Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

ヒューマンドラマ映画

Entry 2018/05/13
Update

映画『マルクス・エンゲルス』あらすじネタバレと感想。ラスト結末も【共産党宣言の誕生】

  • Writer :
  • 福山京子

2018年はカール・マルクス生誕から200年を迎え、映画『マルクス・エンゲルス』は、岩波ホールほか全国順次公開

19世紀を代表する革命的な名著『資本論』を著したカール・マルクス。

フリードリッヒ・エンゲルスとの運命的な出会いから、大きな運命のうねりのなか誕生させた二人の共作『共産党宣言』までの深い友情と絆を描いた映画『マルクス・エンゲルス』が公開されました。

映画『マルクス・エンゲルス』の作品情報


(C)AGAT FILMS & CIE – VELVET FILM – ROHFILM – ARTEMIS PRODUCTIONS – FRANCE 3 CINEMA – JOUROR – 2016

【公開】
2018年 (フランス・ドイツ・ベルギー合作映画)

【原題】
The Young Karl Marx

【監督】
ラゥル・ペック

【キャスト】
アウグスト・ディール、シュテファン・コナル、スケ、ビッキー・クリープス、オリヴィエ・グルメ、ハンナ・スティール、アレキサンダー・シェアー、ハンス=ウーベ・バウアー、ミヒャエル・ブランドナー、イバン・フラネク、ペーター・ベネディクト、ニールス・ブルーノ・シュミット、マリー・マインツェンバッハ

【作品概要】
科学的社会主義を構築したカール・マルクスとフリードリヒ・エンゲルスの若き日の出会いと活躍を描くヒューマンドラマ。

19世紀のヨーロッパでは、産業革命が社会に格差をもたらし、貧困の嵐が吹き荒れた中、20代半ばのカール・マルクスは惨状を目の当たりにし、搾取と不平等な世界に独自の政治批判を展開。その後ドイツを追われフランスに逃亡し、エンゲルスと運命的な出会いを果たし、2人は深い友情で結ばれます。演出は『ルムンバの叫び』のラウル・ペック監督。

映画『マルクス・エンゲルス』のあらすじとネタバレ


(C)AGAT FILMS & CIE – VELVET FILM – ROHFILM – ARTEMIS PRODUCTIONS – FRANCE 3 CINEMA – JOUROR – 2016

「昔森の恵みは、森の民のものであった。今や『木材窃盗取締法』によって森の所有者は、落ちている枝を拾う民さえも窃盗罪で捕える。落ちた枝は誰の所有なのか?それでも民は命をかけてこの窃盗という行為を繰り返すのだ…」

19世紀初頭絶対王政下のプロイセン(現在のドイツ)、多くの貧困と差別があちこちで見られ、森を多くの貧しい人々が逃げ回り、官吏たちが馬に乗って森を駆け巡ります。

女性も子供も容赦なく暴力で打ちのめし、多くの民たちは木々の下で息が絶えていきます。

一方でライン新聞社の部屋では、たくさんの記者が息を上げて、意見を交わしています。

カール・マルクスが書いた『木材窃盗取締法』に対する告発文が槍玉に上がっていました。

当局の怒りを買うだけだというのが、大多数の意見でした。

マルクスの言論の封殺を恐れず、公然と国家を告発する姿勢は当局の取締の対象となり、すでに、階下に多くの官吏がやってきます。

マルクスを筆頭に全員が捕まり、新聞は発禁になります。やがて、彼はドイツを離れ、フランスのパリを目指します。

一方イギリス、マンチェスターの紡績工場主を父に持つフリードリッヒ・エンゲルスは、父の専制的な経営方針に疑問を持ちながらも、代理者として工場を管理する日々を送っていました。

