Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

ヒューマンドラマ映画

Entry 2019/01/11
Update

映画『喜望峰の風に乗せて』あらすじネタバレと感想。ヨット世界一周の実話にコリン・ファースが挑戦

  • Writer :
  • 西川ちょり

監督:『博士と彼女のセオリー』のジェームズ・マーシュ×主演:コリン・ファースの最強タッグ!

1968年、ヨットによる単独無寄港世界一周レースに挑戦したドナルド・クローハースト氏の実話を基にした海洋ヒューマンドラマ『喜望峰の風に乗せて』をご紹介します。

映画『喜望峰の風に乗せて』の作品情報


(C)STUDIOCANAL S.A.S 2017

【公開】
2018年(映画)

【原題】
The Mercy

【監督】
ジャームズ・マーシュ

【キャスト】
コリン・ファース、レイチェル・ワイズ、デビッド・シューリス、ケン・ストット

【作品概要】
『博士と彼女のセオリー』のジェームズ・マーシュ監督がコリン・ファースとタッグを組んだ海洋ヒューマンドラマ。

1968年、ヨットによる単独無寄港世界一周レースに挑戦したドナルド・クローハースト氏の実話に基づいている。

映画『喜望峰の風に乗せて』のあらすじとネタバレ


(C)STUDIOCANAL S.A.S 2017

1968年 イギリスは海洋冒険ブームに湧いていました。

その年のボートショーでは、有名な航海士フランシス・チャールズ・チチェスターがゲストとして挨拶にたっていました。

その姿をドナルド・クローハーストは憧れの眼差しで見つめていました。彼は船舶用のナビゲーターなどの開発と販売をしているビジネスマンで、この日も子どもたちと一緒にブースで製品を売り込んでいました。

チチェスターから単独無寄港世界一周レース“ゴールデン・グローブ・レース”が開催されることが発表されます。一人でヨットに乗って9ヶ月間一度も港に寄らず、世界一周を競うのです。

ドナルド・クローハーストも名乗りをあげました。

妻のクレアは、心配しますが、事業に行き詰まりを感じていたドナルドは、妻に賞金を、まだ幼い3人の子供には名誉を贈ろうと考えたのでした。

また、成功すれば、自身の事業に好影響が出るはずです。

ドナルドは、彼ら一家が暮らすデヴォン州ティンマスの裕福なビジネスマンのスタンリー・ベストに投資を持ちかけ、ジャーナリストのロドニー・ホールワースに広報を頼みます。

その挑戦は多くの人の心をとらえます。さらに彼は近海にしか出たことのないアマチュアセーラーだったため、皆はそれを面白がりました。

ホールワースは次々と企業とのタイアップ広告を決め、挙げ句にBBCがドキュメンタリーを作りたいと申し出てきました。

ティンマスの町の人々は、地元の男性の挑戦に心を踊らせます。

ドナルドの設計によるボートづくりが始まりますが、部品がうまく集まらず、思うように仕上がりません。

期間内に完成するのはとても無理だと言われ、一旦は参加を辞退することも考えます。

しかし、人々をがっかりさせる上に、スポンサーとの契約上の問題で、会社も家も失ってしまうことになるとホールワースに指摘され、ボートが不完全の出来のまま、レースに参加することになりました。

10月31日、町の人々に賑やかに見送られながら、ドナルドはクレアと子どもたちの愛を胸に出発しました。

ですが、海にでてすぐにエンジンルームが浸水してしまい、電気系統が壊れるなど、早くも試練がやってきました。

自然の猛威が彼を襲い、姿勢復元装置を修復するために高いマストにも登らなければなりません。

「海をなめていた」とドナルドは痛感します。

南アフリカ大陸の最南端である喜望峰を目指していたのですが、船は北へ北へと押し戻されます。

フロートが役にたたず、海水がなだれ込んできます。

風に逆らって南氷洋を目指せば死ぬかもしれない。一旦は引き返そうと思うドナルドですが、失うものの大きさを考えるとそれもできません。

すすむことも、戻ることもできない状態となったドナルドですが、家族に心配をかけないよう「万事うまくいっている」と無線で伝えます。

さらに、非常に早いスピードで南下しているという嘘の情報を送るのでした。

チチェスターの記録をやぶるかもしれない、とホールワースは興奮します。勝手に進行予測をたてて新聞に売り込み、サンデー・タイムズのロンドン版が興味を持って、ドナルドのことを記事にしました。

