Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

ヒューマンドラマ映画

Entry 2021/08/10
Update

映画『ショック・ドゥ・フューチャー』感想評価と解説レビュー。アルマホドロフスキーが未来の⾳楽を作るミュージシャンを好演

  • Writer :
  • 咲田真菜

映画『ショック・ドゥ・フューチャー』が、2021年8月27日(金)より新宿シネマカリテ、渋⾕ホワイトシネクイントほかにて全国順次公開!

本作は、電⼦⾳楽の黎明期にその⾳⾊に魅了され、男性優位の音楽業界において、“未来の⾳楽”を作ろうと奮闘する若き⼥性ミュージシャンを描いた⻘春⾳楽映画です。

主演のアナを務めるのは、映画監督アレハンドロ・ホドロフスキーを祖父に持ち、モデルとしても活躍するアルマ・ホドロフスキー。

監督は音楽ユニット「ヌーヴェル・ヴァーグ」の活動でも知られるマーク・コリンが手掛けます。

映画『ショック・ドゥ・フューチャー』の作品情報


(C)2019 Nebo Productions – The Perfect Kiss Films – Sogni Vera Films

【日本公開】
2021年(フランス映画)

【監督・製作・脚本・音楽】
マーク・コリン

【キャスト】
アルマ・ホドロフスキー、フィリップ・ルボ、クララ・ルチア―ニ、ジェフリー・キャリー、コリーヌ

【作品概要】
1970年代後半、エレクトロ・ミュージックの世界的な人気爆発前夜のパリを舞台に、電子楽器に魅せられた若い女性ミュージシャンが過ごす1日を描きます。

スロッビング・グリッスル、スーサイド、ディーヴォ、ザ・フューチャーakaヒューマン・リーグなど、70年代後半を象徴する楽曲の数々にも注目です。

映画『ショック・ドゥ・フューチャー』のあらすじ

1978年のパリ。若手ミュージシャンのアナ(アルマ・ホドロフスキー)は、部屋ごと貸してもらったシンセサイザーで、依頼されたCMの作曲にとりかかっていたものの、納得のいく曲が書けずにいました。

すでに締め切りが過ぎ、CM担当者(フィリップ・ルボ)に何度も急かされます。その上、シンセサイザーの機材が壊れ、修理を頼むことに。

修理に来た技術者が持っていた日本製のリズムマシン(ROLAND CR-78)に魅せられたアナは、技術者に頼み込んで貸してもらいます。

そこにCM曲の収録用に依頼されていた歌手のクララ(クララ・ルチア―ニ)が現れ、話をするうちに意気投合し、即興で曲を作ります。

大物プロデューサーが参加するアナが主催するパーティーで、その曲を披露するのですが…。

映画『ショック・ドゥ・フューチャー』の感想と評価


(C)2019 Nebo Productions – The Perfect Kiss Films – Sogni Vera Films

ホドロフスキーが瑞々しく演じるアナ

1978年のパリ、あるアパートの一室でシンセサイザーやレコードに囲まれて生活している一人の若い女性がいました。名前はアナ(アルマ・ホドロフスキー)。

気怠そうにタバコをくゆらすアナですが、ひとたびお気に入りの音楽を聴くと、自然に身体を揺らしノリノリになる根っからの音楽好きでした。

「ミュージシャンとして成功したい」と強く願うアナですが、なかなか思い通りの曲が書けず悩む毎日を過ごしています。

せっかく依頼されたCM楽曲も、自身が想い描いているように作ることができず、CM担当者(フィリップ・ルボ)に嫌味を言われてしまう始末。しかしアナは、作りたい音楽へ妥協をしない信念を持っています。

そんなアナを演じるアルマ・ホドロフスキーは、瑞々しく芯の強さを持ったヒロインを好演しています。ミュージシャンになりたいのに「美人だから歌手になれば?」と言われるアナ。

不器用なのに、困難な道をあえて突き進むヒロインは、危なっかしいところがあるからこそ、応援したくなる魅力的なキャラクターに仕上がっています。

意外な存在感を示す日本


(C)2019 Nebo Productions – The Perfect Kiss Films – Sogni Vera Films

本作では、意外なところで日本が存在感を示しています。

故障したシンセサイザーの修理を依頼した技術者が持っていたリズムマシンは、日本製のROLAND CR-78。数々の名曲を生み出してきた名機が、物語の重要アイテムとして登場します。

アナは、このリズムマシンに一瞬で心を奪われるのですが、これさえあれば自分が思い描く理想の音楽を作ることができると舞い上がるアナを見て、喜ぶ音楽ファンも多いのではないでしょうか。