ある日、一人の女工員が居眠りをして機械で指を切断するという事故が起こり、労働者たちと話し合いをする機会に立ち会いました。

工場長は、オーナーの父親に問題を先導する女工員がいることを耳打ちします。

案の定、彼女がリーダーとなって、昼夜働かせて三日三晩寝ていないこの状態を改善してほしいと訴えます。

オーナーは「規律を乱すものは全員出て行け」と言い放ち、その女メアリー1人が出て行きました。

エンゲルスは父親にやりすぎだと告げ、女の後を追いかけます。

メアリーが向かったのは、アイルランド人の住む貧民街でした。

娼婦、お金を乞う子供、酔いつぶれた男。異様な目つきで見られながらも奥のバーに進みます。

そこでメアリーは仲間とお酒を飲んでいました。

「おぼっちゃまが来るところじゃないよ。」と言われながらも、仲間とともにエンゲルスはお酒を組み交わす日々が続き、次第に労働者階級への理解と慈愛を深めていきました。
  
赤ん坊の泣き声が響き、ベッドから女性が起きて、子どもを抱きかかえながら朝食の用意を始めると、男が近づいてきました。

その男カールは、パリで妻イェニーと娘とともに慎ましいながらも、幸せな日々を過ごしていました。

イェーニーはかつてプロイセンの男爵令嬢でしたが、本人にとってブルジョアの生活に生きる喜びを見出せないと感じ、カールと人生をともにする思いでパリにやってきました。

ある日、マルクスは革命家の先鋒プルードンの噂を聞き、演説を聴きにいきました。

しかし、プルードンの“所有”についての部分は、抽象的で曖昧な言葉でしか表現しておらず、保身に走っているように思え、マルクスは幻滅し家路に着きます。

自分自身の生活も困窮を極める中、仕方なく郵便局の雑用の仕事に面接に行くも、門前払いを受けました。

マルクスは心身共に追い詰められていました。
 
やがて、マルクスは革命家の友人に会いに行きます。

何度も原稿を書いているのに、まだ原稿料をもらっていなかったので、妻や子どもを養うためにマルクスは頼みにやって来ました。

部屋には見たことのある顔の男が1人座っていました。マルクスはベルリンで出会ったことを思い出します。

彼の名はフリードリッヒ・エンゲルス。2人は激動の時代のうねりの中で、運命的な再会を果たしました。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『マルクス・エンゲルス』ネタバレ・結末の記載がございます。『マルクス・エンゲルス』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)AGAT FILMS & CIE – VELVET FILM – ROHFILM – ARTEMIS PRODUCTIONS – FRANCE 3 CINEMA – JOUROR – 2016

ベルリン当時マルクスは彼を空想的な社会主義者と思い、エンゲルスも良い印象を持っていなかったようでした。

その後、エンゲルスマルクスの著書に感銘を受けたと話し、マルクスはエンゲルスの発表した論文を絶賛します。

すぐに2人は意気投合し、夜中待ちを見張る警察から逃れ、マルクスの家でワインを飲み明かし、永遠の友であり、理解者を得た夜となりました。

その後、プロイセン国王の暗殺未遂事件が起こり、ヨーロッパは大きな変革の波が渦巻いていました。

マルクスとエンゲルスは時間を忘れて執筆に没頭し、共著『聖家族』を出版させます。 

当時の中心となっていたヘーゲル青年党を批判し、労働者たちに表面的には支持されている手応えがあったものの、エンゲルスは自分の立場が支配階級でありながら労動者たちの中で共産主義(ここでは、私有財産を無くし、すべての財産を共有することによって貧富のない社会を実現しようとする思想)を啓蒙するという矛盾に悩みます。

マルクスは自分の辛辣で激しいが、所以に言説が思った以上に受け入れられず、生活が困窮を極めていきました。

更にパリから2人は追放され、ベルギーのブリュッセルに移ります。

マルクスの妻イェーニは2人目の娘ができたことを喜んで報告し、エンゲルスの妻メアリーと同じ理想を持ち、マルクスを支え続けていました。

ある日、今やヨーロッパで最も影響力のある革命家ヴァイトリングが組織する正義者同盟から連絡が入ります。

マルクスとエンゲルスはロンドンを旅立ち、正義者同盟の面談に臨みました。

その面接で真っ向から批判を浴びせるマルクスとエンゲルスでしたが、委員会と落とし所をお互いに見出し、正式加入を認められました。

委員会演説のある日、エンゲルスの発言を発端に多数決の結果、“共産主義同盟”としてスタートを切り、労働者たちの熱い支持と自分たちの宣言の必要性を感じていました。

プルードン、ヴァイトリングは勢いを失い、共に新たな時代の流れを2人は感じ取っていました。

来る日も来る日も執筆を続けるマルクスとエンゲルス。

マルクス、イェーニ、エンゲルスとメアリーの4人が部屋で嬉しそうに話しています。

「ここは“幽霊”だな。」言いながら、マルクスが言葉を書き直しました。

「ヨーロッパに幽霊が出る、共産主義という幽霊である。」という冒頭で始まる『共産主義宣言』が完成した瞬間でした。

新たな時代が始まろうとしていました。

映画『マルクス・エンゲルス』の感想と評価

冒頭から引き込まれる作品テーマ


(C)AGAT FILMS & CIE – VELVET FILM – ROHFILM – ARTEMIS PRODUCTIONS – FRANCE 3 CINEMA – JOUROR – 2016

映画の冒頭の農夫たちが森で薪拾いをしている場面では、木材窃盗の罪で管理が襲撃します。

あまりの壮絶さに目を覆ってしまいそうになりますが、幹から落ちた枝は誰のものか?

森は?この貧しい人々は?

