栄光と苦難に満ちた伝説的ミュージカル女優の生涯。
主演のレネー・ゼルウィガーがアカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞した映画『ジュディ 虹の彼方に』が、2020年3月6日(金)より全国公開されます。
レネー演じるジュディ・ガーランドの最晩年を描いた、切なくも感動的なヒューマンドラマを、ネタバレ有でレビューします。
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映画『ジュディ 虹の彼方に』の作品情報
【日本公開】
2020年(イギリス映画)
【原題】
Judy
【監督】
ルパート・グールド
【脚本】
トム・エッジ
【製作】
デビッド・リビングストーン
【製作総指揮】
キャメロン・マクラッケン、ローズ・ガーネット、アンドレア・スカルソ、ミッキー・リデル、ピート・シレイモン、ローレンス・マイヤーズ、リー・ディーン、アーロン・レベン、チャールズ・ダイアモンド、エリス・グッドマン、ヒラリー・ウィリアムズ
【キャスト】
レニー・ゼルウィガー、ルーファス・シーウェル、アンディ・ナイマン、マイケル・ガンボン、フィン・ウィットロック、ジェシー・バックレイ、フィル・ダンスター、ベラ・ラムジー、ジェマ=リア・デヴェロー、ジョン・ダグレイッシュ、トム・ドゥラント・プリチャード、ベントレー・カルー、ティム・アハーン
【作品概要】
『オズの魔法使』(1939)、『スタア誕生』(1954)で知られるハリウッド黄金期のミュージカル女優ジュディ・ガーランドが、47歳の若さで急逝する半年前の1968年冬に行ったロンドン公演の日々を鮮烈に描いた伝記ドラマ。
「ブリジット・ジョーンズの日記」シリーズのレネー・ゼルウィガーが、愛すべき女性像と、その圧倒的なカリスマ性で人々を惹きつけたジュディを見事に演じきり、第92回アカデミー賞をはじめ、ゴールデングローブ賞など数多くの映画賞で主演女優賞を受賞しました。
その他のキャストとして、『マネー・ショート 華麗なる大逆転』(2016)のフィン・ウィットロック、テレビドラマシリーズ「チェルノブイリ」のジェシー・バックリー、「ハリー・ポッター」シリーズのマイケル・ガンボンなど。
監督は、『ガラスの動物園』、『オリバー!』など多くの話題の舞台を演出し、『トゥルー・ストーリー』(2015)で長編映画デビューを果たしたルパート・グールドです。
映画『ジュディ 虹の彼方に』のあらすじとネタバレ
1939年。
ミュージカル映画『オズの魔法使』の主人公ドロシー役に抜擢された17歳のジュディ・ガーランドは、思うような演技ができないのと、すべての行動を管理される現状に不満を覚えていました。
そこに、映画の製作会社MGMのトップであるルイス・B・メイヤーが現れます。
ルイスは、「君よりも美人で可愛い子はたくさんいる。でも、君が他の子より優れているのは歌声だ」、「この撮影スタジオを出たら、平凡な女性となって普通の母親になってしまう」といった言葉をかけ、ジュディの頬に手を当てるのでした。
1968年。
47歳のジュディは、幼い2人の子どもローナとジョーイと一緒に、小さなクラブを巡業する日々を送っていました。
この日も、全盛期とは比較にならないほどの安いギャラを受け取り、宿泊先のホテルに戻ったジュディたちでしたが、宿泊代を払っていないとして、支配人に追い出されることに。
やむなく3番目の夫だったシドニー(シド)・ラフトの家に行きますが、そこで2人の子どもの親権をめぐり口論となり、ジュディ一人だけ飛び出してしまいます。
ジュディは、2番目の夫ヴィンセント・ミネリとの間に生まれた娘のライザ・ミネリがいるパーティ会場に向かいます。
そこで、ナイトクラブのオーナーをしているという青年ミッキー・ディーンズと出会い、意気投合します。
数日後、ジュディの元に、ロンドンの著名な興行主バーナード・デルフォントから、彼が経営するクラブ「トーク・オブ・タウン」でのライブショーへの出演依頼が。
ハリウッドでは長らく低迷状態だったものの、ロンドンでは根強い人気があったのです。
ジュディは、借金の返済と生活費を稼いで自分の家を持つことを目標に、子どもたちをシドに預けて単身ロンドンに向かいます。
ロンドンに向かう車中でウトウトしながらも、ハードなスケジュールをこなすべく実の母親から極度の食事制限を受け、睡眠薬や興奮剤を与えられていた子役時代が夢に出てくるジュディ。
ロンドンに着くやいなや熱烈な歓迎を受けるジュディを、バーナードとマネージャーを務めてくれるロザリンが迎え入れます。
翌日、ジュディはロザリンに連れられて会場のトーク・オブ・タウンに下見をするも、精神が安定せずに、ピアニストのバートとの音合わせもせずに帰ってしまいます。
