨン。
監督は演技指導もせず、奇怪なダンスを踊らされるだけ、スケジュール通りに進まない撮影にスタッフは苛立っています。そんな時、突如血まみれの女性スタッフが屋上に現れ、皆が見ている前で飛び降ります。
皆は騒然としている中、女性は立ち上がり、人を襲い始めます。一体何が起こっているのか、そして明かされるシヨンの正体とは。
主演を務めたのは、ドラマ『ヴィンチェンツォ』(2021)で話題となったキム・ユネ。監督は本作が初長編作となるハン・ドンソク。
本作は、ブリュッセル国際ファンタスティック映画祭のコンペティション部門に出品されました。
映画『THE SIN 罪』の作品情報
【日本公開】
2024年(韓国映画)
【監督】
ハン・ドンソク
【キャスト】
キム・ユネ、ソン・イジェ、パク・ジフン、イ・サンア
【作品概要】
様々なホラー要素が融合したハイブリットホラー『THE SIN 罪』。監督を務めたのは、本作が初長編作となるハン・ドンソク。
主演を務めたのは、ドラマ『ヴィンチェンツォ』(2021)で話題となったキム・ユネ。その他のキャストにドラマ『キム秘書はいったい、なぜ?』(2018)のソン・イジェ、『ジェントルマン』のパク・ジフン、ドラマ『タッチ 恋のメイクアップレッスン!』(2020)のイ・サンアなど。
映画『THE SIN 罪』のあらすじとネタバレ
新人女優のシヨンは、ダンスを題材として前衛的な映画の主演に抜擢されます。台本や簡単なあらすじもなく、監督に渡されたのは独特な振り付けのダンスのクリップでした。
不思議に思いながらもダンスの練習をしていたシヨンは、ダンスの途中で鼻血を出すなど、どこか異変を感じていながらも、撮影に挑むべく地方へ向かいます。
撮影場所は、地方の廃校でした。廃校に着いて早々シヨンの目の前に人形が落ちてきます。少しでも落ちる場所が違えばシヨンに直撃していました。シヨンは動揺し、撮影できるか難しい状況でした。
撮影スタッフも予算がなく、設備も万全ではない状況でどこかピリついています。撮影を伸ばすことが難しい空気を感じ、シヨンは「撮影できます」と言い撮影が始まります。
そこにシヨンと以前も共演したことがあるチェユンが現れ、シヨンは共演者がいることを知ります。チェユンから近況を聞かれますが、シヨンはどこか歯切れの悪い返答をします。
撮影が始まりシヨンは事前にもらっていた映像の通り踊りますが、監督はあまり納得した顔をしていません。それなのに数テイク撮って次の撮影に向かい、シヨンは困っています。
屋上で撮影中に突然、地下の換気扇を止めに行ったはずの女性スタッフが血まみれで現れます。皆が騒然としている中、女性は屋上の端に立ち、そのまま下へと落下します。
信じがたい光景に皆衝撃を受けますが、さらに衝撃的なことが起きます。即死したかと思った女性が突如立ち上がったのです。
映画『THE SIN 罪』の感想と評価
ゾンビ、デス・ゲーム、オカルト……様々なジャンルがミックスされた新感覚ホラー『THE SIN 罪』。
本作における「罪」とは何なのか、「罪」を犯したのは誰なのでしょうか。冒頭で創世記のアダムとイブの「楽園追放」が引用されることから、「罪」とはキリスト教でいう「原罪」なのか?という推測ができます。
神に食べてはいけないと言われた木の実を食べてしまったことでアダムとイブが楽園を追放され、神に背いた罪が子孫である人類にも及ぶというのが原罪の考えです。聖書の中には原罪の言葉は出てきませんが、アウグスティヌスが表現し、キリスト教の教えとして広められました。
しかし、本作の大きなトリガーは、巻き込まれた側だと思っていたシヨンが、諸悪の根源であったということです。シヨンの正体は「悪鬼」だったのです。
