『さらば、わが愛/覇王別姫』『北京ヴァイオリン』などで知られる中国の名匠チェン・カイコー監督の映画『空海―KU-KAI― 美しき王妃の謎』。
作品タイトルから歴史ドラマを期待する向きもありますが、実は染谷将太演じる僧侶の空海と詩人の白楽天が、まるでホームズ&ワトソンのバディ張りに活躍し、美しい王妃の謎に満ちたミステリーの事件解決にあたる作品です。
やはり気になるのは、何といっても雄弁で重要となる黒猫ですよね。
CONTENTS
1.映画『空海 KU-KAI 美しき王妃の謎』の作品情報
【公開】
2018年(中国・日本映画合作)
【原題】
妖猫伝 Legend of the Demon Cat
【監督】
チェン・カイコー
【キャスト】
染谷将太、ホアン・シュアン、阿部寛、チャン・ロンロン、松坂慶子、火野正平、チャン・ルーイー、シン・バイチン、ティアン・ユー、チン・ハオ、キティ・チャン、チャン・ティエンアイ、リウ・ハオラン、オウ・ハオ、シャー・ナン、リウ・ペイチー、チェン・タイシェン、ワン・デイ
【作品概要】
夢枕獏の小説『沙門空海唐の国にて鬼と宴す』を原作に、真言宗の開祖で遣唐使として中国に渡った空海と、そこで出会った詩人の白楽天の2人が楊貴妃の死のミステリーに挑んだ姿を描いた作品。
『黄色い大地』や『始皇帝暗殺』などで知られるチェン・カイコー監督が演出を務めています。
2.映画『空海 KU-KAI 美しき王妃の謎』のあらすじ
1200年以上前、倭の国(日本)から遣唐使として唐(中国)へ渡った若き僧侶空海。
ある日、詩人の白楽天と知り合い交流を深めていくと、都の長安の街では権力者が次々と奇妙な死を遂げてしまうことで、王朝を震撼させる怪事件に見舞われていました。
空海は白楽天とともに一連の事件を調査するなかで、阿倍仲麻呂というおよそ50年前に唐に渡った倭人が鍵をにぎることまでは突き止めました。
仲麻呂が仕えた玄宗皇帝の時代。そこには国を狂わせたほどの絶世の美女で、肯定も溺愛する楊貴妃がいました。
多くの来賓を迎えた極楽の宴でも、何よりも美しい楊貴妃は多くの人を魅了するばかり。
その美しさに妖術を使う若い白龍と丹龍も妖艶さに魅せられてしまいます。
しかし、皇帝失脚を前に楊貴妃は、ある出来事をきっかけに美しさゆえの哀しき宿命がまっているのですが、その事実に空海と白楽天はたどり着くも。事態は思わぬことに…。
3.映画『空海 KU-KAI 美しき王妃の謎』の感想と評価
原作者は『陰陽師』で知られる夢枕獏!
本作の原作は夢枕獏の小説「沙門空海唐の国にて鬼と宴す」です。
夢枕獏は1951年1月1日に神奈川県小田原市で生まれた小説家で、東海大学文学部日本文学科卒業した後、1982年に「キマイラ・吼」シリーズの第1作となった『幻獣少年キマイラ』を刊行したことで作家となります。
1990年に『上弦の月を喰べる獅子』にて、第21回星雲賞をで受賞。1998年には『神々の山嶺』が第11回平成10年度柴田錬三郎賞を受賞。
2011年には『大江戸釣客伝』で第39回泉鏡花文学賞受賞や、翌年2012年に同作で第46回吉川英治文学賞受賞しています。
夢枕獏の小説が映画化された作品はいくつかありますが、なかでも2001年に狂言師の野村萬斎が安倍晴明役を演じた『陰陽師』が有名です。
本作『空海―KU-KAI― 美しき王妃の謎』を観たあなたならお分かりのように、映画『陰陽師』の安倍晴明のような術師が重要な見どころのポイントになっています。
皇帝に使える術師の黄鶴や、その弟子である2人の白龍と丹龍が出てきて、華やか幻視や哀しき変身を見せてくれますよ。
この作品は小難しい歴史ドラマや偉人伝ではなく、あくまでミステリーの娯楽映画と思ってよいでしょう。
名探偵空海が「妖猫」難事件に挑む!