ライブ初日を翌日に控えた前夜、極度のプレッシャーと不眠症からますます寝付けないジュディ。
ライブ当日になっても姿を現さない彼女を迎えに行ったロザリンは、なんとか衣装を着させて会場に連れていきます。
舞台袖まで来ても出演を拒んだジュディでしたが、いざステージに立った途端、圧倒的な歌唱力を披露し、観客を魅了します。
それ以降、ライブは連日盛況となりますが、ジュディの不眠症は相変わらず。
実際より2か月も早い誕生日パーティをパフォーマンスとして撮影スタジオで開催され、腹いせにスタジオ内のプールに飛び込んだジュディは、ずぶ濡れ状態のままルイスに暗室で窘められる――ようやく寝付いても、そうした子役時代の悪夢がよみがえるのでした。
そんなライブを終えたある夜、サインを貰おうと出待ちしていたスタンとダンというゲイのカップルに遭遇したジュディ。
連日ライブに通い詰めていた2人の顔を覚えていた彼女は、彼らを夕食に誘います。
開いているレストランが見つからず、スタンたちの住居で食事を摂ることにした3人。
そこで差別や偏見に晒される同性愛者の苦悩を知ったジュディは、「世間は自分たちと違う人間が気に食わないのよ。そんなのはクソくらえだわ」と励まし、「ゲット・ハッピー」を一緒に歌うのでした。
ロンドン滞在も半ばに差し掛かったころ、ミッキーがジュディの部屋を突然訪ねます。
ミッキーとの楽しいひと時を過ごすも、現地でのテレビ番組に出演した際、司会者から離れて暮らす子どもたちについて聞かれたジュディは、彼らとの心の距離が離れてしまう怖さを吐露。
追い詰められた彼女は酒を飲んで泥酔状態でライブに出演、観客の野次に言い返してライブを台無しにしてしまいます。
翌日バーナードに謝罪したジュディは、彼からセラピーを受けることを勧められます。
『オズの魔法使』からのジュディのファンだというセラピーの医師は、「自分を見失わないで」と声をかけるのでした。
映画『ジュディ 虹の彼方に』の感想と評価
華麗にして壮絶な女優を見事に熱演
本作『ジュディ 虹の彼方に』はまず、ジュディ・ガーランド役のレネー・ゼルウィガーの圧巻の演技に注目です。
ボイストレーニングに1年、その後も4か月かけて楽曲の練習をしたというだけあって、歌唱力はもちろん、訛りや声色、パフォーマンスまで完璧に再現しています。
ライブで『トロリー・ソング』、『カム・レイン・オア・カム・シャイン』といったヒットナンバーを歌い上げるシーンを観れば、アカデミー主演女優賞を受賞するのも納得。
また、メイクも晩年のジュディに似せたとのことですが、とても47歳には見えないほどの老けこみようです。
逆に言えば、それだけジュディの実人生が過酷にして壮絶だったことを意味します。
本作で彼女に次々と降りかかる不幸は、観ているこちらも辛くなってくるほど。
本人は否定するでしょうが、演じたレネー自身もここ数年は表舞台から遠ざかっていた感があっただけに、どうしても重なってしまいます。
現代の社会問題も反映
本作で描かれるジュディは、10代でハードなスケジュールをこなすために、映画会社MGMとの契約でありとあらゆる薬物やアルコールを投与され、体型維持のために好きな食べ物も口にできなかったという立場にありました。
表向きは観客を魅了するスターなのに、裏では操り人形状態だったという不条理、しかもスケジュールを管理していたのが実の母親という哀しさ。
そのMGMの創立者にして1930年代のハリウッドを仕切っていたルイス・B・メイヤーによるジュディへの行為は、いわゆるセクハラ・パワハラにあたります。
また、ジュディが「同性愛者のアイコン」として支持されていたことを踏まえて、彼女を支えるゲイのカップルが登場します。
LGBTQという言葉が一般化した現代と違い、舞台となる1968年は、同性愛者と分かると犯罪者として逮捕されたり、病人扱いされて施設に入れられる時代だったのです。
LGBTQの象徴とされるレインボーフラッグは、ジュディの曲『オーバー・ザ・レインボー』が由来という説もあります。
1930年代から活躍し、47歳で夭折したジュディ・ガーランドの生涯を、2019年に映画化した理由。
それは、ショービズ界での奴隷契約、#metooムーブメント、性的マイノリティといった、現代に通じる社会事情を反映しているからに、他なりません。
まとめ
「観客との間に芽生える愛」を信じ、ステージに立ち続けたジュディ・ガーランド。
その愛が芽生えるラストは感動的です。
決して恵まれた実人生を送ったとは言えないだけに、せめて映画の中でだけでも救われてほしい…そんなスタッフの思いを感じます。
ラストで提示される『オズの魔法使』のセリフ「心の大きさとはあなたが愛するのではなく、どれだけ人から愛されるかで決まる」が、見事に作品全体の芯となっています。
映画『ジュディ 虹の彼方に』は、2020年03月6日(金)より全国公開。