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Entry 2018/10/19
Update

映画『ここは退屈迎えに来て』あらすじネタバレと感想。ラスト結末も

  • Writer :
  • 西川ちょり

圧倒的共感を呼んだ山内マリコの傑作小説が、名監督&新世代豪華キャストにより待望の映画化!

夢とあこがれの青春時代とその後も続く人生を描いた『ここは退屈迎えてに来て』をご紹介します。

映画『ここは退屈迎えに来て』の作品情報


(C)2018「ここは退屈迎えに来て」製作委員会

【公開】
2018年(日本映画)

【原作】
山内マリコ『ここは退屈迎えに来て』 (幻冬舎文庫)

【監督】
廣木隆一

【キャスト】
橋本愛、門脇麦、成田凌、渡辺大知、岸井ゆきの、内田理央、柳ゆり菜、瀧内公美、亀田侑樹、片山友希、木崎絹子、マキタスポーツ、村上淳

【作品概要】
山内マリコの同名小説を橋本愛、門脇麦を主演に迎え映画化。劇団「MCR」の主催者で、テレビドラマ「相棒」などで知られる櫻井智也が脚本を手がけ、廣木隆一が監督を務めた。

地方都市に住む20代の女性たちの姿を「椎名君」という一人の男性を軸に交差させて描いた痛くて切ない群像劇。

主題歌とサウンドトラックは登場人物世代を代表するバンド、フジファブリックが描き下ろした。

映画『ここは退屈迎えに来て』のあらすじとネタバレ


(C)2018「ここは退屈迎えに来て」製作委員会

2013年
27歳の「私」は高校を出ると東京に出ましたが、10年が経ち、東京生活に見切りをつけて地元に戻ってきました。

フリーライターとしてタウン誌にグルメ記事などを書いている「私」は、カメラマンの須賀と組んだラーメン店での取材を終え、須賀の運転する車の中で、とりとめもない話をしていました。

須賀もかつてはカメラマンを目指し東京に出たことがあるのですが、今は故郷に戻り、フリーのカメラマンをしています。彼は東京に未練たらたらの様子です。

「私」が、高校時代に仲が良かったサツキと偶然出逢い高校時代にみんなの憧れの的だった椎名君に会いに行こうと盛り上がって、今から行くのだと言うと、須賀は自分も行くと言い出しました。

商店街の角でサツキを拾い、須賀の運転する車で、椎名君が今勤めている自動車教習所に向かいます。

道中、懐かしいゲームセンターを見つけたので立ち寄ってみると、高校時代の同級生の新保が一人、ゲームをしていました。こっちにずっといるの?と問われた新保は「たまたま帰省中」だと応えます。

今から椎名君に会いに行くのだと話すと、昔、椎名はここの店長やっていたんだと新保は言うのでした。今の仕事も新保が紹介したのだということが発覚します。

たまたま二人とも気持ちがすさんでいた時に偶然出会って少しだけつるんでいたときがあったんだ、と語る新保。「そうか、まだ仕事続いているんだ」と彼はぼそっと呟きました。

一緒に行く?と誘いましたが、新保は断りました。立ち去ろうとする彼に「YUKO」って誰?とサツキが声をかけました。YUKOという名前でゲームをしているのを彼女はめざとくみつけていたのです。

新保は一瞬戸惑いましたが、すぐに笑顔になって言いました。「俺がYUKOだから」

2004年
朝子はまなみ先生の車に乗り、とりとめもないおしゃべりを続けていました。先生は家庭教師で、朝子は先生の家で勉強を教えてもらっているのです。

うちの家はとっても勉強できるような場所じゃない、まなみ先生の家に行くたび、ここだな、私を高めてくれるのはここだなと思うと朝子は言うのでした。

2008年
22歳の「あたし」は書店でのアルバイトを終えて、一瞬違う方に向かうそぶりを見せましたが、駐車場で待っている高校時代の同級生の遠藤の車に乗り込みました。

「あたし」は高校時代に椎名と付き合っていましたが、卒業後、椎名は大阪に行ってしまい、それからは音信不通の状態が続いていました。「あたし」は未だに椎名を忘れられずにいましたが、自分に好意を寄せる遠藤とラブホテルに入っていきました。

2010年
24歳の南とあかねは行きつけのファミレスでとりとめもない話で盛り上がっていました。あかねは10代の頃にアイドルとして東京で活躍していたのですが、今は地元に戻って来ています。ネットには悪い噂が書き込まれ、地元では出戻りと言われていると屈託のない様子で話す彼女ですが、いい相手をみつけなきゃと少々焦り気味です。そんなあかねを微笑ましくみつめる南はマイペースな様子です。

