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Entry 2018/11/03
Update

映画『かぞくいろ』あらすじネタバレと感想。肥薩おれんじ鉄道をロケ地にレイルウェイシリーズ第3弾

  • Writer :
  • Yuri.O

さまざまな家族の絆を描いてきた映画「RAILWAYS」シリーズの最新作がついに公開。

有村架純×國村隼ダブル主演で描く映画『かぞくいろ RAILWAYS わたしたちの出発』は、11月30日より全国ロードショー!

鹿児島県と熊本県を走る肥薩おれんじ鉄道を舞台に、不器用に、けれど前向きに生きようとする血の繋がらない家族の姿を描き出しました。

温かな涙が溢れる映画『かぞくいろRAILWAYS わたしたちの出発』をご紹介します。

映画『かぞくいろ RAILWAYS わたしたちの出発』の作品情報


(C)2018「かぞくいろ」製作委員会

【公開】
2018年(日本映画)

【監督】
吉田康弘

【キャスト】
有村架純、國村隼、桜庭ななみ、歸山竜生、木下ほうか、筒井真理子、板尾創路、青木崇高

【作品概要】
人生をどこまでも続く線路と鉄道旅にたとえた映画「RAILWAYS」シリーズ。2010年は島根県・出雲を走る一畑電車を舞台に、家族の絆を描いた映画『RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の話』。

2011年は富山県・富山地方鉄道を舞台に、定年後の夫婦を描いた映画『RAILWAYS 愛を伝えられない大人たちへ』。

そして2018年「RAILWAYS」シリーズ初の女性運転士・奥園昌役に有村架純を迎え、血の繋がらない家族の再出発を描いたのが、シリーズ第3弾『かぞくいろ RAILWAYS わたしたちの出発』です。

鹿児島県と熊本県を結ぶ肥薩おれんじ鉄道の舞台に、息子、父、夫、それぞれ大切な人を亡くした者同士が家族となっていく様を、切なくも心温まる描写で描き出します。

國村隼が審査員を務めるアジア最大級の映画の祭典・第23回釜山国際映画祭にも正式出品され、好評を博しました。

映画『かぞくいろ RAILWAYS わたしたちの出発』のあらすじとネタバレ


(C)2018「かぞくいろ」製作委員会

ある事情を抱え、鹿児島県阿久根駅に降り立った奥園昌と義理の息子・駿也。

昌たちを阿久根駅まで送り届けた肥薩おれんじ鉄道の運転手・奥園節夫は、「記念に切手を貰いたい。」という駿也と対面し、互いに「どこかで見たような?」としばし顔を見つめ合います。

仕事が終わった節夫が、帰宅すると家の前にはなんと、先ほど対面した昌と駿也がいました。

聞けば、昌は節夫の一人息子である俊平の妻であり、駿也は俊平と前妻との子どもで、3人仲良く幸せに暮らしていましたが、俊平の突然の死により、生活が一変してしまったというのです。

昌からの再三の留守電を一切聞いておらず、俊平の死さえ知らなかった節夫は、慌てて近くに住む妹の幸江を呼び出します。

その翌日。「これからどうするの?」という幸江の言葉を皮切りに、昌は「俊平が友人に騙され借金を背負わされたこと。その借金で自宅を追い出され行くあてがないこと」を告げ、節夫に「どうかここに住まわせてください!」と頭を下げます。

それでも「駿也は私の子です。私が育てます。」と迷いなく言い切る昌に節夫は心動かされ、共に生活していくことにします。

次の日から昌は、駿也の転校先の小学校担任・ゆり先生と面談をし、自身も就職先を探し始めます。

そこで昌は、駿也が大の鉄道好きだったことから肥薩おれんじ鉄道の運転士になるため、節夫が働く鉄道会社に面接を受けに行きました。

何も知らされていなかった節夫は、面接に昌が現れ驚きますが、昌は駿也から教えてもらった「肥薩おれんじ鉄道はディーゼルで動くから電車でなく気動車」という知識を披露し、見事、運転士見習いとして採用されます。

そんなすべてが動き始めたある日、昌は海沿いの堤防で苦しそうに嘔吐しているゆりの姿を見かけました。

昌は慌てて救急車を呼ぼうとしますが、ゆりに「悪阻だから。」と止められます。

思わず、「おめでとう。」と声を掛ける昌でしたが、ゆりは「おめでとうって初めて言われた。」と顔色が悪いままでした。

理由を聞くと、お腹の子は不倫の末に出来た子どもで堕ろすしかないこと、教師という立場上、未婚の母になるなんて認められないことを辛そうに話すゆり。

その話を聞いた昌は突然、激しい過呼吸に襲われ、地面にしゃがみ込んでしまいます。実は昌は、俊平の子を流産した過去があり、いまだにその悲しみを抱えたままだったのです。

