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【ネタバレ】駅 STATION|あらすじ感想と結末評価。高倉健の代表作して名作は“実直な警察官と孤独な女たちの愛”

  • Writer :
  • 谷川裕美子

孤独な男と3人の女達の出会いと別れ

北海道の厳しい冬と美しい夏を背景に、男女の出会いと別れを描くヒューマンドラマ。日本アカデミー最優秀主演男優賞を受賞した高倉健の代表作『駅 STATION』。

監督は降旗康男、脚本は倉本聰が担当。倍賞千恵子、いしだあゆみ、烏丸せつこ、宇崎竜童、古手川祐子、田中邦衛ら名優が顔を揃えます。

極寒の駅で繰り返される悲しい出会いと別れが、美しく厳しく映し出されます。昭和の男の美学を綴る本作の魅力をご紹介します。

映画『駅 STATION』の作品情報


(C)1981 東宝

【公開】
1981年(日本映画)

【監督】
降旗康男

【脚本】
倉本聰

【編集】
小川信夫

【キャスト】
高倉健、倍賞千恵子、いしだあゆみ、岩淵健、名古屋章、大滝秀治、八木昌子、池辺良、潮哲也、寺田農、渡会洋幸、高橋雅男、烏丸せつこ、根津甚八、宇崎竜童、北林谷栄、古手川祐子、田中邦衛、小松政夫

【作品概要】
北海道を舞台に男と女をはじめとするさまざまな人間模様を映し出す名作。監督は『鉄道員(ぽっぽや)』(1999)の降旗康男。ドラマ「北の国から」シリーズの倉本聰が、主演の高倉健のために書き下ろしたオリジナル脚本を映画化しました。

高倉健は本作で日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞。倍賞千恵子、いしだあゆみ、烏丸せつこ、宇崎竜童、根津甚八、古手川祐子、田中邦衛ら名優が勢揃いしています。

映画『駅 STATION』のあらすじとネタバレ


(C)1981 東宝

1967年。雪の降る北海道の銭函駅。警察官の三上英次は妻・直子と息子・義高に別れを告げます。オリンピック射撃選手でもある英次には、妻のたった一度の過ちも許せませんでした。

ある日、英次の上司が連続警察官射殺犯「指名22号」に射殺されます。英次は自ら犯人を追いたいと願いましたが、オリンピックを目前にしていた彼は捜査から外されてしまいました。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには映画『駅 STATION』ネタバレ・結末の記載がございます。映画『駅 STATION』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

1976年。妹が結婚した年、英次は赤いミニスカートの女だけを襲う通り魔を追っていました。容疑者は増毛駅前の食堂で働く吉松五郎。その妹・すず子を英次たちは尾行します。

射撃コーチを務めていた英次でしたが、あまりの厳しさに反発した選手たちに拒絶され、解任されてしまいます。

すず子はチンピラの雪夫の子を堕胎しますが、彼を愛していました。すず子を遊びの相手としか見ていない雪夫は、英次の捜査に協力すると申し出て、結婚するとすず子をだまし、兄に会わせてもらう約束を取り付けます。

その後、すず子と雪夫に会いに来た五郎は、その場で警察に取り囲まれ、逮捕されました。

1979年。4年間も刑務所の五郎に差し入れをしていた英次のもとに、五郎から感謝の手紙が届きます。そこには死刑執行が決定したことが書かれており、英次が手紙を手にした時にはすでに五郎はこの世を去っていました。

英次は正月に故郷の雄冬に帰ろうとしますが、嵐で連絡船は欠航しており増毛駅で足止めされます。駅前の食堂では変わらずすず子が働いていました。別の女性と結婚した雪夫は家族揃って彼女の前を通り過ぎます。

「桐子」という飲み屋に入った英次は、店を営む桐子が駅で見かけた女性だと気づきます。テレビで流れる八代亜紀の「舟歌」が好きだと言って聴き入る桐子。翌日の大晦日、映画を観に行った二人は身も心も結ばれました。

2人が連れ立って初詣に行くと、桐子を見つめる男がいました。英次は、彼が桐子の恋人だと気づきます。

天候が回復し、英次はやっと雄冬に帰郷しました。弟はこっそり直子と息子に会いに行ったと話し、英次に連絡先を渡します。英次は直子に13年ぶりに電話をかけました。

増毛駅で英次を桐子が出迎えました。札幌行きの列車に乗った英次は、これまでの過酷な仕事を思い返し、辞表を出す決心をしていました。

しかし、その後、増毛で「指名22号」のタレ込みがあったと聞き、英次はすぐ増毛に戻りました。初詣で桐子を見つめていた男が、「指名22号」の手配写真と同一人物だと気づいた英次は、桐子のアパートへ向かいます。

