二人とも本当に解散の決心は変わらないんだな?
インディーズで人気を誇る女性デュオ〈ハルレオ〉の二人は、解散を決めた。
門脇麦と小松菜奈が初共演。秦基博とあいみょんが映画のために書き下ろした歌を二人が奏でる音楽ロードムービー『さよならくちびる』をご紹介します。
映画『さよならくちびる』作品情報
【公開】
2019年5月31日公開(日本映画)
【脚本・監督】
塩田明彦
【キャスト】
小松菜奈、門脇麦、成田凌、篠山輝信、松本まりか、新谷ゆづみ、日高麻鈴、青柳尊哉、松浦祐也、篠原ゆき子、マキタスポーツ
【作品概要】
インディーズ・デュオ〈ハルレオ〉の2人に小松菜奈と門脇麦が扮し、秦基博が主題歌「さよならくちびる」を、あいみょんが挿入歌「たちまち嵐」「誰にだって訳がある」を〈ハルレオ〉のために書き下ろした。
『害虫』(2001)『カナリア』(2005)の塩田明彦がメガホンを取った青春音楽ロードムービー。
映画『さよならくちびる』のあらすじとネタバレ
高架下に止められた車に荷物を積み込み、助手席に座ったハルは、後部座席にレオが座っているのに気づきます。2人は〈ハルレオ〉というデュオを組んでおり、全国7都市を回るツアーへ出発しようとしているところでした。しかしなにやら険悪な雰囲気が漂っています。
「2人とも本当に解散の決心は変わらないんだな?」ローディ兼マネージャーのシマが確認すると2人はうなずきました。
「わかった、最後のライブでハルレオは解散だ。ただし、このツアーだけはちゃんと出てくれよ」とシマは言い、2人に誓約書を書かそうとしますが、「約束は守る」と2人は言い、署名を拒否しました。
2018年7月14日、静岡県浜松市「LAKE SIDE STORY」で〈ハルレオ〉はツアーの初日を迎えます。ところが別行動をとったレオが、時間を過ぎてもやってきません。やっと来たかと思うと、目の周りに痣を作っていました。一緒にいたいきずりの男にやられたらしく、ハルは「なんでいつもそんなやつとばかり付き合うの」と思わず叱責してしまいます。
「今日が何の日かくらい憶えているよ」と、レオは不機嫌そうな表情で、小さな封筒をハルに押し付けました。ステージ上では何事もなかったように振る舞う2人。トレードマークのツナギ姿でアコースティックギターを奏で、「たちまち嵐」という曲を演奏します。シマも2人と少し離れたところでタンバリンをたたき、2人をサポートします。
次の街へ向かう車中、ハルがレオからもらった封筒を開けるとミサンガが入っていました。「今日はハルの誕生日か」とその様子を見て言うシマに、「違うよ。初めてレオに声をかけた日だよ」とハルは答えました。
クリーニング工場でバイトしていたハルは、上司にひどく叱られているレオを見ていました。彼女はレオのあとを追いかけ、声をかけました。「ねぇ、音楽やらない?あたしと」と。
ハルは丁寧にギターを教え、レオもまた音楽を奏でる歓びを知ります。ある日、ハルがレオを家によんで、手作りのカレーを一緒に食べていると、レオは胸がいっぱいになって泣き始めました。
「なんであたしなんかに声をかけたの?」「歌いたそうな目をしていた」ハルの答えを聞いてレオは言うのでした。「だったらあたし歌う。全力でハルのあと追いかけていく」。
レオのギターの腕前はあがり、2人は路上で歌い始めます。徐々に人気が出て、ローディを探していたハルのもとに、シマがやってきます。元ホストだというシマは、もう女をくどくのにもあきたし、人の役にたつことがやりたいんだ、ハルさんの歌が大好きだから、と半ば強引に名乗りをあげたのでした。
売れたバンドが使っていたツアー車を用意したシマにハルは「売れるために歌ってるんじゃない」とボソッとつぶやきますが、「みんなそういうけどね、売れたほうが長続きするんだよ」とシマは調子よく言うと、車を走らせました。こうして3人は行動を共にするようになったのです。
2018年7月15日。三重県四日市市のライブは集客がよくありませんでした。シマはライブ会場のオーナーから「〈ハルレオ〉が解散すると噂になってる。どうせなら大々的に解散ツアーと銘打ってやったらどう? 集客見込めるよ」と言われてしまいます。
次のライブ会場である大阪に着くと、4時に現地集合な、と言って3人は別れました。ハルはギター店を訪ね、アコギを手にすると、試し弾きをはじめました。
レオが中古レコード店にはいると、先にシマが入店していました。レオがシマにおすすめのレコードを尋ねると、シマが見せたレコードのジャケットにはなんとシマの姿が。彼はもともとミュージシャンだったことが判明します。高校卒業からバンドを始め、6年間続けたということを。
大阪のライブ後、シマが数人の男に襲われます。怪我したシマに変わってハルが車を運転し、次のライブ会場である新潟へと向かいました。
対バンしていたバンドのギタリストの女に自分が手を出したせいで、そのバンドは解散してしまったとシマは明かします。そして、そのことを根に持った人間が自分を襲ったのだとも。
「好きでもなかったのに手を出したんだ」とシマはつぶやきました。
シマが目覚めると、眼を見張るような美しい湖のふもとに車が停まっていました。2人の姿はありません。あわてて2人を探しに行くシマ。すると、まもなくレオの姿が見えました。
2日ほど時間があるので、自由行動にしようと言ってハルは出かけてしまったといいます。
