2018年11月3日(土)テアトル新宿、シネ・リーブル梅田他全国順次公開される、映画『十年 Ten Years Japan』。
是枝裕和監督が才能を認めた、5人の新鋭監督たちが描く、十年後の日本の姿が描かれています。
高齢化、AI教育、デジタル社会、原発、徴兵制…。
私たちの“未来”は変えることが出来るのでしょうか!?
今回は、映画『十年 Ten Years Japan』のオムニバス作品の中から、原発をテーマにした『その空気は見えない』をご紹介します。
CONTENTS
映画『十年Ten Years Japan』の作品情報
【公開】
2018年 (日本映画)
【エグゼクティブプロデューサー】
是枝裕和
映画『十年Ten Years Japan』とは
香港で社会現象となったオムニバス映画『十年』を元に、新鋭監督達が自国の抱える問題点を軸に10年後の社会・人間を描く、日本、タイ、台湾の国際共同プロジェクト「Ten Years International Project」。
釜山国際映画祭2017での製作発表以来、世界中のメディアから注目され、『ブンミおじさんの森』のアピチャッポン・ウィーラセタクンが監督として参加したタイ版が、第71回カンヌ国際映画祭で特別招待作品として選出されるなど、世界から注目されている本プロジェクト。
日本版のエグゼクティブプロデューサーは、日本映画界を牽引する映画監督・是枝裕和。
杉咲花、國村隼、太賀、川口覚、池脇千鶴ら実力派俳優たちが各作品に集結しました。
是枝監督の最終ジャッジのもと、脚本のクオリティ、オリジナリティ、将来性を重視して選ばれた5人の新鋭監督たちが描く“5つの未来”を通じて、今、日本が抱えている問題、これからの私たちの未来が鮮明に見えてきます。
池脇千鶴主演『その空気は見えない』の作品情報
【監督】
藤村明世
【キャスト】
池脇千鶴、三田りりや、田畑志真
【作品概要】
監督はCO2(シネアスト・オーガニゼーション大阪)助成作品『見栄を張る』(2016)が注目を集め、全国ロードショーされた藤村明世。
原発事故後、地下生活を送る人々の生活をテーマにした作品です。
地上の世界への憧憬がしだいに大きくなっていく少女と彼女を守ろうとする母親を三田りりや、池脇千鶴がそれぞれ演じ、少女の友人役を田畑志真が演じています。
映画『その空気は見えない』のあらすじ
原発による大気汚染から逃れるために地下の世界に住む少女・ミズキ。
ダンゴムシをみつけたので、母に報告すると、母は「虫はとってもあぶないの!」と血相を変えて飛んできました。「上から来たかもしれない」と母は心配そう見上げ、地上の世界は危険だと言って聞かせます。
カエデという少女と仲良くなったミズキは、彼女から地上の話を聞き、まだ見ぬ世界へ強い憧れを抱くようになります。
カエデは、上の世界には太陽というものがあるのだと語り、「見てみたくない? 一緒に来る?」とミズキを誘いますが、母のいいつけを思い出しミズキは断ります。
しかし、カエデが残していった自然の音が吹き込まれたテープを聴いて、ミズキは上の世界への憧れをどんどん膨らませていきます。そんなミズキを見た母は…。
映画『その空気は見えない』の藤村明世監督とは
1990年生まれ。明治学院大学文学部芸術学科にて映画を専攻。在学中に撮った作品『彼は月へ行った』が第36回ぴあフィルムフェスティバルに入選。仙台短編映画祭2014や、第6回下北沢映画祭などでも高い評価を得ます。
CO2(シネアスト・オーガニゼーション大阪)助成作品に選ばれた『見栄を張る』(2016)は、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2016長編コンペティション部門にてSKIPシティアワードを授賞するなど各方面に高く評価され、全国ロードショーされました。日本のみならず、海外での評価も高まってきています。今後の活躍がもっとも期待される若手監督のひとりです。
映画『その空気は見えない』出演の池脇千鶴とは
1981年大阪府生まれ。1997年、第8代“リハウスガール”としてデビュー。1999年、市川準監督の映画『大阪物語』で映画デビューを果たし、その瑞々しい演技で多くの新人賞を獲得しました。
