Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

ヒューマンドラマ映画

Entry 2019/11/18
Update

映画『王様になれ』ネタバレ感想と評価。岡山天音演じる主人公を通してみたアーティスト「the pillows」との共感

  • Writer :
  • もりのちこ

夢うつつ手懐けて、自由自在、気分次第。
脳細胞の支配下で世界を創れ。

「the pillows」の結成30周年プロジェクトの一環として製作された映画『王様になれ』。

リーダーの中山さわおの原案を、俳優で舞台演出家としても活躍するオクイシュージが初監督作品として映像化しました。

夢を抱き現実の厳しさの中で押しつぶされそうになる主人公が、ある女性との出会い、そしてthe pillowsとの出会いで、諦めず前に進んで行く姿を描いた青春ストーリー。

その出会いは必然だったのか?映画『王様になれ』を紹介します。

映画『王様になれ』の作品情報


(C)2019「王様になれ」フィルムパートナーズ

【日本公開】
2019年(日本映画)

【原案】
山中さわお(the pillows)

【監督】
オクイシュージ

【キャスト】
岡山天音、後東ようこ、岩井拳士朗、奥村佳恵、平田敦子、村杉蝉之介、野口かおる、オクイシュージ、岡田義徳、TERU、JIRO、ホリエアツシ、日向秀和、高橋宏貴、佐々木亮介、田淵智也、田淵智也、新井弘毅、鈴木浩之、yoko、楠部真也、平田ぱんだ、ビートりょう、星川ドントレットミーダウン、本間ドミノ、千葉オライリー、宮本英一、藤田恵名、宮崎朝子、松岡彩、吉川美冴貴、山中さわお、真鍋吉明、佐藤シンイチロウ

【作品概要】
2019年に結成30周年を迎えたthe pillowsの記念映画『王様になれ』。

ドキュメンタリー・フィルムではなく、山中さわおの原案をオクイシュージ監督が映像化。

主人公・祐介役には、本作が初の単独主演となる岡山天音を迎え、後東ようこ、岡田義徳などの俳優陣と、the pillowsのメンバーが本人役で登場。

さらに、GLAY、ストレイテナーなど、the pillowsと交流のあるミュージシャン達の共演が見どころです。

映画『王様になれ』のあらすじとネタバレ


(C)2019「王様になれ」フィルムパートナーズ
「今の生活に不満はない。でも僕の本業はこれじゃない」。

神津祐介は、2年前父親を亡くしてから、伯父のラーメン屋で働いています。祐介には夢がありました。父の影響で始めたカメラの道でプロになることです。

カメラマンのアシスタントとしてスタジオでバイトをしながらも、いつまでもチャンスを掴めない自分に焦っていました。

専門学校の同期・西小路健は、今やプロカメラマンとして名を馳せています。同期の活躍に嫉妬し、苛立ちが募ります。

その日、祐介はラーメン屋にやってきた女性・藤沢ユカリに一目ぼれをします。彼女は伯父と同じ劇団員で、the pillowsの大ファンでした。

ユカリに近付きたいがために祐介は、the pillowsのライブへと足を運びます。会場はthe pillowsのファンたち(バスターズ)で大盛り上がりです。

祐介はライブより、ライブを撮影しているカメラマンの存在が気になります。

ライブ終了後、ユカリと話すことが出来た祐介でしたが、the pillowsトークに全く追いつけません。まだ聞き出したばかりなんだと、ユカリから教わることに。

ユカリとの距離が縮まるにつれ、祐介はthe pillowsにどんどんハマっていきます。そんな祐介にユカリは「必然かもね。ピロウズと出会ったの」と嬉しそうです。

「祐介君は今、第何期?」。ユカリはthe pillowsのこれまでの軌跡に掛けて祐介に問います。「僕はまだ、何者でもないんだ」。

祐介は、スタジオを首になってしまいます。落ち込む祐介に伯父は、祐介の父が同じ年ぐらいに撮ったという写真を見せてくれます。「お前の本当にやりたいことが、そこにはなかったんだろ」。

