鬼才デイヴィッド・リンチの不朽の名作が4K修復版でよみがえる
第53回アカデミー賞にて、作品賞、主演男優賞、監督賞など主要8部門ノミネートされた、1980年製作の『エレファント・マン』。
この不朽の名作が本国公開から40年を迎えるにあたり、デイヴィッド・リンチ監督自身の監修により、デジタルリマスター化。
より鮮明な映像でよみがえった、『エレファント・マン 4K修復版』として、2020年7月10日(金)より新宿ピカデリーほか全国にて緊急公開されます。
CONTENTS
映画『エレファント・マン 4K修復版』の作品情報
【製作】
1980年(アメリカ・イギリス合作映画)
【4K修復版日本公開】
2020年
【原題】
The Elephant Man
【監督・共同脚本】
デイヴィッド・リンチ
【製作】
ジョナサン・サンガー
【製作総指揮】
スチュアート・コーンフェルド、メル・ブルックス
【脚本】
クリストファー・デボア、エリック・バーグレン
【撮影】
フレディ・フランシス
【編集】
アン・V・コーツ
【キャスト】
アンソニー・ホプキンス、ジョン・ハート、アン・バンクロフト、ジョン・ギールグッド、ウェンディ・ヒラー、フレディ・ジョーンズ
【作品概要】
19世紀のロンドンに実在した、“エレファント・マン”と呼ばれた青年ジョゼフ(ジョン)・メリックの生涯を、彼を取り巻く人々の交流を交えて描いたヒューマンドラマ。
長編デビュー作『イレイザーヘッド』(1977)でセンセーショナルを巻き起こしたデイヴィッド・リンチ監督の名を、さらに世界中に轟かせることとなりました。
日本では1981年5月に公開され、国内外合わせたその年の全公開作品の中でナンバーワンの配収を記録。社会現象とも言える一大ブームを巻き起こした本作が、本国公開から40年を迎える今年、リンチ自身の監修により4Kデジタルリマスター版としてよみがえります。
映画『エレファント・マン 4K修復版』のあらすじ
19世紀のロンドン。
優秀な外科医トリーヴズは、見世物小屋で“エレファント・マン”と呼ばれる青年ジョン・メリックと出会います。
異形の体を持つメリックの姿を目にしたトリーヴズは、好奇心から彼を研究対象として自分が勤める病院で預かることに。
言葉を発することなく怯えるメリックを、最初こそ周囲は知能が低い人物と思っていましたが、日が経つにつれ、彼が知性溢れる穏やかな性格の持ち主と知ることに。
その後、メリックの存在は話題となり、舞台女優のケンドール夫人を始め、上層階級者が彼の元を訪れるようになります。
そのうちトリーヴズは、自分も形を変えた見世物小屋の興行師と同じなのではないかと悩みはじめ…。
映画『エレファント・マン 4K修復版』の感想と評価
多種多様のスタッフが異形の人を描く
本作『エレファント・マン』は、ヴィクトリア朝のロンドンに実在した、“エレファント・マン”と呼ばれた青年ジョセフ・メリックが主人公です。
全身に著しい変形や膨張が見られる病気、通称「プロテウス症候群」を抱えた彼の激動の人生を描きます。
本作は、1973年にメリックなどの異形の身体を持つ人たちを綴った『Very Special People(とても特別な人々)』を読んだ脚本家のクリストファー・デボアが、友人のエリック・バーグレンとともに執筆した草案がベースとなりました。
監督には、77年のデビュー作『イレイザーヘッド』がカルト的人気を呼んでいたデイヴィッド・リンチが名乗りを上げ、彼も手直しに関わった脚本が完成するも、『エレファント・マン』というタイトルからモンスター映画と勘違いされてか、映像化に意欲を示す映画会社が見つかりませんでした。
そんな中、『ヤング・フランケンシュタイン』(1974)、『サイレント・ムービー』(1976)、『メル・ブルックスの大脱走』(1983)などのコメディ作品を数多く手がけてきた、俳優にして監督のメル・ブルックスが製作を買って出ます。
