名優・高倉健が演じる、
孤独な鉄道員(ぽっぽや)のもとに訪れた「奇跡」とは?
作家・浅田次郎が直木賞を受賞した短編小説を映画化した『鉄道員(ぽっぽや)』。
鉄道員として鉄道一筋で生き続け、定年を間近に控えた孤独な男が、年の瀬のある日に体験する不思議な出来事を描いたヒューマンドラマです。
高倉健が主演を務め、大竹しのぶ、小林稔侍、吉岡秀隆、広末涼子、志村けんら豪華面々が出演しています。
また監督を『駅 STATION』(1981)、『夜叉』(1985)、『ホタル』(2001)など数々の名作を手がけた降旗康男が務めています。
映画『鉄道員(ぽっぽや)』の作品情報
【公開】
1999年(日本映画)
【原作】
浅田次郎『鉄道員』
【監督】
降旗康男
【脚本】
岩間芳樹、降旗康男
【キャスト】
高倉健、大竹しのぶ、広末涼子、吉岡秀隆、安藤政信、平田満、中本賢、板東英二、本田博太郎、石橋蓮司、志村けん、奈良岡朋子、田中好子、小林稔侍
【作品概要】
日本を代表する名優・高倉健が主演を務め、第23回日本アカデミー賞にて、最優秀作品賞・最優秀監督賞・最優秀脚本賞を受賞。さらに最優秀主演男優賞を高倉健、最優秀主演女優賞を大竹しのぶ、最優秀助演男優賞を小林稔侍がそれぞれ受賞し、2000年の日本アカデミー賞をほぼ総なめにしました。
また志村けんが炭鉱員役として出演しており、本作は彼が「志村けん」名義で出演した唯一の実写映画作品としても知られています。
主題歌は、作曲を坂本龍一、作詞を奥田民生、編曲を国吉良一という豪華な面々が集結し、坂本隆一と矢野顕子の娘である坂本美雨が歌唱を務めています。
映画『鉄道員(ぽっぽや)』あらすじとネタバレ
北海道のローカル線「幌舞線」の終点・幌舞駅で駅長を務める佐藤乙松(高倉健)は、今年で定年を迎えます。
同期の杉浦仙次(小林稔侍)、鉄道会社に勤務するその息子・杉浦秀男(吉岡秀隆)は乙松の定年後について案じますが、本人は鉄道員以外やらないと心に決めていたのでした。
ホームの雪かきをする乙松は、もうすぐ1年生になると話す少女と出会います。そして人形を乙松に見せると、少女はどこかへと行ってしまいました。
幌舞線は乗客がほぼおらず、廃線が予定されていました。
鉄道員(ぽっぽや)一筋で生きてきた乙松は、仕事優先で妻の静枝(大竹しのぶ)の死に目にも立ち会うことができませんでした。亡くなる前の静枝は、病床で夫・乙松について「どこまでも、ぽっぽや」とつぶやいていました。
駅舎に戻ると、先日の少女が持っていた人形が置いてありました。
正月なので、おせちを持ってきた仙次と新年の挨拶を交わす乙松。仙次はリゾートホテルに定年後の行き先を決めていたので、乙松にも一緒に行かないかと誘ったものの、鉄道のことしか分からないのだと乙松は断るのでした。
持病持ちの乙松の後生を案じる仙次でしたが、乙松は取り合いません。
仙次は乙松の娘の出産時にも、自身の妻・明子とともに付き添った仲でした。その出産直後、静枝は「ぽっぽやになれないね」と口にしますが、乙松は娘の名前を「雪子」にしようとただ答えました。
しかし生後間もなく、幼い娘の雪子は風邪をこじらせて死んでしまいました。やはり仕事で病院に付き添えず、駅舎で知らせを受けた乙松は、雪子の亡骸とともに電車で戻ってきた静枝に責められました。
鉄道員として生きてきた、自身の人生について回顧する乙松。その時「もうすぐ中学生になる」という少女が、例の人形を忘れたからと言って取りにやってきました。
トイレに連れて行った後、あたたかい飲み物をあげた乙松。その少女にキスされて驚いているうちに「また明日も来るね」と言って去っていきました。
