女優グレタ・ガーウィグの初単独監督・脚本作で、第90回アカデミー賞で作品賞・監督賞・主演女優賞・助演女優賞・脚本賞の5部門にノミネートされた、映画『レディ・バード』。
『フランシス・ハ』『20センチュリー・ウーマン』などで知られる女優のグレタ・ガーウィグが、自身の出身地でもあるカリフォルニア州サクラメントを舞台に自伝的要素の濃い青春映画です!
映画『レディ・バード』の作品情報
【公開】
2018年(アメリカ映画)
【原題】
Lady Bird
【監督】
グレタ・ガーウィグ
【キャスト】
シアーシャ・ローナン、ローリー・メトカーフ、トレイシー・レッツ、ルーカス・ヘッジズ、ティモシー・シャラメ、ビーニー・フェルドスタイン、スティーブン・マッキンリー・ヘンダーソン、ロイス・スミス、オデイア・ラッシュ。ジョーダン・ロドリゲス、マリエル・スコット、ジェイク・マクドーマン
【作品概要】
『フランシス・ハ』、『20センチュリー・ウーマン』などで知られる女優のグレタ・ガーウィグが、自身の出身地でもあるカリフォルニア州サクラメントを舞台に脚本、監督を務めた、自伝的要素の濃い青春映画。
第75回ゴールデングローブ賞で作品賞&主演女優賞を受賞。2018年度アカデミー賞でも作品賞、主演女優賞、助演女優賞、監督賞、脚本賞にノミネートされるなど、各映画賞席巻の100部門受賞&191部門にノミネートされた。
映画『レディ・バード』のあらすじ
2002年、カリフォルニア州サクラメント。
17歳のクリスティン(自称“レディ・バード”)は、この閉塞感あふれる田舎町を飛びだしたくてたまりません。
カトリック系の高校に通っている彼女は、今年が高校最後の年。東海岸の大学に進学したいと思っていますが、母は地元の大学で充分、どこにお金があるの?と聞く耳を持ちません。
話せば話すほど言い合いになってしまいます。
「何かを成し遂げたい」と思いはするものの、何をやっていいのかもまだわからない、でもこの街では何もできないとレディ・バードは思うのでした。
そんなある日、レディ・バードはシスターに薦められ、親友のジュリーと一緒に学内のミュージカルのオーディションを受け、合格。
ただし、役柄を新たに増やすなどして、受けた生徒、全員が合格していました。
母にはいくら言っても無駄だと思ったレディ・バードは、父に東部の大学を受けたいことを打ち明け、助成金申請の手続きに協力してほしいと懇願します。
オーディションで知り合った青年ダニーにレディ・バードは積極的に近づき、ついにキスをします。帰宅中、歓びの雄叫びをあげるレディ・バード。
しかし、家に帰るや、母が叱りつけてきました。部屋が散らかっていてだらしないと言うのです。
父が失業したことを告げ、「子供がいい加減だったら、パパもそうだと思われて、あなたの知り合いの親の会社に就職できないでしょ!」と母はまくしたてるのでした。
進路指導でも地元の大学への進学をすすめられます。「あなたの志望校を調べていたら、もう面接が終わっていたの」と先生。「つまり?」と尋ねると「内申を上げるしかない」と言われてしまいます。
ダニーとは順調に仲を育んでいました。
ある夜、二人で寝転んで星空を見上げていた時、「胸をさわっていいよ」とレディ・バードが言うと、ダニーは「大切な人だから汚したくない」と応え、「愛している」とささやきました。
レディ・バードは感激して「私も愛してる!」と応えるのでした。
ダニーに誘われ、感謝祭の日に、彼の叔母さんの家に伺うことになりました。
「感謝祭をよその家で過ごすなんでなんて親不孝なの」と母はおかんむりですが、ダニーが迎えてに来て、二人は叔母さんの家にでかけて行きました。
着いた家は、サクラメントの街中でも四十区と言われる高級住宅街の屋敷で、レディ・バードがずーっと憧れていた家でした。
楽しい時間を過ごして帰宅しますが、また母に嫌な気持ちにさせられてしまいます。
一人、外に立っていると兄の彼女がやってきて、タバコをすすめ、言いました。「彼女は寛大だよ。私なんて親に追い出された。彼女は優しいわ」
ミュージカルの公演は大成功となり、レディ・バードの家族も会場に足を運んで楽しんでくれたようでした。
親友のジュリーは、数学が得意。数学の先生がいつも褒めてくれるので、密かに先生に恋心を抱いていました。
しかし、先生に奥さんがいて、妊娠中とわかり、がっかりしてしまいます。
感謝祭のイベントでトイレの待機列が長いのに業を煮やしたレディ・バードは男子トイレなら空いてるわ!とジュリーを連れて男子トイレに行き、個室のドアを開けると・・・。
なんとダニーが男子生徒とキスをしている場面に遭遇してしまいます。あわててその場を離れるレディ・バード。
