2019年3月23日より公開の映画『こどもしょくどう』。
俳優の吉岡秀隆、女優の常盤貴子らが出演している映画『こどもしょくどう』。
とある食堂が「子ども食堂」を開くまでの経緯を子どもたちの視点から描いたヒューマンドラマです。
2019年の3月23日に神保町の岩波ホールで行われた公開初日舞台挨拶は、2回ともに満席という大盛況。
日向寺太郎監督や主演の藤本哉汰、鈴木梨央をはじめ、子役の浅川蓮、古川凛、田中千空、そして藤本哉汰が演じるユウトの両親役を務めた常盤貴子(1回目のみ)、吉岡秀隆が壇上に上がりました。
大人たちと子どもたちが互いに笑わせ合うという壇上の様子に、場内も和やかな雰囲気に包まれました。しかし、それは劇中で描かれている過酷な現実とは、あまりにも大きなギャップを感じさせる光景でした。
映画『こどもしょくどう』をご紹介します。
映画『こどもしょくどう』の作品情報
【公開】
2019年(日本映画)
【原作】
足立紳
【監督】
日向寺太郎
【脚本】
足立紳、山口智之
【キャスト】
藤本哉汰、鈴木梨央、浅川蓮、古川凛、田中千空、降谷建志、石田ひかり、常盤貴子、吉岡秀隆
【作品概要】
とある食堂の主人の息子・ユウトが車中生活をしている姉妹と出会い交流する中で、現代社会における貧困の問題、そして「子ども食堂」の誕生を描いたヒューマンドラマ映画です。
監督には『誰がために』『火垂るの墓』『爆心 長崎の空』の日向寺太郎。原作・脚本には『百円の恋』で日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞した足立紳。
実家が食堂の小学生・ユウト役の藤本哉汰、貧困に喘ぐ姉妹の姉・ミチル役の鈴木梨央は本作が映画初主演です。
またユウトの友達・タカシ役の浅川蓮、ミチルの妹・ヒカル役の古川凛、ユウトの妹・ミサ役の田中千空と、第一線で活躍する子役が並びます。
そしてユウトの父・作郎と母・佳子を演じるのは、『隠し剣 鬼の爪』『小さいおうち』の吉岡秀隆、『赤い月』『CUT』の常盤貴子。
姉妹の父・次郎と母・朋美を演じるのは、「Dragon Ash」のボーカル・ギターで俳優としても活動している降谷建志、『ふたり』『竜二Forever』の石田ひかりです。
映画『こどもしょくどう』のあらすじとネタバレ
両親が自宅で食堂を営んでいる小学生の男の子・ユウト。彼の友達・タカシは同級生の数人からイジメられていましたが、止めようとはせず、いつも見て見ぬ振りをしていました。
一緒に所属している少年野球チームの練習を終え、二人はユウトの家へと行きます。
帰宅したユウトは彼の妹・ミサ、そしてタカシとともに夕食を食べます。
タカシの家は育児放棄状態の母子家庭で、ユウトの父・作郎と母・佳子は彼のことを心配し頻繁に夕食を振舞っていました。
ある日、近所の橋の下に一台の車がやって来ました。そこでミチル・ヒカルの姉妹とその父・次郎が車中生活をするようになったのを、ユウトは見かけるようになります。
別の日、ユウトは菓子類を買いにある店に入ると、ミチルが万引きをする瞬間、そして店員に見つかって店の奥へと連れて行かれる光景を目撃してしまいます。
その後も姉妹のことが気になり、タカシや妹と一緒に橋の下へ行くようになるユウト。
やがて、夕食に出された食べ物の余りを、両親に隠れて姉妹の元へ運ぶようになります。ですが、姉妹に直接食べ物を渡すことはどうしてもできませんでした。
また別の日の昼間、姉妹と次郎が暮らす車は、高校生たちの遊び場兼オモチャと化していました。
その光景を見つめる姉妹、タカシ、ユウト。そして同じくそれを見た次郎は、そのままどこかへと消え、失踪してしまいました。
ユウトは姉妹に声をかけ、食堂へ来いと誘います。姉妹は久々にまともな食事をとります。
ですが、姉妹の身元を訝しんでいたユウトの両親に親や学校のことなどを尋ねられてしまい、ミチルは何も答えられませんでした。
その日の晩、ミチルは車中にヒカルを置き去りにして、雨の中を走り、「お母さん」と言いながら号泣します。
ミチルは、ヒカルに心中を提案するほどに、心が追い詰められてました。
姉妹と再会したユウトは、再び食堂に誘います。けれども、ミチルは「父が帰ってくるかもしれないから」と強引に食堂を立ち去りました。
映画『こどもしょくどう』の感想と評価
日本国内に、貧しい子どもたちに無料或いは少額で食事を提供してくれる「子ども食堂」は2000ヶ所あると言われています。
それは、現代の日本社会において多くの子どもたちが貧困問題に直面させられていることを意味しています。
ユウトはイジメられているタカシに対し、“普通”にすればイジメられないと助言します。
しかしながら、劇中の通り、その“普通(広く一般的に)”の中で生活することができない子どもが存在するのが現実なのです。
“普通”でない現実。それは“普通”を信じ続ける限りは、非常にイメージしにくいものですが、確かに存在するものなのです。
舞台挨拶にて、吉岡秀隆さんは撮影をする中で「純な目線に責められ、たじろいでしまった」と語りました。
それはユウトを演じた子役の藤本哉汰くんの名演によるものであると同時に、子どもの目線というのが大人にとって非常に強力なものであることを意味しています。
そして、吉岡さんは「子どもは親だけでなく大人全員で育てなくてはならない」と、「ユウト、ミチルの芝居を見て思った」とも語りました。
大人には、苦しんでいる子どもを助けられるだけの力が多かれ少なかれあります。
けれども、「その力を用いて子どもを助ける」という行動に移れる大人は、非常に限られています。
自分にできることを見つけ、行動に移す。それは当たり前のことかもしれませんが、だからこそ躊躇ってしまうことなのです。
劇中、ユウトは両親に向けてその怒りをぶつけますが、その言葉と目線はスクリーンを通して、行動に移すことができず「見て見ぬ振り」をするかもしれない大人たち、すなわち本作『こどもしょくどう』を観る大人たちへと突き刺さります。
「突き刺さる」。それほどの威力があるからこそ、俳優であり役を演じていたはずの吉岡さんにも、映画『こどもしょくどう』が伝えようとするメッセージが届いたのです。
まとめ
ミチルを演じた子役の鈴木梨央ちゃんは、舞台挨拶にて「可哀想で終わるのではなく、何かできることを見つけてほしい」と来場者の方々に呼びかけました。
自分にできることを見つけ、行動に移す。そんな当たり前のことを伝えてくれるのが子どもの言葉と目線であり、それらによって形作られたのが映画『こどもしょくどう』なのです。
映画『こどもしょくどう』、ぜひご鑑賞ください。