航海54日目は、クリスマスイブで久しぶりにクレアの声を聞いてドナルドはほっとしますが、新聞に自分の嘘の報告が大々的に取り上げられ、ヒーロー扱いされていることを知り、ますます追い込まれていきます。

84日目、ドナルドの船はブラジルの北側にきていました。レース参加者のうち、4人がリタイアしたというニュースが伝わり、ドナルドの幼い息子たちは、父の優勝へ期待に胸を膨らませます。

ドナルドは位置を探られることを恐れ、無線を切りました。音信不通となり、クレアも子どもたちも心配しますが、ホールワースは、連絡がない間、メディアの穴埋めをしないと、と嘘の情報を流します。

マスコミはクレアを取材攻撃し、クレアはもう二度とこんなことさせないでと言いますが、ホールワースは、自分は世間を盛り上げる責任があると主張するのでした。

有名になるよりも無事でいてほしいとクレアは願います。

125日目、アルゼンチン沖。ゴムボートで陸に上ったドナルドは、地元の警察に尋問を受け、密輸の疑いをかけられます。

疑惑はすぐに晴れますが、すぐに島から追い出されてしまいます。

航海日誌を偽造し、航路の捏造をしようと考えたドナルドはようやくイギリスに連絡を取ります。彼が無事だということで、クレアはほっとし、地元の人々は彼の帰りを待ちわびます。

ノックス・ジョンストンが312日かけて世界一周を果たし優勝。フランス人が一人リタイアし、残るはテトリーという男とドナルドだけになりました。

テトリーには勝てるかもしれないけれど、そうすれば日誌を調べられてしまいます。最下位になれば調べられないので、ドナルドはテトリーに負けるようわざとマストを下ろしました。

ところが、テトリーが船を沈没させてしまいリタイアしたことが伝えられました。残りはドナルドだけです。

表彰と祝賀会を用意しているというホールワースの言葉にいよいよ追い詰められるドナルド。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『喜望峰の風に乗せて』ネタバレ・結末の記載がございます。『喜望峰の風に乗せて』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。
生活のため、失業保険を申請していたクレアでしたが、ホールワースは「英雄の家族には失業保険は不要だ」とたしなめます。

追い詰められたドナルドは船内にクレアの幻を見ます。苦しい胸のうちをさらし、彼女の手をとりますが、彼女はそっと手をほどくと消えてしまいました。

ドナルドは日誌をきちんと並べると「結局、自然に負けた。随一の罪を犯してしまった。随一の罪とは隠蔽することだ」とつぶやき、時計を持って立ち上がりました。

「もう、戻れない。嘘には限界がある」。

クレアのもとに、スタンリー・ベストがやってきました。彼の沈痛な表情を観て、クレアは夫が亡くなったことを悟ります。

ドナルドのヨットは大西洋の真ん中で発見され、呼び出されたホールワースは、彼の日誌を手にとります。

捨てることもできたのに、と発見者はいいました。

日誌を見たホールワースは、ドナルドが喜望峰にもたどりついていなかったことを知ります。「あいつは有名になりたかったんだ。これでうんと有名になるだろう」

マスコミはクレアのコメントを取ろうと家に押しかけてきました。「他人の破滅が面白いの?」「彼を破滅させたのはあなた方よ」とクレアは気持ちをぶつけます。

クレアは子どもたちをつれて、ティンマスの港にでかけては夫を待ち続けました。

「いつまでこうするの?」と末娘が問うと、「いつまでなんて言わないで」と優しくいい、「毎日パパの帰りを待ってあげて。たとえ、帰らぬひとでも」と言いました。

映画『喜望峰の風に乗せて』の感想と評価


(C)STUDIOCANAL S.A.S 2017
(本稿もネタバレしております。まだご覧になっていない方はご注意ください)

コリン・ファースが主演し、ヨットでの世界一周を目指すお話で、しかも実話とくると、当然のように、成功者のお話だと思っていたら、真逆だったので驚いてしまいました

コリン・ファースが演じたのは、1968年、ヨットによる単独無寄港世界一周レースに挑戦し、レース半ばで挫折し、海に消えた実在のアマチュアセーラー、ドナルド・クローハーストという人物です。

この映画に描かれるようなケースは、あとから検証していけば、その行為が如何に無謀だったかがわかり、非難の対象になるものですが(今の日本での出来事なら「自己責任」と言う言葉で大いに責められることでしょう)、止むに止まれぬ事情が重なっていたのも事実です。

