見ているのに見えない恐怖が静かに追い込む、真相の正体を目にした時に彼女を襲った衝撃は死に値する恐怖
本作は怖がりな看護師がホラー小説家の介護をするために、人里離れた森の一軒家で住み込みで働き、小説にまつわる主人公に脅かされ恐怖に襲われていく物語です。
霊感などないただの怖がりな女性でも、様々な条件が重なると見えるはずのないものも見え、ありえない恐怖を味わうと想像を超えた結果を生みだします。
今回は巷で語られる亡霊の噂の根源や、心霊体験の本質を解き明かす『呪われし家に咲く一輪の花』をご紹介します。
CONTENTS
映画『呪われし家に咲く一輪の花』の作品情報
【公開】
2016年(アメリカ・カナダ合作映画)
【監督】
オズグッド・パーキンス
【原題】
I Am the Pretty Thing That Lives in the House
【キャスト】
ルース・ウィルソン、ポーラ・プレンティス、ボブ・バラバン、ルーシー・ボイントン
【作品概要】
本作はアルフレッド・ヒッチコック監督のサスペンススリラー『サイコ』の主演で、一躍有名となったアンソニー・パーキンスの長男オズグッド・パーキンス(俳優)が監督と脚本を務め、音楽を次男のエルビス・パーキングが担当をしています。
主演はルース・ウィルソンとポーラ・プレンティスで、特にアイリス役のポーラ・プレンティスに関しては、オズグット監督の強い希望で30年ぶりの主演となりました。
2016年のトロント国際映画祭にて初上映され、2016年10月28日に Netflixでの配信が開始されています。
映画『呪われし家に咲く一輪の花』のあらすじとネタバレ
8月初旬に28歳になったばかりのリリー・セイラーは、ホスピス看護師としてマサチューセッツのブレインツリーという街にある、ホラー作家のアイリス・ブラムの家に住み込みで働くためにやってきました。
アイリス・ブラムは高齢で認知症を患い、余生をこの家ですごし最期を迎えることを希望しています。リリーはアイリスに自己紹介をしますが、寂しそうな顔をしたまま彼女を見つめるだけでした。
リリーはキッチンの入り口の壁の塗料が、一部分浮かびあがってきているのを何気なく見つけますが、とりあえず家に備え付けてある電話で友人に電話をかけ、他愛のない話をはじめます。
会話で友人から怖がらせるようなことを言われ、リリーは話をそらし長電話を続けます。すると何者かが受話器のコードを引っぱり伸ばし、受話器を引き落としました。
電話を終えて2階に上り書斎に入るとテレビを見つけますが、観ることはできません。そこにテレビの砂嵐の音を聞いて起きてきたアイリスが立っています。
リリーはアイリスをイスに腰掛けさせますが、アイリスはリリーを見てポリーと呼びます。リリーだと言っても「ポリー私が恋しくなったのでしょう?また、話をしてくれる?」と、理解していないようでした。
彼女はリリーのことを何故か「ポリー」と呼び、以後何度訂正しても直すことはありませんでした。
リリーは次の日から人の気配を感じたり、人が歩き周るような音を聞くようになります。
リリーはその現象に怯えながらも、恐怖心を振り払うように不可解な音は家がかなり古いこと、アイリスが名前を憶えないのも認知症であることと言い聞かせ、仕事に従事します。
そして、あっというまに11カ月が過ぎました。
映画『呪われし家に咲く一輪の花』の感想と考察
本作は全編にわたって幽霊となる主人公リリーの視点で展開していきます。ジャンプスケア系のホラー映画ではないので、そういった展開を期待するユーザーは肩透かしをくらってしまう内容です。
怖がりの視点
極度の怖がりだったリリーが手と手の小さいすき間から、恐る恐る覗き込むようにポリーが現れるのを待ち、アイリスの書いた小説を朗読しながら家にまつわる幽霊の存在を示しています。
映像の効果はまるで、小説を読むときに頭の中でその風景が浮かんでくるようです。そしてポリーの美しさが幽霊になったあとの哀愁を帯び、見どころの一つとなっています。
本来幽霊や心霊を怖くて観ることも考えることも避けている人が、いわゆる「事故物件」だと知らずに住み、説明のつかない音や壁のシミが気になりだし、次第に恐怖心へと変わっていく様を描いています。
そして、見えていなかったモノの正体を見た時に、リリーが感じた恐怖とはとてつもなく大きかったのです。
ポリーの正体は謎のまま
アイリスがポリーを主人公とした『壁の中の淑女』を出版したのは1960年です。アイリスがその家に住むようになった経緯はわかりません。そして、ポリーがなぜアイリスの前に現れたのかも不明です。
ポリーの母は彼女を生むとまもなく亡くなったことはわかります。そして、どう見てもかなり歳の離れている男性と結婚をし殺害されてしまいます。
ポリーは死んだ時からアイリスが住むまでの数百年の間、見守ってきた家でのことをアイリスに語り、アイリスはそれを小説にしていたのでしょう。しかし、おぞましい自分の死を語れないポリーはアイリスの前から姿を消したのではないでしょうか?
邦題は「呪われし・・・」となっていますが、ポリーが殺害された理由はわからないので、呪う理由もわかりません。どちらかと言えば、なぜ殺害されなければならなかったのか?という疑問を抱き、さまよっていたと思えるのです。
父から受継ぐ息子の作品
作中でホラー作家のアイリスは遺言で家は「物語をつぐむ家」として、女流作家に無償で提供すると残しています。
監督は映画の脚本のアイデアについて語っています。父アンソニーがホラーライターをしていた古い家には、看護士の世話を受けていた女性がいたことと書き残されていたというのです。
映画のプロローグに「ある家をくれたA・Pに捧ぐ」と出てきますが、それは父アンソニー・パーキンスのことなのでしょう。
そのオズグッド監督は12歳の時に父親のアンソニー・パーキンスが主演監督を務めた『サイコ2』に出演しており、本作品の冒頭とラストに登場する幼い兄妹はもしかしたら、オズグッド監督の2人の子供なのかもしれません。
まとめ
『呪われし家に咲く一輪の花』は19世紀初頭に建てられた家に棲みつく亡霊と、その亡霊に導かれホラー小説を書いてきた女流小説家が、晩年になり病で幾ばくも無い時間をホスピス看護士と過ごす短い期間の物語です。
ホラー映画は怖い怖いと言いながらも怖いもの見たさを楽しむものですが、本作は怖いことが大嫌いでできれば見たくない人が、亡霊を見てしまった時の極限の恐怖を伝えています。
まさか28歳の若さで、恐怖のあまり心臓発作をおこし死亡するとは思いもしないでしょう。「あなたが見ている美しいものは私。でも、この先どうなるかはわからない」という意味がここにあるのです。
そして、人知れず死亡してしまい発見が遅れれば、美しいその姿も朽ち果ててしまう・・・日本的に言うのなら成仏できない魂が漂ってしまう、そんな悲劇も伝わります。
この作品は若い美しさと命の儚さを、淡々とした映像美で描いた情緒的なホラー映画でした。