例の人形は、かつて雪子が生まれたばかりのころ、お祝いに乙松が店で買ってあげた人形によく似ていました。
映画『鉄道員(ぽっぽや)』の感想と評価
鉄道一筋の男の生き様を描き、その不器用でまっすぐな姿に古き日本の美徳を感じる作品でした。
真っ白な雪景色の中に鉄道員姿で佇む高倉健の姿は、まぎれもなく日本が誇る名優だと感じました。
巧みな構成がもたらす感動
本作は、定年間近の鉄道員の男が不思議な出来ごとに遭遇する中で、過去に思いを巡らせる構成になっています。この時間軸の構成の巧みさが、観る者に感動を呼び起こすのです。
はじめの回想の場面は、娘の雪子の墓前で妻の静枝らが泣き崩れる場面。その次は、静枝の死に際に立ち会えなかった乙松が病院で、仙次の妻に責められるも仕事に私情は持ち込めないのだと言いながら涙を流す場面です。
そのあまりに悲しいふたつの場面は、乙松の記憶に深く刻まれている苦しく悲しい思い出です。
その後、乙松が娘のために人形を買いに行った場面、炭鉱員・吉岡の息子・敏行との出会いなど、乙松の記憶に残る家族や大切な人との思い出が順に描かれます。
特に印象的なのは、静枝が乙松に妊娠を告げた場面です。17年かけてようやく子どもを授かることができた喜びと、その裏にあるそれまでの苦悩が現れる場面でした。
どのような思いで静枝が乙松を愛し支えていたのか、子どもをいかに待望していたのかがこの場面で分かり、もう戻ってこない妻と子への悲しみがなおさら胸に押し寄せるのです。
そして、本作における最後の「回想」の場面として描かれるのは、病気により入院が決まった静枝が乗る列車を、乙松が鉄道員として送り出した場面。そのまま亡くなってしまった妻に会いたい思い、がここで描かれています。
娘、妻との別れを先に見せ、後からその二人との情愛あふれる場面を挟みこむ、このように回想シーンが時系列に沿って登場しないことで、観客はより一層乙松の感情に寄り添うことができるのではないでしょうか。
最後にみた「夢」
本作における「死んだはずの娘が『自身の成長』を見せるために大きくなって帰ってくる」という物語。孤独な男に訪れた奇跡ともいえますが、これらの不思議な出来事は乙松が見た夢だと捉えることも可能です。
雪子が2度目に現れた時、直前まで仙次と酒を飲んですごしていた乙松は、傍らで熟睡する仙次と一緒に眠ってしまっていたとも考えられるからです。
高校生にまで成長した雪子と話す場面では、ホームで倒れ帰らぬ人となった乙松が最後に見た夢だとも考えられます。
また、高校生の姿で現れた雪子が鉄道マニアだったのも、幼くして亡くなった娘にも自分と同じように鉄道を愛していてほしかったという乙松の願いが、夢の中で現れた結果ととることもできるでしょう。
しかし、その出来事が現実と夢のどちらであったとしても、鉄道に人生を捧げた男の信念と情熱そして孤独を癒す、あたたかな物語に変わりありません。
まとめ
高倉健の鉄道員姿が、その佇まいだけでも「画」になることは、本作を観た誰もが感じとったはずです。不器用ながら鉄道と家族を愛するまっすぐな男を、彼以外は考えられない演技で魅せていました。
それと同様に、高倉健演じる乙松の妻・静枝役の大竹しのぶの計り知れない演技力と存在感を感じさせる作品でもありました。
17年かかってようやく子どもを授かり、それまでの苦悩と喜びを乙松と分かち合う場面は圧巻の一言につきます。涙と笑顔がまざり、不器用な乙松に唯一強気で物を言える愛らしい妻として、素晴らしい存在感を放っていました。
さらに同僚の仙次役を務めた小林稔侍や、その息子を演じた吉岡秀隆、広末涼子ら豪華面々の演技にも注目して観てみてはいかかでしょうか。