レースの参加を断念したり、途中で引き返すチャンスは何度かあったのですが、彼の意思を超えたところで、そうできなかったのです。

勿論、海を軽く見ていたところもあるでしょう。なんとかなるさ、と楽天的な甘い考えもあったでしょう。批判に向き合い、全てを失うことを覚悟で、戻ってくるべきだったかもしれません。

でも、映画を見ていると、だんだんこれは人ごとではないのでは、と思えてくるのです。自分ならどうするだろうと問うてしまうのです。

他人を失望させることを恐れたための、ほんのささいな判断ミス。これって誰にでも起こりうることではないでしょうか。

ましてや、ヨットレースなどは夢や喜望というものを背負ったものです。

アメリカやソビエトが宇宙競争をしていた時代、イギリスは海洋レースで威厳を保とうとしていたそうです。相当なプレッシャーがかかっていたに違いありません。

序盤、出港の時に、町の人々がズラッと横に一列にならんで彼を見送るシーンがあります。

ロングショットで撮ったその場面は映画的にはとても美しい素晴らしいショットですが、ドナルド・クローハーストにとってはプレッシャー以外の何者でもない光景だったかもしれません。

コリン・ファースが演じることで、ドナルド・クローハーストという人間の深みと彼の心理の変遷が説得力を持って伝わってきます。

まとめ


(C)STUDIOCANAL S.A.S 2017

監督は車椅子の天才物理学者スティーヴン・ホーキンス博士を主人公にした『博士と彼女のセオリー』で英国アカデミー賞を受賞したジェームズ・マーシュです。

今回もドナルド・クローハーストという実在の人物を描いています。残された航海日誌や妻に宛てた手紙など、多くの資料に目を通し、彼の人間像に迫っています

彼の姿が他人事でないと感じるのは、監督自身がそう感じていたからでしょう。人間の立派で強い面だけでなく、弱さや脆さをみつめる監督の視点は決して批判的ではなく、寧ろ温かみを帯びています。

悲惨で哀しい作品ではありますが、どこかに温かい寛容さ、人間への慈しみが感じられる映画となっています。

ドナルドの妻クレアには、『否定と肯定』(2016/ミック・ジャクソン監督)などで知られるレイチェル・ワイズが扮し、夫を信じ、愛する芯の強い妻を好演しています。

関連記事

ヒューマンドラマ映画

【ネタバレ】こわれゆく女|あらすじ結末感想と評価解説。精神のバランスを崩した妻と癇癪持ちの夫との”愛めぐる葛藤”

必死で互いにしがみつき合う夫婦の絆 『グロリア』(1980)で知られる巨匠カサヴェテスの代表作の一つとなった傑作『こわれゆく女』。 精神のバランスを崩した妻と、土木工事の現場監督を務める癇癪持ちの夫の …

ヒューマンドラマ映画

【ネタバレ】バーナデット ママは行方不明|あらすじ感想と評価解説。原作との違いから“挫折したネガティブ主婦”の自分探しを解く

悩めるこじらせ主婦が巻き起こすトラブルをハートフルに描く 『6才のボクが、大人になるまで。』(2014)のリチャード・リンクレイター監督と『TAR/ター』(2023)のケイト・ブランシェット主演で贈る …

ヒューマンドラマ映画

女子怖いあるある映画なのか?ビガイルド 欲望のめざめのキャラクターポスター解禁

ソフィア・コッポラ監督の映画『The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ』は、2月23日(金)よりTOHOシネマズ六本木ヒルズほか全国公開! 女の園にモテ過ぎ男は禁物か⁈ 2月14日バレンタイ …

ヒューマンドラマ映画

『蜘蛛巣城』ネタバレあらすじ感想と結末の解説評価。マクベスの悲劇を黒澤明監督×三船敏郎による“ふたりの天才”が能の様式美で映画化!

黒澤明監督が描く和製『マクベス』の壮絶な世界! 『七人の侍』(1954)の巨匠・黒澤明監督によるシェイクスピアの『マクベス』を日本の戦国時代に置き換えて描き出した戦国武将の一大悲劇。 (C)1957 …

ヒューマンドラマ映画

『愚か者のブルース』あらすじ感想と評価解説。広島最後のストリップ劇場「広島第一劇場」第3弾完結編を加藤雅也と横山雄二の再タッグで魅せる

映画『愚か者のブルース』は2022年11月18日(金)より全国ロードショー! 広島で絶大な人気を誇るアナウンサー、横山雄二が描いた「ストリップ三部作」の完結編『愚か者のブルース』。 広島最後のストリッ …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学