幕末150周年記念作品として製作された映画『サムライせんせい』は、黒江S介の同名コミックス「サムライせんせい」(リブレ刊)の原作を映画化しました。
幕末を奔走した土佐藩の“熱き志士”武市半平太が平成の世にタイムスリップ!
現代日本の学習塾を手伝うことで繰り広げられる痛快ながらも心温まる物語です。
映画『サムライせんせい』の作品情報
【公開】
2018年(日本映画)
【原作】
『サムライせんせい』黒江S介
【脚本・監督】
渡辺一志
【キャスト】
市原隼人、忍成修吾、奥菜恵、押田岳、武イリヤ、螢雪次朗、永澤俊矢、松川尚瑠輝、西村雄正、若林秀男、小田雄介、新城貴大、大ちゃん、川村慎二、まひろ、大家由祐子、山下耀子、さがね正裕、ヤス、高崎翔太、中村有志、新城貴大、勝部演之、橋爪功
【作品概要】
本作の主演を務めるのは、あの大ヒット青春スポーツドラマシリーズで映画化もされた『ルーキーズ』(2008年)の主人公を熱く演じ、最近ではNHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』で傑山役を好演した市原隼人が、幕末からタイムスリップした武市半平太を威厳を持って時にはコミカルに演じています。
監督は『キャプテントキオ』(2007年)、『新選組オブ・ザ・デッド』(2015年)の渡辺一志が担当。
半平太と同じく平成の世に迷い込んだ坂本竜馬を忍成修吾、平成の世で半平太と関わる平成世代の若者に押田岳、武イリヤ、さらに半平太を助ける佐伯老人を日本を代表する名優、橋爪功が演じるなど、多彩な顔ぶれが脇を固めます。
映画『サムライせんせい』のあらすじとネタバレ
激動の幕末期の土佐藩士・武市瑞山は、攘夷と虚藩勤王を掲げる⼟佐勤王党を結成した強いリーダーシップを持つ政治活動家としても名を馳せました。
彼を慕う人々から武市瑞山は通称の名、武市半平太と呼ばれました。
時は2017年、一人の侍姿をした男がキセルでタバコを吸っています。
その男がチョンマゲを整え、お地蔵さんに礼をしています。
一方大きな日本家屋の部屋で、多くの子ども達が騒いでいます。
ここはお屋敷の一部を塾として開放している佐伯邸であり、これから始まる授業を前に、スマホやゲームで子ども達が楽しんでいます。
「男子、もう始まるから辞めえや!」と女子が注意します。
合図とともに、子ども達は机の前にきちんと座り「サムライせんせい、よろしくお願いします」と挨拶をします。
教室の戸を開いて入ってきたのは、羽織袴にチョンマゲのサムライ姿の男でした。
子ども達と楽しく授業を終えると、保護者のお母さん達が「せんせい、いつも子どもがお世話になっています」とお礼を言いながらケーキやお菓子をサムライせんせいに渡します。
「妻以外の施しは受けぬ」とサムライせんせいが言い返すと、ますますお母さん達の目がハートになります。
「しかし、本当に子ども達も親達も武市さんを慕ってくれて、本当に1ヶ月前はどうなるかと思いました」
とサムライ姿の男と向かい合い、塾を開いた地元の名士の佐伯がケーキとお茶をしながら回想します。
文久3年1863年の幕末、武市半平太は土佐の実権を握る吉田東洋の暗殺に関与した罪で、勤王党の仲間と共に投獄されました。
半平太の牢獄の横から、同志達の拷問されている顧問の声が聞こえてきます。
半平太は切腹を言い渡されていました。
「人斬り以蔵が吐きよったぞ」と同士の岡田以蔵が自白したことを政敵に伝えられ、半平太は無念極まり慟哭の声を上げた瞬間意識を失いました。
半平太は気がつくと、草はらのグランドに横になっていました。
野球のボールが転がってくるので、半平太がそのボールを掴んで立ち上がった途端愕然とします。
意識が朦朧とする中トラックがやってきては驚愕し、スーパーマーケットを見つけて入れば多くの食料にまた叫びの声を上げます。
あまりの空腹にリンゴに手を伸ばし、後で必ず支払うと告げるも警察に追いかけられます。
広場でよさこい踊りをしている人々の中を、かき分けて逃げ惑う半平太の姿を「ウケる〜!」と言いながらスマホで高校生のサチコが撮っているのを聞き、佐伯寅之助は「あいつおかしいし、不審者やろ」とバカにして話していると、お気に入りのバイク・ザックスに逃げてきた半平太がぶつかりミラーが壊れます。
半平太は警察から逃げ続けるも精根尽き果て、遂に佐伯の屋敷前で倒れました。
