ノーベル賞作家カズオ・イシグロの小説『クララとお日さま(Klara And The Sun)』が映画化決定!
日本の長崎出身のカズオ・イシグロ。1960年に5歳のときに両親と一緒にイギリスに移住し、現在も小説家、脚本家として活躍中です。
イシグロは、1989年に長編小説『日の名残り』で英語圏最高の文学賞とされるブッカー賞、そして、2017年にノーベル文学賞を受賞しました。
2021年刊行の小説『クララとお日さま』は、並外れた観察眼を持つ「人工フレンド(Artificial Friend)」のクララが主人公で、ある少女の家族と住むことになるのですが……。
映画化にあたって監督やキャストなどはまだ未定ですが、一足早く、映画原作小説の『クララとお日さま』をネタバレありでご紹介します。
CONTENTS
小説『クララとお日さま』の主な登場人物
【クララ】並外れた観察眼を持つAIの少女
【ジョジー】クララの主人となる病的な少女
【リック】ジョジーのボーイフレンド
小説『クララとお日さま』のあらすじとネタバレ
クララはある店舗で自分と一緒に過ごしてくれる子どもを持ち望んでいる、AF(Afiticial Friend)です。お日さまの光がいつもクララに元気を与えてくれるので、お店からお日さまを見るのが大好きでした。
毎日のように、何人もの仲間が、相手を見つけて店を去る様子を見て、クララは羨ましく思っていました。
ある日、そんなクララのもとにジョジーという少女が現れます。クララをひと目見て気に入ったジョジーは、数日後に母とともに来店し、クララを購入しました。
ジョジーの家に来て初めて、クララは店の外の世界を知りました。知らないことだらけの生活に戸惑いつつも、ジョジーとの生活を楽しんでいきます。
クララはジョジーと一緒に生活をするうちに、人間は孤独では生きることができないことや、様々なことを学んでいます。
ある時、クララはジョジーと一緒に車でモーガンの滝を観に行く約束をしました。ですが、土壇場になってジョジーの体調が悪くなりました。
ジョジーは外出を取りやめますが、クララはジョジーの母親と滝を見に行くことになりました。
滝の近くの小屋で2人で休息しているとき、ジョジーの母親からクララはジョジーになり切って会話をするように言われます。
なぜそうするのかわからないまま、クララは素直に従いました。
モーガンの滝へのお出かけのあと、クララにはジョジーと母親のクララに対する態度が少し冷たくなったように思えました。
やがて、ジョジーがほとんどベッドから起き上がれなくなりました。ボーイフレンドのリックが訪ねてきたりして、ジョジーをなぐさめます。
ジョジーは病弱な少女でしたが、何カ月かに1回、肖像画を描いてもらいに肖像画家カパルディさんの家に行っていました。
体調が悪いジョジーですが、ある時クララはジョジーと一緒にカパルディさんの家に連れていかれました。
そこにはジョシーの父親も来ていました。完成間近のジョジーの肖像画を見て、クララにどう思うのか聞きました。
クララは、「肖像画家カバルディ作の肖像画は、絵でも彫刻でもなくAFではないかと感じる」と言いました。
ジョジーの両親は、新しいジョジーを作ろうとしていたのです。そして、クララは自分がジョジーの家に来た本当の理由を知ることとなりました。
小説『クララとお日さま』の感想と評価
カズオ・イシグロが描いた、お日さま大好きなAFクララの物語『クララとお日さま』。
同じ作者の老執事の淡い恋愛感情と生真面目に働く日々を描いた長編小説『日の名残り』とは打って変わり、近未来のAFの少女と病弱な少女との友情物語です。
そこは、AFを人間の子どもの親友にするために購入するのが当たり前の社会でした。科学の発達に伴うように、大気汚染があったり、子どもに対する遺伝子編集といった高度な処置もなされています。
そして、クララの親友となるジョジーの家族は、クララには複雑な気持ちを持っていました。なにしろ、万が一に備えて、クララを愛する家族の一員であるジョジーのコピーにするつもりで迎え入れたのですから。
クララがジョジーに与える真っ直ぐで優しい愛に比べれば、ジョジーの母親たちがクララに向ける愛情は、少し歪に感じるものでした。
ですが、それでもクララは素直にその愛を受け止めます。全て、大好きなジョジーが元気で幸せならばいいと思うからです。なんと献身的で穏やかな心を持ったAFでしょう。
登場する人間たちよりも深い愛のあるジョージと心の交流は、読み手にも伝わります。
やがて、ジョジーの親友という役目を終えたクララは、ジョジーの家から廃品置き場に移されます。用済みとなったAFが廃品として処分されるのは、あまりにも惨い扱いではないでしょうか。
いかにも人間のやりそうな合理的な結末です。賛否両論、物議を醸しそうなラストをどう捉えるのかと、イシグロは問題提起をしたのに違いありません。
映画『クララとお日さま』の見どころ
AFと呼ばれるロボットのクララと病弱な少女ジョジー。小説では全てクララ目線で語られていますが、映画ではどうなるのでしょう。
ジョジーの家に来てから徐々に知る人間の生活を、クララはいつも楽しんでいます。ほとんど部屋の中で過ごす毎日ですが、窓から差し込むお日さまの光を浴びて、お日さまに感謝することも欠かしません。
また、素直で謙虚な気持ちを持ったAFのクララは、常に学習することを忘れず、周囲の観察を怠りません。
ある意味人間よりも人間らしい心を持っているクララ。ジョジーをはじめその周囲の人々と触れ合う毎日が、クララの優しさを一層深めていったと思われます。
映画化されたなら、クララとジョジーの絆が深く結びついていく様子をじっくり見たいものです。
映画『クララとお日さま』の作品情報
【公開】
未定
【原作】
カズオ・イシグロ著、土屋政雄訳:『クララとお日さま』早川書房 (2021/3/2)
【監督・脚本・プロデュース】
未定
【キャスト】
未定
まとめ
人生における懐古の念や哀憐、子どもたちという存在を意識し、生きる意味を問う問題提起を幾つも掲げる作品を生み出してきたカズオ・イシグロ。
その中でも、老執事が主人公の『日の名残り』が、ジェームズ・アイボリー監督によって、アンソニー・ホプキンス主演で1993年に映画化され、『わたしを離さないで』も、2010年にマーク・ロマネク監督とキャリー・マリガン、アンドリュー・ガーフィールド、キーラ・ナイトレイらの共演で映画化されています。
本作『クララとお日さま』も、近未来の人間とAFとの関わり方や、向上処置と呼ばれる遺伝子編集を受けられるか否かの格差の問題など、複数の社会的問題に触れています。
人間という生き物を観察しながら、ジョジーに優しく寄り添うAFのクララの人間よりも人間らしい豊かな感性あふれる優しい物語でした。
AFから見た人間社会はどのようなものなのでしょう。映画ではどのように表現されるのかと期待は高まります。