もうすぐ、高校生や大学生の最高学年は卒業を迎える3月ですね。
今回ご紹介するカナダ映画『天使にショパンの歌声を』は、そんな別れの季節にぴったりの女性の優しく、そして力強く別れに向き合う作品。
クラシックのピアノ曲とともに別れの調べを奏でる、レア・プール監督作品をご紹介します。
映画『天使にショパンの歌声を』の作品情報
【公開】
2017年(カナダ映画)
【脚本・監督】
レア・プール
【キャスト】
セリーヌ・ボニアー、ライサンダー・メナード、ディアーヌ・ラバリー、バレリー・ブレイズ、ピエレット・ロビタイユ、エリザベス・ギャニオン、マリー・ティフォ
【作品概要】
日本ではスマッシュヒットを飛ばした『天国の青い蝶』や『翼をください』のレア・プール監督が、今作では第18回ケベック映画祭にて、作品賞・監督賞・主演女優賞・助演女優賞・衣装賞・ヘアスタイリング賞の最多6部門受賞した作品。
転校してきた女子生徒アリス役をライサンダー・メナード務め、彼女をはじめ、出演者は全員吹き替えなしで演奏や合唱をみせ、ショパンの「別れの曲」、リストの「愛の夢」などの名曲クラシックが劇中で披露して物語を盛り上げています。
映画『天使にショパンの歌声を』のあらすじとネタバレ
カナダのケベックにある寄宿学校。修道院によって経営される女子学校では、今日も少女たちの澄んだ歌声が響き渡っています。
校長オーギュスティーヌが音楽教育に力を入れた名門校として、前回のピアノコンクールでは念願の銀メダルを獲得しています。
しかし、名門校とはいえ、修道院による運営が財政困難となり存続の危機に直面しています、
近代化を推し進める政府が公立学校が増加させて、転校する生徒が相次ぎ経営が圧迫しているのです。
そんな折に、修道院の総長は体制を見直し始め、採算の合わない女子学校を閉鎖することを考えました。
総長は新しいピアノ購入や音楽会のチケット代などの出費が加算でいるオーギュスティーヌの学校に目を付けて、縮小のやり玉にあげます。
ある日、オーギュスティーヌの姪のアリスが母親に連れられて転校してきます。
音楽家で放浪癖のあるアリスの父は養育の当てにならず、アリスの母は生活のために音楽教師として働きたいと、娘アリスをオーギュスティーヌが校長の学校に預けたいと言うのです。
オーギュスティーヌはアリスを女子生徒として受け入れと、彼女の天性のピアニストの才能を見出して期待をかけます。
しかし、両親に見捨てられたと思い込んでいるアリスは、頑なに傷ついた心を固く閉ざしていました。
一方で修道院の総長から音楽教育を止める代わりに、女子生徒には良妻賢母として育成していく教育の実施を強いられたオーギュスティーヌ。
しかし、オーギュスティーヌは、「高い理想を持てと生徒たちに言っています」と総長には向かい拒絶します。
映画『天使にショパンの歌声を』の感想と評価
この作品の中で、レア・プール監督は女性たちを通して多くの“別れ”の様子を描いています。
物語の中心にある、時代の流れに伴い政教分離で寄宿学校の廃校に追い込まれたことで、同志のシスターたちや女子生徒たち別れが、まずはありますね。
そのほかにも主人公オーギュスティーヌの中絶による身ごもった赤ん坊の命との別れ、それをきっかけに修道女になった外界との別れ、彼女の禁断の恋人と別れもあるのでしょう。
また、姪のアリスは病床での母との別れもあります。
なぜ、オーギュスティーヌとはあれほどまでに、校長を務めた学校が守りたかったのでしょうか。もちろん自身も金メダルを取った過去があり音楽教育の素晴らしさをしてのことは言うまでもありません。
しかし、深読みをすれば、中絶の悪夢にうなされ、「また、あの夢か」と繰り返している彼女の様子や心を蝕んだ強烈な過去がありました。
愛する人の赤ん坊を身を持って育てようとしたはずなのに、オーギュスティーヌは、その命を葬り去った心境はいかほどでしょう。
そして、辛く憔悴しきる彼女を支えたのもまた、修道院の親密なシスターたちであったのではないでしょうか。だからこそあの場所を守りたかったのかもしれません。
また、総長があれほどまでに、オーギュスティーヌは協調性がないと忌み嫌うのは、彼女の音楽の才能、そして身ごもった赤ん坊がいた事実への嫉妬と憎悪でしかないのだと思います。