祐介は、the pillowsのライブでカメラを撮っていた虻川の存在を知り、弟子入りを希望します。「俺、前に進みたいんです」。土下座し必死に頼み込む祐介を、虻川はしぶしぶ受け入れることにします。

虻川に同行し、THE KEBABSのライブに行けることになった祐介は、嬉しい気持ちをユカリに報告。

ユカリはそんな祐介にthe pillowsのオフィシャルグッズ「RED BATカーディガン」をプレゼントします。「祐介君の第二期のお祝いだから」。ユカリも喜んでくれました。

自分の思いを告白できない祐介は、ユカリに落ち込んだ時の立ち直り方を聞きます。「宛先のない手紙を書くわ」。ユカリの答えにはどこか寂しさが滲んでいました。

祐介のラーメン屋にthe pillowsのメンバーが食べにやってきます。驚く祐介は、リーダーの山中さわおの「ネギなし」注文に、間違えて「ネギ入り」で出してしまいます。

「作り直してよ」と引かない山中に祐介は呆れます。そのことを、ユカリに愚痴る祐介。ユカリは気分を悪くし帰ろうとします。

「あなたのミスでしょ。私がどれだけピロウズの曲に助けられたか知らないくせに!」。祐介とユカリは初めての喧嘩をします。

仲直りしたい祐介は、ユカリと以前行った小高い丘にカメラを持ってやってきます。ユカリはそこで手紙を書いていました。祐介は、ユカリをカメラに収めます。

告白をしようとする祐介に、ユカリは「もう会わないほうがいい」と拒絶します。

The pillowsの30周年が迫っていました。「私が生まれた頃からずっと続けているなんてスゴイよね。さわおにとってのギターと、祐介君にとってのカメラは一緒。写真やめないでね。いつか見れるのを楽しみにしてるわ」。ユカリの言葉が蘇ります。

以下、『王様になれ』ネタバレ・結末の記載がございます。『王様になれ』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)2019「王様になれ」フィルムパートナーズ
The pillowsの30周年ライブは、バンドと交流のあるアーティストも駆け付け、the pillowsの歴史の集大成とも呼べる素晴らしいライブでした。

ストレイテナーのホリエアツシによる「ストレンジカメレオン」から始まり、GLAYのTERUとJIROによる弾き語りの「スケアクロウ」。他のアーティストからも愛され続けるバンドthe pillows。

