A24がアリ・アスター監督と共に制作した映画『Midsommar(原題:夏至祭)』
『ミッドサマー』は、2018年最恐と言われた『ヘレディタリー/継承』を監督したアリ・アスターの第2弾作品。
内容を1言で表すと、真昼間に延々と続く悪夢。スウェーデンの伝承を基にアスターが確信を持って創り出した狂気の世界は、途中で劇場を出てしまう人が居るほど心理的圧迫感のある映画です。
『ウィッチ』(2015)や『イット・カムズ・アット・ナイト』(2017)等、独特な作品を多く手掛けるA24が配給。
日本では『ミッドサマー』の邦題として、2020年2月公開予定です。
映画『ミッドサマー』の作品情報
【日本公開】
2020年2月(アメリカ映画)
【原題】
Midsommar
【監督】
アリ・アスター
【キャスト】
フローレンス・ピュー、ジャック・レイナ―、ウィル・ポールター、ウィリアム・ジャクソン・ハーパー、ヴィルヘルム・プロングレン
【作品概要】
本作を制作した理由を訊かれたアリ・アスターは、恋人と別れたことだったと答えています。
スウェーデン、ドイツ、イギリスの夏至祭を自ら調べて題材にしました。映画ツウや批評家が絶賛する中、一般の観客の間ではディベートが起きた衝撃作。原題の『Midsommar』は、スウェーデン語で6月の祝日に当たる夏至祭。
映画『ミッドサマー』のあらすじとネタバレ
女子学生のダニーは、大学院生のボーイフレンド・クリスチャンに電話をします。
躁うつ病を患う妹から貰ったメールに不穏な気配を感じ、ダニーは精神的に不安定になっていました。
クリスチャンの友人・マークは、いつも頼りっきりのダニーと別れるべきだと助言。
クリスチャンは、心配し過ぎてダニー自身の生活にも支障が起きていると彼女を諭します。安定剤を服用したダニーは言われるままに納得。
しかし、程無くしてクリスチャンのスマホに再びダニーから連絡が入ります。
うんざりして呆れ顔のマークをよそにクリスチャンが電話に出ると、取り乱したダニーが叫んでいました。
ダニーの妹が両親を巻き添えに無理心中し、彼女は家族全員を失ったのです。
突然の悲劇に見舞われたダニーに同情するクリスチャンは、別れを切り出せませんでした。
元気づけようとクリスチャンはダニーをパーティへ誘います。そこで、ダニーは、クリスチャンが男友達だけでスウェーデンへ旅行する計画をしていたことを知ります。
秘密にされたことにダニーは傷つき、クリスチャンと口論。気まずくなり帰ろうとするクリスチャンを引き留めようと、ダニーは下手に出て機嫌を取ります。
罪悪感を覚えたクリスチャンはダニーも旅へ誘いました。
スウェーデンから来た留学生・ペレの故郷で90年に1度行われる夏至祭へ参加することになります。
ペレは、ダニーも一緒に来ることを歓迎し、家族に起きたことに触れてお悔やみを述べます。
ペレの言葉が終わらない内に、動揺したダニーはトイレに駆け込み泣きじゃくります。
クリスチャン、ダニー、マーク、そしてジョッシュは、ペレと共にスウェーデンへ。
到着すると、地元の女性を見たマークは興奮を隠せません。
人里離れた小さな村へ着きペレは弟に再会。弟はイギリスからサイモンとその彼女・コニーを夏至祭へ招いていました。
用意された宿泊所は、村民も一緒に寝泊まりする大きなスペースで、壁には鮮やかな色で絵が描かれています。
アメリカやイギリスから来たゲストを村人達は皆笑顔で温かく迎えます。広く美しい平原には、多くの村民がコスチュームを着て集い平穏な雰囲気でした。
翌日、9日間の予定で夏至祭が始まり皆で食事を摂ります。初老の男女が立ちあがってお酒を酌み交わした後、女性が村人たちに切だった崖の頂上まで運ばれます。
