薬物で人生が崩壊する前にするべきこと「愛する者を手放す講座」1章~10章
薬物中毒になった弟に苦悩する、姉の姿を描いた『シックス・バルーン』をご紹介します。
麻薬は海外では合法的に認められているものもあるため、映画などでカジュアルに演出されることもありますが、かなり深刻化している問題の一つともなっていいます。
本作は麻薬から更生していく話しや、麻薬犯罪を扱う作品ではありません。
ヘロイン中毒になった弟を幾度となくフォローをして、裏切られてきた姉の姿を通し、肉親としてできる最善と限界を“1章から10章”で、あらわした作品です。
映画『シックス・バルーン』の作品情報
Netflix映画『シックス・バルーン』
【公開】
2018年(アメリカ映画)
【原題】
6 Balloons
【監督】
マリヤ=ルイス・ライアン
【脚本】
マリヤ=ルイス・ライアン
【キャスト】
アビ・ジェイコブソン、デイヴ・フランコ、ティム・マシスン、ジェーン・カツマレク
【作品概要】
Netflixアニメ「魔法が解けて」で、プリンセスの声を担当した、アビ・ジェイコブソンと「21ジャンプストリート」(2012)で、注目を浴び「グランド・イリュージョン」(2013)など多くの話題作に出演した、デイブ・フランコが姉弟の役で主演を務めます。
物語はヘロイン中毒の弟に関わる姉の状況を、第1章から10章までの段階で表現しています。
映画『シックス・バルーン』のあらすじとネタバレ
Netflix映画『シックス・バルーン』
「第1章:あなたは桟橋にいます。前にも来た場所で桟橋の先にはボートがあります。暗雲がたちこめ、強い風が吹き始め、海は荒れていますがボートに乗りましょう」
恋人ジャックの誕生日に、サプライズパーティーを企画しているケイティは、ジャックのために両親や友人の手を借りて、朝から買い物やパーティー会場の装飾に大忙しです。
しかし、そんなケイティには悩みの種がありました。それは弟セスのことです。
セスには2歳になった娘エラがいますが、妻とは離婚していて二人暮らしです。母親のガイルはエラに誕生日プレゼントを贈ったのに、何の連絡もないと愚痴をいいます。
ケイティはパーティー用の料理とケーキを取りに出かけようとすると、父親のゲイリーに「セスも一緒に拾ってきてくれ」と頼まれます。
「第2章:同じボートの中にいます。海水でボートは傷んでいます。出発する前に治すことを決めましょう」
セスの家に着くと玄関の窓からは、開封していない宅配の荷物や散乱した郵便物などが見えます。
ケイティは普通ならセスとエラを乗せて、料理とケーキをピックアップしたら、そのまま家に帰る予定でした。助手席のセスは落ち着きなくソワソワし始めます。
ケイティはエラへのプレゼントのこと、郵便物のことを“前回も”開封ぜず放置してあったといい、袖をまくって腕を見せるよう言います。
セスはケイティに「なぜ信じてくれない!?」と言って、2人は押し問答となりますが、「俺もつらい・・・」と、いうとケイティも「デトックスしなきゃね」と返すのでした。
ケイティはヘロインを常用しているセスに、たびたび悩まされていました。セスは更生していると思っている両親に、再び使用がバレてしまうことを恐れています。
ケイティはセスを利用した事のあるデトックス治療院に連れて行きますが、セスの持っている保険は職場が変わったと同時に、変更されたため使用できません。
少し離れた治療院であれば、その保険も使えると勧められますが、ケイティはバースデーパーティーの主催者なので戻らなければなりません。
運転代行を呼んで、セスを紹介された病院へ向かわせるのでした。
以下、『シックス・バルーン』ネタバレ・結末の記載がございます。『シックス・バルーン』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。
「第3章:また、同じ場所で同じボートに乗ります。操縦法を知らないと認めましょう。でも、動かせるのは自分だけだと言い聞かせ、こぎ出しましょう」
ケイティは後部座席でお昼寝中のエラを残し、着替えをしてケーキを受け取りに、再びで出かけようとしたその時、セスが向かった治療院から電話が入ります。
手違いでその医療施設では、治療ができないというのです。
「エンジンがあります。方向転換してみましょう。操縦不能です・・・漕ぐこともできません。沈んでしまうかもしれません・・・」
ケイティはセスを引き取りに行くと、酷い禁断症状が始まっています。
受付の看護師は受け入れ可能な、さらに遠い治療院の名前を告げ、ケイティはそこへ向かおうとします。
セスは全身に傷みを感じる禁断症状で苦しんでいます。受け入れ可能な治療院は遠く、セスはそこまで耐えられないと叫び、売人のいる場所に行ってくれと懇願します。
そうこうしているうちにバースデーパーティーは始まってしまい、ジャックはケイティの家にやってきて、仲間達のサプライズに歓喜していました。
その様子を動画で見たケイティはため息をつき、「どこへ行ったらいいの?」とセスに聞きます。
「第4章:ボートは浸水しています。沈まないようになんとかしましょう」
指示された場所は、ホームレスがねぐらにしている地域です。そこで売人の名前と特徴を聞いて、ケイティはヘロインを入手します。
それをセスに手渡しますが、それはそのままでは使用できませんでした。注射器が必要なのです。
セスは売人のいた場所で入手できると言いますが、それを拒むと混乱するケイティに、落ち着く間も与えぬほど興奮して、薬局に行ってほしいと叫びます。
「第5章:ボートはありません。残ったのは自分だけだと認めましょう。あなたは水の中にいて沈んでいきます。溺れそうです」