2004年
「私」は18才の高校3年生。サツキは、あかねが載っている雑誌を見て、見て見て!この娘、地元で同い年の娘だよ、と興奮を隠せない様子です。しかし椎名君と「あたし」が渡り廊下にいるのをみて、あの娘、椎名君によくまとわりついてない?ずうずうしいと不機嫌になってしまいます。

新保はおとなしい雰囲気の同級生たちと毎日つるんでいましたが、椎名からは名前のことで時々からかわれていました。

ある日の放課後、椎名を真似てサッカー部員が新保をからかっていると、椎名が駆け寄って彼にハンバーガー食べにいこうぜ、と声をかけてきました。

こんなこと初めてだったので、ドギマギする新保でしたが、やがて普通に彼らは話し始めました。「高校を出たらどうするの?」と椎名に訪ねますが、彼は特に何も考えていないようでした。「お前は?」と聞かれ、「とりあえず大学に行く」と応えると「お前頭いいもんな」と椎名は言うのでした。

同級生のなっちゃんは禿げ上がった中年男、皆川と(援助)交際中です。運転する皆川をなっちゃんはさんざん挑発し、車はラブホテルに入っていきました。

ラブホテルの近くのマンションのまなみ先生の部屋で朝子は勉強を教えてもらっていました。休憩時間に先生の蔵書の写真集を開いて、「こんな写真集地元では手にはいらないよ」と言うと、先生は「そういうのが好きだったら東京の大学に行けば?」と言います。

でも両親にこないだそのことを話したら反対されたと肩を落とす朝子に先生は「私も親に大反対されて行けなかったの。でも、本当に行きたかったら誰が反対しようと行っていたと思う。本気がたりなかったのね、きっと」と言うのでした。

「後悔してる?」と問う朝子に「すごいしてるよ」と応える先生。朝子は「絶対東京の大学に行く」と先生に向かって言うのでした。

そんな朝子を校舎の前で待ち伏せている同級生がいました。椎名君にラブレターを渡して欲しいと彼女は言います。自分で渡せばいいじゃんと言うと、そんなことすればすぐに上級生に呼び出しをくらうと彼女は応えるのでした。

朝子は椎名の妹でした。渡り廊下で“あたし”といる兄に「兄さんってガールフレンドいなかったよね」と言って朝子は手紙を渡しました。

ある日の放課後、「私」とサツキは椎名君から「ゲーセンに行かない?」と誘われ有頂天になります。ビリヤードを教えてもらい、夢のような楽しい時間を過ごしました。

いつの間にか椎名君と二人きりになっていた「私」は「高校を出たらどうするの?」と尋ねました。「何かやりたいことあるの」と椎名君は逆に質問してきました。「何者かになるのが私の夢」と応えると、「俺はずっと高校生のままがいいな」と椎名君は応えるのでした。

2013年
「いつになったら私は何者かになれるんでしょうね」と「私」は須賀の運転する車の中でつぶやいていました。

「私」たちが通った高校が見えてきました。「私」とサツキは校庭から校舎を眺め、写真を撮る須賀にポーズをとってみせました。

「みんな元気~~?」

「私」とサツキは顔も知らぬ校舎の中にいるだろう後輩たちに向かって楽しそうに手を振りました。

2004年
プールサイドの掃除をしていた「私」はその場におかれていた文庫本の詩集を手に取りました。すると新保が現れました。彼の文庫だったのです。

新保は「私」に椎名君と付き合っているのか?尋ねてきました。「付き合ってないよ。なんで?」と応えると、「あいつ目立つから知らないうちに目で追いかけるってことあるじゃない。それで二人が目にはいって付き合っているのかなって」と新保は応えました。

「そうみえたなら良かった」と「私」は思わず口にしていました。「そう見えただけなんだもん」という新保に「そう見てて」と「私」は言うのでした。

ホテルのルームサービスが持ってきたピザと飲み物を皆川はこそこそと受け取り、「来たよ」とベッドで寝そべっているなっちゃんに声をかけました。

万札を差し出す彼にいらないと応える彼女でしたが、帰りの車中、「次はいつ?」と尋ねると、皆川は「今日が最後かもしれない」と言い出しました。親からお見合いを薦められていると彼は言うのです。もう47才だからな、という彼に「47才だったんだ」となっちゃんは笑いました。

でもなっちゃんを車からおろして「じゃぁ」とだけ言って去っていった皆川に対して「じゃあじゃねーし。じゃぁってなんだよ」となっちゃんは憤ります。

南とあかねはいつものようにファミレスでダベっていました。あかねは個人営業の不動産屋の男と付き合い始めたようでした。南があかねに雑誌を見せようとすると、電話がかかってきました。あかねのアイフォンの画面には交際相手の「皆川」の顔が表示されていました。

