『神さま待って!お花が咲くから』は、2024年1月26日(金)から広島から先行上映、2月2日(金)から池袋シネマ・ロサ、2月17日(土)より大阪シアターセブンほか全国順次公開
2019年のクリスマスイヴに一冊の絵本『そらまめかぞくのピクニック』が出版されました。その作者は、同年1月に小児がんのため12歳で亡くなった森上翔華さんでした。
広島県福山市で生まれた森上翔華さんは、5歳のとき左足に悪性の腫瘍がみつかり、入退院を続けてきました。
辛い抗がん剤治療にも耐え、笑顔をたやさなかった森上翔華さんのエピソードをもとに『天心』(2013)、『ある町の高い煙突』(2019)の松村克弥監督が映画化しました。
小児がんで幼い頃から入退院を繰り返してきた森上翔華は、小学六年生の1学期から学校に通うことになります。
久しぶりに学校に行った翔華が目にしたのは、気弱な担任とまとまらないクラス…。
「病院よりも学校の方がひどい、笑顔が足りない!」と翔華は皆にファンタジーな魔法をかけようと誓うのでした。
映画『神さま待って!お花が咲くから』の作品情報
【日本公開】
2024年(日本映画)
【監督】
松村克弥
【脚本】
桜風涼
【原案】
森上翔華
【主題歌】
手嶌葵
【キャスト】
新倉聖菜、北原里英、渡辺梓、布川敏和、秋本帆華、坂本遥奈、大関れいか、夢空、城之内正明、とめぞう、小泉光咲、上村佳里奈、曽我廼家寛太郎、高畑淳子、竹下景子
【作品概要】
2019年のクリスマスイブに出版された絵本『そらまめかぞくのピクニック』を通して森上翔華さんの存在を知ったプロデューサーのとめぞうが翔華さんの両親に映画化の相談をし、本作の制作が始まりました。
病に負けることなく笑顔で精一杯生き、皆に笑顔をくれた翔華さんのエピソードをコメディタッチで描きます。
森上翔華さんを演じたのは、オーディションを勝ち抜き、本作が映画初出演にして初主演作となった新倉聖菜。主治医である脇坂役は『サニー 32』(2018)の北原里英、担任の秋川美月役は『13月の女の子』(2020)の秋本帆華が務めました。
また、親友役を演じた夢空(むく)は、翔華さんの親友であり、劇中にも出てきますが、実際に2018年スタースカウト総選挙にてグランプリを受賞しています。
映画『神さま待って!お花が咲くから』のあらすじ
小児がんで幼い頃から入退院を繰り返してきた森上翔華(新倉聖菜)。
主治医の脇坂(北原里英)は、もう施せる治療はないと、翔華の母に「やりたいことは全部やらせてあげたほうがいい」と助言し、翔華は小学6年生の新学期から学校に通うことになります。
久しぶりの学校に期待を膨らませていた翔華でしたが、学校に行ってみると担任の美月(秋本帆華)は、気弱で6年生を自分が持つなんて無理だと自信を持てずにいます。
自信のない美月の姿に、クラスの児童たちは授業を聞こうともせずうるさくしています。そんなクラスの現状を見て中学受験で医学部のある附属校を目指している野沢さんとその友人の女子たちは、翔華がクラスに戻ってきたせいだと言います。
「病室よりも学校の方が問題だ!」と、翔華はクラスの皆が笑顔になれるように魔法で奇跡を起こすことを決意します。
映画『神さま待って!お花が咲くから』の感想と評価
「余命0年の女の子じゃから」
幼い頃から小児がんで入退院を繰り返していた森上翔華さん。12歳の生涯を元気に生き抜いた彼女の周りは笑顔で溢れていました。
病院でも翔華の明るくユーモアのある姿は周りの皆に希望を与えていました。そんな彼女の心にあったのは“笑顔は何百倍、何万倍の薬”であること、“奇跡を信じればやってくる”ということでした。
小児がんは厳しく長い治療時間を要するものです、親の気持ちを察したら笑顔でいることがどれほど大変か、それ以上に本人の不安な気持ちは計り知れません。
一方で、長く病院にいた翔華は、たくさん目にしてきたことがあると思います。それは“死”です。同じ病を抱えた子供が亡くなったりするのを幼い頃から目にしてきたと思います。
その怖さは誰よりも分かっていて、不安なことも多かったでしょう。また、治療のためと我慢してきたことも多くあったはずです。
しかし、そんな不安な一面をなるべく見せないようにし、病気だから…と病気を言い訳にしたり、諦めの言葉を言うこともありません。
