ハーモニー・コリン監督『ザ・ビーチ・バム(原題:The beach bum)』
今回ご紹介するのは作家、映画監督、俳優とマルチな才能を持つ独創的な芸術家、ハーモニー・コリンの映画『ザ・ビーチ・バム(原題:The beach bum)』です。
前作『スプリング・ブレイカーズ』と同様、ビーチが舞台の本作はファンの期待を裏切らない、ポップで少し狂気混じり、そして哀愁こもる詩的な作品となっています。
映画『ザ・ビーチ・バム(原題:The beach bum)』の作品情報
【製作】
2019年(アメリカ映画)
【原題】
The Beach Bum
【監督】
ハーモニー・コリン
【キャスト】
マシュー・マコノヒー 、アイラ・フィッシャー 、スヌープ・ドッグ 、ザック・エフロン、ジョナ・ヒル 、ステファニア・ラヴィー・オーウェン 、マーティン・ローレンス 、ジョシュア・リッター 、ジミー・バフェット 、バーティ・ヒギンズ 、リッキー・ディアス 、リア・ヴァン・ダール
【作品概要】
ラリー・クラーク監督作品『KIDS/キッズ』(1995)で19歳の時に脚本家としてデビュー、それから『ガンモ』(1997)『ミスター・ロンリー』(2007)と一度観たら忘れられない個性的な作品を作り続けているハーモニー・コリン。
今回コリン監督のもとには豪華な俳優たちが集まりました。
主演は『ダラス・バイヤーズ・クラブ』(2013)でアカデミー賞、ゴールデングローブ賞ともに主演男優賞を受賞、『ウルフ・オブ・ウォールストリート』(2013)や『インターステラー』(2014)と大作に出演し続けているマシュー・マコノヒー。
主人公の妻を演じるのは『華麗なるギャッツビー』(2013)『グランド・イリュージョン』(2013)のアイラ・フィッシャー。
テレビドラマ「ハイスクール・ミュージカル」シリーズで一世を風靡、アイドル的イメージを覆す役に挑戦し続け、シリアルキラーのテッド・バンディ役に挑んだ『Extremely Wicked, Shockingly Evil and Vile』(2019)の公開を控えているザック・エフロンや、『Mid90s』(2018)で監督デビューを果たしたコメディ俳優ジョナ・ヒル、またスヌープ・ドッグやジミー・バフェットというミュージシャン達も出演しています。
映画『ザ・ビーチ・バム』のあらすじとネタバレ
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— The Beach Bum (@beachbummovie) 2019年3月31日
フロリダのビーチ。
詩人のムーンドッグは、ヒッピーなスタイルでゆっくりと次の本の執筆に取り組みながら日々過ごしています。
彼は素朴でカリスマ的魅力があり、地元では伝説的存在。
しかしそんな彼の元に裕福な妻ミニーから電話が。
娘のヘザーが近々結婚するので結婚式に来てくれと頼まれます。
ミニーはムーンドッグの友人であり歌手のランジェリーと恋人関係にありました。
ムーンドッグは案の定、ヘザーの結婚式にいつも通りアロハ柄のセットアップで現れた上に遅刻し、新郎をからかいます。
呆れ顔をするヘザーですが、ミニーは「パパは特別な存在なのよ」と諭します。
パーティーの途中ムーンドッグとランジェリーはハイになり、さらにランジェリーはジャマイカ産の強力な大麻を見せます。
ウェディング・ケーキカットも終わりパーティーも終盤、ムーンドッグは妻のミニーとランジェリーがキスをしているところを目撃し、驚いた彼は噴水に飛び込み、泳いだ後逃亡してしまいました。
近くのバーで客に絡んでいるところに追いかけてきたミニーと合流し、彼らは夜の街や桟橋を歩いてロマンチックな時を楽しみます。
しかしドライブ中に事故を起こし、ムーンドッグは軽傷で助かったものの、ミニーはそのまま亡くなってしまいました。
ミニーの遺志で、財産の半分はヘザーに、そして残りは、ムーンドッグが“まとも”な生活を送るようになり本を書き上げることができたら、彼の元へ行くと言います。
それまでは、遺産はすべてヘザーが預かると。
その仕返しとしてムーンドッグは、ホームレスを数人引き連れてミニーの邸宅へ行き、物を破壊して暴れ回りました。
映画『ザ・ビーチ・バム』の感想と評価
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— The Beach Bum (@beachbummovie) 2019年3月30日
軽やかでポップな音楽や鮮やかな色使い、可愛らしく洒落た造形と混在するのは醜悪や破壊。
ハーモニー・コリン監督作品の洒脱な映像表現の背後に広がっているのは底のない虚無や哀愁でしょう。
竜巻で破壊された街に止まり混沌と過ごす住人たちを描いた初期作品『ガンモ』は、どこもかしこも錆び付いた街並み、潜行する狂気に知らず知らずがんじがらめにされた人々とバディ・ホリーの名曲『Everyday』を始めとする音楽のミスマッチ具合がひどく不安定な印象を与えます。
自分という存在を葬り、他人としての人生を送るモノマネ芸人たちの姿を描いた『ミスター・ロンリー』はメランコリックで美しい作品ですが、神を信じる者たちの死や他人に成り代わって生きても訪れる孤独や悲しみが鋭利に突き刺しました。
ティーンに人気の女優たちを起用した狂騒的な作品『スプリング・ブレイカーズ』はネオンの色彩にビーチのパーティーと過激な印象を与えますが、やはり死が付きまとい、戻れない人生の旅路が示唆されています。
本作『ザ・ビーチ・バム』も舞台はフロリダ、大麻に酒と主人公は快楽的な生活を送りやりたい放題。
妻ミニーが「彼は特別」と言う通り、カリスマ的な不思議な魅力がありますが、一匹狼の放浪者。
彼の一挙一動はどこか厭世的な考えを超えて、日々の瞬間瞬間にただ存在し続けるという印象を与えます。
それでもコットンキャンディ色の空は終始美しく、カラフルで優しい色使いの中で悲しみや虚しさを描くことができるのは、コリン監督ならではでしょう。
映画が想起させるのは日本の詩人、寺山修司の詩。
「どんな詩人が自分の書いた海で泳ぐことができるというのだろう」
劇中の、心から自由なムーンドッグは文字通り、また彼の人生を通して“自分の書いた海で泳ぐことができる”そんな詩人です。
彼が空を仰いで名前を呼ぶのは、不思議な関係を通し続けた最愛の妻ミニー。
富には執着せず、ずっと本能の赴くままに生きる詩人。
その姿を愛で包み込んだ本作は、ハーモニー・コリン監督作品の中でひときわロマンチックな映画といえるでしょう。
まとめ
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— The Beach Bum (@beachbummovie) 2019年4月3日
名優マシュー・マコノヒーの奇抜な姿や、ザック・エフロンのイメージがガラリと変わった姿、大麻にビーチ、際どい会話ばかりと異彩を放つ本作『ザ・ビーチ・バム』。
しかし“詩”という芸術のあり方と、空や海のように寄り添う恋人や親子の愛情をほろ苦く描いています。
知らずに溜まっていた鬱憤や、やりきれない孤独や虚無感も、ハーモニー・コリンの手にかかれば突飛な美しい映画へと変わります。
骨の髄から自由な詩人ムーンドッグに、ぜひ劇場で会ってみてください。