「お、おがえりなさいませ、ごスずん様」と、
本州最北端のメイドカフェで相馬いとのグルーヴィンな青春がはじまる!
青森県を舞台に、メイドカフェで働く人見知りな津軽弁少女の奮闘と成長を描いた、越谷オサムの小説『いとみち』が映画化されました。
小説『いとみち』では、こてこての津軽弁のせいもあり、人前に出るのが苦手な恥ずかしがり屋の相馬いとが、メイドカフェでアルバイトを始めたことから、人生が変わっていきます。
『ウルトラミラクルラブストーリー』の横浜聡子監督が実写映画化されます。
青森県出身の監督の手によって地元愛あふれる作品となっています。映画を観る前に一足早く小説『いとみち』で相馬いとの青春を覗いてみましょう!
小説『いとみち』の主な登場人物
・相馬いと(映画版:駒井蓮)
青森県弘前市在住の高校一年生。特技は津軽弁と津軽三味線。青森市のメイドカフェでアルバイトを始めます。
・工藤雄一郎(映画版:中島歩)
「津軽メイド珈琲店」の店長。
・葛西幸子(映画版:黒川芽以)
「津軽メイド珈琲店」のメイド仲間。「永遠の22歳」と言うシングルマザー。
・福士智美(映画版:横田真悠)
「津軽メイド珈琲店」のメイド仲間。漫画家志望の物怖じしない明るい女性。
・相馬耕一(映画版:豊川悦司)
いとの父親。妻を早くに亡くし、一人娘のいとを大切に育てています。
・相馬ハツエ(映画版:西川祥子)
いとの祖母。津軽弁と津軽三味線の名手。
小説『いとみち』のあらすじとネタバレ
青森県弘前市の高校一年生・相馬いと。激しい人見知りで口数少なく、強い津軽弁訛りのコンプレックスを持った少女です。
そんないとですが、高校進学と同時に青森市内の「津軽メイド珈琲店」でメイドのアルバイトを始めることにしました。
初めてのバイトの日、メイド珈琲店の入るビルを見上げて、気おくれしたいとは「やい、わぁには無理だぁ」とつぶやきます。
人見知りを克服したいと思い、インターネットで見つけた求人募集に思わずクリックしてしまったのです。
メイド服を着てみたいという願望を秘かに抱いていたことをいとは認めますが、こんなにも引っ込み思案な自分がなぜメイドカフェで働きたいなどという大それた考えを起こしたのかと、今更ながら思います。
また、店長はこんな自分をどうして採用したのでしょう。採用の喜びが今にして恨みがましく思えました。
バイト初日にして、応募したことを後悔して繰り返し溜息をついていますと、後ろから肩をたたかれました。
振り返ると、大きなクーラーボックスを抱えた女性が立っていました。
「あんた、新人の子だべ? 早く行かねば遅刻するよ」
いとはびくびくしながら、その女性と一緒にビルのエレベーターに乗り、5Fの「津軽メイド珈琲店」へ入りました。
店には店長の工藤がいました。
「やあ、おはようございます。相馬さん、今日からよろしくね」店長の声に、いとはどぎまぎするばかり。
緊張しながら、店まで一緒に来た女性、メイドの先輩の葛西幸子の紹介を受け、あこがれの制服であるメイド服に着替えました。
そして、メイドといえばあのセリフ、「お帰りなさいませ、ご主人様」と、出迎えのポーズの特訓を受けました。
しかし、ポーズはともかく、いとがセリフを言うと、「おがえりなさいませ、ごスずん様」になってしまいます。
それは、祖母譲りの、土の匂いをたっぷり含んだ津軽弁! 「まいねじゃあ(ダメだぁ)」と、いとは天井を仰ぎました。
気おくれしたいとですが、開店時間はこくこくと迫ります。
そのうちにもう一人の先輩メイド、福士智美も出勤しました。ただし彼女は開店時間ぎりぎりに、バイクでメイド服のままやって来たのです。
もう少し早く来てね、と、先ほどの葛西幸子から注意をされた智美。どうやらこの2人あまり仲良くなさそうです。
ますます先が思いやられるいとですが、店はまもなく開店しました。
どかどかと5人連れなどが入店し、入り口でお迎えをするいとは、腹をくくってふかぶかとお辞儀をし、出迎えをします。
「お、おけえりなせえまし、ごスずん様」。
こうして、いとのバイト初日は過ぎていきました。
いとの毎日は、土・日のバイト以外は、学校と自宅の往復のみでした。
いとは高校生になったばかりですが、激しい人見知りのため友人もいません。同じ通学電車に乗る3人の同級生と思しき女子がいるのですが、声をかけられずにいます。
いとは大学教授の父・耕一と77歳の祖母・ハツエの3人で暮らしています。祖父はいとが生まれる前、母・小織は11年前に32歳で乳癌のために他界しました。
母の顔をはっきりと覚えていないいとですが、津軽三味線の名手でもあり、まだまだ元気いっぱいの祖母が母替わりになって育ててくれました。
いとが学校から帰る頃、決まって祖母のひく津軽三味線の音色が自宅界隈に響いています。
いとも幼少期から祖母の手ほどきを受け、津軽三味線を弾いていましたので、今でも祖母の三味線の音色に合わせて身体がリズムを取り始めます。ですが、いとは高校受験をきっかけに、三味線をやめていました。