そのことはあくまでも想像でしかありませんが、映画の終盤にオーギュスティーヌが姉と和解することにその点が見られるような気がします。
オーギュスティーヌに姉が娘アリスを託したのは、姉もまた病気で先立つことで外界と別れを決意です。
オーギュスティーヌの辛さを理解した姉が妹を許した優しさに、それぞれの女性が思いを重ね合う愛の場面だと思います。
また、この作品は音楽演奏も見せ場の一つですが、レア・プール監督は、「音楽は思考を解放するものであり、集中力の鍛錬にもなり、より良い人間を作っていく」と語り、出演者のオーディションでは演奏力や歌唱力のできる俳優にこだわったそうです。
特にアリス役のライサンダー・メナードの演奏するショパンの「別れの曲」は必見。“別れ”を描くことがテーマを伝える重要さを内面的に感情を爆発させているように思います。
さらにレア・プール監督は、「女性にとって、少女から大人へ変革を遂げる時というのは非常に大事な時期、(中略)自分にとっても大事な時期でしたし、すべての女性にとってもそうなのだと思います」述べています。
アリスをはじめ、女子生徒たちの日常の姿や様子にも、この作品は注目したい見どころです。
まとめ
この作品では、時代に翻弄されつつも覚悟を決めた修道女たちが、40年間も着用してきたローブを捨てて、新たな服に着替える場面がとても印象的です。
これは時代の変化を見せたものですが、ある意味では“それまでの習慣との別れ”と取ることができるでしょう。
レア・プール監督は、この大切なシーンについて、ひとりひとりが思いをかみしめながら演じてほしいと伝えたそうです。
それによってシスターたちそれぞれは、自身の背負った人生をここで見せています。
この場面では、解放と捉えるシスターもいれば、悲劇だと感じたシスターもいました、修道院という場所は女性にとって安息の場所の一つであったのは間違いありません。
とても美しいシーンをレア・プール監督は見せてくれました。
さて、オーギュスティーヌの母親になりたかった思い、修道院や出産の様子を見ていて、映画の内容は全く異なりますが、2014年に公開された『あなたを抱きしめる日まで』を思い出しました。
『あなたを抱きしめる日まで』(スティーブン・フリアーズ監督作品)
実話がもとで映画化された作品で、50年前という時代背景もあり、まだ女性が自由でない頃に、一方的に不貞だと決めつけられて母親になれない姿を思い起こしました。
ご興味のある方は、こちらの映画もぜひご覧ください。何か女性の思いを強く感じられるかもしれません。
レア・プール監督は現在、母親受刑者とその子どもを取材した長編ドキュメンタリー『Double Sentence(原題)』の撮影を終えたそうです。
やはり、一貫して女性を見つめる姿勢に強い美しさを感じます。また、「ET AU PIRE ON SE MARIERA(原題)」の映画化を2017年に予定。ますます、精力的なレア・プール監督から目が離せませんね。
最後になりましたが、クラシックファンのために映画に挿入された楽曲リストをご紹介します!
主な挿入曲のリスト
ショパン「別れの曲」、リスト「愛の夢 第3番」、バッハ「平均律クラヴィーア曲集 第1巻~第2曲 ハ短調」、バッハ「半音階的幻想曲とフーガ ニ短調」(ピアノ演奏:ライサンダー・メナード)
ショパン/ジャン・ロワゼル「悲しみ(別れの曲)」(歌:エリザベス・トレンブレイ=ギャニオン、ピアノ演奏:ライサンダー・メナード)
モーツァルト「アヴェ・ヴェルム・コルプス」、ヴィヴァルディ「グローリア ニ長調」、ドビュッシー「家なき子たちのクリスマス」、フォーレ「レクイエム~「楽園へ」」、パーセル「ディドとエネアス~「ディドの嘆き」」、モーツァルト「幻想曲 ハ短調」、ハイドン「ピアノ・ソナタ第35番 ハ長調」、メンデルスゾーン「無言歌集~第2曲 嬰ヘ短調」、モーツァルト「ピアノ・ソナタ第10番 ハ長調」、ラヴェル「ピアノ協奏曲 ト長調」、ベートーヴェン「ピアノ・ソナタ第5番 ハ短調」
『天使にショパンの歌声を』は現在公開中!都内では2月24日まで、角川有楽町シネマと YEBISU GARDEN CINEMAにて公開中。順次全国の劇場にて公開です!
ぜひ、時代に翻弄されつつも、覚悟を決めた女性たちの美しい姿を、お見逃しなく!