客席には涙ぐむユカリの姿がありました。苦しそうに胸を抑えます。

その頃、祐介は自宅でひとり、悶々と過ごしていました。失恋の痛みの中、同期の西小路に「仕事回そうか」と言われ、身も心もボロボロです。

虻川の計らいで、the pillows山中の後輩バンド「THE BOHEMIANS」のジャケット写真を担当することになった祐介。

しかし、その完成した写真を見た山中は、祐介を怒鳴ります。「打ち合わせと全然違う。これじゃ主役はお前だろ!」。

虻川もまた祐介の心を見抜いていました。「逃げたんだろ?ビビッて自分変えちまったんだろうが。お前は自分自身に嘘を付いたことが悔しくねえのかよ」。

祐介は、人ごみの中カップルと喧嘩になり、殴られ路上に突っ伏します。「アーーー!」。

現実から逃げ、勝負から逃げ、自分からも逃げ、そしてユカリからも逃げた。心底、自分が情けない。どん底の中、聞こえてきたのはthe pillowsの歌でした。

そして、祐介は伯父からユカリの心臓のことを聞きます。生まれつき心臓が弱かったユカリは、周りに迷惑をかけまいと生きてきました。

ユカリの苦しみを知り、自分の甘さに気付いた祐介は、その後カメラに真摯に向き合っていきます。

徐々に良い写真が撮れるようになった頃、虻川がもう一度祐介にチャンスを与えてほしいと、山中に頼み込んでくれました。

「俺あいつがピロウズが好きな理由がわかるんです。やっぱ、ピロウズはピロウズを好きな奴に撮ってもらいたい」。虻川の熱い願いに、山中は頷きます。

とうとうthe pillowsのライブ写真を撮れることになった祐介の元に、ユカリから手紙が届きます。

「ピロウズに会ったのは必然って言ったの覚えてる?それは、私にとってあなたでした」。ユカリは祐介に会ったことで、心臓の手術を受ける覚悟が出来たのです。

病院へ駆け付ける祐介。ベッドで眠るユカリに、祐介はthe pillowsのライブを撮ることになった報告と、自分の弱さを謝ります。

誰にも認められなくても、ユカリに喜んでもらいたい。祐介はユカリの回復を強く願います。

the pillowsのライブ当日です。楽屋に挨拶に来た祐介に、「良い写真を頼むよ」と笑顔を向ける山中。「さわおさんも良いライブお願いします」。「なまいきー!」。

楽屋は笑いに包まれます。良いものを届けたい、良いものを残したい、皆の心はひとつです。

ライブは一曲目から盛り上がり、ライブハウスはもみくちゃです。溢れ出す思いをそのままに、祐介は夢中でカメラを切ります。

途中、祐介はユカリの姿を見た気がしました。病院を出る時、預かった手紙がよぎります。「王様になれ」the pillowsの曲名が書かれていました。

それからしばらくして、祐介は小さいながら個展を開いていました。そこにはthe pillowsのライブ写真も飾られています。

一人の女性が熱心に写真を見ています。祐介はすでに彼女に気付いています。振り返ったのは、ユカリでした。

「久しぶりじゃないか」。ユカリの明るい声が聞こえます。個展のタイトルは「The 3rd Period」。祐介の第三期の始まりです。

映画『王様になれ』の感想と評価


(C)2019「王様になれ」フィルムパートナーズ
the pillowsの山中さわおが、バンド30周年のプロジェクトとの一環として原案に携わった映画『王様になれ』。

the pillowsが、これまで音楽を通して伝えてきたことを映像にしたと言っても過言ではありません。

主人公の祐介は、夢を追いかけることに疲れ、現実の厳しさに打ちのめされ、諦めそうになった時、the pillowsの歌に救われます。

好きなアーティストの存在が、生きる道しるべになり、前に進む勇気を与えてくれる。そして、日々を生きるパワーになる。

アーティストの熱き思いはファンに伝わり、共感と感動を生む。ライブは、直にその思いを交換できる特別な空間です。

映画『王様になれ』は、そんなアーティストとファンとの関係を見事に表現した映画でした。

それは、the pillowsの記念映画だからと言って、本人たちのドキュメンタリー映画にしなかった部分も大きいように思います。

映画『あの頃ペニー・レインと』を彷彿させるような、主人公を通してみるアーティストの姿が描かれていて、観るものは共感を覚えます。

また、山中さわおが語るように、この映画はthe pillowsの三作目のトリビュートアルバムのような一面もあります。

それは、the pillowsと交流のある多くのアーティストが出演し、演奏するシーンが満載だからです。

中でも、同郷のGLAYのTERUとJIROによる弾き語りの「スケアクロウ」。染み入ります。

もちろん、the pillowsのライブ映像としても楽しめます。「Funny Bunny」「ストレンジカメレオン」「ハイブリットレインボウ」「どこでもない世界」「この世の果てまで」。the pillowsのベストさながらのラインナップに染み入ります。