しかしながらブルックスは、自分が製作に関わったということが公になると、観客に「この映画もコメディなのでは」と誤解させる恐れがあるとして、スタッフクレジットでは名前を出していません。
また、撮影監督には『息子と恋人』(1960)でアカデミー撮影賞を受賞したフレディ・フランシスを起用。
映画監督としてイギリスのハマー・フィルム社で、フランケンシュタインやドラキュラが登場するホラー映画を手がけてきただけあって、ホラーテイストな演出も盛り込んでいます。
本作をモノクロ映像にしたのは、「モノクロには観客を現実世界から引っ張り出す力がある上に、産業革命時代のヴィクトリア朝イギリスを描くのに最適だった」というリンチの狙いから。
こうして、様々な経歴を持つスタッフによる、異形の人を描いたドラマは誕生しました。
ドラマに血肉を与える名優が集結
キャスト陣も演技派を揃えました。
メリックを導くトリーヴズ医師役は、後年『羊たちの沈黙』(1991)でアカデミー主演男優賞を獲得するアンソニー・ホプキンス。
続編の『ハンニバル』(2001)、『レッド・ドラゴン』(2002)での狂気を宿したハンニバル・レクター役のイメージが定着したホプキンスですが、本作ではレクターとは真逆な、慈愛の心を持つ医師を熱演しています。
実はそのレクター役にキャスティングされたのは、本作での彼の演技を観た監督のジョナサン・デミの意向からという逸話があります。
トリーヴズの知人で、メリックに演劇の素晴らしさを伝える舞台女優のケンドール夫人を演じたのは、『奇跡の人』(1962)でアカデミー主演女優賞を受賞したアン・バンクロフト。
私生活ではメル・ブルックスの妻だった彼女は、脚本を読んで感銘を受け、夫に製作を勧めるとともに、自身も出演を熱望しました。
そして、本作のキーパーソンとなるメリック役に、『ミッドナイト・エクスプレス』(1978)でアカデミー助演男優賞にノミネートされたジョン・ハート。
ハートは早朝5時にスタジオ入りし、およそ8時間かけて特殊メイクを施し撮影に臨みました。
メイクで口を開くことができないため、食事も卵とストローを使ったジュースだけの簡易的なメニューで済ませるなど、撮影は困難を極めたそうですが、その細やかな演技が評価され、本作で二度目のオスカーノミネートをはたしています。
ちなみにコメディ演技にも定評があり、ブルックスが監督した『メル・ブルックスの珍説世界史PART I』(1981)、『スペースボール』(1987)にも出演しています。
まとめ
参考映像:デイヴィッド・リンチ監督のインタビュー
「『エレファント・マン』というタイトルを聞き、頭の中で小さな爆発が起こった気分となり、直感で“これだ!”とすぐに分かった」
今回の『エレファント・マン 4K修復版』公開に合わせたインタビューで明かしたように、「エレファント・マン」というタイトルに惹かれて監督することにしたという経緯は、いかにもデイヴィッド・リンチらしいといえます。
2006年製作の『インランド・エンパイア』も、たまたま会話していた相手がアメリカのインランド・エンパイアという地域の出身と聞き、その地名から映画化を思いついたという逸話があるほど。
昔から、直感やインスピレーションを大事にする人物であることに変わりはないようですが、その一方で、「リンチ作品は一度観ただけで理解することは難しい」ともよく評されてきました。
ただ本作は、難解とされるリンチ・ワールドが全開していく以前に作られたということもあり、人ならざるフリークスとして扱われる者の悲哀や、人間の尊厳や実存とは何かをストレートに問いています。
ジェンダー、人種、価値観など、さまざまなダイバーシティ(多様性)が叫ばれる昨今において、あらためて観ておく作品なのは間違いないでしょう。
映画『エレファント・マン 4K修復版』は、2020年7月10日(金)より新宿ピカデリーほか全国にて公開。