2001年、NHK連続テレビ小説『ほんまもん』に主演し、国民的人気を博します。
2004年には映画『ジョゼと虎と魚たち』に出演。足の不自由な少女を熱演して高い評価を得ました。
2014年の『そこのみにて光輝く』(呉美保監督)では主人公と運命的な出会いを果たすヒロイン、千夏を演じ、第38回日本アカデミー賞優秀主演女優賞を獲得しました。
その他、『ストロベリー・ショート・ケイクス』(2005/矢崎仁司監督)、『パーマネント野ばら』(2010/吉田大八監督)、『凶悪』(2013/白石和彌監督)など多数の映画作品に出演しています。
本作では母親役を務め、子役の三田りりやを貫禄の演技で支えています。
映画『その空気は見えない』の感想と評価
メルトダウンという、起きてはならないことが起こってしまい、人々は地下へと避難し、地上からのものが落ちては来ないか不安を抱えながら生活しているという光景がいきなり突きつけられます。
子どもたちは、コンクリートの広場で遊んでいます。太陽のない世界は暗く、殺風景ですが、子どもたちにとってはそれが当たり前の世界。“世界”とはこうした場所だと、小さな子どもたちは疑うことを知りません。
三田りりやが演じるミズキもそんな一人。しかし、地上の記憶を持っている年上の少女カエデ(田畑志真)から、こことは違う世界があることを知り、さらに太陽という存在を知ることで、その新しき世界への想いがどんどん強まっていきます。
それは子どもにとっては当然の反応であり、成長の証です。「ここではないどこかへ」の憧れは、常に少年少女の心に灯るもので、多くの小説や映画の題材にもなってきました。
池脇千鶴扮する母のふるまいに、娘を手元に留め、羽ばたくことを許さない、極度に過干渉の母親像を読み取ることもできるでしょう。
映画はそんな身近な親子の問題を普遍的なものとして内包しつつ、「原発事故」によって余儀なくされたこの世界での親子関係を冷静に見つめています。
こんな状況では母親を”過干渉”なんて非難することはできません。「可愛い子には旅をさせよ」とはいかないからです。地上に出てしまえばたちまち放射能を浴びてしまうことになるわけですから、親は子どもを絶対に外へ出すわけにはいかないのです。
一方で、先に述べたように子どもが未知の世界へと興味を持つのは自然の成り行きです。他者から情報を得ることも、社会に属しているなら当然のこと。知ってしまえば、見たくなるものです。
そうしたものを一切遮断するなんて出来るでしょうか?
アメリカ映画『ブリグズビー・ベアーズ』(2017/ディブ・マッカリー監督)のように、誘拐した赤ん坊を自分たちのものにし続けておくため、その子をずっと家の中に留めおいて、自分たち以外の誰とも接触させず、他の事柄に関心をもたせないよう、オリジナルな楽しみを制作し与え続けるというようなことでもしない限り到底ムリな話です。
そういえば、この『ブリグズビー・ベアーズ』の誘拐犯は、外は汚染されていて出たら死んでしまうという虚偽を子どもに話して聞かせていました。
行ってはいけないと言われれば言われるほど行ってみたくなるもの。子どもたちにとって、この地下生活が素晴らしいわけがなく、知ってしまった新しき世界に行くことを禁止されることのストレスも大変なものでしょう。
池脇千鶴が放つ「お母さんが守ってあげる」という言葉に嘘はありません。ですが、子どもたちをそのような境遇にしてしまったのは一体誰なのでしょうか?それは大人たちではないのでしょうか。
こんな状態になる前に守ってあげなくてはならなかったのではないでしょうか。
『その空気は見えない」は短い作品ながら、大きなメッセージを伝えてきます。
まとめ
『その空気は見えない』では、子どものささやかな日常生活が繊細なタッチで描かれています。
どんな時でもどんな場所でも子どもは好奇心と冒険心の塊です。
そうした子供の世界をしっかりと見つめることで、子どもの大切な世界を奪ってはいけないと映画は静かに警告しています。
『十年 Ten Years Japan』の惹句の一つに「未来とは今を生きること」というのがあります。子どもたちが将来幸せになるために、今、何をしなければいけないのか、何を守らなければならないのか、多くの人に映画は問いかけています。