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『斬る(1962)』ネタバレあらすじ感想と結末の評価解説。市川雷蔵が剣法‟三弦の構え”で時代劇ならではの魅力を披露する

  • Writer :
  • 星野しげみ

市川雷蔵の「三弦の構え」が魅了する『斬る(1962)』

柴田錬三郎の原作から新藤兼人が脚色し、『座頭市物語』(1962)の三隅研次が監督した映画『斬る(1962)』。

市川雷蔵主演・三隅研次監督コンビによる‟剣に生きる主人公”を描いた、『剣』(1964)『剣鬼』(1965)へと続く「剣三部作」シリーズの第一作です。

暗い宿命を背負って生まれた“信吾”。武家の高倉家で美剣士として成長しますが、その後、さまざまな陰謀と戦いながら、最後は切腹しなければならない、悲劇を辿ります。

数奇な運命をたどる多感な天才刺客の若き生き様を、市川雷蔵が見事に演じている本作。

市川雷蔵主演『斬る(1962)』をネタバレ有りでご紹介します

映画『斬る(1962)』の作品情報


(C)KADOKAWA1962

【公開】
1962年(日本映画)

【原作】
柴田錬三郎

【脚本】
新藤兼人

【監督】
三隅研次

【撮影】
本多省三

【キャスト】
市川雷蔵、藤村志保、渚まゆみ、万里昌代、成田純一郎、丹羽又三郎、天地茂、稲葉義男、千葉敏郎、細川俊夫ほか

【作品概要】
柴田錬三郎の原作から新藤兼人が脚色し、『座頭市物語』(1962)の三隅研次監督が取りまとめた『斬る(1962)』。三隅研次の「剣」三部作の第一作で、この後『剣』(1964)『剣鬼』(1965)が制作されました。

『斬る(1962)』の主演は、『破戒(1962)』『中山七里』(1962)「眠狂四郎」(1963)シリーズの市川雷蔵。藤村志保、渚まゆみ、万里昌代、成田純一郎、丹羽又三郎、天地茂らが共演。

邪剣と知りつつも、相手のノドを狙う異様な「三絃の構え」をあやつる主人公の剣はまさに天下無敵。雷蔵得意の迫力にみちた殺陣が魅了します。

映画『斬る(1962)』のあらすじとネタバレ


(C)KADOKAWA1962

天保の時代、ある屋敷内で藩主の側室が侍女に刺し殺され、侍女は駆けつけた侍たちによって取り押さえられました。

1年後、1人の赤ん坊が密かに小諸藩士高倉信右衛門の屋敷に運ばれ、高倉家の養子となりました。

それから20余年が経過。

信吾と名付けられたその赤ん坊は立派に成長。藩内の狭い世界に閉じこもらず、他の国を歩いて見聞を広めたいと旅に出ます。

信吾が旅立って3年が経ち、ようやく彼は家に帰還しました。人間的に成長した信吾に、父も妹の芳尾も喜びます。

やがて、武道奨励のために水戸の名剣士庄司嘉兵衛との試合が行われ、剣術が不得手のはずの信吾だけが庄司を倒しました。

高倉家にとって平穏な日々が続きましたが、突然事件が起こります。

隣家の池辺義一郎が息子の義十郎の嫁に芳尾を望んだものの、信右衛門は断ります。そのことを恨みに思って信吾の出生の秘密を藩内で喋ったところ、かえって藩主からお咎めを被ったのです。

このことで逆上した義一郎は義十郎とともに信右衛門と芳尾を襲撃しました。知らせを受けて信吾は家に駆けつけますが、芳尾は死んでおり、信右衛門も虫の息でした。

そして信吾は信右衛門から、自分の実の母が飯田藩江戸屋敷の侍女山口藤子、父親が長岡藩の多田草司だということを知らされます。

藤子は城代家老安富主計の命を受けて殿様の愛妾を殺したあと、処刑送りの駕籠から彼女を救った長岡藩の多田草司と共に1年を過ごしていました。そして生れたのが信吾でした。

結局、追っ手に捕まり、藤子は打首となりましたが、その処刑は多田草司によって行われました。

信吾は自分の数奇な運命を知り愕然としますが、父と芳尾の仇を打つべき、義一郎と義十郎の跡を追い、2人を殺して仇討ちを果たします。

そして、そのまま信吾は脱藩し、諸国を流浪する身となりました。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『斬る(1962)』ネタバレ・結末の記載がございます。『斬る(1962)』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

