インディペンデント映画の父と称されるジョン・カサヴェテス。
彼の妻ジーナ・ローランズの女優としての生きざまを鮮烈に感じさせるのが、本作『オープニング・ナイト』です。
観終わったあなたは、思わず拍手を送りたくなること間違いありません。
映画『オープニング・ナイト』の作品情報
【公開】
1977年(アメリカ)
【監督】
ジョン・カサヴェテス
【原題】
Opening Night
【キャスト】
ジーナ・ローランズ、ジョン・カサヴェテス、べン・ギャザラ、ジョーン・ブロンデル、ゾーラ・ランバート、ポール・スチュワート
【作品概要】
主演のジーナ・ローランズが『こわれゆく女』に続いて精神のバランスを崩した中年女性を見事に演じきった傑作人間ドラマ。
1978年、ベルリン国際映画祭女優賞(ジーナ・ローランズ)を受賞し、同年のゴールデングローブ賞ドラマ部門最優秀女優賞(ジーナ・ローランズ)にもノミネートした作品です。
映画『オープニング・ナイト』のあらすじとネタバレ
新作舞台『セカンド・ウーマン』に取り組んでいる人気女優マートルは、ある晩公演を終えると大勢のファンに囲まれサインを求められます。
そんな中、マートルが出会った17歳の少女ナンシー。人垣をかき分け、「アイ・ラヴ・ユー」と泣きながらすがるマートルに面喰いながらも抱き寄せるマートル。
車に乗り込んだ後も窓を叩きながら追いすがるナンシーを見て、様子がおかしいと思ったマートルは、車を止め少女に声を掛けます。落ち着いたのか車から離れ、道路に佇み見送るナンシー。
すると、離れていくナンシーの様子を伺っていたマートルの目に飛び込んできたのは、彼女が対向車に跳ね飛ばされる瞬間でした。
動揺するマートル。ホテルに戻っても気持ちが落ち着きません。お酒をあおり、舞台監督であるマニーに電話することで悲しみと寂しさを紛らわせます。
翌日の舞台稽古は荒れ模様でした。『セカンド・ウーマン』が“老い”をテーマとしていることに納得がいっていないことを表明するマートル。
ちょうど中年という老いと若さの狭間にいたマートルにとって、この役をどう演じていいのか分からないのです。このことから脚本を書いたサラとも対立することに。
楽屋に戻ったマートルがふと鏡を見ると、映り込む一人の少女。微笑みを交わす二人。そこに映っていたのは死んだはずの少女ナンシーでした。
映画『オープニング・ナイト』の感想と評価
劇中劇『セカンド・ウーマン』のテーマである女性の“老い”は、この作品自体のテーマでもあります。
自分の年齢すら人に教えたくないと思うマートル。その“老い”に対する恐怖が、やがてナンシーという形で具現化し、目の前に出現するのです。
ナンシーが表しているのは“若さ”に他なりません。微笑みを交わし、欲していた“若さ”へと吸い寄せられていくマートルの葛藤が舞台に取り組む姿によって見事に表現されています。
しかし、これら全ては表面的にこの物語を捉えた解釈に過ぎないとも言えます。この作品が舞台のバックステージを描いたものであるように、ジョン・カサヴェテスの本当の狙いは、映画そのものの裏側を表現することだったのかもしれません。
虚構に過ぎないことが分かり切っている少女ナンシー。そしてそれを分かっていながら振り払えず壊れてゆくマートル。その姿を女優ジーナ・ローランズに重ね合わせると見えてくる一つの構図。
それは映画や俳優業そのものの虚構性であり、女優としてのジーナ自身の葛藤や苦しみがここに込められているのです。
また最後の舞台上で繰り広げられる喜劇に対し、スタンディングオベーションで応える観客。
ベン・ギャザラ演じる舞台監督マニーにとって意図せず得られたこの結果は、カサヴェテス作品のほとんどが彼自身の満足と観客の評価がまるで一致しなかったことに対する強烈な皮肉に他なりません。
こういった作品に隠された裏テーマを自分なりに掘り下げてみることも映画の魅力のひとつといえるでしょう。
最後に、押さえておくとより一層この作品を楽しめるポイントをご紹介。
『特攻大作戦』などの出演で俳優としても有名なジョンと妻ジーナが夫婦役(劇中劇の中で)として初共演していたり、ラストでカサヴェテス作品でおなじみのピーター・フォークやシーモア・カッセル、映画監督のピーター・ボグダノヴィッチらがカメオ出演していたりと、楽屋落ち的小ネタも盛り込まれていますので是非お見逃しなく!
まとめ
スペインの巨匠ペドロ・アルモドバル監督が『オール・アバウト・マイ・マザー』(1999)でオマージュを捧げたのが、何を隠そう本作『オープニング・ナイト』です。
クローズアップを多用する大胆な構図や、自由に動き回る生き生きとした俳優たち。こうしたジョン・カサヴェテスの世界観は、アルモドバルに限らず、多くの映画人に影響を与えてきました。
とはいえ、彼の監督の作品の数々は(『こわれゆく女』(1970)や『グロリア』(1980)などを除くと)、日本ではまだまだあまり知られていないのが現状です。
しかし、入手困難だったDVDやブルーレイが2014年に発売されるなど、日本でもさらなる広がりを見せる日は近いのかもしれません。