2008年
ラブホテルで事に及んでいた「あたし」は遠藤に「早く終わらせろよ」と怒鳴りました。

「あんた彼氏じゃないからね」と遠藤に冷たい言葉を浴びせる「あたし」。2005年、椎名君と付き合っていた頃のことが思い出されました。どこまでも椎名君を追っていくと言う彼女に、じゃぁ余計、車がいるじゃんと指摘する椎名君。「あたし」は車の免許を持っていません。

夜更けに目が覚めて、隣で寝ていた遠藤の鼻提灯をみてしまった「あたし」は「ムリムリムリ」と叫ぶと、あわてて服を身に着けてホテルを飛びだしました。

「誰かーーー!」と叫ぶ「あたし」。彼女が歩いていると、前から洗濯機を押してやってきたロシア人が「車ない、歩く、なぜ?」と絡んできました。「なぜ車ない。この時間ここ歩くおかしい」と言うロシア人。

困っているとやっとロシア人は離れてくれました。「あたし」はその時「はっ!」としました。椎名にとっての「あたし」って「あたし」にとっての「遠藤」じゃないよね。

「あたし」はフジファブリックの「茜色の夕日」を口ずさみ始めました。するといつの間にか、遠藤が車に乗ってすぐ後ろにきていました。「乗れよ」という彼に向かって「あたし」は叫びました。「遠藤! お金頂戴! 車の免許取る!」

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『ここは退屈迎えに来て』ネタバレ・結末の記載がございます。『ここは退屈迎えに来て』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。
2013年
ファミレスであかねは南に「私どう見える?」と尋ねていました。「くすんだ感じじゃない?」「大丈夫。仮にくすんでたって大丈夫」と応える南に「それがいやなんだよ」とあかねはいい、結婚生活のぐちを重ねます。

「私はいつもあかねを応援しているから」という南に、あかねは感謝し、「そういう南は彼氏とうまくいってるの?教習所の先生だったけ」と尋ねました。

南は結婚指輪を見せました。「ちょっと、なんで黙ってるのよ!」と言うあかねに南は微笑んで言うのでした。「椎名南になりました」。

「どんな人なの?」とあかねに問われ南は「つまらない男よ」と応えるのでした。

須賀に「東京には椎名みたいなのはいなかったの?」と問われた「私」は「いなかった」と応えました。「この橋を渡ったら教習所だ」と須賀が言いました。

「高校生のままだよね?」だれにも聞こえないよう、そっと「私」は呟きました。

2004年
プールサイドで「私」は新保と熱心に話していました。「新保くんはなりたいものあるの?」

「好きな人の中に存在し続けたいかな」と彼は応え、「なれないものになりたくなるんだよ」とはにかみました。

その時、後ろから椎名君が二人にしのびよって、二人をプールに落としました。それを発端にその場にいた生徒たちは次々、プールに落とされ、中には自分から飛び込むものもいて、あっという間にみんなはずぶぬれになり、水を掛け合ってはしゃぐのでした。

2013年
ついに椎名君に再会した「私」。須賀と一緒にあとからやってきたサツキは椎名君と「わたし」が二人でいる姿を見て足をとめます。そう、いつだって、「私」のほうが椎名君の近くにいた、と思ったのか、サツキは彼らの中に加わろうとしませんでした。

近況を語り終えたころ、椎名が仕事に呼ばれて立ち上がりました。こちらを見て彼が言った言葉は思いがけない言葉でした。

「すげーいいにくかったけど、ど忘れしちゃって・・・。名前なんだっけ?」

絶句する「私」。その頃、新保は「茜色の夕日」を歌いながら自転車を漕いでいました。歌っているうちに涙が出てきて、歌声は大きくなっていきました。

サツキは一人で座りながら「茜色の夕日」を口ずさみ、帰りの車の中で、「私」も「茜色の夕日」を歌っていました。

“映画『ティファニーで朝食を』のホリー・ゴライトリーは、”と「私」は考えを巡らせていました。

“何より大事なのは人生を楽しむこと、幸せを感じること、それだけです”と言っていた。それはなんとなく判る気がする・・・。

その頃、東京では。椎名君の妹の朝子が、マンションの屋上に上がっていました。スカイツリーがそびえる東京の風景をみつめながら朝子は呟きました。

「超楽しい」

映画『ここは退屈迎えに来て』の感想と評価

映画の冒頭、橋本愛扮する「私」は村上淳扮するカメラマンの須賀の運転する車に乗って、オードリー・ヘップバーンが主演した映画『ティファニーで朝食を』について考えを巡らせています。フロントガラスから見える風景は、郊外型の大型店やラーメン屋などのチェーン店で、日本中どこにでもあるような無個性な風景です。これほど退屈な風景もないというくらいの眺めが続いています。地方都市の今を象徴する風景です。

