映画『シンク・オア・スイム イチかバチか俺たちの夢』は2019年7月12日(金)より、新宿ピカデリーほか全国ロードショー!
スウェーデンに実在する、男子シンクロチームをモデルに、駄目な中年男達の逆転劇を描いた、ヒューマンコメディ映画『シンク・オア・スイム イチかバチか俺たちの夢』。
フランスで動員400万人突破を記録し、大ヒットした本作をご紹介します。
CONTENTS
映画『シンク・オア・スイム イチかバチか俺たちの夢』の作品情報
【公開】
2019年公開
【監督・脚本】
ジル・ルルーシュ
【脚本】
アメッド・アミディ
【製作】
アラン・アタル
ユゴー・セリニャック
【キャスト】
マチュー・アマルリック、ギョーム・カネ、ブノワ・ポールブールド、ジャン=ユーグ・アングラード、フィリップ・カトリーヌ、ビルジニー・エフィラ、レイラ・ベクティ、マリナ・フォイス、フェリックス・モアティ、アルバン・イワノフ、バラシンガム・タミルチェルバン
【作品概要】
「フランスのアカデミー賞」と呼ばれるセザール賞で、最多10部門にノミネートされた、ヒューマンコメディ作品。
うつ病が理由で、人生の希望を失った男が、男子シンクロチームと出会い奮闘する姿を描いています。
主演に、2005年の映画『ミュンヘン』や、2008年の映画『007 慰めの報酬』などに出演し、監督としても活躍するマチュー・アマルリック。
共演に2000年の映画『ザ・ビーチ』などで知られる、ギョーム・カネ。
ティエリーを演じた、フィリップ・カトリーヌは、本作でセザール賞の助演男優賞に輝いています。
映画『シンク・オア・スイム イチかバチか俺たちの夢』あらすじ
ベルトランは、2年前からうつ病を患った事で、会社を退職し、自宅で引きこもりのような生活を送っていました。
妻の献身的な支えで、再就職先を探しますが、なかなか上手くいきません。
ある日、ベルトランは、娘の送り迎えで訪れたプールで、男子シンクロチームの、メンバー募集の広告を目にします。
ベルトランは何も考えず、男子シンクロチームに連絡をし、新たなメンバーとして加わります。
ですが、シンクロチームにいるのは、怒りっぽく自己主張の強いロラン。
プールの販売事業を営んでいますが、経営が上手くいかず自暴自棄に陥っているマルキュス。
内向的な性格で友達もおらず、女性経験もないティエリー。
ミュージシャンで成功する事を、25年以上夢見続けているシモンなど、癖のあるメンバーばかりでした。
元シンクロ選手で、コーチを務めるデルフィーヌも、何となくシンクロチームに参加してきたベルトランを簡単に受け入れるなど、投げやりな印象を受けます。
シンクロチームは、練習をした後、サウナルームで人生の愚痴をこぼし、酒場で飲んだくれる日々を送っていました。
そんなシンクロチームに、初演技の機会が訪れます。
水球の試合でのハーフタイムで、観客の前でシンクロパフォーマンスを披露する事になりました。
チームに加わったばかりのベルトランは、観客席で妻と共に、仲間のシンクロパフォーマンスを見て感動していますが、内容のレベルの低さに、妻は明らかに戸惑っており、観客の反応も微妙でした。
また、シンクロチームのメンバーは、それぞれ新たな問題に直面します。
ベルトランは、新たに見つけた家具販売の仕事先で、先輩従業員に酷い仕打ちを受けるようになります。
ロランは、自己主張の強さから妻に見捨てられ別居する事になり、マルキュスは経営の悪化から、従業員に給料を払う事が出来なくなります。
プールの管理を仕事にしていたティエリーは、新たな管理システムに仕事を奪われ、シモンは、いつまでも夢を追いかけている事で、娘に愛想を尽かされてしまいます。
それぞれ、現実から逃れるようにシンクロに取り組んでいましたが、ティエリーが、男子シンクロの世界大会の情報を見つけ、勢いで出場登録をします。
世界大会という目標に向けて、練習を重ねるようになったシンクロチーム。
ですが、コーチのデルフィーヌが、好意を抱いていた男性に、ストーカーのようにつきまとっていた事が発覚。
男性はプールに乗り込んで来て、デルフィーヌに一方的に別れを告げます。
デルフィーヌは、失恋のショックから立ち直れず、シンクロチームの指導など不可能な状態となります。
そこへ、新たな指導者として現れたのは、デルフィーヌの友人で、水球チームのコーチをしている、車椅子の女性アマンダでした。
映画『シンク・オア・スイム イチかバチか俺たちの夢』感想と評価