母に命じられ、アルバイトを始めたレディ・バードは、見たことのある青年がテラス席にいるのに気が付きました。
感謝祭のイベントで演奏していたバンドの男子生徒です。
近づいて話をしていると、さぼるなと店長に注意をされてしまいますが、彼のことが気になって仕方ありません。彼はカイルと名乗りました。
ある日、バイト先にダニーがやってきました。ゴミを捨てに外に出るとダニーが追いかけてきて、「あのことは誰にも言わないで」と泣き始めました。
「自分が恥ずかしい」と泣きじゃくる彼を抱きしめて、レディ・バードは「誰にも言わない」と約束するのでした。
カイルのことが気になるレディ・バードは、彼と親しく、クラスの中心的存在の女子生徒ジェナに声をかけます。
二人は親しくなり、レディ・バードはジェナと行動することが増え、ジュリーとはすっかり疎遠に。
カイルとも相思相愛になり、ある日、彼に激しくキスされ、それに応えていましたが、「待って!まだ経験ないの」と叫ぶと、彼も「俺もだ!」と叫びました。「ほんと?」
ジェナと将来の話しをし、東部の大学に行きたいと話しますが、彼女の返答はこうでした。「この町が好きよ。私はママになりたいのよ」
学内で開催された「中絶に関する後援会」で、問題発言をしてしまったレディ・バードは停学処分を受けます。
母とは相変わらず、口喧嘩ばかり。セラピストとして働く母の収入が頼りで感謝もしているのですが、自分にどれだけお金がかかるかと言われ、カッとしてしまいます。
「いくらなの? 返すから!」と叫ぶと、母は「返せるほどの仕事につけるの?」と冷静に言い返してきました。
そんなある日、ついにカイルと結ばれます。晴れやかな顔で「お互いに処女と童貞を奪ったわ」と言うと、「君に奪われてない」とカイルは否定しました。
「六人ぐらいと寝た」という彼に「人数も覚えてないの!?」とレディ・バード。自分も経験がないと言ったと指摘しても彼は絶対に認めません。
どうやら「初体験を間違えた」ようです・・・。それでもプロムに一緒に言ってと頼んでしまうレディ・バード。
彼女が落ち込んでいると、母親が心配して近づいてきました。週末は仕事も休みだからと、母は娘を気晴らしに外に連れ出しました。
テレビはイラク戦争の空爆の様子を映し出していました。「全部お前宛てだ」と兄が持ってきた手紙を奪って自室に飛び込むレディ・バード。一つ、一つ、開封していきます。
不合格通知が続いたあと、最後に一つ「補欠合格」の通知がありました。思わずバンザイをするのでした。
シスターとの面会でレディ・バードは思いがけない言葉を聞きました。「サクラメントを愛しているのね」
よく観察しているとシスターは言います。「注意を払っているだけ」と答えると「同じことじゃない? 愛情と注意を払うのは」とシスターは微笑みました。
母とプロムに着るドレスを観に行ったレディ・バードは、ピンクのドレスを気に入りますが、母は何もいってくれません。
「どうして褒めてくれないの?」「ただ、ママに好かれたい」と言いますが、母は、レディ・バードをきちんと育てたいのだと言うだけでした。
プロムの日。いつぞやのダニーのように両親に挨拶することもなく、カイルは車のクラクションを鳴らすだけでした。
後部座席にはジェナとその恋人が乗っています。誰かからかかってきた電話に出たカイルは「プロムよりマイクの家に行こう」と言い出しました。
最初はそれに同意したレディ・バードでしたが、「やっぱりマイクの家には行かない。ジュリーの家まで送ってくれる?」とカイルに言うのでした。
ジュリーを訪ねると彼女は泣いていました。どうしたのか尋ねると「理由はない。幸せになれないから」と彼女は答えるのでした。
二人はすぐに元の仲に戻り、レディ・バードは、お母さんのドレスを借りてプロムに行こうとジュリーを誘いました。
二人でプロムに乗り込み、二人で踊り、楽しい一時を過ごすのでした。
ついに卒業式を迎え、地元のデービス校にも合格。家族でお祝いをしていると、ダニーが通りかかり、「補欠合格は?」と声をかけてきました。「まずい!」と父が叫びました。
映画『レディ・バード』の感想
『フランシス・ハ』(2012/ノア・バームバック監督)、『20センチュリー・ウーマン』(2016/マイク・ミルズ監督)などで知られる女優のグレタ・ガーウィグが、自身の出身地でもあるカリフォルニア州サクラメントを舞台に、自伝的要素を盛り込んで監督を務めた本作。
そこには母との葛藤と、自立していく少女の姿がありました。
何かを成し遂げたいけれど、まだ何をやっていいかわからない。今暮らしているこの街は退屈。自分のやりたいことはここにはないという想いは、若い時には多くの人が経験するであろう普遍性を持っています。
