ビートルズの存在しない世界で唯一ビートルズを知っているジャックの恋と人生の行方は?
ダニー・ボイル監督の映画『イエスタデイ』は2019年10月11日(金)全国ロードショー!
独特な編集と斬新でスタイリッシュな画作り、社会を独自の視点から切り込んで作るシナリオで多くの観客を魅了するダニー・ボイル監督。
『トレインスポッティング』(1996)で大ヒットを生み、『スラムドッグ$ミリオネア』(2008)でアカデミー賞監督賞を含む8部門で受賞、続く『127時間』(2010)で再びアカデミー賞作品賞にノミネートした経験を持つ、鬼才ダニー・ボイル監督の映画『イエスタデイ』をご紹介します。
CONTENTS
映画『イエスタデイ』の作品情報
【公開】
2019年(イギリス映画)
【原題】
Yesterday
【監督】
ダニーボイル
【キャスト】
ヒメーシュ・パテル、リリー・ジェームズ、ジョエル・フライ、エド・シーラン、ケイト、マッキノン、ジェームズ・コーデン他
【作品概要】
『トレインスポッティング』『スラムドッグ$ミリオネア』『127時間』のダニー・ボイル監督と、『ラブ・アクチュアリー』(2004)の脚本家リチャード・カーティスがタッグを組んだ、『イエスタデイ』は、伝説的なバンドグループ「ビートルズ」のいない世界を描いたコメディドラマ。スタイリッシュでテンポの良い編集を得意とするアカデミー賞ノミネート編集技師ジョン・ハリスが、『127時間』、『T2 トレインスポッティング』(2017)と続いて担当をしています。
主演はイギリスのテレビドラマで活躍しているヒメーシュ・パテル、共演に『ベイビー・ドライバー』(2017)、『マンマミーア!ヒア・ウィ・ゴー』(2018)のリリー・ジェームズが出演しています。また、エド・シーランが本人役で出演し、楽曲を提供したことでも話題になりました。
映画『イエスタデイ』のあらすじとネタバレ
イギリスの小さな海辺の町サフォーク。シンガーソングライターのジャック(ヒメーシュ・パテル)は、ミュージシャンを夢見て、スーパーマーケットでアルバイトをしながら、ライブ活動をしていました。
しかし、幼なじみで親友のエリー(リリー・ジェームズ)のサポートも虚しく全く売れませんでした。
そんなある日、ライブ活動の帰り道、ジャックは「この長旅はもう終わりだ」とエリーに告げ、帰宅します。
ジャックが自転車で帰宅している途中、突然停電が起き、全世界に12秒間の暗闇が訪れ、自転車を漕いでいたジャックはバスにはねられてしまいます。
病院で目覚めると、幸いなことに前歯を2本折っただけで無事でした。
退院後、ジャックは友人たちから退院祝いに新しいギターをプレゼントされ、何か一曲弾いてくれと頼まれたジャックは、誰もが知るビートルズの『Yesterday』を演奏します。
友人たちはそれを聞き、「なんて素晴らしい曲だ、いつ作ったの?」と絶賛します。ジャックは「ポール・マッカートニーだよ。知っているだろ?」といいます。
その夜、衝撃的な出来事に戸惑いが隠せないジャックは、ネットで「The Beatles」を検索しますが、出てくるのはカブトムシについてだけでした。
それどころか、「ジョージ・ハリスン リンゴ・スター」、「ポール・マッカートニー」、「ジョン・レノン」など、一切のビートルズに関係するものが世界から消えています。
これをチャンスだと考えたジャックは、記憶を頼りにビートルズの楽曲の数々を演奏します。
しかし、パーティーやバーで演奏をしますが、周りは一向に耳を傾けません。
ビートルズの曲は完璧なのに売れないのは自分に魅力がないからだ、と諦めかけていたところに、ジャックの演奏に感動したギャビンという男から、無料でレコードさせて欲しいと頼まれます。
ギャビンの元で録音した楽曲をCDにして、働いているスーパーで無料配布していたことから、地元のテレビ出演を依頼されます。
そして、その放送をたまたま見ていた有名ミュージシャンのエド・シーランにワールドツアーの前座として出演して欲しい、と頼まれます。
二つ返事で引き受けたジャックは、家族友人たちのお祝いパーティーの場で、エリーがジャックのことをずっと好きだったことを知りますが、その場を誤魔化してうやむやにしてしまいます。
モスクワで行われたエドのツアーに参加したジャックは『Back in the U.S.S.R.』を歌い、見事ライブを成功させます。
ライブの演奏を裏で見ていたエドに、「互いに10分で新曲を作って披露し、どっちが優れているか観客に選んでもらわないか?」と、勝負を挑まれます。
そして、ジャックは『The Long and Winding Road』を演奏し、エドに「君は僕より才能がある。僕はサリエリ、君はモーツァルトだよ。」と感嘆されます。
ジャックは、それを偶然聞いていたエドのマネージャーのデボラにスカウトされました。
ロサンゼルスで契約後、ジャックの人気はたちまち急上昇し、町中では熱狂的なファンに追いかけられ、音楽業界を圧巻。
しかし、ビートルズの楽曲でどんどん有名になっていくジャックは、その罪悪感と、いつか気付かれるかもしれないという不安がどんどん募ります。
そんな中、どうしても『Penny Lane』、『Eleanor Rigby』、『Strawberry Fields Forever』が思い出せないジャックは、その曲で歌われているリヴァプールを訪れます。
リヴァプールに滞在中、エリーがジャックのもとを訪ねてきます。