悪鬼は、仏教におけるたたりをなす者をさし、海外でいう悪魔に近い存在といえます。韓国のオカルト映画において悪鬼は非常によく出てくる存在です。映画『呪呪呪 死者をあやつるもの』(2023)の前日譚でもあるドラマ『謗法 ~運命を変える方法』(2020)では、巫女が神下ろしによって悪鬼を人に取り憑かせてしまったという人物が黒幕でした。
更にドラマ『悪鬼』(2023)では、悪鬼に取り憑かれた主人公をキム・テリが演じています。
そのような仏教における「悪鬼」の要素と西洋的な「原罪」がミックスされていると言えます。劇中、祈祷師のチェユンが師匠にシヨンを倒す方法を見つけたと話すと、師匠は「西洋の真似事」だと批判しますが、その発言からも本作が西洋と東洋の要素をミックスさせていることが分かります。
そして、本作における「罪」とは何を指しているのでしょうか。「罪を犯したら、罰を受けるべき」と祈祷師のチェユンに扮したシヨンは言います。そう言ってシヨンが立ち去った後、銃声が聞こえてきます。恐らく会長が自殺を図ったのだと思われます。
会長は、復讐を終え、復讐のためにモンスターとなってしまった自分に自ら終止符を打ったのか、それとも死んだのがシヨンではなく、祈祷師であることに気づき、絶望して自殺を図ったのでしょうか。
シヨンが実は祈祷師になりすまし、生き延びたという種明かしが、その場面の後にされます。そのことから、会長はシヨンが祈祷師になりすましていたことには気づいていなかったのではないでしょうか。
よって復讐のために手段を選ばず手を下してきた自分自身も罪を犯したとして、終止符を打ったのでしょう。
そもそも、罪を犯した人を裁く権利は誰にあるのでしょうか。現代社会において、社会規範は法律という形で定められています。法を犯せば、法によって罪状が決まり、罰を受けます。その際、裁判官が法に則って罪人を裁きます。
しかし、本来人は人を裁けない、人を裁くことができるのは神の領域とも言えるのではないでしょうか。会長の計画によって集まられ、生き返った死者によって食われた人々は、皆不倫や性犯罪を犯した無実とは言えない人々だと言います。
罪を犯し、屍によって狩られた人々を利用して悪鬼であるシヨンを殺そうとした祈祷師は、シヨンによって返り討ちにあいます。
そしてそんなシヨンが言った「罪を犯したならば、罰を受けるべき」という言葉は実は、祈祷師や会長に向かって放たれた言葉なのではないでしょうか。
シヨンは、「誰かが殺しに来る。だから私は殺す」と言っています。その通りであるならば、シヨンに罪の意識はないのです。殺される前に殺すというのは、生存競争において自分の身を守る術とも言えるのです。
悪鬼であるシヨンは、人間が作り出した薬などで殺せないことから、ある意味で神の領域にいる存在であると言えます。そんなシヨンを殺そうとすること自体が罪であり、その罪で祈祷師は罰せられたとも考えられるのです。
そんなピュアな悪であるからこそ、シヨンの恐ろしさが際立つのです。
まとめ
映画撮影現場が生ける屍の群れによって狂乱に陥り……と予想もできない結末を迎える新感覚ホラー『THE SIN 罪』。
屍が襲いかかるシーンのインパクトある凄まじさ、次々にそれぞれの思惑が明かされていく衝撃。最後に大きなトリガーとしてシヨンの本性が明かされ、サイキックバトルが展開されていくところが観客のボルテージを上げる展開でしょう。
無垢で、被害者かのようにみえたシヨンの恐ろしさはそのピュアさにあると言えます。
一見普通の平凡な少女に見える存在が容赦なく人を殺していく衝撃という点で『The Witch魔女』(2018)を想起した人もいるのではないでしょうか。
『コクソン/哭声』(2017)や『サバハ』(2019)など韓国のオカルト映画の人気は高く、2024年も、『破墓 パミョ』(2024)や『憑依』(2024)など韓国で話題を呼んだオカルト映画が日本で公開されました。
『THE SIN 罪』も韓国のオカルト映画の新鋭として刻まれる映画と言えるでしょう。