運転士見習いとして働き始めた昌は、免許取得のため、数日間家を空けることにします。

自分のいない間の駿也を心配する昌でしたが、駿也は節夫から俊平のアルバムを借り、その写真を携帯で昌に送ったり、節夫の料理を手伝ったり、家族として自然に距離を近づけていました。

その頃、駿也から送られてきた写真を見ながら合宿先の食堂でサツマイモカレーを食べる昌は、俊平との出会いを思い出していました。

数年前、スーパーで人参を同時に手に取った昌と俊平。

昌は俊平に人参を譲りますが、俊平は会計後に昌の後を追い、「カレーには人参がないと。あとサツマイモも合うからシェアしよう。」と満面の笑みで人参とサツマイモをシェアしてくれたのです。

その時と同じサツマイモカレーに元気を貰った昌は真面目に勉強し、運転士の国家資格に一発合格!鹿児島に戻り、合格を喜ぶ昌と駿也。節夫も俊平の仏壇で喜びの報告をします。

次の日から昌は、本格的に節夫ら、おれんじ鉄道の運転士として運転業務がスタートします。

初めは駅のブレーキラインで止まれなかったり、「おれんじ食堂」を運行中に急ブレーキを踏んでしまったりと小さな失敗の連続でした。

出産に悩んでいたゆり先生も、防波堤での昌の言葉や駿也を育てていく姿に励まされ、出産を決意。

一方、小学校での駿也は、俊平に買ってもらった大切な筆箱とキーホルダーをクラスメイトにからかわれ、返してもらえず引っ張り合いになった結果、クラスメイトに怪我を負わせてしまいます。

慌てて学校に駆けつける昌。必死で相手方の母親に謝る昌でしたが、「こんなに若いのに産んだから!」と罵倒されてしまいます。

駿也は思わず昌をかばおうとしますが、逆に昌に「謝りなさい!」と叱責されてしまいます。

帰宅してから、節夫に「喧嘩の理由は聞いたのか?」と問われた昌は、その時になって初めて理由さえ聞かず頭ごなしに起こってしまったことに気が付き、「私最低だ・・・。」と自己嫌悪になりました。

昌は両親に恵まれておらず、家族らしい家族を知らないことを節夫にポツリと漏らします。

節夫もまた、俊平と音信不通になってしまったきっかけの出来事を思い出していました。

それは駿也を生んだことで亡くなってしまった俊平の前妻の葬儀でのことでした。

赤ん坊の駿也を抱え、前妻の亡きがらの前で泣き崩れる俊平。そんな俊平をよそ目に前妻の母親が駿也を連れ去ろうとします。

慌てて止める俊平に母親は「もうそちらの親御さんと話はついているので!」と駿也の取り合いになります。

まさかという表情で節夫を見つめる俊平に「お前はまだ若いんだし、引き取ってもらった方がやり直せる。」と言う節夫。

その言葉を聞いた俊平は激昂し、駿也を世界中から守るように抱きかかえ、「もう帰れ!皆帰れ!!」と泣き崩れたのでした。そのことをきっかけに節夫は鹿児島に戻り、二度と生きて俊平に会うことはなかったのです。

昌はその後、順調に運転技術を磨いていましたが、ある夜、線路に鹿が立ち往生し、急ブレーキが間に合わず、鹿を轢いてしまいます。

昌は同乗していた先輩運転士から鹿を線路脇に運ぶのを手伝うよう言われますが、瀕死の鹿を見た途端、過去のトラウマが噴出し半狂乱を起こします。

昌は目の前で消えゆく命に、流産して失った我が子、突然亡くなった俊平を思い出してしまったのです。

このことがきっかけに上司に「精神的に不安定であり運転士の適正がない」と判断されてしまう昌。

上司から「運転士になることをゆっくり考えてみなさい。」と言われてしまいます。

カッとなった昌は節夫の元へ向かい、「お義父さんも私のことをそう思ってたんですか!?」と詰め寄ります。しかし、節夫はあくまで冷静に「(運転士に)向いているかどうかは自分で決めることだ。」と昌を諭します。

以下、『かぞくいろ RAILWAYS わたしたちの出発』ネタバレ・結末の記載がございます。『かぞくいろ RAILWAYS わたしたちの出発』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

そんな中、駿也の学校では「半成人式」で両親に感謝の手紙を書き、当日発表することが決まりますが、ゆり先生からの引継ぎが上手くいっておらず、駿也は、両親が亡くなっていることを臨時担任に気付いてもらえません。

近所の人から「半成人式」のことを聞いた昌は駿也に問いますが、駿也は頑なに「昌ちゃんは絶対に来ないでね。」と釘を刺されてしまいます。

半成人式の日。昌は駿也に内緒で半成人式に出席。駿也は作文に亡くなった俊平としたかったことを、夏休みに父親としたと発表し、発表後半は「お父さんに会いたいよ・・・。」と泣き出してしまいます。