彼女をデートに誘い、良い雰囲気になりますが、エリーは一夜限りの関係になることは嫌だとジャックの部屋から去ります。
翌朝、目覚めたジャックはエリーに自分の気持ちを伝えるため、エリーを探し、彼女と再会します。
しかし、デボラからロサンゼルス行きの飛行機に直ぐに乗るように電話がかかってきたため、エリーに気持ちを告げることができないまま、その場を後にし、ジャックはレコードとツアーの日々に戻ります。
ある日のレコード中、『Hey Jude』を『Hey Dude』に変えるのはどうかという議論の途中でエリーから電話がかかってきます。その内容は、エリーとギャビンが付き合うことになったということでした。
そして、ジャックの地元サフォークでライブが行われることになり、ジャックはそこで『Help!』を歌います。
ライブ後、楽屋にリズとレオという男女が訪ねてきます。その二人は、ジャックと同様にビートルズのことを覚えていたのです。
二人はジャックに「ビートルズをこの世界に残してくれてありがとう。ビートルズがいない世界はとても退屈だ。」と伝え、非難せずむしろ感謝していたのでした。
そして、リズは「これがきっとあなたの助けになるわ。私たちも調べてみたの。」と言い、ジャックに1枚の紙切れを渡します。
映画『イエスタデイ』の感想と評価
ビートルズがいない世界は退屈でつまらない
『イエスタデイ』は、リチャード・カーティスの見事なストーリーとユーモア、そしてダニー・ボイルの素晴らしい編集、楽曲のセンスによって人生の意義の普遍的なテーマに沿った、とても心温まる作品に仕上がっていました。
ビートルズがいない世界という設定の着眼がまず素晴らしいです。
ビートルズがいない世界にはビートルズの影響を受けている有名ロックバンドの「Oasis」は存在していないのは勿論ですし、そのほかにも数多くのミュージシャンやカルチャーが存在していないのです。
しかし、明らかにビートルズの民族音楽をアレンジするという影響を受けているアーティストのエド・シーランが出演していることには驚きました。
ダニー・ボイルとリチャード・カーティスの魅せる遊び心
さらに素晴らしいのは、リチャード・カーティスの脚本です。
ビートルズの熱狂的大ファンのカーティスの書いた脚本には遊び心から様々なビートルズネタが多く使われています。
例えば、ジャックのセリフで出てくる「長い旅の終わり」は『The Long and Winding Road』の歌詞の一節ですし、入院した際にジャックがエリーに言う「64歳になっても必要としてくれる?」というセリフはビートルズの楽曲『When I’m Sixty Four』、ジャックがレコードの際にプロデューサーに要求する「すすり泣くギター」は楽曲『While My Guitar Gently Weeps』が元ネタになっています。
それだけでなく、エド・シーランの「僕はサリエリ、君はモーツァルト」、ローリング・ストーンズを検索した際のセリフ「Still Rolling(存在している)」など素晴らしいセリフの数々にカーティスのセンスの良さを感じます。
それを支えるのは、ダニー・ボイルの遊び心あふれる独特でスタイリッシュな編集技術と現代を皮肉った視点です。
特に印象に残っていることは、ジャックがリヴァプールを訪れたシーンで、曲に合わせてリヴァプールでビートルズに縁のある観光地と、エリーとジャックの恋の行方が、さながらロードムービーの様にテンポよく展開していきます。
ジャックの1stアルバム『One And Only』には、ボイル監督の「今は一曲に他人の曲を使ったり、何人も共演したりするよね。昔は違ったけど。」という皮肉が聞こえてくる気がします。
音楽とファンサービスによるストーリーの演出
ジャックが演奏する楽曲の選択も素晴らしいです。
ジャックが歌っているのに周りが騒々しく邪魔をしているシーンで『Let it be』、ジャックが苦悩するシーンで『Help!』を使うセンスの良さは本当にお見事としか言いようがないです。
最後には、タイトルの『Yesterday』に対し『Today』と出して、ジャックとエリーの幸せな家庭を映す演出には感涙しました。
また、78歳のジョン・レノンが登場するシーンにビートルズファンは涙すること間違いなしでしょう。
この様に、ファンサービス溢れる素晴らしい展開とセリフの数々、そして飽くことなくテンポよく見られる作品に仕上がっているのは、ダニー・ボイルとリチャード・カーティスという遊び心溢れる二人だからできたのでしょう。
そんな、ビートルズファンは間違いなく、ビートルズを知らない方も純粋なラブコメディとして楽しめる作品となっていました。
まとめ
「ビートルズがいない世界はこうなっていただろう」というユニークな作品の『イエスタデイ』はタランティーノ監督の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019)のように観賞後、爽やかな感動を与えてくれる作品となっていました。
また、ビートルズファンの方はもちろん、ビートルズを知らない方にも是非鑑賞して欲しい作品です。
もし、ビートルズに興味を持ち、知りたくなった方がいれば、ロン・ハワード監督の『ザ・ビートルズ EIGHT DAYS A WEEK The Touring Years』(2016)
シンガーソングライターのセス・スワースキーが監督、プロデュースをした『ビートルズと私』(2011)
など、様々なビートルズ関連のドキュメンタリー作品がありますので、合わせて観てはどうでしょうか。