2010年に“全員悪人”という強烈なキャッチコピーをもって公開された北野武監督作品『アウトレイジ』。北野組初参加のキャストを集めスマッシュヒットを記録しました。
その後を受けて北野映画初の続編『アウトレイジビヨンド』が2012年に公開。ここで一度“全員悪人完結”と謳ったものの『龍三と七人の子分たち』をはさんでとうとう完全決着の『アウトレイジ最終章』が公開されます。
『HANA-BI』『座頭市』で受賞歴もある今年のヴェネチア国際映画祭クロージング作品にも選ばれました。
今回からの参加組には北野映画の経験者も多くて大森南朋、大杉漣、岸部一徳、津田寛治などが登場。他にもピエール瀧、原田泰造、池内博之が顔を見せています。
CONTENTS
1.『アウトレイジ最終章』作品情報
【公開】
2017年 (日本映画)
【脚本・編集・監督】
北野武
【キャスト】
ビートたけし、西田敏行、大森南朋、ピエール瀧、松重豊、大杉漣、塩見三省、白竜、名高達男、光石研、原田泰造、池内博之、津田寛治、金田時男、中村育二、岸部一徳
【作品概要】
北野武が大友役で主演を務め、裏社会の裏切りと抗争を描くバイオレンス作品。北野武監督の人気シリーズ「アウトレイジ」の最終作。
2.映画『アウトレイジ最終章』のキャスト一覧
ビートたけし(大友)
マル暴の刑事片岡を射殺したことから済州島に身を潜めている。張グループと花菱会との抗争勃発による日本に帰ってくる。
大森南朋(市川)
済州島での大友の側近。日本帰国にもついて来る。硬軟自在の武闘派。
大杉漣(野村)
花菱会会長。前会長の娘婿で元証券マン。故に古参の幹部と対立する。
西田敏行(西野)
花菱会若頭。本来なら自分が継ぐはずの会長職を野村に取られている。
岸部一徳(森島)
冷静な情勢分析をする花菱会会長付若頭。
塩見三省(中田)
花菱会若頭補佐。野村によって西野と対立するように仕向けられる。
ピエール瀧(花田)
交際の発端を作ってしまう、花菱会直参幹部。資金力豊富。
金田時男(張)
日韓に強い影響力を持つフィクサー。
白竜(李)
張会長の側近。大友にも様々な協力をする。
津田寛治(崔)
張会長の側近。ボディーガードや情報取集役を務める。
名高達男(白山)
山王会の三代目会長。西野の後見で会長に就任したため往時の力はない。
光石研(五味)
白山の弟分で山王会若頭。花菱会との連絡役を務める。
池内博之(吉岡)
山王会木村組組長但し、木村組は花菱会の関東出先機関の意味合いが強い。
松重豊(繁田)
かつて片岡の部下だった。裏工作を嫌う実直な性格で上司ともぶつかる。
3.『アウトレイジ最終章』のあらすじ(前2作通してご紹介)
※作品の性質上(R15作品)暴力的な文言があります。
読まれる際にはご注意くださいますようお願いいたします。
アウトレイジ
大友(ビートたけし)は関東最大の暴力団山王会の二次団体大友組の組長。
昔かたぎのヤクザの大友は上部団体で山王会直参の池本組組長池本(國村準)に汚れ仕事を押し付けられる日々です。
ある日、池本が山王会の傘下でない村瀬組組長の村瀬(石橋蓮司)との蜜月関係を山王会の会長関内(北村総一郎)と若頭の加藤(三浦友和)にとがめられ、やむなく大友組に村瀬組の締め付けを命じます。
早速、大友は村瀬組にシマに事務所を開設、そこには若頭の水野(椎名桔平)や金庫番の石原(加瀬亮)が陣取ります。
わざと仕掛けた罠にはまった村瀬組は若頭の木村(中野英雄)が詫び入れに来ますが、木村は大友に顔をカッターナイフで切り付けられて追い返されます。
村瀬組が大友組と揉めたことは山王会の上層部まで届き、関内は激怒、加藤と池元に事態の収拾を命じまし。結果村瀬組は解散する、村瀬は引退することに。
闇カジノで利益を上げる大友組、しかし村瀬が秘かに麻薬売買をしていることを知ると大友は激怒し村瀬を殺害します。
この一見は池元から命じられたことだったにもかかわらず、騒動が大きくなったことから大友組は山王会から破門されます。この理不尽な決定と長年の池本への不満を爆発させた大友は池元を殺害する暴挙に出ます。
大友からすれば筋を通した形になりますが、ヤクザの世界で上部団体の組長を殺害することは暴挙でしかありません。
池元組若頭小沢(杉本哲太)は一隊を率いて次々と大友組の構成員を襲撃して回ります。一人になってしまった大友は仕方なくマル暴の刑事片岡(小日向文世)に則されて自首することに。
小沢は一連の顛末を関内と加藤に報告し、池元組の跡目を継ぐつもりでしたが加藤が突然小沢を射殺します。
これは混乱を残したままの状態を抑えるために関内と加藤の策略でした。
しかし加藤にはさらなる野望がありました。返す刀で関内を射殺、その罪を小沢に押し付けます。
やがて、加藤は山王会の会長に収まります。
その傍らには大友を裏切り加藤の一連の陰謀に加担していた大友組の金庫番石原の姿ありました。
獄中でただ一人過ごす大友は突然襲撃を受けます。相手は村瀬組の若頭だった木村でした。
アウトレイジビヨンド
加藤・石原体制になった山王会はそれまでの年功序列や昔かたぎのやり方を否定していきます。
