映画『オールド・フォックス 11歳の選択』は2024年6月14日(金)より新宿武蔵野館ほかで全国公開!
台湾ニューシネマの旗手として知られるホウ・シャオシェンが最後に製作を手がけた映画『オールド・フォックス 11歳の選択』。
バブル崩壊期の台湾にて、正反対な二人の大人との出会いで大きく揺れ動く少年の心を繊細に描いた作品です。
監督は、新時代の台湾ニューシネマの名作を生み出し続けてきたシャオ・ヤーチュエン。また本作で、日本の門脇麦が台湾映画初出演を果たしています。
2023年に引退を発表した、名匠ホウ・シャオシェンの最後のプロデュース作『オールド・フォックス 11歳の選択』をご紹介します。
映画『オールド・フォックス 11歳の選択』の作品情報
【日本公開】
2024年(台湾・日本合作映画)
【原題】
老狐狸(英題:Old Fox)
【監督】
シャオ・ヤーチュエン
【キャスト】
バイ・ルンイン、リウ・グァンティン、アキオ・チェン、ユージェニー・リウ、門脇麦ほか
【作品概要】
1990年代のバブル期の台湾を舞台に、生真面目な父と街の名手で大家である老人という正反対な二人の間で成長する少年の思いを繊細に描いたドラマ。
台湾ニューシネマの流れを汲む作品を輩出し続けるシャオ・ヤーチュエン監督が、作品を手がけました。また本作のプロデュースを担当したホウ・シャオシェンは2023年に引退を発表、本作が最後のプロデュース作品となります。
キャストには『Mr.Long ミスター・ロン』のバイ・ルンイン、『1秒先の彼女』のリウ・グァンティン、『怪怪怪怪物!』のユージェニー・リウ、そして台湾の名バイプレーヤーであるアキオ・チェンなど。また本作にて、門脇麦が台湾映画初出演を果たしています。
映画『オールド・フォックス 11歳の選択』のあらすじ
1990年を間近に控えた台北の郊外で、レストランで働く父のタイライとともに暮らしていた11歳のリャオジエ。
彼はいつか家を買い、父とともに亡き母の夢だった理髪店を開くことを夢見ていましたが、世は空前のバブルに見舞われ不動産価格が高騰し、夢は遠いものとなっていました。
ある雨の日、リャオジエは自分の家の地主であるシャと出会います。誠実なタイライとは正反対に「老獪なキツネ(オールド・フォックス)」と呼ばれる彼は「生き抜くためには他人なんて関係ない」とリャオジエに言い放ち、現実の厳しさを突きつけます。
世の不条理を逆手に取り、のし上がってきたシャ。リャオジエは、そんな彼の姿と優しい父との間で複雑な思いを胸に抱くのでした。
映画『オールド・フォックス 11歳の選択』の感想と評価
物語で重要なカギを握る老人・シャのニックネーム「老獪なキツネ」からは、どこか寓話的なイメージ広がっていきます。
二人の大人の狭間で、自身の気持ちが揺れ動くのを感じる少年リャオジエ。シャに出会う前の彼にとっては、優しく誠実な父タイライが世界のすべてであり、自身の信じる現実でありました。
しかしリャオジエは、ある日偶然出くわしたシャの生きざまに触れ、自身がそれまでに知り得ることのなかった世界に戸惑います。
台湾のとある街中で、当時恐らくありえただろうという出来事を一つのドラマとして描いた物語でありますが、シャのどこか浮き世離れした存在感は広い世界観を物語に与えています。
本作はそのリャオジエの目線で物語が展開していくわけですが、この役を演じたバイ・ルンインの表情の使い分けには要注目。ドラマの大きなポイントとなるシャとの出会いの前後における表情の違いで、リャオジエの存在感は大きく変化し、物語に大きな起伏が生まれるのを感じとることができます。
タイライの人物背景の見せ方にも、秀逸なセンスが見られます。彼の過去、そしてリャオジエが知らない彼の一面などその人物像を奥行き深く描いており、リャオジエが彼から受け継ぐであろうその性質をうまく描き切っています。
またその彼の人物像描写に一躍買っているのが、彼が対面する女性ヤンジュンメイ役を演じる門脇麦の存在感。
このキャスティングは、シャオ・ヤーチュエン監督の師ともいえるホウ・シャオシェンの助言がきっかけで実現した日本人俳優の起用でありますが、劇中で見せる彼女ならではの愁いを強くたたえた表情は、リャオジエの人物像をより鮮明に映し出す大きな力になっているといえます。
台湾の有事と「何の変哲もないに事情に起きた出来事」をうまく掛け合わせたストーリーのバランス感覚も優れており、ホウ・シャオシェンの最後のプロデュース作品としてふさわしい物語といえるでしょう。
まとめ
本作の大きなポイントとして「台湾バブル期」という時代設定があります。物語は1990年に発覚した「鴻源事件」などにより経済的な不安を抱え始めた台湾社会をベースとして描いていますが、同様にバブル崩壊を経験した日本という国から見れば、どこか既視感をおぼえる物語でもあります。
近年では、台湾企業のTMSCをはじめとした「半導体バブル」が日本をも巻き込んでにわかにその規模を拡大しており、「古き良き時代」の空気を感じる一方で時代的な観点からは「よその話ではない」共鳴感をおぼえることでしょう。
ちなみに本作のメインテーマで使用されている曲「When I fall in love」は、ジャズのスタンダードとしてよくプレーされる美しいバラード。カーペンターズやリック・アストリー、セリーヌ・ディオン&クライヴ・グリフィンといった近代のアーティストにもカバーされ、広く親しまれている曲です。
タイトルからしてラブソングと認識されがちでもありますが、その詞は愛、恋というテーマを用いながらもどこか哲学的な香りも感じられ、物語の骨子を彷彿する展開を非常に深く感じられるものであります。
映画『オールド・フォックス 11歳の選択』は2024年6月14日(金)より新宿武蔵野館ほかで全国公開!