本作『空海―KU-KAI― 美しき王妃の謎』の予告編などを観た際に、すぐに気が付くことはあります。
それは後に弘法大師である空海と楊貴妃の実際に出会った接点はあったのかという事実の疑問です。
空海の生涯は774年〜835年4月22日、その804年に遣唐使の留学僧として唐(中国)に渡っています。
一方で楊貴妃の生涯は719年〜756年7月15日とされており、実際に出会えることはありません。
そこで空海と同じく唐に渡った阿倍仲麻呂(698年〜770年)が、事件の謎を解く鍵となります。
しかし、彼は倭(日本)には生涯に戻ることはなかったのですが、年月から分かるようにすれ違ってしまいます。
この時間のすれ違いを繋げるものが謎になってくる訳ですが、それは予告編で見てすぐに分かるように「黒猫」となります。
そしてそのことは原題にあるように『妖猫伝 Legend of the Demon Cat』ですから、になってきます。
つまりこの作品では空海は名探偵シャーロック・ホームズのように「黒猫」の謎に挑み、また、玄宗皇帝と楊貴妃のエピソードを詠んだ「長恨歌」をもとに詩人の白楽天は助手ワトソンのようそれを支えます。
空海の推理を効かせた行動と支える白楽天はのコンビぶりは、日中それぞれの人気俳優である染谷将太とホアン・シュアンのバディムービーとなっています。
でも、そのバディを翻弄するミステリーには強烈な敵役というか、事件の背景にある感情の激しい人物が必要となります。
中国や日本、アジアの名優や人気俳優が登場するのですが、なかでも雄弁に語り目を潤ませる熱演を見せたのは妖猫である黒猫です。
4.映画『空海 美しき王妃の謎』の主役は雄弁な黒猫
確かに本作に限らず、映画では動物が主人公を務めるような映画はほかにもあります。
2018年になってからも映画館では動物たちの活躍が続います。
まずは2018年1月19日から、こちらはおっとりと話す真摯な熊がスクリーン狭しと大活躍しました!
資料映像:『パディントン2』(2018)
これに続き、今回の『空海―KU-KAI― 美しき王妃の謎』では、黒猫が雄弁に語り出したと見れば、そう驚くことはないのかもしれません。
また5月からはウサギも活躍します!
資料映像:『ピーターラビット』(2018)
この2作品はイギリスなどの海外製作の映画ではありますが、国内外の実写やアニメ作品も含めればいくらでも動物が主人公はさほど珍しくはありません。
ですから、映画のなかで動物が話してもさほど驚くことはないのです。
でも、さすがに『空海―KU-KAI― 美しき王妃の謎』では、黒猫がこれほど喋るのかという前知識がなかったために、やはり驚かされましたね。
おそらく探偵モノやミステリー好きなあなたなら、おわかりのように事件の真相を語るのが淡々と、そして時に感情的に語るのが黒猫なのです。
事件がどのようなきっかけで始まったのか、その際に楊貴妃はどうなったのか、その重要な台詞は黒の子がすべて話しています。
しかも、時に猫の涙目に思わず猫の目を見入ってしまうほどです。
でも、思えば猫が喋るというのはアジア的でもあるような気がしますね。
ああ、こちらは猫型ロボットですが、やはりよく喋りますね。
参考映像:『ドラえもん のび太の宝島』(2018年3月3日)
猫がしゃべれば人気とも言えるのかも知れません。たぶん…。
さて、ちょっとネタバレになりますが、『空海―KU-KAI― 美しき王妃の謎』に登場する重要な台詞を話す黒猫に話を戻しましょう。
実は黒い妖猫の正体は、美しき楊貴妃に魅せられた幻術師の丹龍であり、彼が死の瞬間に憑依したものです。
それだけではなく、そこには楊貴妃に飼われた黒猫の持つ想いや、また楊貴妃自身の念もあったと読む方が良む方が死生観の執着の深みがますかとは思います。
ここが作品のポイントで、このことに僧侶空海と詩人白楽天の探偵バディが、心に抱く執着の念や死生観を知ったことで、2人のそれぞれの生き方に影響を与えたという姿が描かれます。
ところで丹龍が憑依した瞬間、ご覧になった方は「クボ〜」と心で叫びませんでしたか。
参考映像:『KUBO クボ 二本の弦の秘密』
シャーリズ・セロンの演じた猿ことクボのお母さんと一緒ではないですか。
今回は脱線が多くてすみません。
とにかく!本作を観ていないあなたは、よくしゃべる猫だな〜とか思わずに、黒猫の様子に要注目してくださいね。
猫が怨念を抱くといったストーリーは、昔から日本映画には化け猫映画として、さほど珍しいも斬新でもありません。
また、ミステリーとか、特にホラー作品では黒猫の記号は、不吉や邪悪な使いということもありますよね。
ただ、ちょっと今回のおしゃべり黒猫は、とにかくよく喋ります。
中日の名優や俳優たちよりも雄弁に、そして豪華な美術より目が釘付けになるでしょう。
あまり驚かされると、鑑賞に影響が出ちゃうかもなので、そのことは知っていた方が、映画鑑賞には良いかも知れませんね。
まとめ
本作の原題『空海KU-KAI 美しき王妃の謎』は、『妖猫伝 Legend of the Demon Cat』であり、夢枕獏の原作は「沙門空海唐の国にて鬼と宴す」。
妖猫が主題であり、また「鬼と宴す」の鬼とは“悪霊”といえば良いのでしょうか、それとも“邪悪な念”でしょうか。
どちらにしても黒猫の念と人々の念の集合体の妖猫に注目する「化け猫」作品、それが『空海 KU-KAI 美しき王妃の謎』なのです。
おまけ:化け猫モノの一例
『亡霊怪猫屋敷』
この作品は化け猫映画の伝説的女優の入江たか子のものではないのですが、1958年に公開された怪談映画の名手とも言われた中川信夫監督の作品です。
ご存知ではないあなたはいつか観て観てくださいね。