柳ゆり菜扮する同級生のサツキが加わってからは、カメラは車の正面に陣取り、ずっと長回しで彼らのおしゃべりする姿を撮っています。ただしゃべっているだけなのに飽きさせません。ここで彼らは「東京」への憧れや、「東京」への思慕、あるいは少し苦い思い出を吐露しているのですが、サツキが全てを「東京だからかっこいい」と結論付ける様が可笑しく、サツキがテンションをあげるにつれ、「私」が淡々としていく様が印象的です。

地方に住む人間にとってやはり「東京」とは特別な存在と言っていいでしょう。

「東京に行きたい」「東京に行って何者かになりたい」と一度でも一瞬でも過去に思い、それを果たせなかった人にとっては、本作はきりきりと胸に痛みを走らせる針のような存在で、またある人にとっては、背中を押してくれる救いとなる作品となることでしょう。

原作は短編集なのですが、脚本を担当した櫻井智也は、かつての同級生で学園の人気者だった“椎名くん”を軸に、大勢のキャラクターを時間軸をずらしながら描く偶像劇に仕上げました。地方都市に住む若者が抱えている問題や現状をそれぞれのキャラクターに背負わせて、様々な人生を浮かび上がらせることに成功しています。

廣木隆一監督は、そんな彼らの姿を長回しを多用して捉え、時にうーんと引いたカメラで撮り、時にはそっと寄り添い、そして時にはぐるりぐるりと回ってみせて、彼らの心情を顕にしていきます。若い人を描く作品に長回しは必須だと痛感します。

それにしても過去の高校時代のパートは尋常でない輝きがあります。青い澄み切ったプールに次々制服姿の少年、少女たちが飛び込む(ほとんどが押されてですが)姿を俯瞰で捉えたショットの煌めく美しさといったら!

ここは登場人物がある意味心の中で“美化”しているビジュアルなのですが、まさに映像はそれを具象化しており、鮮やかとしかいいようがありません。

時間軸をずらすことで、最初はまったく関係ないと思っていた人物の意外な関係がわかっていくのも効果的で、驚かされます。成田凌扮する椎名君は、誰もがこういうやつ学年に一人はいたなと思いあたる魅力的な人物である一方、高校を卒業して、制服を脱いだ途端輝きを失ってしまうある種の人物でもあります。

高校時代の「椎名」は「東京」と同列に位置する存在とも言えます。憧れと羨望の対象。“夢”の象徴なのです。東京に夢破れた「私」が、今度は「椎名」に会いに行くのは必然のことでしょう。何しろ、2つは彼女にとって同じ意味を持っていたからです。

ラスト、「私」は自身が経験したことに思いを巡らせながら、再び「ティファニーで朝食を」の主人公、ホリー・ゴライトリーに思いをはせます。そこで、彼女が語った言葉を理解できると「私」は感じます

「映画」を観るということが人生のヒントになる可能性について、考えずにはいられません。映画『ここは退屈迎えに来て』も誰かのホリー・ゴライトリーになる可能性はたっぷりあるのではないでしょうか。

まとめ

羨望と憧れを一身に集める存在として登場する椎名君というキャラクターが実に魅力的なのですが、彼を観ていてふと“部活を(さぼるけど)やめない桐島”という言葉を思いつきました。

もし椎名君が突然姿を消したら『桐島、部活やめるってよ』と同じくらい、回りはあたふたすることでしょう。それほどの存在だということです。

その後の大人になってからの椎名のオーラの消し方に成田凌の凄みを感じずにはいられなかったのですが、この『ここは退屈迎えに来て』の多くの登場人物にはそれぞれ”憧れ“の存在があります。

門脇麦扮する「あたし」は椎名を忘れられませんし、渡辺大知扮する新保くんも密かに椎名に憧れています。岸井ゆきの扮する山下南は、内田理央扮する森繁あかねに憧れているように見受けられ、木崎絹子扮する椎名の妹の朝子はまなみ先生にあこがれています。

誰かを愛おしく思ったり、誰かを見守りたいと思ったり、誰かのようになりたいという想いを持って人は生きていくのです。そこに地方と東京の違いは当然ながらなく、廣木隆一監督を始めとする制作陣の温かい眼差しを感じることが出来ます。

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