ドラッグストアで薬剤師のカウンターで順番を待っていると、そこにトイレに行きたいと言い出したエラを連れて、セスが入ってきます。
注射器を頼むと少し不信な顔をしますが、セスの様子を見た薬剤師は使うのは彼だと理解しました。
ケイティはトイレの鍵を貸してほしいと頼みますが、薬剤師は聞こえないふりをします。ケイティはエラのために声を荒げ、トイレの鍵を借りるのです。
セスはヘロインを打って禁断症状を押さえ、何ごともなかった様子になります。ケイティはジャックからの電話に出て、タイヤがパンクをして散々だったと嘘をつき家に帰ると告げます。
帰りの車の中でケイティとセスの2人は子供の頃の話しになります。父親の口癖を思い出します。
「愚痴を言うな、我慢しろ、大人になれ」
セスが言います。「母親の口癖は、おまえのせいで傷ついた。俺にいつもそう言った」
そして、ケイティに言います「今度は大丈夫だ。そんな気がするんだ・・・するべきことをするよ」と。
その時、外から花火の打ちあがる音が聞こえてきます。ジャックのバースデー花火が始まったようでした。
ケイティはセスを治療院に送り届けてから帰るつもりでいましたが、セスがパーティーに出たいと言い、ケーキ屋へ寄って自宅へと向かいます。
「第6章:海の真ん中にボートがあります。ボートを操れると自分に言い聞かせます。たとえ転覆したあとでも・・・誰にも気づかれないように」
ジャックは両親からセスのことを聞き、ケイティが嘘を言っていると気づいています。2人が話しているところに、ゲイリーとガイルがやってきてケイティを問い詰めます。
ケイティが言葉に詰まるとゲイリーは、ケイティを慰めようとします。
「私は大丈夫よ。私は大人だしセスも・・・みんなにしてもらうことは何もない」と言うと、ジャックは「誰もセスにできることはない」と突き放します。
「弟を見捨てろとでもいうの?」とケイティは絶望し、両親は「文句を言わず、自分で乗り越えてほしいと思ったが・・・」「あの子はいつも私を傷つける」というのでした。
「第7章:桟橋を歩くこと、操れないボートに乗ることもあなたが決めたことです。ボートの傷みも直しませんでした。陸地でボートが腐っていると言えたのに、あなたは助けを求めませんでした。手を差し伸べられても・・・今こそ手放しましょう」
ケイティはジャックに何かを言い、ジャックは「いいさ・・・いいんだよ。でも、いつか失くしてしまうよ。本当の意味で大切なものを」と、告げます。
ケイティはパーティー会場でセスを探し、見当たらずに焦りますがセスは車の中にいました。
ケイティはセスにどうしてこんなことになったのかを聞きますが、セスにもその理由がはっきりわかりませんでした。
ケイティからすれば同じ両親から同じように育ってきた弟に疑問しかなく、自分を犠牲にして弟を守って来て報われないことに、ある決断をせまられていました。
セスは「行こう・・・パサテナ(デトックス治療院)へ準備は万端だ」と言います。ケイティは自分の気持ちも知らずに、依存してくるセスに決心するのです。
「第8章:同じ桟橋から同じボートに乗ります。ボートは沈んでいきます・・・溺れています。泳ごうとします・・・溺れていると認めましょう」
ケイティはセスに「デトックスしてリハビリもして、徹底的にクリーンになって・・・」と訴え、セスも「今度こそ大丈夫。できそうな気がする」と言います。
ケイティは「でも、連れていけない。自分で行きなさい・・・」と、言うのでした。
セスはその言葉に信じられないという反応をします。「ごめんね」とケイティは言い、セスから手を離し、車から外へ出ようとします。
「泳いでいます。上へ上へ・・・息をします。息を・・・」
ケイティはセスを車に残し外に出ます。外に出ると再び花火が打ち上がる音がして、ケイティは夜空を見上げるのでした。
「第10章:桟橋の先にはいつもボートがあります。でも、忘れないでそのボートに乗るかどうかは、自分で決められるのだから・・・」
映画『シックス・バルーン』の感想と評価
Netflix映画『シックス・バルーン』
この映画は、薬物依存症に苦しむ患者の目線ではなく、依存者によって人生を台無しにされないように、最後は愛する家族であっても、手放す決断をする、「手引き」となった映画でした。
もし、家族や兄弟が薬物中毒になってしまったら、薬に対する知識や対処法もしらないまま、問題を1人で抱え込むと、救うこともできないと知らしめています。
日本にいると薬物中毒で苦しむ人とその家族のことは、一部のアンダーグラウンドなできごで、考えにくさはありましたが、単純に姉の弟に対する無償の愛と、それに応えようとしない甘え切った弟の態度に関しては、憤りを覚えてしまいます。
昨今、日本でも違法薬物の問題は徐々に身近なものとなり、ニュースでも多く目にするようになりました。
海外では合法といわれている物でも、日本では違法であるという、意識が欠如している考えがある間は、「止められる」という考えは、甘いだろうと思いました。
そして、違法薬物から抜け出すには、関わっている人達をいかに大切に思い、本気で更生に向かい、自から動き出せるか、強い意志が必要になるのです。
つまり、自分に甘く家族に依存していては、いつまでも解決には至らず、翻弄されている家族の方が人生そのものを、崩壊させてしまう恐れがあるとわかりました。
本人のためにも自分のためにも、早めの相談と適切な対処が重要だということです。
まとめ
本作はヘロイン中毒になった人の醜態や、家族に中毒者がいた場合にどんなことが起こりうるのか、自分の人生がそれらによって、狂わされないためのハウツー作品です。
主演のアビ・ジェイコブソンはコメディ俳優で、デイヴ・フランコもこれまでコメディへの出演が多かったので、本作のようなシリアスな映画への挑戦は、演技の幅が広がったことでしょう。