「ハルのうちに行ったことある?」レオが尋ねると、「あるよ」とシマは答えました。「法事に帰るっていうから車で送っていったんだけど、すごく良い家族でさ。俺もあんな家族だったらよかったのにと思ったよ」。
「法事だからきちんとした格好をしてこいって言われたんだけど、俺は家族サービスに利用されたんだな」と言うシマ。どうやらハルはシマを恋人として紹介したようなのです。本当はハルは女性が好きなのですが、親には言い出せず苦しんでいました。
レオは突然「ホテルに行こう!」とシマを誘い、キスしようとしてきましたが、シマはなんとか諦めさせます。「そんなことしたら俺たちのままでいられない!」。実は彼はハルが好きで、レオもそのことに気づいていました。
新潟、山形とツアーを続けていくうちに、〈ハルレオ〉は解散するのではないかという噂が実しやかに囁かれ、集客は増えていきました。中には「解散しないでー」と声をあげるファンもいました。CDなどの物販も在庫がなくなりつつありました。
音楽番組が〈ハルレオ〉を取り上げ、2人がインタビューを受けた時のことです。インタビュアーがハルの作詞作曲能力をべた褒めしていると、面白くないレオは途中で席をたってしまいます。
ハルのために一生懸命歌ってきたレオですが、〈ハルレオ〉が売れだすと、レオは次第にハルの才能に嫉妬するようになり、なんのために歌を歌っているのかわからなくなり荒れ始めました。
ハルは少し前のことを思い出していました。荒れたレオが、暴力的な男と付き合い始めた時のことです。「レオがぼろぼろになっていくとこなんか見たくないんだよ!」と言うハルにレオは応えるのでした。「ハルにそんなこと言われたら私、ますます負け犬になるんだよ!」と。
その時はシマが男のところに乗り込んでいき、なんとか解決しましたが、ハルとレオの心はすれ違ったままでした。
映画『さよならくちびる』の感想と評価
女性2人のインディーズ・デユオのメンバーを門脇麦と小松菜奈が演じるという、もうそれだけで、映画の成功は約束されたといっても過言ではありません。今、乗りに乗っている若手女優の2人のタッグがこのような形で実現したことに喜びを隠せません。
門脇麦が扮するハルは、生まれつきのシンガーといってもいいでしょう。全国七都市を回る際に通る国道の風景は、全国どこでも同じような風景が続く代わり映えのないものですが、そこにハルが紡ぎ出す詞(ことば)が活字となって浮かび上がります。何気ない風景が、途端に感情を持ったもののように映り始めます。四宮秀俊のカメラがまた鮮やかです。
こうして、詞(ことば)というものは生まれてくるのだなと、作り手の真剣な創作の一端を垣間見たような気分になりました。
大阪ライブの空き時間に、ギターのお店をのぞき、アコギを手にとって、試し弾きをするシーンも、その音の中にすっと入っていく彼女の無心さがとてもリアルです。
歌を作り、歌わないと生きていくことができない。ハルはそんな人なのでしょう。
一方、小松菜奈扮するレオは、まるで気まぐれな猫のようです。
函館での最後のライブ前、レオが外で待つファンのところに出てきてサインをする様は、スター性がにじみ出ていて、カリスマ性すら感じさせます。小松菜奈の持つスター性が、そのままキャラクターに違和感なく反映されています。
そこに、昨今『ここは退屈迎えに来て』『愛ってなんだ』などの作品で活躍が目覚ましい成田凌がローディ兼マネージャーとして加わり、3人は一つのチームとなります。
この女性2人と男性1人の関係には、様々な感情が生まれ、当然のように複数の“恋”が芽生えるのですが、彼らは驚くほどストイックです。ここまで、くちびるを許さない関係も珍しいと言ってしまいたくなるほどに。
3人にとっては、恋するよりも3人でいることが大切なのです。3人でいるためには恋を諦めることも厭いません。それが彼女たちが、歌を歌い続けることができる唯一の形だから。
映画はハルとレオの気持ちがすれ違ってしまい、解散の意志を固めた中で行われるツアーを描くロードムービーとなっていますが、3人の仲が壊れていく姿を描くのではなく、回想シーンを通して、むしろ3人の絆を描く作品になっています。
そのため物語に悲壮感はなく、どちらかといえば、解散しないのではないか、いや、しないで欲しいという期待感が大きくなっていきます。それがどのような形で導かれるのかが、ある意味見せ場とも言えます。
『害虫』や『カナリア』を撮った塩田明彦監督にしては、社会の“毒”に対する視点にいささか欠けるきらいもありますが、後味はとてもよく、思わず笑みがこぼれてしまう愛すべき作品となっています。
まとめ
ミュージシャンを主人公にした作品となると、楽曲がとても重要となってきます。この作品の中で歌われる歌は3曲だけなのですが、塩田監督はその3曲でライブシーンを巧みに構築してみせます。
楽曲が素晴らしいのはいうまでもありません。秦基博が主題歌「さよならくちびる」を、あいみょんが挿入歌「たちまち嵐」「誰にだって訳がある」を映画のために書き下ろしました。
これらの歌を披露する門脇麦と小松菜奈の歌声がとても素敵です。玄人っぽくないところが逆に良く、二人の声の相性も抜群です。
もっともっと、ずっとずっと彼女たちの歌を聞いて、ライブを追いかけたい・・・。一度映画を観たら、誰もが〈ハルレオ〉のファンになってしまうことでしょう。