そしてアナのもとを訪れ、自身が持っている多くのレコードを聴かせるレコードコレクター(ジェフリー・キャリー)。

アナは彼が持ってきたレコードをノリノリで聴いたり、「これは好みではない」「ダサい」とバッサリ批判したり、二人の会話もこの作品の見どころとなっています。

「たくさんのレコードを持っているのね」と感心するアナに向かって「レコードの真の聖地は東京だ」と断言するレコードコレクターに、ニンマリする人もいるのではないでしょうか。

アナとクララが生み出す新たな音楽


(C)2019 Nebo Productions – The Perfect Kiss Films – Sogni Vera Films

本作で最も注目したいのが、一つの音楽が誕生する瞬間です。歌手のクララ(クララ・ルチア―ニ)がアナの自宅を訪れ、二人は新しい曲を誕生させます。

クララは、アナが断ったCM楽曲の歌を録音するためにアナの自宅を訪れたのですが、すでにその話はなくなっていたため仕事はキャンセルになっていました。

クララに連絡できていなかったことを申し訳なく思ったアナが、「コーヒーでも飲んでいく?」と部屋へ招き入れます。

話をするうちに意気投合した二人。「未完成だけれど…」と言いながらも、アナは自身が一目ぼれしたリズムマシンで作った曲をクララに披露します。

楽器を一切使わず、機材だけで作ったという曲にクララは驚き、咄嗟に浮かんだ歌詞をメモしていきます。

こうして初対面の二人は、何度も繰り返し曲を聴きながら歌詞をつけ、クララがボーカルを務めることであっという間に曲を完成させます。

音楽に携わる二人の集中力や新たな音楽が生まれる瞬間はこういうものなのか…と、とても興味深いシーンとなっています。

二人の力作は、その夜、アナが主催するパーティーで披露されます。これまでにない音楽にパーティに来ていた人は大いに盛り上がります。

有名なディレクターも姿をみせたパーティーで、この曲は果たして認めてもらえるのか。「新たな音楽」を生み出す難しさ、それを受け入れてもらうまでの厳しい道のりも同時に描いているのが本作なのです。

まとめ


(C)2019 Nebo Productions – The Perfect Kiss Films – Sogni Vera Films

本作は若いミュージシャン・アナが過ごした、ある1日の出来事をさまざまな音楽で彩った作品です。

物語の冒頭で、ビートの効いた音楽をバックに踊るアナは、とても魅力的。そしてCM担当者は、アナが曲作りに使うシンセサイザーを「こんなコックピットに興味はない」とけなしますが、シンセサイザーに向かって曲作りをするアナは、とてもかっこいいのです。

エレクトロ・ミュージックはもちろんのこと、音楽をこよなく愛する人には最初から最後まで楽しめる作品に仕上がっています。

映画『ショック・ドゥ・フューチャー』は2021年8月27日(金)より新宿シネマカリテ、渋⾕ホワイトシネクイントほかにて全国順次公開


関連記事

ヒューマンドラマ映画

映画『さざなみ』あらすじネタバレと感想!ラスト結末も

2016年4月公開されて、前期公開作品の中では、断トツの話題をさらっていった、『さざなみ』に注目します! 当初の予想を超えた観客からの話題ぶりに、映画を配給された彩プロの関係者も笑顔。また、彩プロの担 …

ヒューマンドラマ映画

【ネタバレ】ハドソン川の奇跡|あらすじ結末と感想評価。実話実録の航空機事故をイーストウッド監督とトム・ハンクスが温かく辛辣に描く

英雄となった機長を待ち受けていた運命とは 映画『ハドソン川の奇跡』は、『許されざる者』(1993)の名匠クリント・イーストウッド監督が、『フォレスト・ガンプ』(1994)のトム・ハンクスを主演に迎えて …

ヒューマンドラマ映画

映画『ジョン・デロリアン』ネタバレ感想とレビュー評価。実話を基に理想の車を作ろうとした男の転落人生を描く

“未来の車”を作ろうとした男の波乱万丈な半生。 映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』で一世風靡したタイムマシンのベースカーは、如何にして誕生したのか? 伝説の名車デロリアン(DMC-12)の開発者の …

ヒューマンドラマ映画

映画『海街diary』ネタバレ感想とあらすじ結末の考察評価。漫画原作の綾瀬はるか×長澤まさみ×広瀬すず×夏帆の人気代表作

美人四姉妹を豪華キャストが描く『海街diary』 映画『海街diary』は、吉田秋生の人気コミックの映画化作品です。 鎌倉で暮らす3姉妹の元に、15年前に出て行った父親の訃報が届き、葬儀に参加していた …

ヒューマンドラマ映画

映画『ロング,ロングバケーション』あらすじとキャスト。上映館はどこ?

映画『ロング,ロングバケーション』は1月26日より、全国順次公開です。 アルツハイマーが進行する元文学教師のジョンと、その妻で末期ガンにおかされエラ。高齢を迎えたスペンサー夫婦は子どもたちも巣立ったこ …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学