ゴッホの激しく美しい半生を映す名作
後期印象派画家の1人、ヴィンセント・ヴァン・ゴッホの生涯を描いたアーヴィング・ストーンの同名小説を原作とした映画です。
『恋の手ほどき』(1959)『お茶と同情』(1957)のヴィンセント・ミネリが監督を務めました。
主人公ゴッホを『OK牧場の決斗』(1957)のカーク・ダグラス、ゴーギャンを『道』(1954)のアンソニー・クインが演じます。
巨匠ゴッホの栄光の裏にあった弟テオとの愛情に満ちた絆、才能ある画家ゴーギャンとの破局、そして自らを痛めつけずにいられない病の苦しみをあますことなく映し出す名作の魅力をご紹介します。
CONTENTS
映画『炎の人ゴッホ』の作品情報

【公開】
1957年(アメリカ映画)
【原作】
アーヴィング・ストーン
【監督】
ヴィンセント・ミネリ
【脚本】
ノーマン・コーウィン
【キャスト】
カーク・ダグラス、アンソニー・クイン、ジェームズ・ドナルド、パメラ・ブラウン、エベレット・スローン、ニオール・マッギニス、ノエル・パーセル、マッジ・ケネディ、ジル・ベネット、ライオネル・ジェフリーズ、ローレンス・ネイスミス、エリック・ポールマン
【作品概要】
後期印象派の巨匠ゴッホを、『OK牧場の決斗』(1957)『突撃!』(1957)のカーク・ダグラスが熱演する伝記映画の名作です。
伝記小説を得意とするアメリカの小説家アーヴィング・ストーンの小説『Lust For Life, The Novel of Vincent van Gogh』(邦題『炎の人ゴッホ』)を原作に、名匠ヴィンセント・ミネリ監督が、天才画家の半生をドラマチックに描きました。
アルルをはじめとする風景の美しさも大きな見どころです。
ゴーギャンを演じた『道』(1954)のアンソニー・クインがアカデミー助演男優賞を受賞したほか、主演男優賞、脚色賞、美術賞にもノミネートされました。
共演は『戦場にかける橋』(1957)のジェームズ・ドナルド、パメラ・ブラウンほか。
映画『炎の人ゴッホ』のあらすじとネタバレ

ゴッホは司祭としてボルナージュ地方に派遣されましたが、村人に寄り添い過ぎて教会の権威を落としたとして破門されます。その後、パリに住む画商の弟・テオのもとに身を寄せることになりました。
絵を描き始めたゴッホは、才気あふれる画家たちと出会い大きな影響を受けます。
しかし、アルルに移りゴーギャンとの共同生活が始まると、次第に精神のバランスを崩していきました。
映画『炎の人ゴッホ』の感想と評価

天使のような弟テオ、天才ゴーギャンとの関係
ゴッホが濃密な人間関係を結んだのは実弟テオと、天才画家ゴーギャンの二人でした。
人を喜ばせたいという純粋な思いから絵筆をとるゴッホはとても人なつこく、人情に篤い人でした。しかし、周囲を、そしてやがては自らを焼き尽くすほどの激情家だったことから社会になじめず、常に孤独を感じていました。
苦しみを抱きながらも、ゴッホは自らの成長に確かな手応えを感じながら情熱的に絵を描き続けます。
彼は自らの神経症的な症状を早くから自覚していました。ゴッホの才能を誰より理解していた弟のテオは、経済的援助を続けます。テオの存在があってこそ天才画家ゴッホは誕生し得たと言えるでしょう。
しかしテオの結婚により、ゴッホの精神的支柱は才能ある画家ゴーギャンへと移ります。
子供のように無邪気に喜び、ゴーギャンを自宅に迎え入れるゴッホ。しかし、潔癖で細かい性質のゴーギャンに対して自然児のように天真爛漫なゴッホは、同居初日からぶつかり合います。
尊敬と愛情の対象であり、自分の孤独を埋めてくれるゴーギャンを、ゴッホは必死につなぎとめようと努力しました。脳内の疲労を蓄積し続け、ゴッホは静かに確実に狂っていきます。
しかし、内に暴力的な衝動を抱える激しい気性同士だった二人はついに破局を迎えました。ケンカの後にゴーギャンが家を出たことをきっかけに、ゴッホは正気を失います。
災害を予感する坑夫のように、毎日大急ぎで仕事をすると語っていたゴッホ。彼は、自分の限界が来る日が近い将来訪れることを理解していたに違いありません。
光満ちる時に現われる”死”を暗示するラストシーン

自然を映し出す絵を数多く描いてきたゴッホにとって、‟光”は自然の象徴でもあります。
頭の中で絵が描けると語るゴーギャンとは対照的に、ゴッホは自然を見ながらでないと描けない画家でした。彼は自然を、光を、風を心から愛していました。
白い花が一面に咲いていると思って近づいたら、明るい光が葉の上でキラキラ輝いていただけで驚いたことがあります。光をキャンバスに映しとりたいと常に願っていたゴッホは光の奇跡を数え切れないほど見てきたことでしょう。
仕事で神に仕えると話していた彼は、光差す場所に神の御業を見ていたのかもしれません。
テオに看取られながらゴッホが亡くなるラストシーンでは、死は明るい昼に現われる、太陽の金色の光が満ちる時にという、療養していた医院で彼がシスターに語った言葉が流れます。
その言葉を証明するかのように、ゴッホは明るい昼間の日差しの下で我が身に銃を発砲します。それより以前に彼が発作を起こして倒れたのも、明るい真昼の緑の中でした。
光の中で、生と死は一枚の紙の裏表のように存在していました。ほんの少し風が吹いただけで生死が簡単に入れ替わってしまうと、ゴッホは考えていたのではないでしょうか。
光に満ちた彼の絵は、彼の早すぎる死を暗示していたようにさえ思えてきます。
ゴッホは彼自身にしか見えない光を、彼だけの技法でキャンバスに映しとっていました。37年という短い生涯を閉じた彼が、もしあと十年長く生きていたなら、世の中に才能を認められる瞬間に立ち会えたのではないかと思わずにはいられません。
だからといって、そのことによって彼の深い孤独が埋められたかどうかはわかりませんが。現実の世界と折り合えなかったゴッホだったからこそ、常人には見えないものが見えたのかもしれません。
まとめ

天才画家ゴッホの苦悩と喜びを描く名作映画『炎の人ゴッホ』。ゴッホを描いた数ある映像作品の中で、最も有名な作品といわれています。
ゴッホの作品はなぜこんなにも大勢の人々の心を打つのか。その秘密の一部が明かされます。
精神を病んでの入院中でさえも、変わらず美しい世界をキャンバスに描き続ける姿に感動を覚えることでしょう。
ゴッホは生前は世に認められなかった不遇の画家でしたが、画商の弟テオと、その妻ヨーの尽力によって、後世まで世界中から愛され続ける希有な芸術家となりました。
今尚彼の素晴らしい絵を観ることのできる幸せを、改めてかみしめさせてくれる作品です。



































