映画『風をつかまえた少年』は2019年8月2日(金)より、ヒューマントラスト有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開。
『風をつかまえた少年』は、ウィリアム・カムクワンバの同名自伝(ブライアン・ミーラー共著)を基に映画化した作品です。
幼い頃、ラジオを聞いて「中に住む小さな人達がしゃぺっているに違いない」と思いラジオを解体したと話す著者。
映画『風をつかまえた少年』は、少年ウィリアムが生まれ育った村を永遠に変えた物語です。
監督を務めたのは『それでも夜は明ける』のキウェテル・イジョフォー。
映画『風をつかまえた少年』の作品情報
【公開】
2019年8月2日(イギリス、マラウイ共和国合作映画)
【原題】
The Boy Who Harnessed the Wind
【監督】
キウェテル・イジョフォー
【キャスト】
マックスウェル・シンバ、キウェテル・イジョフォー、アイサ・マイガ、リリー・バンダ、ジョゼフ・マルセル、レモハン・ツィバ、ノーマ・ドゥメズウェニ
【作品概要】
本作はキウェテル・イジョフォーの長編映画初監督作品。ウィリアム・カムクワンバ、ブライアン・ミーラー共著『風をつかまえた少年』を読み、マラウイ共和国を訪れます。ウィリアムの両親トライウェル、アグネス・カムクワンバ両氏と面会し、映画化を決め脚本を自ら執筆。2019年サンダンス映画祭に出展された本作は、科学技術関連で優れた作品に贈られるアルフレッド・P・スローン賞を受賞。
映画『風をつかまえた少年』のあらすじとネタバレ
2001年、アフリカ大陸南東部、マラウイ共和国。トライウェル・カムクワンバの兄・ジョンが亡くなり、ジョンの息子・ジャラマイアが土地を受け継ぐことになりました。
神父がお別れの言葉を述べ、チェワ族の伝統であるグレワムクルが死者の魂を送る踊りを披露し、ウィンベ村民が周りに集まります。
KUFESA-種蒔き
トライウェルの長男ウィリアムは、中学の後期課程に進学する日を迎え、父と母・アグネス、姉・アニーが新しい制服を着たウィリアムを温かく送り出します。
愛犬カンバを連れたウィリアムは親友ギルバートと登校しました。
始業式を終え、理科を教えるカチグンダ先生がウィリアムのクラスのホームルームを担当。
放課後、先生は、学費の未払い分があるとウィリアムに伝えます。満額支払わなければ学校に通学できなくなると忠告しました。
雨が降る中待っていたカンバと下校後、ウィリアムは畑で農作業する父を手伝います。
翌日、大規模な葉タバコ農園の代表が村民を集めて説明会を行いました。
収穫したタバコの葉は木を燃やして乾かすことから、農園は土地所有者から山林伐採の許可を得たいと話します。
村長は、遅れて訪れた雨季は大量の雨を降らせ、近隣のモザンピークは深刻な洪水に悩まされていると言い、金銭的余裕が無いウィンベ村にとって、洪水に対する防衛は木だけだと村民に語りかけます。
唯一自分達が持つ力は拒否権だと訴える村長に賛同する村民がいる一方で、報酬欲しさに土地の売却に署名すると言う声が次々に上がりました。
ジャラマイアも売却する意向を示して手を挙げます。トライウェルは、ジャラマイアの父は決して土地を手放さなかったと説得しますが、借金を抱えるジャラマイアは考えを変えません。
ギャンブルを辞めろと言うトライウェルに対し、ジャラマイアは、ジョンが土地をトライウェルに相続させなかったのは正しい選択で、トライウェルが子供の学費に無駄なお金を費やして来たと批判。
更に、気候変動で予測できない天気に頼ること自体、ギャンブルだと厳しい口調。
ウィリアムはカンバと一緒にたくさんの木が切り倒される様子を見つめました。
ある晩、村の子供達皆で聞いていたラジオの電池が切れ、ウィリアムはまだ電気が残る端の電池を集めてラジオを再び聞けるようにして子供達は大喜び。
その帰り道、姉のアニーがカチグンダ先生と密会しているのを目撃したウィリアムに、ギルバートは先生の自転車のタイヤをパンクさせれば村までアニーに会いに来ないと言います。
翌日、先生の自転車に近より取り付けられたライトを見たウィリアムは、電池を必要としないダイナモでライトが点灯することに目を奪われました。
KAKULA-生育期
大雨が続いたマラウイを大旱魃が襲います。トライウェルは、大統領が都市に訪れる際、同行する記者や他の村長の前で現状を訴えるべきだとウィンベ村長に進言します。
廃品置き場でバッテリーを見つけたウィリアムは、充電すれば井戸から水を汲み上げらえると思いつきます。
学費が払えず学校を締め出されたウィリアムは理科の授業に忍び込み、カチグンダ先生にダイナモの仕組みを尋ね、自分で作りたいと話します。
アニーとの関係を黙っていることを条件に、カチグンダ先生は図書館員のシケロ先生に口利きをし、ウィリアムは本を読むことが出来るようになります。
そこでウィリアムが目にしたのは、表紙が風車の写真で『Using ENERGY』と題された本でした。
