血を抜かれることの快楽に魅せられてる「献血部」の女子4人とバンパイアの交流を描く異色の青春譚
コロナ禍の2020年に本広克行監督、押井守監督、小中和哉監督、上田慎一郎監督が立ち上げた映画実験レーベル「Cinema Lab(シネマラボ)」の第4段として制作された本作は、4度にわたる公開延期により“お蔵入り”寸前となり、東京・テアトル新宿で一日限りで上映されました。
『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊』(1995)などの押井守監督が手がけ、主演は『寝ても覚めても』(2018)の唐田えりかが務めました。
また、グローバル・ガールズグループ“NiziU”のメンバーであるニナ(牧野仁菜)が“NiziU”としてデビュー以前に出演し、バンパイヤの美少女マイを演じました。
私立来栖学園高校の「献血部」に所属するマキ、仁子、ナミ、カオルの4人は血を抜かれる快感に魅せられ、学校では変態扱いされていました。
ある日、いつものように献血をしに行ったマキ(唐田えりか)は、看護師相手に大暴れしたマイ(牧野仁菜)に出会います。
気を失ってしまったマイを部室に連れて行くと、マイは自分は人を襲えないバンパイアだと明かします。
マイをどこか放っておけないマキたちは自分らの血でマイを養おうとしますが……献血部とバンパイア、異色の交流を描く青春譚ムービーです。
映画『血ぃともだち』の作品情報
【公開】
2022年(日本)
【監督】
押井守
【脚本】
山邑圭
【キャスト】
唐田えりか、尾碕真花、天野菜月、日比美思、牧野仁菜、近藤里沙、小柳友貴美、鈴木敏夫、古賀哉子、毛利愛美、辻夏樹、イマニシケンタ、小林博、菅登未男、にぼし、藤木義勝、マアリ・アルチョモフ、日下雄一朗、綿貫竜之介、阿部里果、竹内絢子、松本圭未、松井玲奈、筧利夫
【作品概要】
「Cinema Lab」第一弾として、本広克行監督の『ビューティフルドリーマー』(2020)が公開され、押井守監督の『血ぃともだち』は第二弾として公開される予定でしたが、緊急事態宣言などを経て公開が延期されました。
その後、第二弾として、小中和哉監督『星空のむこうの国』(2021)、第三弾として上田慎一郎監督『ポプラン』(2021)が公開され『血ぃともだち』はお蔵入りになりかけましたが、2022年2月5日テアトル新宿にて一日上映される運びとなりました。
主演を務めたのは、『寝ても覚めても』(2018)の唐田えりか、マイ役は、グローバル・ガールズグループ“NiziU”としてデビューする以前のニナ(牧野仁菜)が務めました。
その他のキャストは、スーパー戦隊シリーズ第43作『騎士竜戦隊リュウソウジャー』でヒロイン・アスナ/リュウソウピンク役を演じた尾碕真花、『氷菓』(2017)の天野菜月など。
映画『血ぃともだち』のあらすじとネタバレ
私立来栖学園高校の「献血部」の部長のマキ(唐田えりか)は、いつものように献血ルームで血を抜いてもらい帰ろうとしているところでした。
全身黒づくめの美少女がマキの後に献血ルームに向かうと、物凄い物音と看護師の悲鳴が聞こえてきました。
何事かとマキが様子を見に行くと美少女が看護師や医師相手にプロレスの技を決めています。驚いてその様子を見ていたマキでしたが、美少女が意識を失ってしまったので慌てて助けます。
どこに連れて行けば良いのか迷ったマキは「献血部」の部室に美少女を運ぶことにしました。献血部の皆にも連絡し、部室に皆が集まってきます。
皆でどうするのか相談していたところに美少女が目を覚まします。何語を話しているのか分からなくても、同時通訳のように日本語として頭に入ってきます。
皆が驚いていると、美少女は皆の話す言葉は話せないけれど翻訳されて皆の頭の中に話しかけることができる能力があるのだと説明します。
マイと名乗った少女は、自身の身の上話を始めました。継母とウマが合わず逃げてきたと言います。そしてマイはなんとバンパイアだと言うのです。
皆が驚き動揺すると、人は襲えないと言います。襲えないからこそ空腹で困っていると言います。そしてどこかで血をもらえる場所はないかと言います。
マイの儚げな表情に胸を打たれ、放っておけないマキは皆で協力してマイのために血を集めようと決めます。そして分担表を作り、マイは部室のロッカーを棺桶のようにして匿うことにします。
保険医の血祭血比呂(松本圭未)のコレクションから盗んだり、採血で何とかマイのために血を集めようとしていましたが、なかなか足りません。
するとマイは部室にあったパンを何気なく手にとり食べ始めました。血以外食べられないのかと思ってた皆は驚きます。
腹の足しにはならないけれど食べることはできるとマイは言います。
その頃、部員の様子がおかしいことに気づいた血祭血比呂は、部員に尋問し、マイのことを話してしまいます。どうするんだと詰め寄られた部長のマキは、私たちでマイを守るんだと宣言します。
すると血祭血比呂は、見逃す代わりに体重を測って問題ない体重であれば研究のため採血をさせてほしいという条件を突きつけます。
血祭血比呂は、様々なバンパイアにまつわる通説を検証していきますが、ニンニクも十字架も聖水も全く効果はなくマイは平気そうにしています。
映画『血ぃともだち』感想と評価
コロナ禍で設立された「Cinema Lab」は、映画化の条件は「限られた制作予算であること」のみです。
企画開発、脚本、全てを監督が自由に出来るという実験的なレーベルです。
そのような潤沢な資金もないなか作られた映画『血ぃともだち』はこれまでの押井守監督作とは違うだけでなく、今までになかった異色の映画になっています。
ポスターの雰囲気やバンパイアという設定からダークファンタジーやアクションをイメージするかもしれません。
しかし、本作で描かれているのは至ってピュアな高校生のちょっと不思議な日常と友情という青春譚なのです。
唐田えりか演じる献血部部長のマキは、両親が出張ばかりで家にいることが少なく孤独を抱えています。
そんなマキにとって、マイは放っておけない存在だったのです。
同じくマイも居場所がなく、血に飢え彷徨っていました。
首に噛み付こうとする場面もあるものの実際には噛み付くこともなく、バンパイアにありがちなイメージにマイはことごとく当てはまりません。
そして、マイが何より求めていることは友達が欲しいということでした。
「献血部」というあまり聞かない部活動や、様々な血のデータを集めている保険医の血祭血比呂をはじめ、個性豊かな献血部の部員たち。
不思議な設定と個性豊かなキャラクターによるシュールな世界観で描く、ピュアな友情譚は観客の期待を色んな意味で裏切ってくれる実験的な映画になっています。
まとめ
「献血部」とバンパイアのマイの不思議な出会いを描く映画『血ぃともだち』。
随所に不穏さを散りばめつつも、変態と呼ばれる献血部の皆が協力してマイを助けようとする青春譚になっています。
本作における異色さは限られた予算であることだけでなく、監督が自由に描けるからこそ出来たものでしょう。