映画『オーヴァーロード』は2019年5月10日より全国ロードショー公開
あのJ・J・エイブラムスがプロデュースした戦争アクション×ゾンビ映画!
荒唐無稽でB級映画チックな設定を、一流のクリエイターたちが本気で仕上げた必見のエンターテイメントです。
映画『オーヴァーロード』の作品情報
【日本公開】
2019年(アメリカ映画)
【原題】
Overlord
【製作】
J・J・エイブラムス、リンジー・ウェバー
【監督】
ジュリア・エイブリー
【キャスト】
ジョヴァン・アデポ、ワイアット・ラッセル、ピルー・アスベック、マティルド・オリヴィエ、ジョン・マガロ、イアン・デ・カーステッカー、ドミニク・アップルホワイト、ボキーム・ウッドバイン、ジェイコブ・アンダーソン、エヴァ・マジャル、マット・リンドクイスト
【作品概要】
ノルマンディ上陸作戦前夜、米軍のとある部隊がナチスの恐るべき陰謀を知り、決死の戦いを挑む・・!
これまでに作られたことがある「ナチス×ゾンビ」というZ級ジャンルを、『スターウォーズ』新三部作を手掛ける稀代のヒットメーカーJ・J・エイブラムス製作のもと、現代に向けて見事にアップデートさせた快作です。
監督は『ガンズ&ゴールド』(2014)に続いて本作が2作目の新鋭ジュリア・エイブリー。その他、実力派のキャスト達が荒唐無稽な物語をしっかりと成り立たせています。
映画『オーヴァーロード』のあらすじとネタバレ
1944年6月6日未明、第二次世界大戦最大の戦いノルマンディ上陸作戦を数日後に控える中、米軍第101空挺師団は戦闘機に乗ってフランス上空まで来ていました。
彼らの任務は、ノルマンディ付近のシエルブラン村にあるナチスドイツの妨害電波塔を破壊する通称”オーヴァーロード”作戦。
黒人の新米兵士ボイスは重大な作戦を前に緊張しています。彼は訓練中も虫一匹殺せない臆病者として、仲間内で馬鹿にされていました。
隊のリーダーのレンシン軍曹はみんなを鼓舞しますが、その直後に砲撃を受けて戦闘機は大破。隊員たちはパラシュートでぎりぎり飛び降りていくも散り散りになってしまいます。
ボイスはなんとか降り立った後に隊の伍長フォードと合流します。しかし、レンシン軍曹は彼らが隠れている前でナチス兵に殺害されてしまいました。
その後、彼らは狙撃手のティベット、カメラで軍の記録を残しているチェイスに会い、シエルブラン村を目指します。
彼らは道中の森の中で村の若い娘クロエと遭遇し、彼女に案内を頼みます。
村はナチスに占領され、電波塔を設置している教会には厳重な警備が敷かれていました。クロエは8歳の弟ポールと病気のおばと一緒に暮らしており、ボイスたちは家の屋根裏に匿ってもらいます。
ヨーロッパ戦線で大勢を殺したというフォード伍長はすぐに作戦を決行すると言います。
チェイスとティベットはナチスの警備を掻い潜りながら、他の仲間を探しに行きました。
ボイスが家の下を偵察しに行くと、病気だというクロエのおばの部屋から不気味なうめき声が聞こえてきます。恐る恐る覗いてみると、そこには皮膚がただれ、さまよい歩く老女がいました。
ボイスが驚いているとクロエが現れ、叔母はナチスに教会に連れて行かれ戻ってきてからおかしくなったといいます。また、ナチスは村人を見せしめに何人も殺しており、クロエの両親も犠牲になったと語りました。
彼女によると、ナチスはこの村の地下にある特殊なタールを研究しているといいます。
クロエは英語も話せましたが、隊で唯一フランス語が話せて心優しいボイスに心を開いていきます。
そんな中、村を支配するナチス親衛隊の将校ワフナーがやってきます。ボイスとフォードは屋根裏に隠れました。
ワフナーは以前から安全を条件にクロエを娼婦替わりに抱いているようで、その日も部下たちを帰らせたあと、彼女と無理やり事に及ぼうとします。
ボイスはフォードが止めるのも聞かず、隙だらけのワフナーに銃を突きつけます。フォードはワフナーを叩きのめして気絶させると、将校が行方不明になった以上いちはやく作戦を実行せねばといいました。