森の中で起こる事件の混沌さの中で、作品のテーマである「所有とは何か」の核心に迫っていく、映画の冒頭はとても印象的です。

マルクスとエンゲルスのバックボーン


(C)AGAT FILMS & CIE – VELVET FILM – ROHFILM – ARTEMIS PRODUCTIONS – FRANCE 3 CINEMA – JOUROR – 2016

カール・マルクスは『資本論』を著した共産主義の経済学者という難しい解釈ではなく、本作ではライン新聞社の記者という、ジャーナリストの一面から物語を描いてもいます。

産業革命以後ヨーロッパでは資本家階級と労働者階級の格差が生まれ、貧富の差か拡大していきます。

その現状を目の当たりにしたマルクスは、どんどん激しく論争をぶつけていく姿に心を打たれます

マルクスの思いが強くなる一方、生活が逼迫していく切ない現実も描かれています。

また、エンゲルスの苦悩も複雑です。

当時のイギリスのマンチェスターの紡績工場のシークエンスが産業革命の賜物です。

大型機械を取り入れて、多くの工員が並んで1日中、糸を紡いでおり、工員のほとんどがアイルランドの移民。

そのオーナーがエンゲルスの父親で専制的な資本家です。

その搾取の上で自分が生きているという矛盾と葛藤がいつまでも彼を苦しめます。

2人ともが20代半ばの高潔な志を持った熱き青年であり、彼らが世界の波に翻弄されながらも、真実を求め、貧苦に喘いでいる人々の心を打たないはずがありません。

歴史的な背景や宗教、思想など難解な言葉や理論が出てきて、ストーリーが分からなくなるのではないかと危惧していましたが、若き純粋な2人の様子を見つめているうちに、新しい時代到来の光が射して行くまでを飽きることなく見せてくれます

思わず現代に置き換えて、誰もが真摯に受け止めるべき事象や人物を思い浮かべることでしょう。

やはり、生きていくことは一縷の希望を抱いくものだと与えてくれるのが、本作『マルクス・エンゲルス』の素晴らしさと言えます。

まとめ


(C)AGAT FILMS & CIE – VELVET FILM – ROHFILM – ARTEMIS PRODUCTIONS – FRANCE 3 CINEMA – JOUROR – 2016

映画のエンドロールは、ボブ・ディランの名曲『ライク・ア・ローリング・ストーン』にのって、様々な20世紀を代表する人物の映像が映り出されます。

チェ・ゲバラ、ケネディ大統領、ネルソン・マンデラ…等々。

マルクス・エンゲルス亡き後の時代も、世界で続いている不正義とそれを変えようと命を賭けた人たちの闘いの歴史にも思いを馳せます。

どんな世界を求めて、何に向かって生きていくのか?

そう若きマルクスとエンゲルスに問われているような気がしました。

関連記事

ヒューマンドラマ映画

映画『洗骨』ネタバレ感想。奥田瑛二・大島蓉子・水崎綾女の演技力が光るユーモアと優しさに溢れた作品

ガレッジセールのゴリが本名の「照屋年之」名義で監督・脚本を手がけた長編作品。 最愛の人を失い、数年後その人にもう一度会える神秘的な沖縄の離島に今も残る風習、“洗骨”。 死者の骨を洗い、祖先から受け継が …

ヒューマンドラマ映画

【映画ネタバレ】フラッグ・デイ|あらすじ感想評価と結末ラスト解説。実話でディラン・ペンは父ショーン・ペンと“アメリカの過去と現在”を演じる

愛していた父が犯罪者だった…… “実の父娘”が父娘の物語を演じる! ジャーナリストのジェニファー・ヴォーゲルが2005年に発表した回顧録を元に、ショーン・ペンが映画化した『フラッグ・デイ 父を想う日』 …

ヒューマンドラマ映画

映画『アマンダと僕』ネタバレ感想と評価レビュー。ラストでテロによる喪失と向き合う少女の強さから学ぶ

消えない悲しみへの寄り添い方。 笑顔を取り戻す時まで。 パリに暮らす幸せな家族を襲った突然の事件。残された24歳のダヴィッドと、その姪のアマンダ、7歳。 大切な人を失った悲しみも癒されないうちに、厳し …

ヒューマンドラマ映画

映画『無頼』感想考察と評価レビュー。井筒和幸監督8年ぶりの作品は“激動の昭和史”を生き抜いた男の視点で描く

映画『無頼』は2020年12月12日(土)から「新宿K’s cinema」「池袋シネマ・ロサ」「横浜ジャック&ベティ」を皮切りに全国順次公開 世間から弾き出されながらも、誰にも頼らず真っ直ぐに生きた男 …

ヒューマンドラマ映画

映画マンマ・ミーア!ヒア・ウィー・ゴーの新キャストと新楽曲。見どころを大解剖

映画『マンマ・ミーア!ヒア・ウィー・ゴー』気になる新キャストは?新曲は?見どころ大解剖! 8月24日(金)より公開される映画『マンマ・ミーア!ヒア・ウィー・ゴー』。 大ヒットミュージカル映画『マンマ・ …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学