やっと学校に通えるようになった翔華は、クラスの皆に笑顔が足りないと思い、皆を笑顔にするため魔法を起こしていきます。
翔華のクラスの担任となった美月先生は、婚約し学校を辞めることになっていたこともあり、6年生の担任は荷が重いと感じていました。先生の自信のなさは生徒に影響します。
クラスは崩壊し、まともに授業もできない状況で、中学受験をする野沢さんと友人たちは周りを馬鹿にして意地悪な態度をとります。それに他の子達も反発し、クラスの仲は悪くなる一方でした。
野沢さんたちに「迷惑だ」と言われても翔華はへこたれず怒るのではなく、「ではどうしたらいい」と皆が仲良くなるための方法を探そうとするのです。その翔華の姿に野沢さんの心は揺らぎますが、意地を張ってなかなか素直になれません。
また、翔華の親友である夢空は、翔華にひどいことを言う野沢さんたちに怒り、時には涙を流します。そんな夢空に翔華は「私は本当に何とも思ってないから笑って」と言います。
翔華が皆を笑顔にさせたいという気持ちには、翔華自身も笑顔でいることで自分自身の病気への不安を吹き飛ばそうとしているというのもあったかもしれません。
不安になって泣いていても仕方ない、時間が限られているのだったら思い切り楽しもう、そう自分に言い聞かせているかのような印象も受けます。
それでも不安を吹き飛ばして笑顔でいるというのは、誰にもできることではありません。特に大人になればなるほど、物分かりが良くなり純粋に奇跡を信じられず、悲嘆に暮れてしまうかもしれません。
翔華の担任の美月は、教師としての自信のなさから6年生を担当することに対する不安だけでなく、小児がんの患者である翔華の担任をすることに荷が重いと感じていたのです。
それは病気に対するイメージであったり、いずれくるであろう“死”に対し、自身も受け止めきれず、クラスメートの死を受け止める生徒たちのことを考えるとどうすればいいのかわからないからでしょう。
しかし、そこに正解はありません。教師という仕事自体、正解のない仕事です。生徒のどう向き合っていくのかは手探りで進んでいくしかないのです。
校長先生は、美月は今は自信がなくてもきっと向き合っていける強さがあると確信していたのでしょう。だからこそ美月に翔華の担任を任せたのです。
担任だけでなく、親にとっても同じことです。子供が小児がんになり、どう接すればいいのか分からない上に、不安を与えるわけにはいかないと気を張ってしまったりするでしょう。
そんな大人たちの気持ちや、自分のために親や兄が休むことなく働いてくれていることや、学校側が翔華が普通の学校生活をくれるために尽力してくれていることも翔華はわかっていました。
だからこそ自分にだけできることを“奇跡”という形で届けようとしていたのかもしれません。
まとめ
小児がんの少女を主人公にした映画というと、どうしても悲しい映画というイメージがあるかもしれません。
しかし、冒頭から病院で歳の離れた親友・源さんに教えてもらった昭和のギャグや、本田美奈子のダンスなどユーモアに溢れた明るい翔華の姿に元気をもらえるでしょう。
明るくて太陽のような翔華の学校生活はファンタジーに満ち溢れているとともに、思春期故の意地悪や、恋、翔華の話に「面白い」と耳を傾けるクラスメートの様子など等身大の小学生らしさも随所に表れています。
明るくて面白い翔華のキャラクターだけでなく、べトナム人の研修生や、冷たい印象だけれど子供から信頼されている小児科医の脇坂、歳の離れた親友・源さんなど病院で出会う人々や、学校の校長先生や担任の美月、親友の夢空、野沢さんなど出てくる人々がユーモラスで温かい人たちばかりです。
最初は笑顔がなかったり、それぞれ問題を抱えている人が翔華の魔法によって笑顔を取り戻していく姿を通して、観客である私たちも明日を生きる勇気と、誰かを笑顔にする喜びを感じられるでしょう。
笑いと感動で包み込む映画『神さま待って!お花が咲くから』は、全編通して話される広島弁も見どころの一つです。
映画『神さま待って!お花が咲くから』は、2024年1月26日(金)から広島から先行上映、2月2日(金)から池袋シネマ・ロサ、2月17日(土)より大阪シアターセブンほか全国順次公開!