乾いた大地を小さな竜巻が這うのをじっと見つめるウィリアム。
ムルジ大統領が街を訪れ歓迎イベントが行われた後、ウィンベ村の村長が檀上に登ります。
政府に敬意を表しながらも洪水に見舞われ収穫が見込めない窮状を訴え、緊急食糧を求めました。
背広を着た護衛に村長は引きずり下ろされ、司会者がその場を取り成そうと音楽を掛けます。
ウィリアムと村長の息子であるギルバートが様子を見に行くと、複数の護衛達が村長に暴行を加えていました。
KOKOLOLA-収穫
耕したトウモロコシは、家族が食べる2ヶ月半程の食糧分しか実りませんでした。
穀物相場が値上がりする中、政府は食糧危機を認めないため外国から援助を受けられず村民たちの生活は更に困窮して行きます。
トライウェルは村の男達に混じり、反政府を支持するデモに参加すると言い家を空けます。
アグネスは、ウィリアム、アニー、そして乳児の娘と共に残され、不安を覚えます。
機会が有る度に教室で授業をこっそり受けていたウィリアムを校長が見咎め、遂にウィリアムは退学処分になります。
そんな中、政府が穀物を市場より安く販売。アグネスはウィリアムに貯金を持たせて買いに行かせました。
後を追いかけて来るカンバに留まるよう言い聞かせ、ウィリアムは父の自転車をこいで長い距離を走ります。
しかし、カムクワンバ家に2日間何も食べていないという男性が押し入り、アグネスやアニーから主食のトウモロコシ粉を奪って行きます。
カンバが吠え、アグネスが家を飛び出して見に行くと、複数の男達が納屋から収穫したとうもろこしを盗んでいきます。
泣き崩れるアグネス。
ウィリアムが奮闘し15キロの乾燥とうもろこしを持ち帰ります。帰宅したトライウェルと家族は話し合い、食事は日に1度夕食だけと決まります。
映画『風をつかまえた少年』の感想と評価
タイトルから結末を想像できる物語でありながら、そこまでの過程を史実に沿い住む人々達が直面した困難を大変リアルに描写しており、最後まで引き込まれる作品です。
監督を務めたキウェテル・イジョフォーの長編映画初監督作品とは思えない脚本と構成力で、批評家からも高い評価を得ています。
家族の物語に留まらず、森林伐採、気候変動等国際的な課題である重要問題がウィンベ村でどの様に村民の日常生活に影響を及ぼしたのかを、農業の観点からチャプターに分けて詳細を伝える監督イジョフォーの手法は、観客にとって分かりやすい描写です。
更に、主人公・ウィリアムだけでなく、他の登場人物の心情それぞれに寄り添い重層的です。
父・トライウェルが持つ大黒柱としての誇りと意地、アグネスが母である為に1人の女性として諦めたこと、アニーが若いがゆえに抱える苛立ち、そして14才のウィリアムがカンバを救えず初めて知る喪失感と決意。
全てが瑞々しく鮮やかで、観賞後ふと笑顔であることに気づく映画でした。
ウィリアム・カムクワンバを演じたマックスウェル・シンバは、学校の演劇を経験しただけで、何と今回が映画出演は初めてです。
彼の才能を見抜いたのは、キウェテル・イジョフォー。そして、ケニアのナイロビ出身であるシンバを含め、イジョフォー、アグネスを演じたフランス人俳優アイサ・マイガは、全員チェワ語を習得して撮影に臨みました。
本作の舞台は、2001年大旱魃が起きたマラウイ共和国。2001年10月にBBCは5才以下の子供の内25%が栄養失調と伝え、翌年5月には史上最悪の飢饉と報道しています。
この状況下でウィンベ村に希望の光をもたらしたのが、物語の主人公となる当時14才だったウィリアム・カムクワンバさんでした。
イジョフォーは実際にウィンベ村で撮影を行い、本当はカムクワンバ家を使用したかったそうですが、ウィリアムさんのリノベーションで様変わりしたため、近所の村民から家を借りたと話しています。
最初の風車建造を聞きつけて訪れたジャーナリストからウィリアムさんの話は広がります。
2007年、ウィリアムさんは人気オンライン番組のTEDカンファレンスに招かれて講演し、サポートの申し出が殺到しました。
ウィリアムさんは、後に太陽光発電で村に初めてきれいな飲み水を提供することに成功しています。
また、彼は本の印税を使い妹5人(Isha、Doris、Rose, Mayless, Tiyamike)全員を私立の学校へ通わせています。
アフリカン・リーダーシップ・アカデミーでは、ウィリアムさんの様な革新的志を持つ若者に対し彼の名前を冠した奨学金の導入を決定しています。
まとめ
国民70%が飢餓状態に陥る大旱魃が起きたマラウイ共和国。様々な宗教が調和するこの国のウィンベ村で生活する理科好きの少年は、年80ドルの学費を払えず退学処分を受け図書館の本で学び続けます。
村民が次々に命を落とし、遂に友達だった犬のカンバも餓死した時、14才のウィリアムは「風で発電し雨を降らせる」と父を説得。
本作は、お金や私欲、そして名声のためでもないウィリアム・カムクワンバの純粋な志を描いた作品です。
正に「少年よ、大志を抱け」を体現した彼の物語は、国境を越えて多くの人々を魅了しています。