佐伯は、半平太の話を聞くにつれて机の引き出しから日本の年表を取り出し、「武市さんの話す文久という年号がここで、その後元治、慶応と続いて明治大正昭和で今が平成になってます」と説明します。
二人は年表を見ながら、半平太が幕末から150年ほどタイムスリップしてきた衝撃的事実を知ります。
佐伯は半平太の実直な人柄を買い、幕末に帰る方法が見つかるまで子ども達のために、彼に塾の先生をしてほしいと頼みます。
「命の恩人の頼みですき!」と二つ返事で引き受けた半平太は、“サムライせんせい”として授業を受け持ちます。
サチコが学校の近くで「トラとは、小中学校も一緒で」と小学生に話しながら、寅之助とのデートの待ち合わせをしています。
寅之助は佐伯のやんちゃな孫であり、毎日をダラダラと過ごしていました。
ある日、屋敷で寝そべっている寅之助を見つけた半平太は、学校に行って勉強しろと説教しますが、本人はどこ吹く風でした。
また半平太は、道で寅之助が先輩といいつつも、素行の良くない者と連んでいるのを目にしました。
子ども達とはりまや橋を渡ったり、お祭りに行って花火を楽しんだりして楽しく充実した日々を過ごしながらも、半平太は土佐に残した妻の富を心配していました。
富は投獄された半平太の無事を信じ、その帰りを健気に待っています。
飛行機が飛び立ちます。
高知龍馬空港にジャーナリストと名乗る一人の男・楢崎梅太郎が降り立ちました。
梅太郎は、東京で動画サイトにアップされたサチコの映像が話題になっている、サムライせんせいのことを知り、居場所を突き止めます。
梅太郎は佐伯邸に忍び込むと半平太に見つかり、物干し竿で北辰一刀流の構えを見せました。
唖然とする半平太に、梅太郎は「アギ、約束忘れたがか?」と告げると「アザか!」と言って半平太は喜びます。
二人はあだ名で呼び合うほどお互いを認め合う仲で、梅太郎こそ吉田東洋の暗殺計画を巡り袂を分かった盟友、そして二人が別れる時に、またいつか会おうと約束した、あの坂本龍馬でした。
映画『サムライせんせい』の感想と評価
幕末からタイムスリップした武市半平太を演じている老若男女人気のイケメン俳優、市原隼人。
初めての主演作『リリイ・シュシュのすべて』(2001)では、十代らしい透明感のある少年を演じ、『WATER BOYS2』(2004年)の主演で若々しい魅力を放ち、国民的人気俳優となりました。
人気だけでなく同年『偶然にも最悪な少年』の演技で実力を認められ、日本アカデミー新人俳優賞を受賞します。
そしてやはり代表作は『ROOKIES』(2008)。大ヒットした学園スポーツドラマで、市原隼人扮するイケメン不良・安仁屋そのものに成り切って演じました。
いつも大切な試合の前に不良に絡まれ、ボロボロの体をひた隠し、痛みに震えながらもピッチャーで投げ切るシーンに多くのファンが魅了されました。
本作では、今まで正統派2枚目として活躍してきた市原隼人が、崩れる役や汚れる役を、とんでもなくコミカルで、素っ頓狂な表情を見せています。
そもそも武市半平太という歴史上の人物は、高知で今も坂本龍馬と並び称されるほどの尊敬に値する人物で、実際幕末には土佐で若者を率いて土佐勤王党の指導者として大きな影響を持つ偉人です。
その知性や威厳を漂わせながらも、現代の初めて目にするものに出会う度に、感嘆の声を上げ、コミカルに逃げ惑い、どうしたらいいかパニクっている挙動不審の姿につい吹き出して笑ってしまいそうになります。
そんな崩れた三枚目の役と、いきなり日本の将来を危惧する真剣な眼差し、そして妻の富を心から心配し慕う切ない表情を見せる市原隼人の新しい魅力が、この映画にはぎっしり詰まっています。
その一方、飄々とした地元の名士佐伯翁扮する橋爪功の演技は、佐伯そのものを物語っています。
半平太から衝撃の事実を聞いても、一糸乱れずに年表を一緒に見て確認できる器を見事に演じています。
この映画に橋爪功の姿が見えるだけで、半平太と同じように心が救われていくのが不思議です。
まとめ
半平太が戻った後で、高知銀行に預けられていた手紙を佐伯とたらの助が開くシーンがあります。
そこには、“サムライせんせい”として子供たちと過ごした教室の風景と「武市瑞山の弟子」と書かれた寅之助の絵が描かれてありました。
時代が違っても、大切な人とその人に伝えてもらったものは変わらないというメッセージを感じます。
そして今の日本の平和が、多くの先人達の努力や命を懸けて築き上げてきたものであり、
今一度立ち止まる機会を与えてくれています。
半平太とともに映画の中にタイムスリップしてみませんか。