そんな様子を見ていた昌は耐え切れず、壇上に上がり、嫌がる駿也を無理やり連れ帰ってしまいます。

帰り道、言い合いになる昌と駿也。「お父さんはもういないの!死んじゃったの!」と諭す昌に、駿也は思わず「嘘だ!昌ちゃんがいなくなったら良かったのに!」と返してしまいます。

その言葉にショックを受け、これまで頑張ってきた緊張の糸が切れてしまった昌は一人東京へ舞い戻ります。

落ち込む駿也を見かねた節夫は、俊平のサツマイモカレーを作り、駿也と食べます。「昌ちゃんに酷いこと言っちゃった。」とぽろぽろ涙をこぼしながら食べる駿也。

翌日、節夫は東京へ上京。昌は、駿也が「昌ちゃんはきっとここにいる。」と言った俊平の生前、3人でよく来た池袋の電車がよく見える駿也お気に入りのスポットに立ち尽くしていました。

昌は節夫に「お義父さんに謝らなければいけないことがあるんです。」と話を切り出します。

俊平は友人に借金を背負わされた際、昌に「鹿児島に帰らないか?」と誘ったことがありました。

しかし、昌は東京を離れることで俊平のイラストレーターとしての仕事がなくなってしまう心配をし、「鹿児島には行きたくない。」と答えていたのです。

まさか、昌のその答えが、節夫と俊平を二度と会えなくしてしまうとも知れず…。

昌の脳裏には亡くなる直前まで俊平が元気で、入院先のベッドで笑い合っていたかけがえのない時間が甦ります。

そんな昌の話に節夫は肯定するでも否定するでもなくただ真摯に向き合い、「どうするかは昌が決めるといい。(昌が)帰ってこなくても駿也は育てるから。」と昌の人生を思いやり、帰郷します。

その後、昌は俊平の携帯を持つ駿也に電話をかけ、「ごはん食べた?」と聞き、数日ぶりに普段通りの会話を交わしました。

駿也の声を聞き、自分にとって何が大切か確信を持てた昌は、電話のディスプレイに表示される「俊平」の文字を「駿也」と書き換え、鹿児島に戻って行きます。

数日後、運転士として復帰した昌は、節夫や乗客たちにも運転を褒められるようになり、駿也を運転席傍の特等席に招きました。

車内にはお腹が大きくなったゆりの姿も。昌の大切な人たち全員を乗せた肥薩おれんじ鉄道が、昌の「出発進行!」という澄み切った声とともに走り出します。

映画『かぞくいろ RAILWAYS わたしたちの出発』の感想と評価


(C)2018「かぞくいろ」製作委員会

線路というのは、ずっと続いていくようにみえて、突然断絶されてしまったり、再び繋がるには膨大な時間がかかり、修復されないままもあり得るということを、現代に生きる私たちはさまざまな災害を通して知っています。

本作『かぞくいろ RAILWAYS わたしたちの出発』の登場人物たちは誰もが「あの時こうしていたら…。」という後悔や大切なものを失う悲しみを抱えたまま、生きています。

しかし昌たちは、失う悲しみを知ったからこそ得たものの大切さに気付き、その大切なものたちにそっと寄り添い、共に過ごす時間を重ねていきます。

この作品を観た者の胸には、ほんの少しの切なさと亡くなろうとも消えることのない深い愛が沁みいる映画となっています。


(C)2018「かぞくいろ」製作委員会

実際、すでに本作を鑑賞された観客の評判は、「優しい」「心温まる」「泣ける」といった感想が多く寄せられています。

本当の家族でさえ繋がりが希薄になる現代で、互いを尊敬し思いやり、寝食を共に、亡き人への愛を抑え込むことなく、慈しみ生きる。

人は産まれた瞬間から失い続ける生き物なので、そんな晶たちの無理に悲しみに逆らわない生き方は素敵だなと、つくづく感じずにはいられませんでした。

まとめ


(C)2018「かぞくいろ」製作委員会

これまでの「RAILWAYS」シリーズは40代以降の観客がメインターゲットでしたが、本作は主要登場人物の年齢をグッと下げたことで、老若男女誰もが誰かしらに共感し、号泣必至の物語に仕上がっています。

鹿児島といえば真っ青な空と海の鮮やかな景色を想像する方も少なくないと思いますが、本作では森と集落、海が優しい色合いで映し出されており、どこか懐かしい気持ちにさせられます。

「RAILWAYS」シリーズ恒例の地元の方たちが多数出演しているのにも、ほっこりと癒されます。

鉄道好きとしても、観光名所にもなっている肥薩おれんじ鉄道の「おれんじ食堂」や一両だけの気動車が街中を走るコロンとした可愛らしさはたまりません。

これまでのシリーズを観たことがない方でも、本作は三世代で観て感想を言い合える作品なので、話のタネに観てみてはいかがでしょうか。

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