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『Be Here Now』あらすじ感想と評価解説。インディーズ映画界の新鋭監督が初長編作品で描く‟不器用な人間たちのピンボケな人生”

  • Writer :
  • 桂伸也

映画『Be Here Now』は2023年5月にアップリンク吉祥寺で公開後、9月16日(土)より大阪シアターセブンにて限定公開!

インディーズ映画界の新鋭・西本達哉監督が初の長編に挑んだ映画『Be Here Now』

人生の指針を見つけられない一人の青年が、あるきっかけで今まで抱いたことのない自身の気持ちに気づいていくことから、不器用な生き方をする人間が出会いやきっかけで変化、成長する姿を映し出します。

西本監督曰く「出会ったり別れたりすることが大人になっても下手くそな人たち」を描きたかったという映画『Be Here Now』。

2021年に『島ぜんぶでおーきな祭 -第13回沖縄国際映画祭-』の「クリエイターズ・ファクトリー2019」で上映されたのち、2023年5月にアップリンク吉祥寺で公開。そしてついに、9月16日(土)より大阪シアターセブンでの限定公開が決定されました。

映画『Be Here Now』の作品情報


(C)Film X

【日本公開】
2023年(日本映画)

【監督】
西本達哉

【脚本】
西本達哉、牛島礼音

【キャスト】
北垣優和、川野美怜、藤井千帆、米川幸リオン、小夏いっこ、田中美晴、伊藤ももこ、四柳智惟、櫻井保幸、石川大樹、進藤チヨ、斎藤さらら、万田邦敏

【作品概要】
大学卒業を間近に、大人になりきれない青年がとあるきっかけで人生に目覚めていく様を描いた長編映画作品。

本作を手がけたのは、処女作である短編『ナナちゃん、Oh mein Gottしよ♡』がゆうばり国際ファンタスティック映画祭2018で入選し、2019年には沖縄国際映画祭「クリエイターズ・ファクトリー」のU-25映像部門でグランプリを受賞した西本監督。本作が長編デビュー作となりました。

またインディーズ映画で多数主演を務めてきた北垣優和が主演を務めます。

映画『Be Here Now』のあらすじ


(C)Film X

女性にだらしがなく、自身の目標も見つからないままに灰色の人生を送る大学院生の大村。

ある時、旧友の訃報を受けて地元に帰り、懐かしい顔ぶれと再会します。

そんな仲間と時間を過ごし、旧友の死んだ理由を考えるうちに、大村はうだつの上がらない生活を送っていた自らの生き方を、改めて見つめ直すことになりました。

映画『Be Here Now』の感想と評価

(C)Film X

「学生」というモラトリアムの時間にすがる主人公・大村。

女性との付き合い方もだらしがなく、自分の将来にも興味が持てないながらも卒業間近にはゼミの先生に「とにかく何でも通すから、論文を書いて」と言われる始末。なんとなく進んでいく人生に、いつも生気のない表情を見せています。

本作はそんな不毛な日々過ごす主人公の大村が、「友人の死」という一つのハプニングをきっかけに自身の内面に大きな変化を見せていく“再生”の物語といえます。

しかしその大筋には「どこかで聞いたことのあるような話」という印象がある一方で、時代的な変化を考えると引っかかるポイントが見えてきます。


(C)Film X

日本のバブル期、卒業後に就職を希望する大学生は引く手あまたの売り手市場……ある意味では、大学生活の「モラトリアムの時間」というイメージは、この時期にできたようにも感じられます。大村が作中序盤で見せる表情には、この時代の人間を彷彿するイメージも見えてきます。

一方、バブル崩壊後は、リーマンショックや震災などの大きな動きを経て大学生の就活状況は芳しくなくなり、今という時代に生きる大村の表情は、時代遍歴から照らし合わせるとあまりイメージできない印象であるはずですが、本作には不思議と違和感を覚えません。

しかしながら、その理由は決して複雑なものではありません。

「さまざまな時代の変化の中で、世を担っていく若者が見えない将来に流され、現実を受け入れられないがゆえにモラトリアムな時間を過ごしはするものの、一つの大きなきっかけで“自分の人生を自分自身で切り開く”という意志を持とうとする」という大村の作中での姿は、いつの時代においても普遍的な“人生の重要な瞬間”であるからです。

ありふれた、しかし何よりも普遍的な“人生の重要な瞬間”を描いた映画『Be Here Now』。単なる「どこかで聞いたことのあるような話」の一言では片付けられない本作の物語は、作中の大村がそうであったように、観る側に自身の生き方を見つめ直させる“きっかけ”を作ってくれるはずです。

まとめ


(C)Film X

大村は友の死の理由を突き詰め、考えた挙げ句にある一つの結論にたどり着き、奇抜かつ大胆な行動に出ます。その決断は、側からすれば“まともな考え方”から少しズレたものに見えるかもしれません。

本作について、西本達哉監督は「出会ったり別れたりすることが大人になっても下手くそな人たちを描きたいと思いました」と明かしており、ある意味ではその意図は、この大村の決断が持つ“ズレ”と合致しているのかもしれません。

本作の『Be Here Now』というタイトルの元ネタは、恐らくイギリスのロックバンド「オアシス(OASIS)」が1997年に発表した同名アルバムであり、彼らのリリースした音源の中でも大きな物議を醸した問題作でもあります。

「今、ここにいる」というあまりにストレートな言葉が冠された本作は、それゆえに多くの人々の心に届き、多くの形で受け取られる作品であるといってもよいでしょう。

映画『Be Here Now』は2023年5月にアップリンク吉祥寺で公開後、9月16日(土)より大阪シアターセブンにて限定公開!



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