日が暮れそうで暮れない「暮れなずむ」時間。もうそろそろ「くれなずめ!」。
劇団「ゴジゲン」主宰でもあり、『アフロ田中』『バイプレイヤーズ』『アズミ・ハルコは行方不明』の松居大悟監督が、自身の体験を基に書き下ろした舞台劇の映画化。
高校時代につるんでいた6人の仲間たちが、結婚披露宴で余興をするために5年振りに集った。6人揃えばいつでもあの頃に戻っていた。そう、5年前までは。
ウケるはずの余興もすべり、2次会までの時間を持て余す6人は、高校時代の思い出を振り返るのでした。
6人の「今」と、思い出が蘇る「過去」が交差した時、果たして6人は「その答え」にたどり着くことができるのでしょうか。映画『くれなずめ』を紹介します。
映画『くれなずめ』の作品情報
【公開】
2021年(日本映画)
【監督】
松居大悟
【キャスト】
成田凌、若葉竜也、浜野謙太、藤原季節、目次立樹、高良健吾、飯豊まりえ、内田理央、小林喜日、都築拓紀、城田優、前田敦子、滝藤賢一、近藤芳正、岩松了、パパイヤ鈴木
【作品概要】
友人の死を受け止めることが出来ない仲間たちの寂しさを描いた映画『くれなずめ』。松居大悟監督自身の体験に基づき書かれたオリジナル脚本となります。
2017年、松居大悟監督が主宰の劇団「ゴジゲン」での舞台を経て、映画化となりました。
映画版の出演メンバーには、主人公・吉尾和希を演じる『カツベン』(2019)の成田凌をはじめ、高良健吾、若葉竜也、浜野謙太、藤原季節、目次立樹と豪華キャストが勢揃い。また、男仲間6人に混ざり紅一点、同級生ミキエ役に前田敦子が登場。
映画主題歌は、ウルフルズの『ゾウはネズミ色』。今作のために書き下ろした1曲です。劇中のテーマ曲となる『それが答えだ!』のアンサーソングにもなっています。
映画『くれなずめ』のあらすじとネタバレ
結婚披露宴会場で、念入りに余興の打ち合わせをする6人の男たち。高校時代の帰宅部仲間だった彼らは、友達の結婚式で余興をするために5年振りに再会していました。
学生の頃からの友達とは、久しぶりに顔を合わせてもすぐに昔に戻るものです。悪ふざけが過ぎる6人は、そのままカラオケへ。
太陽族の「誇り」で盛り上がるも、途中で息切れし歳をとったと感じるメンバー。
昔から優柔不断だけど心優しい吉尾、劇団を主宰する欽一と役者の明石、唯一の既婚者となったソース、会社員で後輩気質の大成、地元のネジ工場で働くネジ。みんな、アラサーになっていました。
「今日はお開きにしよう」と締めの挨拶を受け持った吉尾は、ふと感じていた疑問を口にします。
「もしかして、俺ってさぁ、ほら5年前…。分かってるよね?死んでるんだけど…」。
「あいあいあーい、んじゃまたね」。仲間たちはなぜか答えをはぐらかし、冗談のように扱いました。
結婚式当日です。パーティーは終わり、暗い表情の欽一と明石、そして吉尾が会場から出てきます。どうやら、余興がかなり滑ったようです。
満を辞して用意した余興は、かつて文化祭で披露した赤フンダンス。ウルフルズの『それが答えだ!』を、フンドシ一丁で全力で踊るというものでした。
ソース、大成、ネジもやってきます。「なんで脱がなかったんだよ」「なに、客イジリしてんだよ」「ヘラヘラ笑ってただろ。無表情の方が面白いって言ったじゃん」。責任の擦り付け合いです。
「つか、あれやって2次会行けます?」。大成の言葉にうなだれる仲間たち。「2次会までどんくらいあんの?」「3時間です」「持て余すなー」。それでも時間を潰すことにした6人。
どの店も満席で腰を落ち着けることが出来ません。6人はグダグダと歩きながら、昔のことを思い出していました。死んだはずなのにまだここにいる吉尾との思い出です。
12年前、高校の文化祭でやるコントに吉尾を誘ったのは明石でした。文化祭の打ち上げの席にやってきたイジメっこに、こっそり仕返しをしてやったことは、ソースと吉尾だけの秘密です。
「また一緒になんかやりたいね」。腹の底から笑ったあの日。
9年前、大成の部屋に泊まりに行ったネジと吉尾。吉尾の好きな人が同級生のミキエだったことが判明。「おやすみ。また、明日」。「また明日って良いよな」。「笑えるんだけど」。
もみくしゃになり笑いあったあの日。
6年前、仙台に就職した吉尾の元を訪ねる欽一。吉尾を劇団に誘うためでした。芝居を止め会社員としてやっていくことを吉尾は選びます。
おでん屋台で酒を酌み交わしながら、芝居について熱く語りあったあの日。
そして、2年前。吉尾の3周忌の日。大成は、駅のホームでミキエと出会います。「線香あげに来た」。
そのミキエが今、2次会までの時間つぶしをしている6人の前を通ります。
「あの余興なに?最悪なんだけど。あれ、吉尾じゃん。なんでいんの?」。
吉尾の存在を不思議とも思わないミキエ。相変わらずキレキャラのミキエに、吉尾は思い切って告白します。
「ずっと好きです」。