いとのバイト3回目の日、北国の海獣のように大量の脂肪をまとった中年男性が店にやって来ました。
青森メイド珈琲店のオーナーです。オーナーは、店長がいとの面接後、あまりに恥ずかしがり屋だから落とそうとしたこと、逆に自分がこの店に欠けていた‟初々しさ”をいとに見つけたので、採用したことを話してくれました。
いとは、「自分の不器用さを気に入る人もいるのか。世の中、何が災いするかわからないなあ」と思いましたが、悪い気はしませんでした。
メイドカフェでの接客でだんだんと人への接し方に慣れたのか、いとはついに通学電車の中で出会う同級生3人と話すことが出来ました。
伊丸岡早苗、対馬美咲、三上絵里の3人です。女子トークできるようになったころ、見栄と会話に加わりたい一心から、ついにいとは青森のカフェでバイトをしていることをしゃべってしまいます。
小説『いとみち』の感想と評価
小説『いとみち』は、青森市内のメイドカフェでアルバイトを始める高校1年生・相馬いとの成長を描いています。
タイトルの「いとみち」とは「糸道」であり、三味線を弾く際に指にできる糸の通り道となる筋のことを指します。三味線を弾くためには、なくてはならないモノだそうです。
主人公である相馬いとの名前は、この「糸道」から取ったと言います。三味線への愛をそのまま彼女に捧げていることがよくわかるネーミングでした。
この父と娘の会話は、父と祖母で型取る家族に、早くに母を亡くし思春期を迎えたいとの揺れ動く気持ちがリアルに描かれていて、胸が熱くなります。
なぜ、いとはメイド服に憧れるのでしょう。なぜ、誰もいとの三味線を弾く姿を直そうとしなかったのでしょう。
いと本人も不思議に思っていたこれらの疑問は、全て亡き母のエピソードが解決してくれました。
‟自分の中に在りし日の母の姿”を見つけたいとの胸中を想えば、これからの彼女を応援したくなります。
メイドと津軽三味線。これは本作での重要なキーワードだったのです。
バイトという新境地を開拓し、母の面影を自分の中に見出して以来、津軽三味線に再び取り組みだしたいと。
友人もバイト仲間も出来ました。祖母と父の愛にも気がつきました。コンプレックスだった津軽弁も恥ずかしがることはなく、むしろ個性的に見えるでしょう。
津軽弁を話し、メイド服で三味線を弾く高校生「相馬いと」。
1巻は津軽三味線のミニコンサートを開いたところで終わっていますが、いとは、これ以降もメイドカフェで開くミニコンサートをいくつも経て、どんどん成長していきます。
映画『いとみち』の作品情報
【日本公開】
2021年(日本映画)
【原作】
越谷オサム:『いとみち』(新潮社)
【監督・脚本】
横浜聡子
【キャスト】
駒井蓮、黒川芽以、横田真悠、中島歩、古坂大魔王、宇野祥平、西川洋子、豊川悦司
映画『いとみち』の見どころ
映画『いとみち』は青森を舞台とした高校生の青春物語。青森で生まれ育った横浜聡子監督とキャストの駒井連が、故郷への思いを込めて制作に取り組みました。
「小説を読んでかつて青森で生きていた十代の頃の自分をいとに重ね合わせずにはいられなかった」と言う横浜聡子監督。
監督が、メジャーデビューを果たした『ウルトラミラクルラブストーリー』(2009)の主人公・陽人は、生身の身体のめまぐるしい運動や身体と連動した津軽弁で、ストーリーに頼ることなく、強烈に自己主張する若者です。
今回の『いとみち』では、同じように津軽弁を用いていますが、奥ゆかしさと可愛らしさという津軽弁の明るい部分にスポットを当てています。
また、小学生の頃からこの作品のことを知っていたという駒井連は、生まれ故郷での作品に出演できてとても嬉しいと胸中を吐露。『名前』(2018)や『朝が来る』(2020)などにも出演していますが、今回役どころとして、初めて触れる津軽三味線の練習にも熱が入ったそうです。
小説では恥ずかしがり屋のいとが徐々に友人の輪を広げていき、津軽三味で自分に自信が持てるようになります。
三味線という重要なアイテムを使いこなす駒井連の腕前に注目です。
劇中には、いとが高校に通う五能線、悩みをかかえて見つめる陸奥湾、古川市場、岩木山、といった“青森の名所”が次々と登場します。スクリーンから溢れでる青森愛に驚くことでしょう。
まとめ
3巻まで出ている小説「いとみち」シリーズの中から、第1巻をご紹介しました。小説中のストーリーはそのまま、主人公いとの成長物語となっています。
そしてこのユニークな青春ストーリーを、青森県出身の横浜聡子監督が、相馬いとには駒井蓮、いとの父耕一に豊川悦司というキャスティングで映画化しました。
今回で青森で映画を撮るのが4回目になるという横浜聡子監督。毎回沢山の地元の方からの協力に支えられ、人々の優しさに改めて気付き、作品でなんとか恩返ししたいとも語っています。
映画においては、津軽三味線の勇壮な演奏も楽しみですが、豊川VS駒井の津軽弁での父娘対決もまた見どころの一つでしょう。
オール津軽ロケ・オール青森・テーマは青森愛! 全てに「青森」を感じる映画『いとみち』の公開が待たれます。