長岡で実の父である多田草司と会い、母の墓に詣でた後、信吾は江戸へ向かいます。

その途中、信吾は20人もの武士に追われている田所主水という侍から、姉の佐代を預ってくれと頼まれました。

しかし、佐代は主水が危くなった時、自分を犠牲にして主水を逃がします。彼女の崇高な姿にうたれた信吾は、彼女を手厚く葬りました。

江戸に出た信吾は、千葉道場主栄次郎と剣を交えました。その技の非凡さを知った栄次郎幕府大目付松平大炊頭に彼を推挙した。

松平にも気に入られた信吾は、幕府大目付松平大炊頭の警備役となりました。

文久元年、世の中は尊王攘夷の嵐に狂っていました。水戸藩はその急先鋒であったため、松平は水戸藩取締りのため信吾を伴って水戸へ赴きました。

水戸へ着いた時、大炊頭を襲う刺客の中に庄司嘉兵衛があったが、その嘉兵衛も信吾に倒されました。

明日は江戸へ帰還という水戸最後の日、城内に入った大炊頭と信吾は、先祖の命日焼香のためという名目で両刀を取上げられ、仏間と控えの間に通されました。

仏間には刺客が待っていて、松平はあっという間に騙し討ちにあいます。控えの間で危機を直感した信吾は、入り組んだ城内の仏間を探しに飛び出しました。

床の間で見つけた梅一枝を持って、潜んでいた刺客を倒し、仏間にかけつけますが、松平はすでに絶命していました。

責任を感じた信吾は、そのままそこで切腹をし、数奇な短い生涯を終えます。

映画『斬る(1962)』の感想と評価


(C)KADOKAWA1962

歌舞伎界から映画界へ転身した市川雷蔵の多くの秀作を差し置いて、早すぎる死を迎えた彼の生涯を象徴する名作とも言われている『斬る(1962)』。

黙って座っているだけで絵になるイケメン雷蔵が、すらりと剣を抜いて襲い掛かる刺客を打ち倒していきます。

時を変え、場所を変えて、度々行われる殺陣。次第に凄まじくなる雷蔵の剣裁きは、観る者を魅了します。

ですが、頻繁に激しい殺陣が行われているのにも関わらず、本作の全体には美しさと上品さが存在していました。

斬り殺されても映像に映るのは、身体の一部から流れる一筋の血のみ。

斬首刑は、頭上高く振り上げた刀が陽光に光る様を映して終わります。

血みどろの惨い死体の様子は一切見せず、刀のきらめくだけで勝負の決着を想像させるテクニックが、美しい映像の作品に仕上げているのでしょう。

雷蔵が演じる信吾は、旅に出てあみだした「三絃の構え」で敵を斬ります。

雷蔵はこの構えを充分活用しようと、監督と綿密な打ち合わせをし、ラストの水戸過激派との立ち回りでは、「三絃の構え」をたっぷり見せていました。

剣を一閃すると2、3人がバタバタと倒れ、15秒で10人が虚空をつかむ、という殺陣シーンは大迫力。それは、テストのときからケガ人が出るほどのものだったとか。

雷蔵がこんなに思いを込めて作り上げた‟高倉信吾”というキャラは、自分の剣術を破る者があれば、剣と共に自分も滅びたいと願う剣士でした。

水戸藩主の広すぎるほど広いお屋敷の中で、美しく整えられた日本間の襖をいくつも明け放して主君を捜す信吾。

庭園の美しさも生け花の趣向もさりげなく映し出され、日本文化の美しさも垣間見ることのできるシーンです。

そして、信吾の悲願も叶わず、自ら命を絶つという残酷なラストが待っていました。

上品ささえ感じる時代劇『斬る(1962)』には、敗者を憐れむ‟滅びの美学”も感じ取れます。

まとめ


(C)KADOKAWA1962

市川雷蔵主演・三隅研次監督コンビによる『斬る(1962)』をご紹介しました。

出生の秘密を持つ主人公信吾。波乱に満ちた孤独な剣客の半生が始まり、やがて主君の死の責任を感じて自決します。

雷蔵お得意の迫力にみちた殺陣が、作品の随所に展開。

『斬る(1962)』には、殺陣の迫力と美しさが見て取れ、時代劇の魅力が満載です。

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