男勝りな姫と黄金を守る3人の男たちの脱出劇!
巨匠・黒澤監督によるスリルとサスペンス、そしてユーモアにあふれた痛快娯楽時代劇『隠し砦の三悪人』。
戦国時代を舞台に、敗軍の大将・六郎太が世継ぎの姫と隠し置いた黄金200貫とともに敵陣を突破し、同盟軍の領内へ逃亡するまでを描きます。
主演は『用心棒』(1961)『七人の侍』(1954)の三船敏郎。
名作SF映画「スター・ウォーズ」シリーズに登場する「C-3PO」「R2-D2」のモデルにもなった百姓コンビを、藤原釜足と千秋実がコミカルに演じます。
勇ましい六郎太と間抜けだが憎めない百姓コンビ、美しく気性の荒い雪姫という個性的な一行から目が離せない、魅力あふれる本作についてご紹介します。
CONTENTS
映画『隠し砦の三悪人(1958)』の作品情報
【公開】
1958年(日本映画)
【監督・編集】
黒澤明
【脚本】
菊島隆三、小国英雄、橋本忍、黒澤明
【キャスト】
三船敏郎、千秋実、藤原釜足、上原美佐、藤田進、志村喬、三井弘次、佐藤允
【作品概要】
巨匠・黒澤明監督の初のシネスコープ作品。戦国時代を舞台に敗軍の大将・真壁六郎太が、世継ぎの雪姫と隠し置いた黄金200貫とともに敵陣を突破し、同盟軍の陣内へ逃亡するまでを生き生きと描きます。
難関につぐ難関、絶体絶命の危機を間一髪で切り抜けるアイデアの数々は、黒澤ほか三人の脚本家により練り上げられました。次々襲いかかる困難をくぐり抜けていく数々の名場面は、迫力たっぷりで爽快感満点です。
また六郎太一行に付き添う狂言回しのような百姓コンビが、のちに『スターウォーズ』シリーズの人気キャラクター「C-3PO」「R2-D2」の元ネタになった逸話も有名です。
主演は『用心棒』(1961)『七人の侍』(1954)など数々の黒澤作品で主演を務める三船敏郎。雪姫役を当時新人の上原美佐が、百姓コンビを藤原釜足と千秋実が演じています。
映画『隠し砦の三悪人(1958)』のあらすじとネタバレ
百姓の太平と又七は、褒賞目当てに山名家と秋月家の戦いに参加しましたが、何もできないまま秋月の城は落ちます。
その後二人は、山名の捕虜になって焼け落ちた秋月城で埋蔵金探しの苦役をさせられることに。しかし捕虜による大暴動が起き、二人は混乱にまぎれて脱走します。
逃げ着いた先の谷で二人が煮炊きしようとしたところ、拾った薪の中から秋月家の紋所の入った金ののべ棒を発見しました。
興奮してほかにもないかと探し回る二人の前に、逞しい男が姿を現します。
男の名は、秋月の侍大将・真壁六郎太。世継ぎの雪姫と数名の残党とともに、隠し砦にこもっていました。彼は大量の金を薪に隠し、泉に沈めていました。
秋月家の再興のため、六郎太は同盟国である早川領への脱出を計画しますが、秋月領と早川領の国境は山名に固められていました。
「一度敵の山名領に入ってから早川領へ抜ける」という脱出法を太平と又七が話すのを聞き、六郎太はその案を実行に移すことにします。
六郎太について隠し砦へと行った又七と太平は、凛々しく美しい女を見つけます。しかし六郎太からは「彼女は自分の女なので手を出すな」と釘を刺されます。
その女こそが、その首に懸賞金がかけられている雪姫でした。
映画『隠し砦の三悪人(1958)』の感想と評価
波乱万丈の冒険物語
戦に負けた秋月家の大将・六郎太が跡継ぎの雪姫を守りながら、お家再興のために味方の陣地へと逃げ延びるさまをスリリングに描く冒険活劇です。
知恵にも武術にも優れた主人公の六郎太は、秋月の金ののべ棒を薪に隠し、泉に沈めて敵の目を欺いていましたが、ひょんなことから百姓の又七と太平に見つかってしまいます。
金への執着が強い二人をうまく味方につけ、六郎太は金を味方の領地まで運ぶ手伝いをさせることに。幾度も窮地に陥りながらも、六郎太は機転を利かせて敵地をくぐり抜けたり、槍で相手を蹴散らしたりと見事に逃げ切ります。
黒沢監督を含めた4人で共同執筆された練りに練られた脚本は見事で、知恵を使って見事に関所を通り抜ける場面、金を隠してある薪を祭りの火にくべる場面など、見どころ満載。数え切れないほど大勢の人々が踊り狂う火祭りの場面も圧巻です。
絶対的な窮地に陥った六郎太を助けたのが、宿敵でありながら盟友である兵衛である設定も素晴らしく、男同士の深い絆に思わずぐっとくることでしょう。
世界を魅了した個性的な登場人物たち
本作は世界で最も有名なSF映画「スター・ウォーズ」シリーズの元ネタとなったことでも有名です。コミカルなかけ合いを見せる百姓コンビは「C-3PO」「R2-D2」のモデルとなり、男勝りの雪姫は勇ましいレイア姫の性格に影響を与えました。
六郎太役の三船敏郎は、黒澤映画常連のスター俳優。本作でも迫力ある立ち回りで楽しませてくれます。
百姓の又七と太平は「ケンカするほど仲がいい」の言葉通り、金の分け前でケンカをしてはすぐに仲直りし、いつもくっついているコミカルな名コンビ。この間抜けだが憎めない百姓コンビと、鬼神のごとく勇猛な六郎太の対比が素晴らしく、思わず魅了されます。
上原美佐演じる美しくも勇ましい雪姫の姿にも目を奪われることでしょう。映画終盤では捕らわれの身となり、明日にも打ち首になるという時でさえも「楽しかった」と言い切り、六郎太に感謝する気高さには感嘆させられます。
味方の軍勢を堂々と裏切って宿命の友・六郎太を救い出す兵衛、雪姫に助けられた献身的な秋月の百姓娘ら、脇を固めるキャストらも魅力的に描かれています。
「あの世に行っても仲良くすべえな」と涙ながらに言い合っては、すぐに金をめぐってケンカばかりしていた又七と太平。しかし雪姫に今後はケンカをするなと諫められた後、二人は1枚の大判を譲り合いながら笑顔で城を出ていきます。胸温まる最高のラストシーンです。
まとめ
黒澤明監督と三船敏郎がタッグを組んだスリルと笑いに満ちた名作『隠し砦の三悪人(1958)』。
生き生きとした登場人物たちに魅せられ、彼らが無事味方の領地に脱出することを願わずにはいられなくなることでしょう。ハラハラ見守る時間は、極上の楽しさに満ちています。
世界的名作「スター・ウォーズ」シリーズを生みだすきっかけになった本作。素晴らしい作品が内包する巨大なパワーに感嘆せずにはいられません。改めて黒澤作品の偉大さを思い知らされる一作です。