本作は、大きく分けて3部構造となっており、それぞれが効果的な意味を持ち、テイストも変わっているという面白い構成になっています。
ここでは、それぞれのパートについて、考察していきます。
登場人物の紹介となっているシリアスな前半パート
前半では、人生に希望を失っているベルトランが、男子シンクロチームに出会い、メンバーになっていく様子を描いています。
ここでは、主人公のベルトランの他に、シンクロの主要メンバー4名が、それぞれ抱えている問題を、丁寧に描いています。
前半パートは、コメディ色はかなり控えめになっており、家庭や仕事の問題をシリアスに描いているので、コメディ映画を期待していると、少し肩透かしのような印象を抱くかもしれません。
また、作品全体が淡々と、スローテンポで進んでいきます。
ですが、この前半パートで、登場人物のキャラクターや抱えている問題を丁寧に描く事で、最初は誰が誰だか分からなかったキャラクターに親近感を覚え、中盤以降、自然とキャラクターに感情移入するようになります。
チームとして形になっていくコメディ色の強い中盤パート
前半でのキャラクター紹介の後、中盤では世界大会に向けて、シンクロチームが形になっていく様子を描いています。
ここからコメディ色が強くなり、特に甲高い声で、車椅子に乗った状態で、シンクロメンバーに暴行を加えながら罵倒し続ける、アマンダのキャラクターが強烈です。
また、前半ではスローだったストーリー展開も、ここから軽快になっていきます。
シンクロメンバーの技術が向上している様子を、オリビア・ニュートン・ジョンの80年代のヒット曲「フィジカル」に合わせて、メンバーが自主練習している様子で見せるなど、シリアスだった前半の空気を一変させる、軽快な演出へと変わっていきます。
同時に、メンバーそれぞれが抱える問題が悪化し、シンクロの世界大会に挑む事だけが、心の支えになる様子など、ここでも人間ドラマは丁寧に描かれています。
芸術的なシンクロを披露!スポーツドラマの終盤パート
いよいよシンクロチームが、世界大会に挑む終盤パート。
シンクロチームのメンバーに、これまで関わってきた人達が、テレビやインターネットで見守っている中で、人生を賭けた勝負に出るという、スポーツドラマ色の強い展開となります。
作中を通して、シンクロチームの、本気のシンクロパフォーマンスが披露されるのは、この世界大会の場面のみとなります。
出演俳優達が、実際に猛練習して挑んだシンクロパフォーマンスは、鳥肌が立つほどの完成度で、特にエアーギターを披露しながら、観客の声援を受けて、水上を進んでいくシモンのパフォーマンスは、彼の夢が少し叶ったような気がして、自然と涙が溢れていました。
これまで、シンクロチームの、ダメ人間ぶりのみが描かれる展開の為、この場面での彼らの本気とカッコよさは、非常に感動的で必見です。
本作は、登場人物に感情移入できないと、失敗する可能性が大きかった内容です。
上記のように「人物紹介」「シンクロチームとしてのレベルアップ」「勝負を挑んだ世界大会」と、綺麗に各パートに分けて、分かりやすい構成にまとめた、ジル・ルルーシュ監督の手腕が光る、文句なしのエンターテイメント作品です。
まとめ
本作は、大きく分けて2つのテーマを描いています。
1つは、前半部分に強調される「人生の憂鬱な部分」。
ジル・ルルーシュ監督は、当初は男子のシンクロを描く事は考えておらず、現代社会を生きる憂鬱や苦しさなど、感傷的なテーマで制作する予定でした。
本作の前半部分で、シンクロチームが、サウナで愚痴を言い合っている部分は、まさに「現代社会の憂鬱と苦しさ」を描いている場面と言えます。
そして、もう1つのテーマは「孤独になりすぎている、現代人への問いかけ」です。
主人公のベルトランは、自らが抱えている悩みを誰にも話せず苦しんでいましたが、シンクロチームと出会い、心を通わせる事で、チームとして団結していきます。
男子のシンクロへ理解の無い周囲は、冷たい視線を向けますが、チーム一丸となり立ち向かう姿を通して、他者との連携の素晴らしさ、人に心を開く大切さを問いかけています。
しかし、本作は決して重い内容ではなく、特に中盤以降は軽快なテンポで、メタボ体型のおじさん達の、奮闘する姿をコミカルに描いています。
工夫された構成で、泣いて笑えるヒューマンドラマとして完成された本作。
社会に見捨てられた男たちの逆転劇を、是非ご覧ください!