フォードからチェイスたちを呼び戻すよう言われて外に出たボイスは、村のはずれでナチス兵が村人の死体を焼いているのを目撃します。
その後軍用犬に追われたボイスは、近くを走っていたトラックに飛び乗ります。荷台には連合軍の兵士たちの死体が積んであり、トラックは教会に入って行きました。
チェイスはトラックから降りて潜入を試みます。教会内には檻がいくつか有り、中から呻き声や叫び声が聞こえてきます。
さらに奥へと進んでゆくと、研究施設のようなエリアへとたどり着きました。驚いたことに、そこには首だけの状態で生きている女性や、袋に詰められてもがく爛れた人間がいました。
隠れていると科学者らしき男が入ってきて血清のようなものを触っています。どうやらクロエが語っていたタールが、この人体実験に関係しているようです。
そしてボイスは、同じ部隊の親友ジェイコブが管に繋がれて苦しんでいるのを発見し救出します。ボイスは血清を一本取ると、ジェイコブと地下水路を伝って脱出しクロエの家に戻りました。
チェイスとティベットも家に帰ってきており、ノルマンディ上陸作戦は60分後にまで迫っていました。
ボイスの目撃したことを聞いたフォード伍長はワフナーを縄で吊るして様々な拷問を加え、教会内の設備や兵隊の数が40人近くいることを聞き出します。しかし、彼は研究の全容については全く吐きませんでした。
フォード伍長の拷問の残忍さにボイスは顔をしかめますが、何も言うことはできません。
爆薬や銃を用意したあと、案内役兼人質としてワフナーも連れて行くことになります。チェイスは吊るされている彼を下ろそうと呼びかけますが、反応がありません。
もしかして死んだのかと下ろして様子を見ようとした瞬間、ワフナーは隙を突いてチェイスに飛びかかり、銃を奪って胸を撃ち抜きます。フォードたちはすぐにワフナーを取り押さえました。
虫の息のチェイスを見たボイスは、思わず研究所から持ってきた血清を彼に注入しました。すると信じられないことに、胸に風穴が空いていたチェイスは息を吹き返し立ち上がりますが、彼は再度苦しみ出します。
ワフナーは「千年帝国には不死身の兵が必要だ」と笑い出しました。
チェイスは全身の血管が浮き上がり、骨格が曲がって怪物のような容貌に変身。錯乱状態に陥り、もの凄い怪力でみんなを襲い出します。フォードは仕方なく彼を射殺しますが、そのどさくさに紛れてワフナーがポールを人質にして逃げてしまいます。
近くにいたナチス兵たちが駆けつけ、ボイスたちと銃撃戦が始まりました。ワフナーは教会に戻ろうとしますが、その途中で顔に弾丸を食らい口が裂けてしまいます。
その場のナチス兵たちは排除したものの、ポールを連れ去られてしまったボイスたちは計画を立てます。
一方、研究所に戻ったワフナーはフォードに必ず復讐すると、血清を何本も自分の体に突き立てて自身を超人兵士化させました。
映画『オーヴァーロード』の感想と評価
ナチスが題材の映画は、毎年何本も公開されています。
最近は実話に基づいた真面目な作品が多いですが、「ナチスならこんなこともしてそう」といった下世話な目線で、SFやホラーに無理やりナチ要素をねじ込んだ様な映画も多々あります。
実際、ナチスの科学力は非常に優れていましたし、オカルトや黒魔術に傾倒していた幹部もいたのも事実。
おまけにもともと秘密主義的だった上に戦後に多くの資料がなくなってしまったので、フィクションの作り手たちが「実はナチスはこんなこともしていて~、こんなものも開発していて~」と、フリー素材の如く無限にいろんな話を作り出せる余地があるのが、ナチスという題材なのです。
ナチスが超人兵士を作ろうとしていたという空想に、60~70年代に流行り始めたゾンビものの要素を足した映画も、かつて数本作られました。
もちろんそんな志の高い映画ではなく、クオリティも低かったためにすぐに廃れてしまったジャンルです。
しかし、空前絶後のゾンビブームが近年到来した影響か、医学生たちが偶然蘇ったナチスのゾンビたちと戦う『処刑山 -デッド・スノウ-』(2007)が作られたことで、まさかの復活を果たしたナチスゾンビ映画。