何も答えず、娘の写真を見せるミキエ。ミキエは結婚し、子供もいました。「んじゃ、2次会で」と立ち去るミキエに、「幸せになれよー!」と声をかける吉尾。
やっと思いを伝えられた。見守っていた5人も嬉しそうです。感動のシーンのはずでした。ミキエが振り向き怒りながら戻ってきます。「おいおい、さっきで終わりで良かったじゃん」。呟きが聞こえてきます。
「はぁ?もう幸せなってるし。死んでるから偉いの?生きてても変わんねぇんだよ」。ミキエの説教は続きました。
映画『くれなずめ』の感想と評価
松居大悟監督が自身の体験に基づき書き上げたオリジナル脚本『くれなずめ』。友人の死を受け入れられず引きずって生きる者たちの寂しさを、ユーモラスに描きます。
タイトルの『くれなずめ』は、日が暮れそうで暮れない時間「暮れなずむ」を変化させ、命令形にした造語で、形容できない時間、なんとも言えない愛おしい瞬間に名付けたものだそうです。まさに、この物語を言い表すのにぴったりな言葉だと感じました。
ストーリー展開では、けっこうな序盤で衝撃が走ります。高校時代の仲間6人が久しぶりに集まった席で、主人公の吉尾(成田凌)が、実は死んでいることが発覚します。
普通に姿が見え、話し、笑い合える吉尾の姿に、何の疑問も持たず接する仲間たちでしたが、その心の底は、友人の死を受け入れられないまま過ごして来た寂しい思いで溢れていました。
スベりにスベった結婚式での余興のあと、2次会までのぽっかり空いた時間、残された5人は、ふとしたことから吉尾との思い出を回想していきます。
それぞれの思い出が、いちいちクセが強いというのが特徴ですが、学生時代の思い出なんてくだらないことばかりだったと懐かしくなります。
友達が集まれば、ただそれだけで楽しかったあの頃。大人になって思い出すと、ぽっと心があったかくなる記憶。あの時間は宝物だったように思えます。
大事な人との楽しい思い出は、本当にふとした時に蘇ってくる時があります。いつまでも浸っていたい時間。それが「暮れなずむ」時間なのかもしれません。
それでも映画のラストには、仲間たちがいよいよ吉尾と本当のお別れをする時がきます。綺麗だった夕焼けの時間はもう終わりです。
「くれなずめ」。残された者は、どんなに悲しくても現実の明日をちゃんと迎えなければなりません。過去を書き換えても、前に進むことを決めるのは自分です。
映画のテーマ曲
劇中で欠かすことができない余興シーン。6人がフンドシ一丁で踊る曲がウルフルズの『それが答えだ!』です。
彼らが高校生の頃にもやってウケた鉄板ネタのはずでした。アラサーの彼らは余興でやってスベリます。中途半端でやり切れない気持ちが敗北の原因でしょう。
その後、彼らはそれぞれ吉尾の死と向き合い、再び『それが答えだ!』を踊る時がきます。見事にやり切った赤フンダンスに、彼らと共に吹っ切れたという爽快感を味わえます。
また、映画の主題歌には、ウルフルズが映画のために書き下ろした『ゾウはネズミ色』が使われています。『それが答えだ!』から約25年の時を経て、アンサーソングともいえる曲となりました。
『それが答えだ!』では、結局その答えが何なのかは明かされていません。ウルフルズ好きという設定の吉尾が、「答えが明かされていない所が良いのだ」と触れるシーンもあります。
トータス松本は、楽曲提供についてのインタビューで、こう言っています。「25年経って、答えにはたどり着けない事を知ったというだけ。それで良いという答えなのだ」と。
納得いかない物事に無理やり答えを探そうとしても、間違いばかりが見つかるかもしれません。ふとした、しょーもない時間の狭間にこそ、小さな答えを見つけることが出来るのかもしれません。
絶妙なキャスティング
また、映画の見どころのひとつに、絶妙なキャスティングがあげられます。成田凌、高良健吾、若葉竜也、浜野謙太、藤原季節、目次立樹と、実力派俳優たちが集結。本当の同級生かと思えるほどの、息の合った演技を見せます。
6人揃えばコントのような掛け合いが始まり、バカなことを本気でやる仲間内のノリに、見ている方もクスッと笑えます。
また、男仲間6人の同級生ミキエ役に前田敦子が登場。出演シーンでは、毎回キレるというキャラを豪快にやり切っています。男だらけのぐだぐだなノリを、バチンと一発しめてくれる存在です。
その他にも、ちょい役で意外な豪華俳優が登場するなど、小ネタ満載の松居大悟監督ワールドが楽しめます。
まとめ
友人の結婚披露宴で「赤フンダンス」の余興をするために集まった高校の同級生6人の、今と過去の物語『くれなずめ』を紹介しました。
形容できない時間、なんとも言えない愛おしい瞬間「くれなずめ」。時に立ち止まり、大切な人との思い出に浸る時間があっても良いんじゃないでしょうか。
答えを求めるだけが人生じゃない。答えがないことも認めて、しょーもない感情も抱えて、それでも生きていれば良いこともあって、そしてまたいつか、大事な人と再会できる日がくるはずです。