戦争で疲弊した国民を勇気づけるため、映画製作に奔走する人々。
コピーライターの秘書だった女性が、脚本家として才能を発揮し、成長していく姿を描いたイギリス映画『人生はシネマティック!』をご紹介します。
1.映画『人生はシネマティック』作品情報
【公開】
2017年(イギリス映画)
【原題】
Their Finest
【監督】
ロネ・シェルフィグ
【キャスト】
ジェマ・アータートン、サム・クラフリン、ビル・ナイ、ジャック・ヒューストン、ヘレン・マックロリー、エディ・マーサン、ジェレミー・アイアンズ、ジェイク・レイシー
【作品概要】
1940年、第二次大戦下のロンドンでコピーライターの秘書として働いていたカトリンは、情報省映画局から呼び出される。上司が徴兵されたため彼女が代わりに書いたコピーが目に留まり、脚本家として採用されたのだ。ダンケルクを題材にした戦意高揚映画の脚本チームに加わり、その才能を発揮していくが、上層部からのクレームや無茶振りなど様々な試練が待ち受けていた。
2.映画『人生はシネマティック』あらすじとネタバレ
1940年、第二次世界大戦下のロンドン。
「ブルームズベリーに行く人はここから歩いて!」という声が飛びました。連日、ドイツ軍の空爆を受け、建物は無残に崩れ落ち、瓦礫が散乱した中を人々が行き交います。
映画館では、銃後を守る女性たちが、工場で銃弾を製造している様を描いた劇映画が映し出されていました。
朝まで100万発が必要だと言われ、やるしかないじゃないと女性たちが奮起する戦意高揚映画です。
情報省映画局の特別顧問バークリーは、劇場で観客の様子を観察していましたが、受けは今ひとつ。おえらがたからも苦言を呈されてしまいます。
「国が元気になる映画を作ってもらわんと困る。大切なのは”信憑性”と”楽観”だ」と言われ、「ネタを探します」と答えるバークリー。
コピーライターの秘書をしているカトリンは、情報省映画部を訪れていました。
徴兵されたライターの代わりに書いた広告コピーがバックリーの目に留まり、彼女は新作映画の脚本家としてスカウトされたのです。
映画部は「ダンケルクの闘い」を次の映画の題材にしようと考えていました。
追い詰められた英仏兵を助けた民間人の中に双子の姉妹がいたという新聞記事を見た映画部はカトリンに取材に行かせます。
出かけてみると、双子は彼女がマスコミ関係者でないのを確かめて、部屋にあげてくれました。
彼女たちは、実際は途中でエンジンが停まり、ダンケルクにはいけず、先行の船に溢れかえるように乗っていた兵士たちを乗せただけだと語ります。新聞が大げさに書いたので父が怒っているとも。
しかし、彼女たちはその時のエピソードを楽しそうに語ってくれました。兵士のカバンに犬が入っていてびっくりしたこと。フランス兵がお礼のキスをしてきたことなどを。
余所者が嫌いな父が戻ってくるのではないかとそわそわしながら、双子はカトリンに、映画部から来たのならロバート・ドーナットに会ったか? と楽しげに聞いてきました。
会っていないと応えると、ヒッチコックの『三十九夜』に出演した彼のブロマイドをみせてくれました。映画の話しになると生き生きしだす二人でした。
カトリンは、スペイン戦争で足を負傷し空襲監視員を務めながら絵を描いている夫、エリスと暮らしていますが、エリスはカトリンに、ウエールズの故郷に帰れと言いだします。
自分だけなら友人の家に泊めてもらって絵を描くことも出来るという彼。収入が少ないのが理由とわかっているので、カトリンは「私が稼ぐわ」と言い、脚本の仕事をなんとしても成功させようと決心します。
カトリンは企画会議で、双子の姉妹が語ったエピソードを紹介します。”信憑性”と”楽観”のある企画だと評価され、映画化することが決まりました。
カトリンは、バックリーとパーフィットの3人の共同で脚本を書き始めます。ところがいきなり情報省のフィル・ムーアに呼び出されます。
姉妹が乗る船「ナンシー号」のエンジンが故障したというエピソードが、英国が誇る技術力の威信を傷つけるから脚本を直せというのです。
それならスクリューに何かはさまったことにすれば良い! 彼らは次々とアイデアを出し、情報省を納得させました。キャラクターの肉付けも次第に出来上がってきました。
しかしまたもやクレームが入ります。姉妹は実際にはダンケルクに行っていない! 英国海域さえ出ていない! 事実と違うというのです。
これは「プロパガンダでしょう?」とバックリーは上層部を説得し、企画は続行となりますが、企画会議ではこのことを隠していたカトリンに対して、バックリーは「我々まで騙すな」と強い口調で忠告します。
最初は女性の台詞だけを書いてもらうとカトリンに言っていたバックリーでしたが、彼女は彼が思った以上の実力があることに気付きます。
カトリンの方もバックリーのことを初めは高圧的だと感じていましたが、精力的な仕事ぶりを見て、だんだんシンパシーを感じ始めていました。
双子の姉妹の酔いどれ叔父役には、アンブローズ・ヒリアートの名前が上がりました。
ヒリアートは、往年の人気刑事ドラマで誰もが知る名優ですが、まだ自分が若々しいと思っており、その役に難色を示します。
そんな折、長年彼のエージェントを勤めたサミーが空爆で命を落としてしまいます。
サミーの姉が新エージェントとなりますが、彼女はヒリアートに「利益にならないクライアントは不要」とぴしゃりと苦言を呈し、この役を受けることを承知させます。
カトリンが家に帰ると、エリスが地方で戦況を記録することになったと報告してきました。それが終わったらロンドンで個展をすることも決まったそうです。
