映画『タクシー運転手 〜約束は海を越えて~』は、4月21日(土)よりシネマート新宿ほか全国ロードショー。
1980年5月に起きた実際の出来事である、韓国近代史に大きな爪痕を残した悲劇と言われる光州事件の真相を描いています。
真実を追い求めた独りのドイツ人記者と、その彼を乗せた光州に向かったタクシー運転手のヒューマンドラマとは?
CONTENTS
1.韓国映画『タクシー運転手 約束は海を越えて』の作品情報
【公開】
2018年(韓国映画)
【原題】
A Taxi Driver
【監督】
チャン・フン
【キャスト】
ソン・ガンホ、トーマス・クレッチマン、ユ・ヘジン、リュ・ジュンヨル
【作品概要】
1980年5月に韓国で起きた多数の死傷者を出した光州事件を潜入取材を試みたドイツ人記者と、彼を現場まで送り届けたタクシー運転手の実話を基に描いた、未だ韓国の闇として知られる事件を描いたヒューマンドラマ。
『義兄弟』や『高地戦』で知られるチャン・フン監督が演出を務め、主人公の人懐っこいタクシー運転手マンソプ役を韓国の名優ソン・ガンホが務め、『戦場のピアニスト』などで知られるトーマス・クレッチマンがドイツ人記者ピーター役を演じています。
『タクシー運転手 約束は海を越えて』のあらすじ
1980年、日本の東京。ドイツ人記者ピーターは、同業の集まりでビールを呑みつつ、日本での平穏の日常にどこか物足りなさを感じていました。
ピーターの記者魂は平和に飽き足らず、何かスクープをあげたい野心を抱いていたからです。そんな彼は、記者仲間の情報から出た韓国の光州のキナ臭い話に興味を抱きます。
やがて、ピーターは韓国の金浦空港に降り立つと、記者であることを隠し、宣教師と偽り入国しました。
ピーターはソウル在住のジャーナリスト仲間の紹介で、タクシー運転手をチャーターします。
食堂でランチを食べていたマンソプは、「光州まで行ったらお金がもらえる」という、他のタクシー運転手の話を盗み聞いた彼は、一足先に出し抜き、ピーターを自分のタクシーに強引なまでに搭乗させました。
ドイツ人記者ピーターを乗せたマンソプは、カタコトの英語しか分からぬまま、一路、光州市を目指します。
大切な一人娘に新しい靴を購入してあげる甲斐性もなかったマンソプは、これで高額なタクシー代を受け取れると、ご満悦でハンドルを握ります。
2人は高速道路を光州に向かうと、途中で検問封鎖に出くわしますが、マンソプは機転を利かせて軍の検問を切り抜けます。
やがて、無事に光州にたどり着きます。
しかし、閑散とした光州の街並みや住民たちの様子に、少しづつ状況の異変を感じるマンソプは、「危険だからソウルに戻ろう」と言い出します。
記者であることを隠していたピーターは、マンソプの言葉に一切耳は貸しません。
ピーターは偶然に出会った英語を話せる大学生のジェシク、そして気持ちの優しいファン運転手の助けを借りて、光州事件の様子をつぶさに撮影し始めました。
しかし、光州の状況は徐々に激しさを増していきます。その深刻な事態にタクシー代は要らないとまで言い出し帰ろとするマンソプ。
深刻化する光州事件の真ん中で焦りは頂点に達しますが…。
『タクシー運転手 約束は海を越えて』の感想と評価
韓国の光州で起きた実際の事件をモチーフに
1980年の光州では、軍事独裁政権の物々しい言論統制を引いていたなか、そこで起きている真相を単独で取材し、全世界に5.18光州事件の実情を伝えた実在した記者ユルゲン・ヒンツペーター。
そして、彼を自分のタクシーに搭乗させ、光州の中心部に入った平凡な一市民で、取材後にヒンツペーターもさ行方を知ることのできなかったキム・サボク。
実在した2人は今では故人となりましたが、彼らが肌で感じた当時の光州の悲劇の真相をコミカルかつ、シリアスに描いた作品です。
マンソプ役の名優ソン・ガンホ
タクシー運転手のマンソプ役を演じたのは、韓国を代表する俳優で、韓国の映画人から最も信頼されている俳優の1人であるソン・ガンホ。
彼は常に味のある演技が印象深い役者で『殺人の追憶』 (2003)や『大統領の理髪師』(2004)に出演をし、また、2013年公開の『スノーピアサー』では、クリス・エヴァンスと共演を果たしました。