母は決して鬼母なわけではない。自分をまっとうな人間に育てたいと思ってくれているのもわかる。でも、もう少し、愛情を示してくれたっていいんじゃない? というヒロインの気持ちもよく理解できます。
シアーシャ・ローナン演じるヒロインは、明るく活発。でも決して学園のお姫様的存在などではなく、どちらかといえば、はみ出し者に属するタイプで、少々、お調子者の気があり、思慮の浅い行動をしがち。
こうした危なっかしい感じと、自分をよくみせようとしない開けっぴろげな様子は、レナ・ダナムの人気ドラマ『Girls』や映画『タイニー・ファニチャー』のヒロインと重なって見えます。
『Girls』のヒロインもニューヨークで小説家になるのを夢見て田舎から出てきた若い女性で、似たような境遇ということもありますが、性に関しても実におおらかという点でも共通しており、誰もが隠したい黒歴史を、ユーモアを込めて、露出するという表現の仕方も似ているように思えるのです。
ともあれ、そんなレディ・バードの行動を見ていると、母親の気持ちも多少は理解できる点もあるのは事実です。親からすればなんとハラハラさせてくれる娘なんだろう、というわけなのです。
とはいえ、あまりにも厳格、かつ頑固な母親との関係はまさに人生のバトルといえるかもしれません。自分の想いを貫いて、言いなりにならず、夢を追おうとする少女を思わず応援したくなってしまいます。
母と娘のそうした葛藤がメインにありつつ、この映画が爽やかな印象を残すのは、全編に愛の視点があるからです。
父や兄、その恋人、そして、まぁ母も、といった家族の愛は勿論として、高校の司教様やシスターも、温かい目でレディ・バードを見守っています。
シスターの「あなたはこの街が好きなのですね」という指摘が印象的です。
そんな思いがけない言葉に「注意を払っているだけ」とレディ・バードが応えると、「同じことじゃない?愛情と注意を払うのは」とシスターは言うのです。
母との関係にもこれと同じことが言えるのではないでしょうか。愛情があるからこそ、いちいち、いろんなことが目にはいって(つまり注意を払っているから)母は厳しくなってしまう。
レディ・バードにとってサクラメントという街への愛憎と母への愛憎は重なっているのです。彼女がサクラメントを去ることになり、初めてその街の生き生きとした様に気付くシーンは実に感動的です。
マンブルコア派と呼ばれるデジタル世代のインディペンデント映画界のミューズとなり、『フランシス・ハ』などの作品の成功を経て、『マギーズ・プラン 幸せのあとしまつ』(2015/レベッカ・ミラー監督)や『ジャッキー ファーストレディ 最後の使命』(2016/パブロ・ラライン監督) などの話題作にも出演し、女優としての地位を築いたグレタ・ガーウィグ。
これはそんな彼女が故郷と母へ感謝を伝える映画なのです。心からありがとう、と。今の私があるのはあなたたちのお陰なのだと。
こうして”レディ・バード”は父が予言したように「故郷に戻ってきた」のです。
まとめ
主人公クリスティン(レディ・バード)役を演じるシアーシャ・ローナンは、『つぐない』(2007/ジョー・ライト監督)、『ブルックリン』(2015/ジョン・クローリー監督)でもアカデミー賞にノミネートされている若き実力派。
今回はそんなこれまでのイメージを覆すような、ティーンエイジ役を溌剌と演じています。
彼女の恋人役となるルーカス・ヘッジズとティモシー・シャラメも、それぞれ、『マンチェスター・バイ・ザ・シー』(2016/ケネス・ロナーガン監督)、『君の名前で僕を呼んで』(2017/ルカ・グァダニーノ監督)などの作品で強烈な印象を残した今最も期待されている実力派若手俳優です。
ふたりともやはりこれまでのイメージとは違う役柄を演じていて、とりわけ『君の名前で僕を呼んで』でティモシー・シャラメのファンになった人は驚くかもしれません。
また、音楽の使い方が絶妙でセンスを感じました。
音楽監督のジョン・ブライオンはこれまでに『マグノリア』(1999)、『パンチドランク・ラブ』(2002)などのポール・トーマス・アンダーソン作品や、『エターナル・サンシャイン』(2004/ミシェル・ゴンドリー監督)、『エイミー、エイミー、エイミー!こじらせシングルライフの抜け出し方』(2015/ジャド・アパトー監督)などの作品を手がけている才人です。
そして、女優としての実力に加え、初監督作で、これほどのクオリティーの作品を撮ったグレタ・ガーウィグ。
監督としても、今後どのような活躍を見せてくれるのか実に楽しみです。