これには新体制に古参幹部の富田(中尾彬)白山(名高達男)五味(光石研)はイライラを募らせます。
一方政官財にまで侵食した山王会の姿を見てマル暴の片岡は関西の巨大組織花菱会を巻き込むこと画策します。
山王会の富田は極秘に関西にわたり花菱会の会長布施(神山繁)、若頭の西野(西田敏行)、幹部の中田(塩見三省)と接近しクーデーターを画策しますが、これは加藤・石原執行部にばれてしまい富田は粛清されてしまいます。
続けて片岡は刑務所にて死んだとされていた大友を出所させる秘策に出ました。
片岡は大友とかつて大友を襲った木村を組ませ、さらに花菱会のバックアップを取り付けさせ山王会に攻勢を仕掛けます。
死んだと思っていた大友の出現に山王会には不穏な空気が漂い始めます。大友は次々と山王会幹部を襲撃。その中には自分を裏切った石原もいました。
加藤は多くの“人死に”を出したこと、そして前会長の死の真相が露見したことで山王会の会長を引退。その後の山王会は花菱会の貢献のもと白山会長、五味若頭となりました。
大友は加藤が引退することだけでは許さず、加藤を暗殺します。
一方、花菱会の関東進出の足掛かり役になった木村は改めて組事務所を開きますが山王会の刺客によって命を落とします。
自分の策略がうまく進んだことを語る片岡を大友は黙って拳銃の引き金を引くのでした。
そして、アウトレイジ最終章
警官を殺した大友は日本には居場所はなく、出所してからずっと大友の面倒を見ていた日韓を牛耳る大物フィクサー張会長(金田時男)と会長の右腕の李(白竜)の計らいで済州島の闇ビジネスに携わっていました。
そんな大友のもとに手下の市川(大森南朋)からもめ事の報告が入ります。
クレームの主は花菱会の直参幹部花田(ピエール瀧)。大友は持ち前の迫力で逆に花田を言い負かしました。
ただ、花田は相手を甘く見て、手下に後を任せてさっさと日本へ帰っていきます。
一方日本では山王会を事実上配下に入れた花菱会が日本の闇社会を牛耳っていました。
しかし、花菱会内部は微妙なことになっていました。新会長は元証券マンで前会長の娘婿の野村(大杉漣)で古くからの若頭西野や中田は露骨に敵意を見せます。
野村の方も二人を分裂させて勢いを削ごうと画策しています。
そんな西野は花田が問題を起こした相手が張会長のグループだったことを聞いて慌てます。
この一件を聞きつけた野村は中田を呼び出し、西野ではなく中田を会長代理として花田と共に張会長のもとに詫びを入れに行かせます。
野村はこのごたごたの中で中田に西野を殺させ、花菱会の完全支配を狙います。
しかし、西野もそのあたりは読んでいて逆に中田を取り込んでクーデーターを起こそうとします。
張会長のグループと花菱会の間はこじれる一方。とうとう花菱会の関東の拠点木村組の新組長吉岡(池内博之)によって張会長へ刺客(原田泰造)を送ります。
済州島での一件、そして恩人の張会長襲撃、さらに花菱会と山王会のやり取りの中で命を落とした兄弟分木村のこと。
様々な怒りを抱えて大友が市川と共に日本へ帰国してきます。
暴走を始める大友には張会長も李も止めきれません。花菱会にとっても山王会のとってももはや失うもののない大友は恐怖の対象でした。
4.『アウトレイジ最終章』の感想と評価
映画『ソナチネ』予告編(1993)
※この文章は映画のラストに触れている部分があります。これから映画をご覧になる方はご注意ください。
シリーズ2作+必見の予習作品『ソナチネ』
映画が終わり。大友の最期を見たとき“あっ、『ソナチネ』だ”と思いました。
『ソナチネ』は北野映画第4作で、批評面では一つの頂点を極めた作品です。
そうやって考えてみると、『ソナチネ』出演者の大杉漣と津田寛治がいます。
監督デビュー作『その男、凶暴につき』で登場した白竜と岸部一徳もいました。
後のインタビュー記事で今回は“『ソナチネ』の変奏曲”をやりたかったと監督が語っていたのを見て、こちらの受けた印象は間違っていなかったようです。
そうやって考えるとナポレオンフィッシュが太刀魚になったんだなということがわかりました。
過去2作が“全員悪人”だったのに対して今回は“全員暴走”へとキャッチコピーが変わっています。
前2作に比べると陰謀・策略の部分は減り、登場人物皆が暴走している映画になっています。
もちろん一番暴走しているのは大友です。
そしてその暴走の先には当然のように死が待っています。
大友は最後には自分が死ぬことどこかで覚悟しながら日本に帰ってきました。その最後を李=白竜が見つめているというのも北野映画の歴史から見ると印象的です。
5.『アウトレイジ最終章』のまとめ
ストーリーを追うには『アウトレイジ』『アウトレイジビヨンド』の2作を見る必要があると思いますが、『アウトレイジ最終章』という映画単体のことを考えると『ソナチネ』は必見です。
そもそもこのシリーズは武流のヤクザ映画へのボケとツッコミと言えるものでした。
そして今回はシリーズものに自身の転換点となった作品の変奏版を持ち込んでくるというシリーズ物へのボケとツッコミではないでしょうか?