大喜びするカトリンですが、エリスはカトリンを連れていくつもりでいました。「今の仕事をやめたくないの。期待に応えたい」彼女は正直な気持ちを話し、エリスも仕方なく、了承するのでした。
デヴォンでのロケも決まった頃、脚本部は陸軍省から呼び出されます。
「アメリカは静観し、戦争に参戦しないと言っているが、彼らの力が必要だ。アメリカの注意を引くためにアメリカ人の俳優を映画に使いたい」と彼らは言います。
彼らが推薦した人物は、アメリカ人パイロット、カール・ランドベックでした。
「アメリカ人がダンケルクで何をするっていうんだ?」「ジャーナリストは?」カトリンたちはアイデアを出し合って、この無茶な変更を受け入れ、脚本を書き直します。
いよいよデヴォンでの三週間のロケが始まりました。夫のロンドンの個展の初日には行けそうもないとこぼすカトリンに会期中には行けるようにするよとバックリーは励まします。
撮影が始まりましたが、初日は一つのシーンを23テイクも撮り、終了してしまいました。ランドベックは演技経験のないずぶの素人だったからです。
しぶるヒリアートを説得し、ランドベックに演技指導をしてもらうことになりました。
徐々にチームワークが出来てきて、撮影も順調に進み出します。カトリンはエリスの個展の最終日に間に合うように現場を離れることになりました。
3.映画『人生はシネマティック』の感想と評価
映画制作を題材にした映画と言えば、『雨に唄えば』(1952/スタンリー・ドーネン&ジーン・ケリー監督)やトリュフォーの『映画に愛をこめて アメリカの夜』(1973)といった名作がすぐさま思い浮かびます。
最近、ゴダールの『軽蔑』(1963)デジタルリマスター版が劇場公開されていますが、これも映画制作にまつわる話しで、冒頭とラストに繰り広げられる移動撮影の様子に興奮した人も多いのではないでしょうか。
脚本家を描いた作品ではビリー・ワイルダーの『サンセット大通り』(1950)や最近では『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』(2015 ジェイ・ローチ監督)などが思い出されます。
そしてこの『人生はシネマティック!』もそれら名作に負けないくらい、素晴らしい作品に仕上がっています。期待以上の出来といってもよいでしょう。
第二次大戦下の英国における戦意高揚映画の制作という題材がユニークです。ちょっと身構えてしまう感じかなと思いきや、映画は人々の心をとらえ、力を与えるものだという作り手の信念が全篇を連ぬいていて感動的です。
様々な上からのクレームや横槍が入りますが、私たち観客にとっては、彼らには申し訳ないけれど困難が多いほど、それを乗り越えて行く様が面白く、出て来るアイデアに感心しきりです。
彼らが作ろうとしているのは、「ダンケルクの闘い」を題材にした映画です。「ダンケルク」といえば、クリストファー・ノーラン監督の『ダンケルク』が公開されたばかり。映画ファンにとっては非常にタイムリー!
ここで作られる映画の主役は兵士を助けようと船を出した双子の姉妹です。双子の勇気と、ロマンス、困難を突破する姿などが描かれますが、これがジェマ・アータートン扮するカトリンの姿とダブってくるところが一つの見どころです。
戦争により女性の社会進出が進みますが、地位は低く、男性に比べ給料は安く、既婚女性はさらに安く使われたようです。
脚本の仕事も当初は女性の台詞(「スロップ」というそう!)だけを期待されていたようですが、次第に才能を発揮していき、周りもその能力を認めるところとなります。
サム・クラフリンのバックリーが、彼女を認めていく様子が丁寧に描かれているのも良いのです。
出来る男は社会通念などにしばられません。ちょっとばかり『ドリーム』(2016 セオドア・メルフィー監督)のケビン・コスナーを思い出してしまいました。
そこに男女のロマンスもからんできます。脚本家ならではの洒落た言葉のやり取りが楽しく、またビル・ナイ扮するベテラン俳優ヒリアードとヘレン・マックロリー扮する彼のエージェントの今後の関係も気になりました。
戦争の痛ましさ、人間の脆さと強さ、仕事への情熱などが感情豊かに描かれます。人生は映画のごとく、映画もまた人生のごとし。映画と人生が魅惑的に交錯するのです。
4.まとめ
ジェマ・アータートンといえば、『ボヴァリー夫人とパン屋』(2014アンヌ・フォンテーヌ監督)のヒロインが強烈な印象として残っています。
あの奔放な人妻を演じた人と同じ人?と思えるくらい、スーツ姿の似合う、聡明な女性を演じていて少し驚きました。そういえば、彼女はボンドガールでもあります。
一方、アメリカに関心を持ってもらうために抜擢されたアメリカ人俳優が、ジェイク・レイシーなのはイメージぴったりのはまり役です! 保守で、典型的なナイスガイであるアメリカ人の象徴を演じさせれば彼を超える人はいないのでは?
「ハンガー・ゲーム」シリーズ(2013〜15)や、『あと1センチの恋』、『世界一番キライなあなたに』で知られる二枚目サム・クラフリンは、眼鏡、チョビ髭でもやっぱりかっこいい!
そして、ヒリアード役のビル・ナイ。本作のユーモラスな部分は彼に追うところが多いです。このキャラクターがあるとないとでは作品の雰囲気も随分変わったことでしょう。
監督はキャリー・マリガン主演の『17歳の肖像』で知られる女性監督、ロネ・シェルフィグ。激動の時代に奮闘する女性の姿を温かい眼差しで描いています。