そしてとうとう、あのJ.J・エイブラムスがこのジャンルに登場しました。
元々ジャンル映画が大好きな彼はこの企画を嬉々として進めました。
本作の製作費は3800万ドル(約42億円)。Z級映画として扱われた既存のナチスゾンビ映画とは桁違いの規模で作られた『オーヴァーロード』は、見ごたえ十分の戦争アクションホラーに仕上がりました。
「ノルマンディ上陸作戦の前日にこんな作戦がありました」という物語は、おそらくJ・J・エイブラムスが敬愛してやまないスティーブン・スピルバーグの傑作戦争映画『プライベート・ライアン』(1998)への間接的なオマージュかもしれません。
サービス精神満載の映画
本作はいきなり空挺部隊のパラシュート降下シーンから始まると、ノンストップでクライマックスまで突っ走ります。
随所に挟まれる銃撃戦や爆破の描写も、ゾンビが出てくるまでの前振りなどではなくかなり気合が入っていて、戦争シーンだけでも十分満足できるクオリティです。
撮影監督のローリー・ローズ、ファビアン・ワグナーは昔の映画のように見える画面設計にこだわったようで、往年の戦争アクションのような味わいがあります。
物語としても、壊滅した部隊の数人だけがフランスの村にたどり着き、そこで本来の電波塔破壊の任務を計画中にナチスがゾンビ超人兵士を作っていたという事実を知るという流れは非常にスムーズで、見事に2つのジャンルを融合させています。
なんでナチスがゾンビ兵士を作れるのかという理由付けを「フランスのとある村の地下に存在する特殊なタールが人間を超人化させる!」という雑な設定で片付けているところも、いかにも往年のジャンル映画らしくて逆に好感が持てます。
またグロ描写も容赦なく、ジャンル映画ファンにはたまりません。戦争の悲惨さを訴えるというより単に露悪的な楽しさを増やすためのゴア描写と言った感じで、景気よく血しぶきが飛ぶさまを楽しめます。
加えて、未熟な兵士ボイスがキャラの濃い仲間たちやフランス美女とともに熾烈な戦いを経て、一人前の男に成長していくという戦争アクションの定番もきっちりやってくれているので、ちゃんと登場人物たちにも感情移入出来て最後までハラハラ見られます。
登場人物たちも絞られている上にみんなしっかりキャラが立っていて、個人的には少し頭のネジが外れているけど優秀な伍長フォードをかっこよく演じたワイアット・ラッセルの演技が大好物でした。
彼の父親は今に至るまで数々のジャンル映画に出続けているスター、カート・ラッセル。
息子のワイアットも、父親譲りの少し胡散臭いけど男らしくてかっこいい風貌と演技で魅せてくれます。
かつてのZ級ジャンル映画をしっかりとした予算で一流のスタッフとキャストで作れば、ちゃんと面白い映画ができると証明してくれた一作です。
今後もエイブラムスには、一見くだらなく見える過去の映画をアップデートして蘇らせてほしいですね。
まとめ
主人公ボイスが空挺部隊に一人だけ黒人で所属しているという設定を、不思議に思う方もいるかもしれません。
まだ人種差別がはびこっていた第二次世界大戦時の米軍でそんな人員配置があったとは思えませんが、おそらくこれはゾンビ映画の元祖『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』の主人公が劇中唯一の黒人だったことに対するオマージュなのではないでしょうか。
『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』の主人公がたどった顛末を思うと、今回のハッピーエンドはグッときます。それに「人種差別主義のナチスどもを自国でも差別されていた黒人兵士が倒す」という構図自体も非常に痛快です。
その他こういったツッコミどころもちらちら垣間見える映画ではありますが、そんなことは些細に思えてくるくらいの勢いを持った最高のジェットコースタームービーです。