下からその様子を見ている全員の目の前で、その女性は投身自殺。ショックのあまり、サイモンとコニーが抗議の声を上げます。
しかし、初老の男性も後に続いて崖から落下。まだ息のある男性に対し、村人が大きな小槌で顔に振り下ろします。
異常な事態に呆気に取られるクリスチャン達ですが、ダニーは人の死を立て続けに見させられ狼狽。
怒り心頭のサイモンとコニーを、村の長・シヴが声を掛け、年を取り続けて苦しむより、彼等にとっては喜びなのだと説明します。
耐えられず村を出ると言うダニーに対し、ペレは、自分も同様に両親を失っているのでダニーの気持ちは分かると話します。
人の人生を年齢で春夏秋冬に分ける代々伝わった村の儀式だとダニーを説得しました。
荷物をまとめて村を出る準備を整えたコニーに、村人は、サイモンが先に駅へ向かったと伝えます。
映画『ミッドサマー』の感想と評価
古代ゲルマン人が使っていたルーン文字を始め、様々なシンボルが登場する『ミッドサマー』。
初老のカップルが投身自殺をする直前、村の若い女性が岩に刻まれたルーン文字に自分の血をなすりつける場面があります。
読み取れた2文字をご紹介。Rは旅を意味し“ラド”と発音され、“ディール”と読む↑は軍神を表します。
そして、劇中に、1才から16才は春、17才から32才は夏、33才から52才は秋、53才から72才は冬、と考える村の伝統をペレがダニーに説明しています。
日本でも高齢者を口減らしの為に家長が山に捨てる姥捨てが行われたと言う民話が残っていますが、本作の夏至祭では、ある年齢に達した人の自殺が祭典開始直後に起こります。
ホラー映画を観に来た観客はゲルマン人が使った文字に予備知識など無く、延々と続く常軌を逸した光景に飲み込まれ、更に、儀式の全行程が昼間に行われる為、眩し過ぎるくらいの明るさと繰り広げられるカオスに差があり過ぎて混乱を来たします。
また、劇中を通し、儀式のシンボルについての説明は皆無。監督・脚本を務めたアリ・アスターが「観客は混乱すると思う」と述べている通り、美しい花々と笑顔の村民による殺戮は、正に昼間の悪夢を見ているようなのです。
1つだけ分かるのは、精神的にもともと不安定で人に依存し過ぎるダニーとクリスチャンの関係が冷え切っている点。
しかし、妹の無理心中で家族を失ったダニーに同情したクリスチャンは、別れを口にできません。
一方、自分の誕生日をクリスチャンが忘れていると知っているダニーは、愛されていないことを知っていながらも、クリスチャンに頼りっきりです。
アスターは、ダニーに自分をなぞらえているとインタビューで語っており、実生活で恋人と別れた経験を脚本に書き、映画の中でダニーによって復讐をしています。
冒頭に起きるダニーの家族の悲劇を描写した連続シーンは非常に暗く、この先はもっと悪いことが起きると暗示。
ダニーの部屋にある壁の絵も儀式の内容を示唆。スウェーデンの村へ行く外国人学生に危険が迫ることを観客が予想できるよう、アスターは構成しています。
人は真反対のものを同時に見続けると混乱し不快な気分に陥りますが、人間はそれでも知りたいと思う動物だと先刻承知のアスターが仕掛けた術中にはまってしまうのです。
まとめ
多神教を信仰する辺境の村を舞台にした『ミッドサマー』。
アメリカ人学生ダニーと人類学専攻のボーイフレンド・クリスチャンは、スウェーデン人留学生・ペレに誘われ、彼の故郷で90年に1度開催される夏至祭(ミッドソマー)を訪れます。
監督・脚本のアリ・アスターは、冷めた関係を続けたカップルの悲惨な別離とカルト的儀式を融合させた物語を創出。
『ヘレディタリー/継承』を軽々と凌駕する狂気に満ちた夏祭りと覚悟してご覧ください。
日本では『ミッドサマー』の邦題として、2020年2月公開予定です。