桐子は警察に通報する一方で、「指名22号」こと森岡を自分の部屋にかくまっていました。英次は桐子の目の前で森岡を射殺します。

英次は桐子の店を訪ね、最後に顔を見てから札幌に戻る列車に乗り込みました。同じ列車に、札幌で働くこととなったすず子の姿もありました。

映画『駅 STATION』の感想と評価


(C)1981 東宝

頑なな男のまっすぐな生き様

駅で繰り返される、女たちとの出会い、別れ、そして思い出が、厳しく美しく映し出される一作です。

ひとりの警察官の人生が淡々と綴られていきますが、前半部分を回収して最後に怒濤の展開を見せる脚本が見事です。倉本聰の真骨頂といえるでしょう。

主人公の三上英次は優秀な警察官で、オリンピック射撃選手として周囲の期待を背負っている男です。とても堅物な彼が、妻の一度きりの過ちを許すことができずに離縁するところから物語は始まります。

ほんの少し前のことなのに、まったく今と異なる日本が映し出されます

作品途中に挿入される、オリンピック選手・円谷幸吉の自殺のニュース。悲しい遺書が読み上げられるのを聞いて、英次は彼の心情を理解しますが、そこに漂うのは戦前戦後のような重苦しい空気です。「お国のために」の言葉のもと、個人が押しつぶされる悲しい時代でした。

英次は後年、指導者となって後輩を射撃指導しますが、その厳しさを受け入れてもらえずに反発を受け、解雇されます。時代に取り残される頑なさが英次にはありました

狙撃手として犯人を何人も殺めることとなった彼は、重荷に耐えきれず警察官を辞することを一度は決心します。増毛でのすず子との再会や、桐子との恋もその後押しとなりました。

しかし、上司を射殺した憎き「指名22号」森岡を見つけたことにより、状況は一変。森岡の情婦だった桐子の目の前で、英次は森岡を迷わず射殺します。

スナイパーとして背負った業に押しつぶされそうになり、一度はその世界を去ろうと決心した英次。しかし、桐子をまた寂しい女にしてしまった彼は、自分は決して変われないことを自覚したのではないでしょうか。

決して逃れることのできない己の業を受け入れた英次は、辞表を増毛駅のストーブで燃やします。

札幌行きの同じ列車に乗り込むすず子は、新たな人生に踏み出そうとしていました。彼女を見つめる英次もまた、再び人生をやり直すのだという熱い思いに燃えていたに違いありません。

寂しい女達のそれぞれの人生


(C)1981 東宝

本作に登場する女性達は、誰もが悲しい女ばかりです。

寂しい港町・増毛で飲み屋を営む桐子は、英次と出会い、すがりつくかのように身を任せます出会いの瞬間から悲恋になることが分かる、渋くて苦い大人の恋でした。束の間の休息を求め、必要以上にはしゃぐ姿は痛々しいほどです。

やがて、彼女の恋人が指名手配の凶悪犯で、英次にとって仇の男だとわかります。

恋人の情報を警察にリークしながら、その一方で男をかくまっていた桐子は、つじつまが合わないと警察に指摘され、「男と女ですからね」と答えます。その言葉の重み。さまざまな思いに引き裂かれそうになりながら生きてきた様が伝わってきます

英次に出会った日、八代亜紀の「舟歌」が好きだと笑って話していた桐子。しかし、すべて一変してしまってから聴く歌はただ切なく、ひっそり流す涙に胸が締め付けられます。

英次の元妻の直子は、多忙で不在がちな夫への寂しさから過ちを犯して離縁されます

13年後やっと雪解けが訪れますが、それは英次が弟から、直子が今も独り身で、ホステスをして生計を立てていると知らされたのが理由でした。厳しい現状を知った英次は苦悩の表情を見せます。

過ちを許せず、自分の人生から妻と子を切り離した英次。正しいとしても非情な行為です。女が一人で子供を育てるためには、水商売につくしかなかった時代に、それすら彼は想像せずにきたのかという驚きの感情が先立ちます。

一方、笑顔で涙を流しながら敬礼して英次のもとを去って行った直子には、すでに強い覚悟があったことでしょう。

もう一人のキーパーソンは、通り魔犯の妹・すず子です。彼女は兄をかばい続けましたが、逃亡中の兄に会いに行き、その場で兄は逮捕されてしまいます。警察の手引きをしたのは、彼女が思いを寄せていたチンピラ・雪夫でした。

警察からも周囲からも「トロい」と揶揄されながらも、兄を守ろうと懸命だったすず子の必死さと悲しみが胸に迫ります

兄・五郎が逮捕され、死刑となった後も、すず子は同じ食堂で働き続けます。英次は五郎が刑を執行されるまで差し入れを続け、すず子に対しても呵責を覚え続けます。

桐子と別れた英次は、乗り込んだ札幌行きの列車に、すず子も乗ることを知ります。とうとう新天地を目指して旅立つことになったすず子。彼女の新たな人生への旅立ちを見届けた英次は、やっと自分の人生に区切りをつけることができたのかもしれません

まとめ


(C)1981 東宝

高倉健が、人生の苦しみ悲しみを余すことなく表現した名作『駅 STATION』まっすぐ過ぎる男の13年間の愛と孤独の軌跡が綴られます。

女性の名のついた3つの章から成り立っています。どの女性も「孤独」という点で英次に共鳴しながらも、それぞれにたくましく自身の人生を歩んでいきます。

一時期を濃密に共に過ごしながら、また別々の道へと進んでいく。人生の儚さと煌めきを丁寧に映し出す珠玉の一作です。



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