さらに、the pillowsファンなら楽しめる小ネタも満載です。

祐介がTHE BOHEMIANSのジャケ写を担当するシーンがありますが、実際のTHE BOHEMIANSのベストアルバムのジャケ写の撮影場所を彷彿させています。

映画の中では、黒スーツで決めてカッコつけて撮った写真に、山中がダメ出しするという展開になりましたが、実際のエピソードにちなんだシーンとなっています。

そして2019年、荒吐ロックフェスティバルの最終日。メインステージの大トリは、「the pillows-30th ANNIVERSARY CARNIVAL OF BUSTERS in ARABAKI-」と題したthe pillowsのステージでした。

関根史織(Base Ball Bear)、佐々木亮介(a flood of circle)、菅原卓郎(9mm Parabellum Bullet)、田淵智也(UNISON SQUARE GARDEN)、宮崎朝子(SHISHAMO)、ホリエアツシ(ストレイテナー)、TERU、JIRO(GLAY)、佐野元春という豪華アーティスト共演でのトリビュートライブとなりました。

にわかファンの自分でも、心震える感動のステージでした。30年続けてきたことへの敬意と、共に歩んできたと思わせてくれる聞き馴染んだメロディーは、まさに王者の貫禄でした。

多くの仲間、そして多くのロックファンに愛され続けてきた王者the pillows。まさにthe pillowsの魅力が詰まった集大成の映画となりました。

まとめ


(C)2019「王様になれ」フィルムパートナーズ
the pillowsの結成30周年記念プロジェクト映画『王様になれ』を紹介しました。

the pillowsのファン・バスターズはもちろん、ロックを好まない人も共感できる物語になっています。

日々の生活の中で、音楽が与えてくれる力。一曲との出会いが、自分の限界を超える力を与えてくれるかもしれません。

そして、その出会いは必然なのです。脳細胞の支配下で世界を創れ。「王様になれ」。

関連記事

ヒューマンドラマ映画

映画『アニエスによるヴァルダ』感想あらすじと考察評価。特集上映の過去作紹介も【アニエス・ヴァルダを知るための3本の映画】

特集上映『アニエス・ヴァルダをもっと知るための3本の映画』は2019年12月21日(土)から公開。 2019年3月29日、“ヌーヴェル・ヴァーグの祖母”と称された映画製作者がこの世を去りました。 アニ …

ヒューマンドラマ映画

『蜘蛛巣城』ネタバレあらすじ感想と結末の解説評価。マクベスの悲劇を黒澤明監督×三船敏郎による“ふたりの天才”が能の様式美で映画化!

黒澤明監督が描く和製『マクベス』の壮絶な世界! 『七人の侍』(1954)の巨匠・黒澤明監督によるシェイクスピアの『マクベス』を日本の戦国時代に置き換えて描き出した戦国武将の一大悲劇。 (C)1957 …

ヒューマンドラマ映画

映画『逆光』あらすじ感想と評価レビュー。尾道を舞台に須藤蓮×渡辺あやのタッグが描いた官能的な世界

映画『逆光』は、2021年12月18日(土)ユーロスペース、2022年1月7日(金)アップリンク吉祥寺公開日決定、全国公開予定!! 映画の街、広島・尾道にて、人気脚本家の渡辺あやと、才能あふれる新鋭監 …

ヒューマンドラマ映画

映画『理由なき反抗』あらすじネタバレ感想とラスト結末の評価解説。ジェームズ・ディーンの代表作にして“歴代の名作”

1955年に公開されたアメリカの青春映画『理由なき反抗』主演を務めたのは名優ジェームズ・ディーン 1955年に自動車事故により、24歳の若さでこの世を去った伝説的俳優、ジェームズ・ディーン。 愛称は「 …

ヒューマンドラマ映画

原田美枝子映画『愛を乞うひと』ネタバレあらすじと感想。演技派女優が可能にさせた対照的な性格の母親二役

傷みを伴う過去と、自分の知らない事実と向き合う映画『愛を乞うひと』 幼い時に台湾人で優しい父親を病気で亡くし、その後実母から凄惨な虐待を受けた少女が17歳になったとき、惨めで壮絶な暮らしと母親を捨てて …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学