ガンホはマンソプを演じるにあたり、次のことに気を使うように演技をしたそうです。
「平凡なタクシー運転手であるマンソプは私たちと同じ1人の人間であり、一市民だ。重要な決断や選択をしたと言う姿よりも、“お客さんを連れて帰らないと”という彼のセリフを見られるように、タクシー運転手という1人の人間として、彼が守ろうとした道理を表現するために努力した」
ガンホの演じたタクシー運転手マンソプは、決して強いヒーローのような男ではありません。
ソウルにいた記者ピーターを自分のタクシーに搭乗させようとした目先の大金目的や、仲間を出し抜いた行為など見れば分かりますが、お調子者でいい加減な性格の一面もあります。
しかし、光州に着いてからは彼の深層にある人間性が良くも悪くも露呈していきます。
アジアの異国で単独取材を行うドイツ人記者ピーターや、無条件にマンソプを手厚く扱ってくれる同業のタクシー運転手テスル、また、若くて夢のある大学生ジェシクと出会ったことをきっかけに、自分のなすべき行動を決めていきます。
それがガンホが言う、“お客さんを連れて帰らないと”という約束ごとに、タクシー運転手としての仕事に責任感を持つことでした。
当時の軍事独裁政権を断行する政府や軍人を前にしてみれば、小さな考えと行動ですが、返ってそれに誠実さ示すことが1人の人間の価値であり、道理なのだと思い起こさせてくれます。
何もかもが信じられない酷い悲劇の状況下で、ソウルの11歳の娘に思いを馳せながらも、タクシー運転手のマンソプという自身に与えられた役割をこなす小さな行動に目頭は熱くなるはずです。
『タクシー運転手』のメイキング特別映像
映画『タクシー運転手』公開されると、撮影現場の様子がわかるメイキング特別映像が公開されました。
200メートルを超えるオープンセットには、当時の街並みを再現するCGIの合成用のブルーバック貼られていたりと映画ファンには撮影の裏側を知れる貴重な映像になっています。
また、演出を果たしたチャン・フン監督のナレーションで始まり、ソン・ガンホをはじめとしたキャストによるメッセージ映像や、タクシー運転手マンソプに扮したソン・ガンホ、ドイツ人記者ピーター役のトーマス・クレッチマン、光州のタクシー運転手役のユ・ヘジン、光州の大学生役のリュ・ジュンヨルといった4人のキャラクターについての解説や、撮影現場の意気込みが見ることもできます。
人望のあるガンホが撮影のオフ日にも積極的に現場に顔を出し、「いいね」とスタッフやキャストを楽しい気分にさせたり、へジンに早口の演技を求めたり、ジェスチャーで謎の指示サインを送り撮影現場を和ませている様子は、まさに、役割を弁えたマンソプの演技プランに似た、ガンホ自身の魅力ある人柄を感じさせます。
まとめ
本作の主演を務めたソン・ガンホですが、彼は歴史的事実を表現するに自分が値するのかとプレッシャーを感じて、当初出演オファーを断った経緯もあったようです。
しかし、2010年公開の『義兄弟 SECRET REUNION』以来のチャン・フン監督とのタッグや、俳優仲間として20年来の交流のあるユ・ヘジンと共演を楽しんだことは、メイキング映像からも見て取れます。
ソン・ガンホは「素晴らしい監督、俳優、スタッフ陣との撮影は、私に幸せを与えてくれた。私が感じたその幸せが観客の皆さんにも、そのまま伝われば嬉しい」と語り、まさに、一市民であるマンソプのように、映画の役割に務めた一俳優だといえるでしょう。
この映画を鑑賞した後、光州事件について調べてみると、映画には登場していませんが、実際には軍用ヘリから光州市民を銃撃した行為が本当にあったとを韓国政府は認めています。
そのような韓国にとっては、今なお深い傷である歴史的事実があったことを、一端でも本作『タクシー運転手』は知ることができます。
大きな力の前に一市民は無力のように思われますが、目の前のことに目を背けなかったマンソプのように、役割分担の誠意を尽くすことで何かが変わっていくのが社会なのかもしれません。
主演のソン・ガンホはそのように伝えてくれたような気もします。
ガンホ主演の映画『タクシー運転手 〜約束は海を越えて~』は、4月21日(土)よりシネマート新宿ほか全国ロードショー。
ぜひ、お見逃しなく!レッツゴー光州!!